『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第11話 ヒノカミ

 

ストライクは連合に残された最後のXナンバー。

この戦争の勝敗を左右する重要な兵器だ。決して失うわけにはいかない。

だからアークエンジェルは『敵を助けるため』というありえない理由で本来の軌道から離れていくストライクを追いかけるしかなかった。

そのせいで降下地点が大幅にずれ、連合本拠地のアラスカから遠く離れたアフリカに降りてしまった。

北アフリカの砂漠地帯、ここはザフトの勢力圏内だ。脱出すら容易ではない。

もちろん、キラたちの故郷であるオーブからも遠く離れている。

 

「本当に……申し訳ありませんでした!」

 

アストレイと共に地上に降りたストライクが着陸したアークエンジェルの格納庫へと戻ると、そこにはこの艦の主だった人物が集まっていた。

自分の我儘にアークエンジェルと友人たちを巻き込んでしまったキラは、ストライクを降りた直後に全員の前で深々と頭を下げて謝罪した。

 

ナタルは彼を激しく責め立てた。当然だ。軍紀に当てはめれば銃殺刑も免れない裏切りである。

しかしストライクを追う決断を下したマリューはあくまで協力者でしかない彼を庇った。

ムウも、キラがいなければそもそも地球に辿り着くことすらできなかったはずだと弁護する。

それでも生真面目で堅物な副官は納まりがつかないようで、キラがコーディネイターということもあり彼女に同調するクルーもいる。

そして巻き込まれただけの一般人の少年に頼り切りだった罪悪感から、彼に何も言うことができないクルーもいる。

意見が真っ二つに分かれ混沌とした場であったからか、続いてアストレイから飛び降り一団に近づく人影を注視している者はいなかった。

 

 

「まぁ待てナタル。突っ込んで行ったのは儂もじゃ。

 ならば責を受けるべきは彼よりも、大人である儂であろう」

 

「…………は?」

 

「「「「「はぁ?」」」」」

 

振り向いたナタルの前には、どう見ても大人には見えない少女がいた。

白銀のコートを小脇に抱え、オーブの一部に残る伝統衣装である『和服』という真っ赤な服を着た、見慣れない小柄な女だ。

 

「……あの~~、お嬢ちゃん?

 はっきり言って信じたくないんだけどさ……その口調と悪趣味なコート、まさかアンタが……!」

 

「んむ。儂がヒノカミじゃ」

 

「「「「「嘘ぉぉぉおおおおおおっ!!!!」」」」」

 

「おいこらヒノカミ!何を考えているんだ!

 お前の正体は秘密なんだろ!?」

 

クルーたちの反応を楽しんでいる少女を、彼女の正体を知っていたカガリが怒鳴りつける。

しかし彼女はへらへらと笑い続けたまま返す。

 

「彼らなりの事情があったとしても、彼らはオーブ国民であるキラのために身を挺したのじゃ。

 であればこちらも相応の誠意を見せるべきであろう?」

 

「っ、それは、そうだが……」

 

「……あの、本当に貴女がヒノカミなの?

 ガンダムのパイロットの……!?」

 

「いかにも。あ、ちなみに儂は成人済みじゃからな。

 少なくとも三十路はとっくに超えておる」

 

「「「年上ぇっ!?」」」

 

キラの暴走を追及するはずの場が、いつの間にか鬼人の暴露会場へと変化していた。

ちなみにガンダムはアストレイとアークエンジェルを追いかけ大気圏を突破してきた。

艦の隣には彼が操る小型艇が着陸している。

 

 

「都合よく大勢集まっておるんじゃ。この機会に諸々話しておこうかの。

 儂は『ナチュラルでもコーディネイターでもない』と宣言しておるよな?

 これは立場を現すのではなく、言葉通りの意味なんじゃよ」

 

「……どういうことです?」

 

「始まりはどちらかと言えばナチュラルじゃったが、今の儂はもう『人間ではない』。

 ……実演した方が早いか」

 

彼女が懐から取り出したのは、一般的な形の『拳銃』。

驚いた軍人たちが彼らもホルスターに手を伸ばすが、ヒノカミを名乗った少女は彼らに構うことなく。

 

自分のこめかみに銃口を押し当て引き金を引いた。

 

ガァン!

