フレイがいないこともあり、転属命令はムウにだけ下されています。
アラスカに上陸したヒノカミは、能力を駆使して慎重に奥へと進んでいく。
彼女は四楓院夜一を師としているが、科学が発展したこの世界では対人相手の隠密行動だけでは監視カメラやセンサーまでは潜り抜けられない。
よって個性で自らの熱を隠し、光の屈折を操作して自分を透明にして、ロックされた扉や壁は短距離転移で潜り抜けた。
それだけ神経質になっていれば仕方ないこととはいえ、その進みはあまりに遅い。
そして彼女が奥へと進んでいる間に、このアラスカ基地からまた多くの兵士たちの気配が離れていく。
方角からパナマだろう。パナマ基地には連合のマスドライバー施設があり、連合の戦力を宇宙へ上げるための重要な施設であることは間違いない。
しかし連合の拠点であるアラスカを手薄にしてまで戦力を集中させるべきかと言えば疑問が残る。
そしてなぜかアークエンジェルはパナマへと向かわずアラスカに残っている。
マリューたちの直属の上司はハルバートンで、アークエンジェルの所属は第8艦隊。
そしてアークエンジェルは地上でも航行可能ではあるが本来は宇宙戦艦だ。
Xナンバーであるストライクのデータを提出したら、速やかにパナマに向かわせてマスドライバーで宇宙に上げて第8艦隊に合流させる形が正しい。
地球軌道上での戦いで大きな損害を受けた第8艦隊もその戦力を欲しているはず。
奥へ、奥へと進むほど人の気配が少なくなっていき、最深部と思わしきエリアは完全にもぬけの殻だった。
どうやらセンサー類もまともに機能していないらしい。
「やはり、これは……む?」
確たる証拠はないがこの状況を推測していたところ、このエリアの近くを走っている一人の人間が見知った相手であると気配で気づいた。
「のぅ」
「うぉわぁっ!?あ、姐さん!?なんでここに!」
何故かアークエンジェルを離れているムウの背後に転移し声をかけた。
「嫌な予感が強まる一方なんでな、潜入させてもらった。
それより司令室に案内してくれんか?」
「はぁ!?いやいくら姐さんでも、侵入者を連れていくのは……」
「この近辺なんじゃろ?であれば問題ない。
……もうこのエリアにはお主と儂以外の人間の気配はない」
「……なんだと?」
「最悪の予想が当たりそうなんじゃ。時間がない。頼む」
「……わかった、こっちだ」
ムウの先導で通路を走る。道すがら、彼がここにいる理由を教えてもらった。
アラスカについたアークエンジェルだがなぜか上陸許可が下りず、ようやく呼び出されたかと思えば査問会議。
一時的にキラにストライクを託したことは確かに責められてもおかしくないが、上官たちが殊更やり玉に挙げていたのは彼がコーディネイターであったこと。
マリューとナタルは反論し、そしてガンダムの危険性も熱弁したが一切聞きいれられず。
そしてムウだけがアークエンジェルからの配属命令。パナマへと向かうところだった。
しかし彼は適当な理由をつけて船に乗らず、アークエンジェルのところへ向かおうとしていた。
「オレも姐さんほどじゃないが、勘が鋭い方でね。胸騒ぎが止まないんだ……ついたぜ」
二人して押し入った司令室はやはり無人。
「……一体どうなってやがる?」
ヒノカミはまっすぐコンソールに向かい、ハッキングを仕掛けていく。
そして彼女からあふれ出した怒気がムウを貫く。
「な、なんだよ!?」
「……ムウ。これを見ろ」
彼女は端末を操作し、指令室のメインスクリーンにとある計画書を表示した。
――――……
ヒノカミとムウが司令室に押し入ってまもなく。
基地全域にけたたましいアラートが鳴り響いた。
「襲撃!?まさか、ザフトが!?」
「いえ、違います!この反応は……ガンダムです!!」
「「「!?」」」
間違いない。ほんの少し前までこの船に乗っていた機体が一直線に、超スピードでアラスカへと突っ込んでくる。
「そんな!?すぐに攻めたりしないって言ってたんでしょう!?」
「嘆いている場合か!艦長!」
「……仕方ありません、出撃します!」
アラスカ守備隊に転属させられたアークエンジェルは、ガンダムの襲撃に対処するため基地から発進しようとするが。
「!?待ってください!司令部からの命令です!
