『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第10話 地球軌道上の決戦

 

進撃してくるザフト軍戦力。戦艦複数、ジン多数、Xナンバー4機。

第8艦隊は連合屈指の大軍勢ではあるが、メビウス程度がいくらあってもこの戦力差は覆せない。

 

「ジンなら複数で挑めば対処できるが、フェイズシフト装甲を持つXナンバーの相手はメビウスでは無理だ。

 だから同じくモビルスーツに乗るオレたちが止めるしかない」

 

自分のモビルスーツのコクピットに乗ったブラボーが、モニター越しにマリューやキラたちと向かい合う。

 

この状況ではザフト艦隊の撃退は不可能だ。

だから連中の標的であるアークエンジェルが予定を早めて地球に降下する。

その準備が整うまでの時間稼ぎ、可能なら戦力を削って降下作戦の余裕を作る。

それがパイロットたちの役目だ。

 

『この戦力差を理解していながら、まだ『誰も殺さない』など言うつもりか!

 自分が死んでは元も子もないだろう!?』

 

「男は一度決めたことは、最後まで貫き通すものだ」

 

そうナタルに返すブラボーの中身はヒノカミであり女であるが。

 

「それにデメリットばかりではない。

 戦場に放置された無防備な仲間を見殺しにはできんだろう?

 彼らを母艦に連れ戻すために無事な者が付き添う形になり、一時的に戦力が戦場を離れてくれる。

 人員が少ないザフト軍はその傾向がより顕著なはずだ」

 

特にジンのスラスターはせり出しているので狙いやすい。

誘爆の危険が高いので手足よりも難易度は高いが。

 

『それはっ……そうかもしれないが!』

 

「戦い方はこちらに任せてもらう。そういう契約だったはずだ」

 

それがブラボーとキラがアークエンジェルに協力する条件だ。

よって作戦も彼らの意見を酌んだ形にせざるを得ない。

 

降下準備を始めるアークエンジェルから、その搭載機であるストライクとメビウスゼロが離れるわけにはいかない。

2機はアークエンジェルの傍で母艦及び第8艦隊に接近するジンの迎撃。

ただしXナンバーが接近した場合は優先してストライクが対応。

そしてアストレイの役割は切り込み。単騎で敵艦隊に突っ込んでかく乱させる。

ブラボーには小型艇があるので、地球に降下したアークエンジェルを後から追いかけることができるからだ。

そして言うまでもなく、最も危険なのはアストレイとそれを操るブラボーである。

 

『だがいくらなんでも、アンタ一人でってのは……』

 

「フッ……乗機がガンダムではないからか?

 モビルスーツの性能の差が、戦力の決定的差でないことを教えてやる。

 ……キャプテン・ブラボー!戦国アストレイ、出る!」

 

艦隊の前に出た小型艇から1機のモビルスーツが飛び出す。

そして一直線に敵艦隊へと突っ込んでいく。

当然、ザフトのモビルスーツは蛮勇に逸る愚か者に狙いを定めるが。

 

「その前に、撃ち落す!」

 

アストレイが両腕にビームライフルを構える。

一つは自前、もう一つはアークエンジェルから拝借したストライクの予備のライフルだ。

戦国アストレイの元となったゴールドフレームにはXナンバーと共通規格のプラグが採用されているため武器の共用が可能となっている。

 

そして両手に持ったビームライフルで、敵の射程外から一方的に攻撃を仕掛ける。

的確な狙いは一度の誤射もなく、ジンの頭部と武装を持った腕部を破壊していく。

戦場に辿り着く前に戦闘力を失った機体が、口惜しそうに引き返していく。

そして友軍機がいなくなった空間を利用して敵戦艦が主砲を発射するが。

 

「いただく!」

 

アストレイが自分から射線上に突っ込んできた。

そして背中の鬼の仮面の瞳が光るとアストレイを包むように球状のフィールドが展開され、それに触れたビームが吸収されアストレイのエネルギーとなる。

そして仮面に蓄積されたエネルギーを使って更に射撃を継続する。すでにかなりの数のジンが撃ち落されていた。

その中で一機、妙に動きのいいオレンジ色のジンが銃撃の隙間を縫って接近してきた。

『黄昏の魔弾』の異名を持つミゲル本来のジンだ。

 

『その機体の能力、ガンダムと同じのものか!

 だったらパイロットはあの鬼だな!?』

 

「何のことかな?今のオレの名は『キャプテン・ブラボー』だ!」

 

『そのふざけ具合、やっぱそうだろ!

 てか『キャプテン・ブラボー』ってなんだ!?

