『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第13話 砂漠の虎

ヒノカミは様々な中立国や組織を支援し、常に情報網を張り巡らせている。

地球上全てが彼女のホームグラウンドだ。

オーブから遠く離れたここアフリカを占拠するザフトの情報も、当然抑えている。

 

ザフト北アフリカ駐留軍司令官『アンドリュー・バルトフェルド』。

『砂漠の虎』の異名を持つザフト軍のエースパイロットだ。

旗艦は地上戦艦『レセップス』。

保有する主なモビルスーツは『バクゥ』と『ザウート』。

前者は四脚獣を模した陸戦用の高機動型、後者は遠距離から大火力を打ち込んでくる砲戦仕様だ。

そして前者は先日の戦いでその性能を実際に体感し把握することができた。

 

ザフトの支配領域は広大。迂回するのは現実的ではない。

アフリカを脱出しアラスカに向かうのならば、バルトフェルド率いるザフト北アフリカ軍を撃破しなければならない。

 

そのための作戦と今後の展開を議論するため、ブリッジでマリュー、ナタル、ムウ、ヒノカミが顔を突き合わせる。

 

「最悪、儂が単騎で突っ込んで暴れてもいいがの。

 ここは高温の砂漠地帯、日中ならいくらでもエネルギーを補給できる」

 

「熱エネルギー吸収機能、だっけ。

 ビーム攻撃に対する絶対防御……フェイズシフト装甲と兼用できれば無敵じゃない?」

 

「それぞれの構造を把握していないので両立させられるかはわかりませんけれど。

 ……技術交換、とはいきませんか?」

 

「流石にノーじゃ。お主らだけならば検討の余地もあるが、連合全体には渡せぬ」

 

それにヒノカミはとっくにフェイズシフト装甲の理論を入手しているし、ガンダムは熱エネルギードレインと両立していたりする。

自己再生能力を持ちエネルギー切れもないのでいよいよ手が付けられない。

 

「アストレイが吶喊している隙にザフト軍がアークエンジェルを襲う可能性もあります。

 やはり連携してことに当たるべきでしょう」

 

「そうね。それにアストレイにはフェイズシフト装甲がないんだもの」

 

「攻撃は全て躱す自信はあるが、絶対の保証ではないからな。

 そしてその万が一が起きれば一撃で機体が破壊されるかもしれん。

 儂自身は無事じゃろうがな」 

 

「モビルスーツよりも頑丈ってどうなのよ……ともかくだ、ストライクの準備が整うまで待つしかないってか」

 

高機動モビルスーツであるバクゥ相手に足場の悪い砂上での接近戦は難しい。よってソードストライカーは却下。

接近されたら手も足も出ないし、不殺を貫くキラとしては火力が高すぎるのでランチャーも同様。

なのでエールストライカー装備がベストなのだが大気圏突入時に失われており予備機の準備にはもう少し日数がほしい。

 

しかし逆に言えば、ストライクの準備さえ整えば後は力づくで突破できる。

互いの戦力を正確に評価したうえで、今のアークエンジェルはそれだけの戦力を有しているというのがヒノカミの評価だった。

そしてガンダムのセンサーによりザフトの動きは筒抜けなので、アークエンジェルは最初の一戦以降はザフトに見つかることなく逃げ回ることができている。

アフリカに降りるという予定外の事態に陥ってしまっているが、精神的に余裕はある。多少気が抜けても仕方ないだろう。

 

そこでヒノカミとカガリは偵察と補給を兼ねて、バルトフェルドが支配するバナディーヤという街に向かうことにした。

軍として必要な物資は第8艦隊と合流した際に一通り補給されているが、クルーの嗜好品の類は一切なかったので、時間がある今のうちに買い揃えておこうという話になった。

 

この二人を選出した理由はいくつかあり、一つは明確にオーブの所属であること。

キラたちは除隊証明書こそ受け取っているものの、アークエンジェルクルーとして活動する間はまだ連合の所属になっている。

対してこの二人は連合の船に乗っているが、軍人としての資格や地位は一切ない。

仮にザフトと揉め事になっても即座に敵として処断されることはないだろう。

 

そして二つ目の理由が、揉め事になったとしても自力で潜り抜ける実力があること。

化け物であるヒノカミは言うまでもなく、彼女の下で特殊な修行を積んだカガリは人類最強の戦士。

インドア派ながらコーディネーターらしくナチュラルとは隔絶した身体能力を持つキラであっても、カガリには手も足もでなかった。

ナチュラルとキラの間にある差より、キラとカガリの間にある差の方が大きいくらいだったのだ。ヒノカミと組めば遅れを取ることはありえない。

 

最後の三つ目が、2機のモビルスーツの内どちらか1機は動かせるようにしておきたかったこと。

最悪の場合は船の中にいるガンダムが自己判断で動いてくれるだろうが、それは本当に最後の手段。

万が一戦闘が発生する危険に備え、キラには船にいてもらわねばならなかった。

そして仲間想いなキラの友人たちは彼を残して街に繰り出そうと言い出すこともなかった。

 

 

ヒノカミとカガリ、久しぶりの二人きりだ。

この街には知った気配はない。オーブの住民もいないだろう。

だからヒノカミは、この機会にとカガリに話を切り出した。

 

