『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第20話 言葉

 

ガンダムに与えられた役割は『敵の殲滅』ではなく『基地の防衛と時間稼ぎ』だ。

ザフトの所有する戦力の大半をつぎ込んだ一大作戦となれば、モビルスーツと戦艦の数は数えるのも億劫になるほど。

対して取り残された連合の戦力は戦艦と戦闘機。

助力を仰ぎ命を懸けて戦ってもらったところで囮にしかならず、むしろ余計な戦闘が基地の破壊を広げサイクロプスの起動阻止作業の妨げになる可能性が高い。

ならば基地内部へと繋がる隔壁を下ろして塞ぐ作業を進めてもらった方がありがたい。

 

たった一機で全域を守り抜くため、そして敵の戦意を挫くためにと、ガンダムは己の力の一端であるガンダムヘッドを解禁した。

ヒノカミがガンダムに繋ぎなおしたエネルギーラインを利用し、基地の表層にある施設や機械を侵食して作り上げたガンダムヘッドは半ばハリボテの急造品。

動きは鈍いし、熱エネルギードレイン能力もフェイズシフト装甲もない。

できるのは体当たりとかみつきと、オリジナルと比較してあまりに遅い自己再生のみ。

 

だがそれでも、その異形の姿に尻込みする兵士は多かった。

 

『なんだこれはぁっ!?』

 

『このっ、このっ!化け物めぇっ!!』

 

『傷が、ふさがって……!?自動修復だとぉっ!?』

 

『『『ギシャァァァァーーーーーーーーッ!』』』

 

『『『ひぃぃっ!』』』

 

ザフトのモビルスーツや戦艦がガンダムヘッド目掛けてひたすら攻撃を仕掛けるが、破壊した部位にケーブルが伸びて傷口が塞がり装甲が再構成され、やがて完全に元の姿に戻る。

そして蛇のように胴体をうねらせ、接近するモビルスーツを薙ぎ払う。

海中から突撃してくる水中用モビルスーツもいたが、新たにガンダムヘッドを生やしてかみつき、そのまま海面を超え上空まで持ち上げる。

 

『ギシャァァッ!!』

 

『ぐぁぁぁーーーっ!』

 

そして敵戦艦の近くに投げつけた。直接ぶつけるではなく、あくまで近くにだ。

 

(ーー……)

 

生体ユニットのいないガンダムは全力を発揮できない。

だから今の彼でできる範囲でだが、彼は敵を殺さぬように戦い続けていた。

それは善意でもやさしさでもなく時間稼ぎのため。

人は仲間を失うと激昂し、敵わぬ相手でも己の命を捨ててまで攻めてくる生物だと彼はよく理解していた。

それゆえの合理的な判断として。

『仲間を失うのが嫌なら殺し合いなんてしなければいいのに』と思ってもいたが。

 

『くそっ、くそっ、くそぉーーーーっ!!』

『くたばれ化け物がぁーーーっ!!』

 

(ーー…………)

 

それでも破れかぶれで攻めてくる者、ガンダムが加減を間違えて殺してしまった仲間の仇を取ろうとする者、上官の指示に忠実であろうとする者がなおも攻撃を仕掛けてくる。

特に遠方の艦隊からの一方的な射撃は厄介だった。

威力が高いのでガンダムヘッドを壁にしても受け止めきれず基地に衝撃と損害が及ぶ。

ガンダムヘッドと表面は再生して取り繕っているが、ザフトの攻撃はヒノカミの作業の深刻な妨げとなっていた。

 

 

「っ!くそ、また切れた!」

 

破壊の衝撃によりまたいくつかの回線が物理的に破壊された。

そちらを通じて進めていた作業を途中で放棄し、生き残った回線を使って別のエネルギーラインの切断作業を始める。

 

「……あぁもう!遅い、遅すぎる!!

 仮にも連合の本拠地だったんじゃろ!?

 なんでこんなお粗末な回線使っとるんじゃあっ!!」

 

これがこの世界の技術の限界だとわかっていても叫ばずにはいられない。

ハッキングを仕掛けるヒノカミのスペックがどれだけ優れていても、扱うハードの性能が全く追いついていないのだ。

作業開始直後真っ先にメインコンピューターには手を加え最適化したが、基地に張り巡らされた回線の通信速度までは彼女にはどうにもならなかった。

 

「先にガンダムで侵食して繋ぎなおしておけば……いやそしたらガンダムヘッドが揃えられんかったし……また切られたぁっ!!

