「我々に『ここで死ね』と……そういうことか!?」
「撤退を悟られないよう、奮戦してな」
「……急いで脱出を!」
「もう無理だ。情報通りならすでにザフトの包囲網が完成してる。
空からも追加でどんどん降りてくる。
のこのこ出てったら集中砲火を浴びてお陀仏だ」
「そんな……!」
「だが諦めなさんな、希望はある!……そうだろ、姐さん!?」
「「「!?」」」
全員の視線が背中を向けたままの少女に向かい、話を振られた彼女は指を止めずに口だけで応える。
「自爆システムが時限式ならどうとでもなったが、遠隔起動式でな。
しかもここのシステムから物理的に切り離されておる。信号を止めるのは不可能じゃ。
なんでサイクロプスに繋がるエネルギーラインの方を少しずつ切り離しておる。
起動に必要なエネルギーを確保できなければ起爆は失敗するじゃろう」
「おぉ……!」
「しかしここを吹っ飛ばす量となれば当然じゃが、エネルギーラインも多いでな。
起動できなくなるほどの数を切り離すのは時間がかかる。
それにいつ起爆されるかも正確にはわからん。
連中がここの様子をのぞき見しとる形跡はないんで、スイッチを押すタイミングはおそらく時間を見計らって。
ザフトの侵攻が始まってからしばらく後じゃろうが……どっちが早いかの勝負じゃな」
「……我々に、何かできることは?」
「ザフトに基地内部に侵入され引っ掻き回されたら作業が進められん。
隔壁を全部下ろして溶接でもなんでもしてとにかく侵入口を塞げ。脱出は後から考える。
それと、クルーたちを勇気づけてやれ。混乱しとるじゃろうからな。
しかし基地が自爆することについては話すな。パニックに陥るかもしれん」
「だが多少隔壁を補強したところでザフトが破壊し突撃してくるぞ!?
少しでも艦を出して迎撃するべきではないか!?」
「腹立たしかろうがお主らでは足手まといじゃ。ザフトはガンダムが対処する。
下手に戦闘を広げて基地の破壊が進めば作業が遅れる。とにかく今は籠城するんじゃ。
サイクロプスへの対処が終われば後は儂とガンダムでどうとでもしてやる」
「……くそっ、己の無力が憎い!」
「それは儂もじゃよ。連中が逃げ出す前に取り押さえておけば……クソッたれめ」
「……なぜアナタは、ここまでするのですか?」
余計な一言だとわかっていても、疑念を解消できないナタルが尋ねる。
ヒノカミは『連合もザフトを敵とみなす』と宣言した。
であればこの状況、放置した方が彼女にとって都合がいい。
切り捨てられたとはいえ連合の戦力と基地、そしてザフトの戦力の大部分が勝手にいなくなってくれるのだから。
いくら化け物の彼女と言えど基地そのものの爆発には耐えられないのかもしれない。
だが彼女とガンダムなら力づくでザフトの包囲網を突破できるはずだ。
考えれば考えるほど彼女が命を懸けてまで、ザフトの侵攻を防ぎながらアラスカの自爆を止めようとする理由がわからない。
「ムカつくじゃろ」
「……は?」
「ムカつくじゃろ。こんな腐れ外道共の筋書き通りに事が運ぶのは。
だから邪魔してやるんじゃよ。そんで指さして嗤ってやるんじゃ」
「それだけ……?そんなことのために、命を……!?」
「げらげらげら。人が命を懸ける理由は時として他者には理解できぬものよ。
お主らはそれが『軍』であり、儂は『己の我儘』だったというだけのこと。
……無駄話はここまでじゃ。ザフトの反応を検知したぞ!全員船に戻れ!」
「……ご武運を!」
「お互いにな」
軍人たちは一斉に敬礼をして司令室の外へと駆け出していく。
マリューとナタル、そしてムウも彼女らに続き、部屋にはヒノカミ一人が残された。
――――……
『オペレーション・スピットブレイク』。
作戦の当初の攻撃目標はアラスカではなくパナマだった。
しかしザフトのトップとなったパトリック・ザラが直前に攻撃目標の変更を宣言。
大半の兵士たちが困惑し、しかし命令であるためと従った。
『ザフト軍に告げる』
そして無数の戦艦、無数のモビルスーツがアラスカへと終結する。
しかし彼らの前に立つのは連合軍ではない。
たった一機のモビルスーツ、ガンダムだった。
そのパイロットだというヒノカミの声がオープン回線を通じて全軍に通達される。
スピーカー越しとはいえ、声が妙に高いことをいぶかしむ者もいた。
『アラスカはすでに儂とガンダムが占拠した。
連合の戦力はここではなくパナマに集結している』
アラスカの上空に佇むガンダムは脚部を巨大な頭部に変形させており、その下から無数の管を地面に伸ばしていた。
『繰り返す。アラスカは儂とガンダムが占拠した。
速やかに転進せよ。攻め入るというのならば迎撃する』
オープン回線で告げられた言葉が事実であれば、ザフトがアラスカを責める理由は薄い。
これは『連合の拠点を攻め落とす』ための作戦なのだから。
しかし直前で変更された攻撃目標が、その寸前で占拠されるなどあり得るだろうか。
それによく見ればアラスカには戦闘の跡がまるでない。
ガンダムは『もう抜けた』と公言しているが、先日まで所属していたオーブが連合と組んでモビルスーツを開発していたのは周知の事実。
であれば、ガンダムが連合を庇っていると判断するのも当然だろう。
それに積極的干渉はしてこないとは言え、ガンダムもまたザフトの敵である。
ザフト軍は予定通り、アラスカへの攻撃を開始した。
「そりゃそうじゃよな……」
ザフトがサイクロプスのことを信じるならば伝えるのだが、自分にはそこまでの信用はないと判断した。
宣言しても耳を貸さず、ここに取り残された軍人たちがパニックになるだけだ。
故にサイクロプスの解除が終わるまで力づくでザフトの侵攻を食い止めなければならない。
ガンダムが全力を発揮するためには、生体ユニットであるヒノカミが搭乗しなければならない。
そしてガンダムが全力を発揮すれば、ザフトを全滅させることも基地の自爆を止めることも容易い。
だがそれはどちらか一方だけの話。二つ同時に対処するのは無理だ。
だからヒノカミとガンダムは分担してことに当たらねばならない。
そして全力を発揮できないガンダムではザフトの侵攻を完全に食い止めるのは難しい。
少なくとも、出し惜しみをしている余裕はない。
ヒノカミはガンダムと通信をつないだままコンソールを叩く。
そしてサイクロプスから切り離したエネルギーラインを、また一つガンダムへと繋ぐ。
わずかながら時間はあった。万全とはいいがたいが備えはした。
当方に迎撃の準備有り。
「さぁ……暴れろ、ガンダム!」
(ーー!)
アラスカの大地が激しく揺れ始める。
海の上にいるザフトの戦艦に小刻みに津波が押し寄せる。
『な、なんだ……!?』
『地震……いや、違うぞ!?』
やがて大地を突き破って、無数の巨大な何かが生えてくる。
それは巨大な機械の蛇のようで、しかしその頭部は蛇ではなく。
『ガンダムの……化け物……!?』
『『『『『ギシャァァァァーーーーーーーーッ!』』』』』
島の至る所から生えた『ガンダムヘッド』が、牙をむいて雄叫びを上げた。
次で明かしますが、このガンダムヘッドは半ばハリボテです。なのでヒノカミにもそこまで余裕はありません。