ヒノカミが半ばオーブに所属する形になっていたのは、互いの目的が合致していたからだ。
オーブは連合にもザフトにも属さぬ中立国で、この世界でも特に強固な戦力と信念を持っていた。
彼女の慣れ親しんだ日本という国の流れを汲んでいたのも理由の一つだろう。
だからヒノカミはこの戦争が終わり連合とザフトが力を失った時に、この世界を導く中核にするつもりでオーブを手厚く支援してきた。
しかし今回の旅ではその立場が著しい妨げとなった。
『オーブの食客だから』と表立って動けず、ガンダムも使えなかった。
『たった一人の第三勢力』とも言われる彼女が本気で力を振るえば、どんな無茶でも押し通すことができるのに。
彼女がヘリオポリスの件を知ったのは彼女がオーブにいたからではあるが、仮にオーブ所属でない彼女が何らかの形でヘリオポリスに居合わせていたとしたら。
中立国のコロニーを襲撃したザフト軍を全滅させ。
中立国で自軍に兵器を開発していた連合を壊滅させ。
その後、一方に与したオーブを中立国と見なすことを止め、あらゆる支援を打ち切る。
それでこの件は終わっていただろう。1日もあれば十分だ。
「この旅の過程で得た繋がりや経験までは否定できぬが、それでもいらぬ手間をかけ、破壊と争いを広げることになった。
ようわかったよ。儂はしがらみに捕らわれている場合ではないとな」
オーブの理念には共感していた。
オーブを率いるウズミの信念と能力も信頼していた。
しかし彼は誓いを破ってまで力を求めた。
ヒノカミは『裏切られた』と怒りを抱く一方で、どこか納得し、そして理解してしまった。
この世界は、彼女が認めた『ウズミ・ナラ・アスハ』が信念を曲げねばならぬほど悲惨な状況なのだと。
戦争が終わった後のことを考える余裕すらないほど末期なのだと。
これまでは広がる戦火に対し、防壁を構築して自然に鎮火するのを待っていた。
だが怒りと憎しみの火は燃え尽きるどころか激しく燃え上がる一方だ。
はっきり言おう。ヒノカミは、この世界の人々がそこまで愚かだとは思っていなかった。信じたくなかったのだ。
アフリカでバルトフェルドと対話し、決心がついた。
隠していた力をひけらかしてでも、一度無理やり鎮火させなければならない。そうしなければ取り返しがつかなくなる。
たとえ後に余計な火種を残すことになっても。既存の組織や枠組みを跡形もなく消し飛ばすことになっても。
そして本格的に力を振るうのならば今の地位や立場は邪魔になる。
「だから、オーブを離れると?」
「儂から声明を出す準備はできておる。併せてオーブより発表せよ。
『凶行に走りオーブの要人を殺害したヒノカミを国外追放処分とした』とな。
その方が国としての体裁も保てるじゃろ」
「なっ!?サハクの件は明らかにアイツらが悪いだろう!?」
「だとしても、儂が五大氏族の一つを暴力で潰した事実に変わりはない。
国に残した資産は差し押さえて構わん。手切れ金と思ってくれればよい」
ガンダムはオーブの強力な後ろ盾でもあったのだ。
一度大敗した連合とザフトは『ガンダムが出てくるかも』とオーブへの手出しを躊躇していた。
ヒノカミの恩恵を受ける中立国からの感謝と敬意はオーブにも向けられていた。
しかし、彼女が去ると宣言すればそれらは失われる。
オーブと、それを事実上治めるウズミにとって深刻な痛手となるだろう。
「……わかった。これからどうするつもりだ?」
「アラスカまでのアークエンジェルの護衛、これは約束通りやり通す。
その後は各地を巡り、いたずらに被害を広げるような争いを力づくで鎮圧する形になるじゃろうな」
「つまり、本格的に連合やザフトとやり合うつもりと?」
「そうなる」
「「「!?」」」
ウズミとヒノカミの話を聞いているだけだった連合の3人に緊張が走る。
今まではガンダムから連合に攻撃を仕掛けてくることはなかった。
