『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第57話 轟 舞火

正気を失い、無惨な姿になってまで戦うことを辞めないヒノカミは、あまりに痛ましかった。

その場に居合わせたヒーローたちでさえ目を背ける者がいるほどだ。

しかしたった一人だけ、彼女の瞳を見て気づいたヒーローがいた。

 

(違う……!!)

 

エンデヴァーは目当ての人物に急いで駆け寄る。

 

「マンダレイ!!」

 

「っ!?」

 

「ヒーロー全員をここに集めろ!手を貸せ!

 オール・フォー・ワンを倒す!」

 

「は、はい!!」

 

あれは正気を失ってなどいない。

例え別人の記憶を持っていたとしても妹だ。

どれだけの年月を共に過ごしたと思っている。

 

「エンデヴァー、手があるのか!?」

 

「舞火……ヒノカミがオール・フォー・ワンに接近する隙を作る!

 奴がひるむようなでかい一撃を叩きこむのだ!急げ!!」

 

AFOは遥か上空を跳び回っている。

ここに飛行を得意とするヒーローは数人しかおらず、いたとしても接近することができない。

AFOに個性を奪われる事態は避けねばならないし、奴を追ってヒノカミが暴れているため巻き込まれる危険がある。

この状況でどうやってAFOに攻撃すればいいのかとヒーローたちは戸惑うが、ベストジーニストが問い返した。

 

「……一撃だけでいいんだな?」

 

「そうだ!」

 

「よし!全員、私の言う通りに!」

 

指示を受けたエンデヴァーが前に出て火力を高める。

ヒノカミがAFOに再び弾き飛ばされ、距離ができた一瞬を狙って炎を放った。

 

「ぬぉぉぉおおおおお!!」

 

全てを出し切るつもりで作り出した炎の渦が、AFOを包み込んだ。

直接当ててはいないのでダメージそのものはない。

そしてまだヒノカミと距離があり、負傷もしている今のAFOは無理をしてまで炎の壁を突破しようとはしないだろう。

これでエンデヴァーが炎を止めるまでのほんの数秒だが奴の視界が塞がれ、行動範囲が狭まる。

 

「右に5度、上に3度上げて!」

 

「引けぇーーーー!!!」

 

「「「うぉぉぉおおおお!!!」」」

 

巨大化したマウントレディが片膝立ちになり、頭を下げて両手をAFOへと向けて突き出している。

彼女のコスチュームはベストジーニストによって解かれ、局部を除いてほとんど裸も同然になっていた。

ベストジーニストは伸縮性の高く頑丈な彼女のコスチュームの繊維を編み上げ、自分の体を細くしたエッジショットが中に混ざって補強し、巨大で強固な紐を作り上げた。

マウントレディは紐の両端を持ち、彼女の背中側に伸びた紐の中央の部分にピクシーボブが瓦礫を混ぜて圧縮した巨大な土の球体を載せる。

そして炎の壁の中にいるAFOの位置を正確に把握するラグドールの合図により残るヒーロー全員が、ギャングオルカや虎、ナイトアイやグラントリノまでもが全力で紐を引く。

即席の超特大パチンコだ。

多大な力が加わり震える両腕を必死に維持しながら、マウントレディが真下にいるベストジーニストを責める。

 

「嫁入り前の、乙女の柔肌をっ……!こんな大勢の前に晒すなんて……!責任、取ってもらえるんでしょうねっ!?」

 

「……私で良ければもらってやる!!」

 

「!?言質取りましたからね!!」

 

エンデヴァーから立ち上る炎が消える直前にラグドールが叫んだ。

 

「発射ぁ!!」

 

「「「いっけぇーーー!!!」」」

 

直径数メートルという巨大な弾丸が、消えかけていた炎の壁を突き破ってAFOへと迫る。

 

「ぬぅっ!?」

 

流石のAFOも、ふさがれた視界の向こう側から突然巨大な物体が現れ猛スピードで迫れば動揺もするだろう。

この一撃に込められた威力はオールマイトの全力に引けを取らない。

AFOは様々な個性を組み合わせて巨大な右腕を作り出し、迎撃した。

わずかに拮抗したが、砕け散った弾の向こうから現れたAFOは無傷。

全員が力を合わせて放った攻撃が呆気なく破られ何人かは苦悶の表情を見せるが、エンデヴァーだけは不敵に笑っていた。

しかしその表情は、どこか涙をこらえているようにも見えた。

 

『GAAAAAAA!!!』

 

彼らが作ったわずかな隙に、ヒノカミがエンデヴァーが放った炎もすべて吸収してAFOに接近していた。

それでもまだ十メートル以上の距離がある。

ヒノカミがAFOに触れる前に、AFOは再び距離を取ろうとする。

 

『――ココジャア!!!」

 

直前、ヒノカミが叫び目の前で掌を叩きつけた。

個性『領域』の大きさは、発動したときに込めていた力の大きさで決まる。

残り火とは言えOFAを継承した今の彼女の身体能力ならばAFOを射程に捕らえることができる。

 

「これは……あの時奪い損ねた!?

 なぜ貴様がこの個性を持っている!?」

 

突如現れ自分を閉じ込めた見覚えのある巨大な球体の結界が、目の前の小娘が作り出したものだと気づきAFOが叫ぶ。

 

「ナゼモ何モ、コレハ儂ノ前世ノ個性!!

 記憶ト共ニ引キ継イダノヨ!気付イタノハ最近ジャガノ!!」

 

「前世……!?個性が2つ……いや3つ!?

 まさか、貴様は!!」

 

「カカカ!ヨウヤク気付イタカ!!

 儂ノ口調ハ『個性』的ダト良ク言ワレタモノジャガナァ!!」

 

「六道……リンネ……っ!?」

 

AFOは目の前の小娘の正体と、彼女の体が臨界を迎えていることに気付いた。

先ほどのエンデヴァーの炎を吸収したことで完全に制御できる範囲を超え、彼女の体に蓄えられた炎が解き放たれようとしている。

結界の中にいるのは、ヒノカミとAFOの二人だけ。

 

「思イ出スナァ、前世ノ最期ヲ!!

 シカシ此度ハチッポケナ爆弾トハ桁ガ違ウゾ!!」

 

「待て!やめろ!!」

 

「ナァニ痛イ苦シイハ一瞬ジャア!

 経験者(コノ儂)ガ言ウノダカラ間違イナイワイ!!」

 

AFOの声に耳を貸すはずもなく、もはや彼女でも止められない。

ヒノカミは個性の制御を手放した。

瞬間、結界の中が炎で埋め尽くされる。

結界によって熱と音が遮られ、地上の街や住民たちへの被害はない。

結界が球状であるためか、まるですぐそこに太陽が現れたかのようだった。




次回、AFOとの戦い、決着です。
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