 『キャプテン』は英語で『ブラボー』はイタリア語だろうがぁっ!!』

 

「博識だな!ブラボーだ!」

 

接近したジンが実体剣を振り翳すが、アストレイの両肩の装甲が展開して大きな腕となり、掴んだ刀を振り回してジンの手足を切り落とす。

そして刀を掴んだままの拳で、胴体だけのジンをザフトの戦艦の方へと殴り飛ばした。

 

『正体隠す気あんのかテメェーーーッ!!』

 

交戦した時にアストレイの背中の鬼の仮面が見えたミゲルは絶叫と共に遠ざかっていった。

 

 

 

一方、第8艦隊側。

アストレイが戦線深くまで切り込んでいるためザフト軍は母艦の防衛に戦力を割かねばならず、攻撃に参加できているジンの数は全体から見ればかなり少ない。

しかしそのわずかな数で、圧倒的多数のモビルアーマーを次々と落としてしまうのがモビルスーツとコーディネイターなのだ。

やはり連中の狙いであるアークエンジェルが速やかに地球へ離脱しなければ艦隊の全滅も有り得る。

アークエンジェルがいなくなれば、ザフトは多大な損害を出してまで第8艦隊を落とす理由を失う。

 

今のところ肝心のアークエンジェルに目立った損傷はないが、状況は決して良くはない。

迫りくる多数のジンを抑えているメビウスゼロと、デュエルとバスターの2機を相手取るストライクのどちらかがやられれば一気に押し込まれる可能性がある。

 

デュエルのパイロットであるイザークはプライドが高く直情的で、バスターのパイロットであるディアッカは傲慢で自惚れが強い性格だった。

二人ともそれに見合うだけの実力は確かにあった。周囲から天才ともてはやされてきた。

だからこそ、ヘリオポリスでガンダムに敗れて以来ずっと負けが続いている現状が我慢ならない。

 

いや、ガンダムに敗れることは悔しいがまだ受け入れられる。

奴は単騎で艦隊を全滅させた実績すらある、正体不明の本物の化け物。

機体性能の差も歴然。ジンのライフルやXナンバーのビーム兵器の直撃を受けても無傷だなんて反則だ。

ザフト軍全体としても、現実的にどうやって倒せばいいのかわからないという有様なのだから。

 

だがストライクは違う。

多少の特性の差はあるが、イザークたちが奪った4機と同じくXナンバー。

パイロットも自分たちと同じコーディネイターだ。

 

ミゲルや敵艦から保護した同胞を通じて、ストライクのパイロットがヘリオポリス在住の一般人だということは知っている。

幼少期のアスランの友人であり、彼が連合のモビルスーツに乗ることになったのは、自分たちが巻き込んだせいだとも。

近いうちに連合から解放されあの船を降りる予定であることも。

 

そのせいでアスランと、彼と仲のいいニコルはストライクへの攻撃に消極的だ。

イザークとしても多少の罪悪感ならある。

だがミゲルの勧誘を断り、ナチュラルなんぞを友人と呼び、ザフトに敵対する道を選んだ彼は裏切者のコーディネイターだ。

そして何より、つい先日まで一般人だったという同年代の少年相手にエリートである自分たち4人がかりで敗北したという事実が受け入れられない。

だからこそイザークはアスランたちとは逆に、奴がストライクを降りる前に仕留めてやると息巻いていた。

 

「おのれぇーーーーっ!!」

 

イザークは友軍を置き去りにしてかなり深くにまで切り込んでおり、ストライクに肉薄していた。

しかしストライクの近くにいるということは、地球への降下を始めているアークエンジェルの近くにいる、そして地球の近くにいるということだ。

ストライクは降下する前にアークエンジェルに帰還しようとしているが、デュエルはそれを許さない。

すでにメビウスゼロはアークエンジェルの中だ。

 

『戻れイザーク!』

 

「うるさぁい!」

 

完全に頭に血が上っているイザークは彼を支援するディアッカの忠告を無視してなおも苛烈に攻撃を加える。

そう、この時のイザークは目の前にいるストライクのことしか見えていなかった。

 

だからストライクを援護するためのアークエンジェルからの砲撃を避けることができなかった。

 

「ぐぁっ!なんだとぉっ!?」

 

極限状態での破れかぶれの攻撃だ。アークエンジェルとしても牽制のつもりだったのかもしれないが、その一撃が運悪くデュエルに直撃した。

デュエルはザフトの手によって全身に増加装甲が追加されており、そちらはフェイズシフト装甲ではない。

左肩のミサイルコンテナが衝撃で誘爆して左腕が吹き飛び、胴体も大きく損傷。そのまま地球圏へと落ちていく。

 

このままでは大気圏突入により生じる空気の圧縮熱により、機体は爆散する。

 

