『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第23話

 

当初、連合はサイクロプスによる基地自爆を『ザフトの大量破壊兵器』によるものとして報道するつもりだった。

そのための下準備は済ませていた。プロパガンダの草案も用意していた。

後は実際に破壊された基地の映像を用意しようと偵察機を飛ばしたところで、そこにあるのは未だ健在のアラスカ基地。

そして周囲には戦力のほとんどを維持したままのザフト軍。

連合上層部は自爆作戦の失敗を知った。

おそらく何らかの不備があり、サイクロプスが起動しなかったのだと推測し深く嘆いた。

 

しかし事実は彼らの想像以上に、彼らにとって最悪の状況になっていた。

 

まもなく、少し前に『オーブを離れた』と発表したヒノカミとかいう正体不明の鬼人が『アラスカ基地を占拠した』と宣言。

そして基地に残された連合の悪行の証拠を、全世界に一斉に公開したのだ。

当然、中にはサイクロプスによるアラスカ基地自爆計画も、そのためにユーラシア連邦や東アジア共和国の軍人たちを切り捨てたことも明記されていた。

先んじて『ザフトの大量破壊兵器によりアラスカが落ちた』という噂を水面下で流していたこともあり、その反発は非常に大きかった。

 

世界中の国から連合、およびその中心となっている大西洋連邦への非難と抗議が殺到。

彼らと癒着していたブルーコスモスや、金儲けのために戦火を広げていたロゴスも槍玉に上がり、地球の至る所で魔女狩りの様相となっていた。

 

加えて、アラスカ包囲網を解いたザフト軍により今度はパナマが落とされてしまった。

アラスカから移動させた戦力に加え、ついに量産に成功したモビルスーツ部隊を投入しておいての圧倒的な大敗。

パナマのマスドライバーを押さえられてしまったため、連合は宇宙への足がかりすら失った。

 

国や人員、資産の流出に歯止めがかからず、やがてユーラシア連邦と東アジア共和国も地球連合からの脱退を宣言。

追いつめられた連合……いや大西洋連邦の上層部はしかし何もできることはなく、意味のない閣議を開いては怒鳴り合いと責任の押し付け合い、ザフトとヒノカミへの怨み言を繰り返していた。

 

『何故データを完全に消去しておかなかったのだ』と責任者を私刑に処したが、その人物は最期まで『確かにデータは消去した』と泣きながらに叫んでいた。

彼は悪くない。ただ、相手が悪かった。

ヒノカミのハッキングを防ぐのならば物理的にサーバーを破壊しておかねばならず、そしてあの状況でそんなことをする時間がなかっただけだ。

 

大西洋連邦という巨大組織を牛耳る軍人と言えど、彼らはヒノカミのように強力な力を持つ個人ではない。

基盤となっていた権力と財力を失ってしまえばただの無力な人間だ。

地球連合という組織はガタガタになり、もはや組織としての体を成していなかった。

 

 

 

しかし一方プラントでも混沌とした状況に陥っていた。

連合が力を失ったことで『身内争いをする余裕ができてしまった』こともあるだろう。

プラント評議会の面々は、議長であるパトリック・ザラを一斉に糾弾したのだ。

 

議会の議決をもって決定した『オペレーション・スピットブレイク』の作戦目標を独断で変えたこと。

そしてそれがスパイにより連合で筒抜けであったこと。

あと少しでザフト軍の戦力の大半が消し飛ぶところだったのだ。

アイマン隊に所属しているアスラン以外のパイロットたちも評議会メンバーの息子であり、ザラ派だったエザリア・ジュールすらパトリック・ザラを苛烈に攻め立てた。

 

アラスカにて危険を冒してまでザフトに停戦を叫び、多くのコーディネイターの命を救ったのは、少し前まで連合に所属していたナチュラルだった。

ラクス・クラインを救助した連合の船がプラントで話題となった際に、ナチュラル蔑視の激しいパトリック・ザラはアークエンジェルを徹底的にこき下ろしていた。

しかし彼は今回、その侮蔑した相手に尻拭いをさせてしまったのだ。

急ぎ彼は地球のザフト軍に命じて本来の攻撃目標であるパナマを落としたがわずかな信頼も取り戻すことができなかった。

 

今回の問題を受けて、スパイを見つけ出すためにもパトリック・ザラの周辺の捜査が開始された。

そしてスパイよりも先にパトリック・ザラの新たな越権行為が見つかった。

彼は独断で『Nジャマーキャンセラー』を搭載した『核動力モビルスーツ』を製造していたと発覚した。

『全ての核を放棄するため』にと地球全土に散布したNジャマーだというのに、彼はその誓いを破っておきながら『勝つために必要になった』と悪びれることなく力説する始末。

議会から賛同者は現れなかった。間もなく再度の議長選挙が行われるだろう。

そして彼が議長の座に返り咲くことはおそらくない。

 