 えぇい24番から30番まではスキップ!

 31番から……なんでこんなアホなプログラムで動かしとるんじゃあ!無駄多すぎじゃろお!!」

 

どれだけ声を荒げても事態は好転しないが、愚痴くらいは言いたくなる。

彼女にしてみれば連合の使っているプログラムはあまりに稚拙すぎるのだ。

『自分がこの状況に陥るのを想定してわざと酷い構築になっているのでは』と勘繰りたくなるほどに。もちろんそんな事実はないが。

 

 

ドォン!

 

 

「っ、ガンダム!」

 

(ーー!!)

 

基地全体に走る衝撃、どうやら隔壁の一つが破壊されたらしい。

ガンダムに指示すると近くにあったガンダムヘッドの一つを動かしてその巨体で穴を塞ぐ。

しかし周囲の敵がそのガンダムヘッドに集中砲火を浴びせて強引に進入路を確保しようとしている。

 

「防げるか!?」

 

(ーー……!)

 

「ちっ……もう少しでもう一つラインを繋げられる!

 そのエネルギーでなんとか持たせい!」

 

(ーー!?)

 

「どうした!?……なんじゃとぉっ!?」

 

破壊された隔壁の奥から、ガンダムヘッドの下を通り抜けて一隻の船が出航する。

やがて浮上した白亜の巨艦がザフト軍の前に姿を現す。

 

 

『こちらは地球連合軍……いえ、『元』地球連合軍所属艦アークエンジェル艦長、マリュー・ラミアスです』

 

 

「何をしておる!?」

 

オープン回線を開き宣言するマリューに個別回線で呼びかけるが返答はなし。

ザフトのモビルスーツが武器を構えて突撃しようとするも、彼女は構わず言葉を続ける。

 

 

『ザフト軍に告げます。

 アラスカ基地の地下には『サイクロプス』が仕掛けられています』

 

 

『『『!?』』』

 

 

『我々を残して囮とし、ザフト軍を基地に招き入れ、自爆する。それが連合の作戦です。

 現在ヒノカミがその解除に当たっています。

 速やかに戦闘行為を停止し、アラスカから退避してください』

 

「……マリュー……!」

 

彼女の発言は未だアラスカ基地に残っている連合軍の兵士たちにも聞こえているだろう。

今頃彼らは恐慌状態に陥っているかもしれない。

 

『連合艦隊はすでにパナマに退避しています。

 ここに残るのは我々、連合から切り捨てられた者だけです。

 ……繰り返します。

 アラスカ基地の地下にサイクロプスが仕掛けられています。

 ザフト軍は速やかにアラスカから退避してください』

 

アークエンジェルは一切の武装を展開せず、ただまっすぐにザフト軍の前へと進む。

主砲のゴッドフリートもローエングリンも、副砲のバリアントも格納したままだ。

それは無抵抗であることを示し、己の言葉を信じてもらうためかもしれないが。

 

 

「……無理じゃ、無理なんじゃよマリュー……!」

 

 

連合とザフトは、とっくに互いの言葉が通じる段階を超えている。

連合所属ではない自分でも無理だと判断したのだ。

対してアークエンジェルはここまで華々しい戦果を上げてきた連合の新型艦。

それが『不要と切り捨てられた』という状況そのものに説得力がない。

 

『あぅっ!?っ、繰り返します!アラスカ基地の地下にサイクロプスが……!』

 

ガンダムヘッドに守られたアラスカ基地から離れたアークエンジェルにザフトの攻撃が殺到する。

何度も被弾し、何度も揺さぶられる。しかしそれでも船は無抵抗を貫き、マリューは力の限り叫び続ける。

 

『ザフト軍は、速やかに退避を……!』

 

しかし彼女たちの奮戦むなしく、ブリッジに肉薄した一機のモビルスーツが銃を構える。

 

『っ!』

 

通信越しに、マリューが息を吞む音が響いた。

 

 

 

 

『……本当なんだな?』

 

 

 

『え……!?』

 

しかし銃を構えた『オレンジ色のシグー』は引き金を引くことなく、銃口を上へと向ける。

 

 

『アイマン隊、集結しろ!『足つき』を落とさせるなっ!!』

 

 

『『『『了解!!』』』』

 

 

そしてグゥルに乗った4機のXナンバーがアークエンジェルを取り囲み、背中を預けた。

 

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