「……事実、なのか?」

 

「あぁ。お主とキラは兄妹じゃ。姉弟かもしれんがの」

 

二人とも戸籍上の年齢は16歳。

おそらく双子ということになるのだろうが、であればどちらが上かを判断する材料はない。

流石のカガリでも衝撃を受けるかと思っていたが。

 

「ふん、私が姉に決まっている」

 

「……軽口を叩けるようなら大丈夫か」

 

この世界の強度はあまり強くないが、魂を見て判別することができた。

今まで話さずにいたのは、気丈にふるまっているが極限状態のキラにこれ以上負担をかけたくなかったことと、魂なんてオカルトを素直に信じるのはそれに触れてきたカガリだけだからだ。

 

オーブは少々特殊な世襲制度を採用しており、五大氏族は後継者を身内から選べないようになっている。

養子を取り、その子供に家名を継がせるのだ。

カガリもまたウズミの遠縁の子だということになっているが、実際には全く血のつながりがないことはすでに把握している。

カガリがそれを知っているということは、それを知らせたヒノカミ以外は知らないが。

 

「サイたちにも確認したが、キラは普通の家庭の子だそうじゃ。

 しかしウズミがただの一般家庭の子を引き取るとは思えん。

 ヤマト夫妻がお主の両親、という可能性は薄いじゃろうな」

 

キラとカガリは立場は違えど揃ってオーブという国に所属しているのだから、何らかの理由でオーブに連れてこられた二人がそれぞれ別の家に引き取られたという可能性が高いだろう。

しかしなぜ二人を分けて、なぜウズミがカガリだけを引き取ったのか。

一国を支える氏族の後継者だ。素性もわからぬ者を受け入れるとは思えない。

 

「……お父様に聞かねばならないことが増えたな」

 

「どうしても口を割らぬようであれば言え。

 ヤマト夫妻も多少の事情は知っておろう。

 そちらから足取りを追えば何らかの情報はつかめるはずじゃ」

 

「いや、いい。私の出自が気にならないと言えば嘘になるが、今の私の父はウズミ・ナラ・アスハだ。

 尋ねたうえで口を割らぬのであれば相応の理由があるのだろう」

 

「……キラには、いつ?」

 

「オーブに戻ってから、私が伝える。

 今のあいつをこれ以上追いつめたくない」

 

「くけけけ、早速お姉ちゃん気取りじゃの」

 

「うるさい。さっさと食って、さっさと戻るぞ」

 

既に買い物は全て済ませ車の後ろに積んでいる。

後はアークエンジェルに戻るだけなのだが、折角だから街で昼食を取っていこうと二人はカフェに立ち寄っていた。

ヒノカミに食事は必要ないが食べられないわけではなく、二人連れで一人だけ食事するのは見た目が悪く店にも悪いだろう。

注文したのはこの町の名物だという『ケバブ』だ。

 

「ヨーグルトソースかチリソース……ケバブにヨーグルトって合うのか?」

 

ヒノカミは料理の達人であるため、ケバブの具材や見た目、ソースの匂いから味を予想できる。カガリはそれを知っていて彼女に尋ねた。

 

「ん-、まぁ通好みではありそうじゃな」

 

「そうか。ならわざわざ危ない橋を渡る理由もない。チリソース一択だな」

 

そう言ってカガリが赤いボトルを掴んだところで。

 

 

 

「あいや待った!ちょっと待った!」

 

 

 

アロハシャツに帽子にサングラスという、どう見ても怪しい男性が割り込んできたのだ。

 

「ここのケバブにヨーグルトソースをかけないなんて……そう!この料理に対する冒涜だよ!」

 

「いや、店がチリソース用意しとる時点でそりゃないじゃろ」

 

「それを言うなら、ヨーグルトソースだって店が用意したものだろう!?」

 

「一理あるな。どうするカガリ?」

 

「……ふんっ!」

 

「あ」

「あぁぁっ!?」

 

カガリは躊躇うことなく、ケバブの上に赤いソースをぶちまける。

 

「うん、うまいな。私はこっちの方がうまいと思うぞ?ほらお前もこっちを使え」

 

「待ちたまえ!『彼』まで邪道に堕とす気か!?」

 

「儂は女じゃボケェ!」

 

「ぐぼぁぁっ!!」

 

うっかりと地雷を踏んだ男性の顔面にヒノカミの拳が突き刺さり、鼻から真っ赤なソースが流れてきた。

衝撃で帽子が飛び、サングラスが落ちる。

これでも加減した方だ。でなければ彼の頭はザクロのように飛び散っていただろう。

 

「……んで?儂らに何の用じゃ、『アンドリュー・バルトフェルド』」

 

 

「おやおや……気づかれていたか」

 

 

男の雰囲気が変わり、『砂漠の虎』としての顔が姿を現した。

その顔からは鼻血がドバドバとあふれ出していた。

 




原作だとカガリはしばらくアフリカにいたようですが、本作ではずっとアークエンジェルと行動を共にしていました。
明けの砂漠のサイーブがウズミの恩師だったらしく、カガリもアフリカに来たことがあるかもしれませんが、本作では初ということにしています。
なのでここのケバブを食べるのは初めてなはずということで、少しだけ会話を変えました。
ぶっちゃけどうでもいいんですが。
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