『アラスカ守備隊は基地内にとどまり、隔壁を閉めて籠城の構えを取れ』と!」
「なんですって!?」
「それだけじゃありません、『以下の者は直ちに司令室へ出頭せよ』とリストが!
艦長とバジルール中尉の名前も……!」
「……司令部は一体何を考えている!」
「こっちが聞きたいですよ!」
「……命令だというなら従うしかありません。みんな、しばらくこの船をお願い。
行きましょう、バジルール中尉」
「……了解しました」
そして二人はアークエンジェルを降りて、急ぎ司令室へと向かう。
途中、同じように名指しで呼ばれた軍人たちと合流して人数が増えていく。
皆、マリューたちよりもはるかに地位の高い者ばかり。
しかし妙にユーラシア連邦や東アジア共和国の所属の比率が高いことが気になった。
そして十数人規模に発展した一団は、なぜか他の人間とすれ違うことすらなく、司令室へとたどり着く。
扉を開けた彼らを迎え入れたのは。
「よっ!お二人さん」
「フラガ少佐!?」
「なぜここに!?貴方は転属命令が出ていたはず!」
「エンデュミオンの鷹……この状況は一体どういうことだ!?」
連合軍人たちは司令室にまったく人気が無いことに困惑している。
この場にいるのはやってきた自分たちと、目の前のムウと、こちらに背を向けて一心不乱にコンソールを叩き続けている小柄な人影。
明らかに軍人ではない、赤い異国の服を着た少女だった。
「「……ヒノカミさん!?」」
「「「なんだとっ!?」」」
「おう、呼びつけて悪いな。しかし今手が離せんでの」
その名は今まさにこの基地に攻め入ろうとしているガンダムを操る鬼の怪人の名前であったはず。
この少女がその正体とは信じがたいが、であれば連合にとっては明確な敵だ。
幾人かはホルスターの拳銃に手を伸ばすが、ムウが両手を広げて立ちはだかる。
「ちょぉ~~~っと待った!
今姐さんに手を出すのはやめてくれ!事情はオレから説明するからさ!」
「どういうことだフラガ少佐!
まさか貴官、連合を裏切ったのか!?」
「半分正解。オレはついさっき、連合を抜けると決めたんだ」
「「「!?」」」
「そしてオレは連合を裏切ったんじゃない。
裏切ったのは連合で、裏切られたのはオレやアンタたちだ」
「どういうことです!?」
「……いいか、よく聞けよ?」
ムウの発言に合わせてヒノカミが片手間でコンソールを操作し、メインスクリーンの映像を切り替える。
「まもなくここアラスカを目掛けて、ザフト軍の大軍勢が攻めてくる。
大西洋連邦を中心とした連合上層部は、その情報を事前に察知してたんだ。
……だから連中はとっくにここから逃げ出してんのさ!
自分たちの戦力をパナマに移して、自分たちにとって邪魔なアンタらを囮にしてな!」
「「「!?」」」
「それだけじゃねぇ……」
「基地の地下にサイクロプスが仕掛けられている!
起動したら半径数十キロは溶鉱炉になるってサイズの代物が!
ここに残した戦力を餌にしてザフトをおびき寄せ、基地の破棄を兼ねてサイクロプスを起動し、自爆させる!
それでザフトの戦力の大半を削ろうってんだよ!
これが!お偉いさん方が描いたこの作戦のシナリオだ!!」
ムウが指さしたスクリーンには、計画書と本部地下のサイクロプスの画像が映し出されていた。