連合から攻撃したか、身内を攻撃したか、居合わせ巻き込まれたか。
それに撤退したら追撃を仕掛けてくることもなかった。
しかしこれからはそうではない。彼女は連合を『攻める』と宣言したのだ。
誰よりも頼もしかった今日の味方が、何よりも恐ろしい明日の敵になる。
改めてこの『たった一人の第三勢力』の戦闘力を振り返ってみよう。
ガンダムはビーム攻撃を受け付けず、ジンやメビウスの銃弾程度では傷すらつかず、圧倒的な機動力とパワーと感知能力を誇り、コーディネイターが操るXナンバー4機を完封している。
単独で大気圏を突破できる以上、地球でも月でもプラントでも自由に行き来可能。
加えて、核動力ではないがエネルギーは無尽蔵であると聞いている。
そしてそのパイロットは飢えることも老いることもなく、食事も睡眠も呼吸も不要で、生身でモビルスーツを倒せるという正真正銘の人外。
包囲戦も持久戦も、兵糧攻めすら通用しない。
「……どうすんのよ、コレ」
「仮に戦闘に発展した場合、どうやって撃破すれば……いや、仮に撃破できたとしてもどれほどの損害が……!?」
「……『ヒノカミとガンダムが積極的干渉を画策している』と上層部に進言します。よろしいですか?」
「かまわん。それで連合が振る舞いを改めてくれれば御の字じゃな」
ここまで同船してきたことは秘密だが、ヘリオポリスで遭遇しているのは公の事実だ。
そこで話を聞いたことにすればよいだろう。
「……なぁ姐さん、俺たちを送り届けてそのままアラスカに攻め入ったりはしないよな……!?」
「流石にそんな不義理はせんわい。
アラスカの手前で降りたら一度離れるつもりじゃ」
「よかった……いやよくはなってねぇけど……」
顔を引きつらせる連合の士官3人に、ヒノカミは何事もないかのように答える。
『できないから』ではなくて『不義理だから』。
アラスカから離れるとは言ったがあくまで『一度』。
もはや断言しているようなものだ。『自分とガンダムは単独でアラスカを攻め落とせる』と。
「……中尉、報告と同時に上層部を説得します。同席し弁護を」
「ハッ!」
「アレ?オレは?」
「「信用なりません」」
「……トホホ」
ムウはがっくりと肩を落とすが妥当な判断だ。
ヒノカミと意気投合して猥談を始めるような男に発言権はなかった。
「ま、外道な振る舞いをせぬうちは殺しはせんわい。
軍人は軍人である前に人なのじゃ。
人の道を外れる行いは許さぬ。良いな?」
「「「ハッ!」」」
3人は一糸乱れぬ見事な敬礼を披露した。
「……どうした、カガリ?」
「私は……お前からもっと、学ぶことが……!」
少し離れたところで俯き落ち込むカガリに近づき、彼女の頭にゲンコツを落とす。
「いてっ!何をする!?」
「お主を殴ると約束していたからな。
……カガリ。アストレイをお主に預ける」
「!?」
「先ほど武装を外し初期状態に戻した。
お主にしか動かせんようにロックもした。
今、ガンダムにオーブの船に運び込ませておる」
「な、なぜ!?」
「儂はもうオーブには戻らぬし、これからはガンダムで戦うことになる
気軽に手放すこともできず宝の持ち腐れにしかならんからな。信頼できるお主に託したい」
「でもヒノカミさんは、アラスカまではガンダムは使わないって……!」
「お主が降りるのだから、ストライクが空くじゃろ?」
「また、勝手にそんな……マリューさんたちが困っちゃいますよ?」
「……胃薬の追加、渡しておこうか?」
「胃痛そのものを減らしてくださるつもりはないのですか……!?」
乗員の移動と物資の積み込みを終えた2隻はひっそりと別れ、アークエンジェルはアラスカに向けて再出発した。
SEEDの世界にこそソレスタルビーイングって必要だったんじゃないかと思うんですよね。
世界全てを巻き込んだ全面戦争な状況なんだから、それを止めようとする彼らを支持する人たちってたくさん出ると思うんですよ。