 

 

 

両軍の事実上の機能停止により、世界には一時的な平穏が訪れていた。

これを好機と見たヒノカミは即座に動き出す。

 

地球軌道上にいる大西洋連邦第8艦隊司令官、デュエイン・ハルバートンをアラスカ基地へと呼び寄せたのだ。

パナマが落とされた今、地球から宇宙に上がるのは簡単ではない。

だが宇宙から地球に降りるのは簡単だ。シャトルの一つもあればいい。

そしてシャトルの一つくらいならガンダムが掴んで宇宙へ運び出せる。

アラスカの通信設備を使い打診すると、彼は二つ返事で了承した。

 

本来アークエンジェルが通るはずだった航路を使い、間もなく彼とわずかな部下が乗ったシャトルがアラスカへと降下した。

 

「すまんな。突然の要請に応じてくれたこと、感謝する」

 

「なぁに。今回の件、キミに直接感謝を告げねばと思っていたのだ。

 ……部下や仲間たちを救ってくれて、本当にありがとう」

 

噂のヒノカミの正体が小柄な女であることに驚くハルバートンの部下たちだったが、そんな相手にためらうことなく頭を下げたハルバートンに更に驚かされた。

 

「頭を下げるのも簡単ではないのではなかったか?」

 

「今の私の頭に何の価値があろうか。

 落ちぶれた連合……いや、大西洋連邦の軍人などにな」

 

「あまり己を卑下するな。その価値を借り受けようとする儂の思惑にもそぐわぬ」

 

「ふむ……この身でできることがまだあると言うのならば。

 此度の恩も返したいのでな」

 

「助かる。とにかく奥へ行こう」

 

「やれやれ、まさか久方ぶりのアラスカの地をこんな形で踏むことになろうとはな」

 

ハルバートンの率いる第8艦隊は宇宙軍だ。彼は地球に降りることすら滅多になかった。

だからこそ地球の大西洋連邦上層部との接点が少なく、准将という立場であるが汚職の類には一切関わっていなかった。

いや、上層部の連中が思い通りにならない彼を遠ざけるために宇宙へ追いやっていたのかもしれないが。

 

ヒノカミはハルバートンたちと共に司令室へと歩く。

途中、取り残された元連合兵たちと何度かすれ違った。

しばらくは生気もなく至る所でうなだれていた彼らだったが、今は暗い顔のままでもしっかりと働いている。

これはヒノカミと元連合上官たちが積極的に仕事を割り振ったからだ。

余計なことを考え沈みこむ暇がないように、体を動かしていた方が良いだろうと考えて。

 

物資の類は上層部がアラスカを離れる時に持ち出せるだけ持ち出してしまった。

なのでヒノカミがジャンク屋と傭兵たちに依頼して、必要なものを次々と運び込んでもらっている。

物資の基地の各所への分配。戦いで損傷した基地の修繕。やらせる仕事はいくらでもあった。

 

一行が司令室に辿り着くと、元連合上官たちが揃っていた。

マリューとナタルの姿もそこにあった。

切り捨てられたユーラシアや東アジアの面々は大西洋連邦に対し激しい怒りを抱いているが、しかし汚職の証拠が見つからず潔癖であったハルバートンに対してはむしろ敬意を抱いていた。

敬礼しそうになった彼女たちをハルバートンが手で制する。

彼女らはもう連合ではないのだ。己は上官ではなく、諸君らは従う必要はないという意思表示だった。

 

 

 

「……さて、キミはこの老いぼれに何をさせたいのかな?」

 

「旗頭」

 

周囲に部下と元連合士官たちを侍らせて向かい合う二人。

時間が惜しいと話を切り出したハルバートンに、ヒノカミは間髪入れずに返した。

 

「詳しく伺おう」

 

「もはや地球連合の名声は地に落ちた。翼を失い、ザフトに抗う力もない。

 今はパトリック・ザラの責任追及で動きを止めておるが、再度ザフトの侵攻が始まれば今度こそ地球は終わる。

 ゆえに早急に必要なのじゃよ。地球連合に代わり新たな地球の代表となる組織が」

 

「私にその頭をやれというのか?大西洋連邦に所属している私に?

 そしてまたザフトと戦い潰し合えと?」

 

「儂は考えを改めた。お主の教え子が儂に光を示してくれた」

 

今の地球連合はそう名乗ってはいるが、実際にはプラントの所有権を握っていた理事国が中心となって結成されていた。

あくまで少数の強国の集いでしかなく、それでは地球連合を名乗るにふさわしくない。

だから作るのだ。『真の地球連合』と呼べる存在を。

 

「儂の名と伝手を使って各国に呼び掛け、新たな国際的な枠組みを作る。

 そして同時に新組織の合同防衛軍を設立する。

 その初代代表をお主に任せたい」

 

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