『イザーク!!』

 

バスターが追いかけてくるが、間に合わない。

いや、間に合ったところでデュエルを掴んで離脱するような推力はバスターにはなく、デュエルの盾になろうとしても熱による誘爆からは庇いきれない。

 

「ぐっ、くそっ、くそっーーーーーっ!!!」

 

なんという無様であっけない最期。

だがもはやイザークにはただ叫ぶことしかできない。

 

しかしモニターの向こうで、バスターを追い抜いて迫る一機のモビルスーツがあった。

 

「……ストライクっ!」

 

『つかまって!』

 

母艦から離れてまで追いかけてきた敵が、デュエルの右腕を掴んで引き上げようとする。

しかしエールストライカーの推力でも2機分の重力は振り切れない。

 

『くそっ!ストライクが壁になります!』

 

「貴様ぁっ、なんのつもりだ裏切者!」

 

『死なせたくないんだ!

 殺したくない、殺させたくない!

 本当は、誰にも死んでほしくない!』

 

ストライクは正面にシールドを構えてデュエルを背中に隠す。

この姿勢では背中のスラスターを減速に使うことはできず、余計な重荷でしかない。

ストライクはエールストライカーを切り離して遠ざけ、ライフルも投げ捨て、両手でシールドを握った。

完全に無防備な背中を晒している。片腕のデュエルでもサーベルを突き立てるだけで倒せるだろう。

 

「……無駄だ。この程度では機体の爆散は避けられん」

 

だがイザークはレバーから指を放した。

敵に情けをかけられるなど、耐えがたい屈辱だ。

しかし敵の情けを利用し巻き添えにして心中など、そんな汚名は死んでもごめんだ。

 

「とっとと離れろ。爆発に巻き込まれるぞ」

 

『!?諦めないでください!まだ、何か方法が……!』

 

「……勝手にしろ」

 

ストライクにはフェイズシフト装甲がある。

無事では済まないだろうが、命を落とすことはないだろう。

 

全てを諦めたイザークからは、あれほど身を焦がしていた激情が消え失せていた。

けたたましいアラートが響くコクピットで、ぼんやりとモニターを見つめる。

自分を追いかけて一緒に地球に降下することになってしまったバスターと、その先に浮かぶ友軍たち。

せめて彼らの姿をこの目に焼き付けようと目を凝らしていると、更にもう一つ近づいてくる光が見えた。

 

それは鬼武者の意匠を持つ、金色のモビルスーツ。

背中に取り付けられた鬼の仮面の瞳と口から膨大な炎を噴き出して、まるで弾丸のような速さで突っ込んでくる。

 

『たとえ偽善であろうと、最後まで貫き通した信念に偽りなどない……ブラボーだ!!』

 

戦国アストレイはデュエルとストライクを追い抜いて反転し、2機を正面から受け止める。

そしてスラスターを噴かせて減速すると同時に熱エネルギー吸収フィールドを発動。

膨大な熱が残さず吸い取られ、デュエルの損傷した部位が氷で覆われていく。

そして3機は絡み合ったまま無事に大気圏を突破した。

 

「馬鹿な……!」

 

『恩を着せるつもりはない。礼をしろとも言わん。

 ただオレたちはオレたち自身のために、オレたちの信念を貫いただけだ』

 

バスターの方も無事に大気圏を突破したらしく、墜落しながらこちらへと近づいてくる。

さらにその向こう、どうやらストライクを追いかけて降下ルートを変えたらしいアークエンジェルが迫ってきていた。

 

 

『……おおっとぉ!手がすべったぁーーーーーっ!!』

 

「『!?』」

 

戦国アストレイが両肩のサブアームを展開して損傷したデュエルを掴み、投げ飛ばした。

少し離れたところを落ちていくバスター目掛けて。

 

「ぐぅっ!?」

 

『無事か、イザーク!……ヒヤヒヤさせんなよ馬鹿野郎!』

 

そしてデュエルを受け止めたバスターが、ストライクとアストレイから離れていく。

 

『ではな少年!また会おう!』

 

『アスランにも、よろしく!!』

 

「アイツらぁ……っ!」

 

あのままストライクがデュエルを抱えていたら、イザークは連合の捕虜になっていただろう。

彼らの意図を察したイザークの胸中に再び炎が燃え上がった。

 

 

「……覚えておけぇーーーーっ!

 この屈辱、必ず晴らしてやるからなぁーーーーっ!!」

 

『……そんだけ元気なら安心だな。やれやれだぜ』

 




本作のイザークは顔の傷がありません。
不殺を貫いているキラはコクピットを狙わないので。
……それでもこのくらい熱くなりやすいのが彼だと思っています。
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