 

「「「「「!?」」」」」

 

飛び散るのは血肉ではなく、砕けた弾丸。

傷どころか血の一滴を流すこともなく、皮膚の上に青白い光の線を浮かばせた少女は平然と立っていた。

 

「とまぁ、見ての通りじゃ。儂に銃は効かん。ナイフも刺さらん。

 鬼の鎧は強化スーツじゃが、生身でも十分な戦闘力があるんじゃよ」

 

「……!?」

 

「老いも病もない。睡眠も食事も呼吸も不要。宇宙空間だろうが活動できる。

 重機並みの筋力とサイキックのような特殊能力もある。

 一対一ならモビルスーツを相手にしても倒せるじゃろう。試したことはないがの」

 

もちろん、この世界の強度でならの話だが。

 

「化け物……!」

 

「げらげらげら。その通り、儂は化け物なんじゃよ」

 

少女は懐に拳銃をしまうついでに煙草を一本取り出して咥え、指先に灯した火を先端に押し当てる。

左手の指の間に挟んで口元から遠ざけ、盛大に煙を吐き出す。

 

「そんで、化け物である儂からすればナチュラルもコーディネイターも目糞鼻糞。

 少なくともコーディネイターを『空の化け物』と呼ぶブルーコスモスの感性は理解に苦しむ。

 連中は儂という本当の化け物を知らんからそんなことが言えるんじゃ」

 

「それが、貴女が中立を貫く理由……?」

 

「その通り。お主らは化け物が嫌いじゃろうが、儂は人間が嫌いではなくてな。

 あまりに些細な違いに振り回される人間たちが哀れでならぬのよ。というか……」

 

そこでヒノカミは煙草を持ったままの手でカガリを指さす。

 

「ナチュラルがコーディネイターに劣るという考え自体が誤りじゃ。

 儂が鍛えたカガリは、少なくとも身体能力ならコーディネイターよりもはるかに強い。

 大勢で統計を取ったわけではないが、体感で言うなら伸びしろはナチュラルの方が上じゃぞ?」

 

コーディネイターとは胎児の段階で人の手を加えられた、理想の能力を持って生まれた人間だ。

『こうあってほしい』と願われ、能力を半ば固定されている人間だ。

だから壁を壊してその枠を大きく超えるような成長をすることが難しいようだ。

 

「あんな地獄を見せられたら、誰だって強くなるに決まってるさ」

 

「その地獄を乗り越えたことがお主の強さじゃ。胸を張れ。

 ……そしてその化け物である儂が宣誓する。

 お主らとこのアークエンジェルを、無事アラスカまで送り届けて見せよう」

 

「!?」

 

「キラたちと共に降りる予定だったがやめじゃ。最後まで護衛を引き受ける。

 中立を表明している以上ガンダムは使えんが、全力を尽くす。

 これを此度の独断と暴走の償いとさせていただきたい」

 

少女にしか見えない化け物は、そう言ってナタルの眼をまっすぐに見上げる。

 

「儂は冗談や誤魔化しは言うが、嘘をつかんことを信条としている。

 大船に乗った気でいてくれて構わんぞ。くけけけけ」

 

「……わかりました。ここは引きましょう」

 

というよりも、引くしかないのだが。

ナタルだって本当はもっと色々追及したい。この場の他のクルーたちもそうだろう。

化け物とは何か。どうして化け物になったのか。他に仲間はいるのか。他に何ができるのか。

しかし少なくとも鎧を脱いですら銃が効かないのなら、どうやって彼女を取り押さえればいいのかわからない。

モビルスーツ並みの戦闘力を有する人間サイズの戦力なんてものが船の中に入り込んでいる時点で敗北は確定している。

万が一にも不興を買うわけにはいかないのだ。

 

ここにきてナタルも『自分たちが事実上ヒノカミの捕虜』という現実を受け入れざるを得なかった。

今のところ相手はこちらに協力するつもりなのだから、媚でもゴマでも擦って友好関係を維持しなければならない。

軍人の家系に生まれ、厳しい訓練と教育を乗り越えてきたナタルであったが、化け物との戦い方なんて学んでいるはずがないのだから。

 




青白い光の線は滅却師の静血装です。
端末の弱体化により防御に専念しなければ無傷で銃撃を防ぐことまではできません。
静血装を発動せずともかすり傷を負うくらいで死にはしないけど。

当初の構想ではヒノカミはもっと弱くなるはずでした。
その後劇場版でアコードの連中が出て、もう少し強くしてもいいかなと考えていたところで外伝のアストレイにて『バリー・ホー』というキャラが存在していたことを思い出したため一気に化け物並みに強くなりました。
モビルスーツに気を纏わせたり、生身でモビルスーツと戦ったりしてるキャラです。
どう考えてもキミGガン世界の住人やろ。
でもそんな彼でも殺されてしまうのだからやはりコズミック・イラは魔境やでぇ。
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