『たった一人の第三勢力』。それがこの世界でのヒノカミの肩書だ。
彼女は一人で連合とザフトに並ぶ勢力と見なされてはいるが、しかし彼女は一人。
どれほどの力を持っていても一人でできることには限界がある。
だからこそかつてはオーブに身を寄せていたし、今も国々に呼び掛けて新たな枠組みを作ろうとしている。
そもそも個人が国々に働きかけること自体が普通は不可能だが、そこは今まで散々支援をしてきた実績と影響力がある。
彼女は地球の中立寄りの国々に呼びかけ、多くの国がアラスカへと特使を派遣してきた。
その中には連合から脱退したばかりの国もいて、ずっと中立を貫いてきた国もいる。
「久しいな、ヒノカミ」
「皆さんが無事で、本当によかったです」
そしてオーブからの特使はカガリであり、彼女の補佐官となったキラも同行していた。
カガリがオーブを飛び出してヘリオポリスに向かうまでは彼女の補佐官はキサカだったが、残念ながらもはや彼ではカガリを止められないとこの一件ではっきりしてしまった。
というか物理的に止められるのはヒノカミだけでありキラにも無理だが、カガリは彼の前では姉らしい振る舞いを心掛けているため精神的なストッパーになる。
彼自身の能力と意欲も高く、彼は正式にウズミとキサカに側役を託されていた。
オーブにもヒノカミが公開した情報は届いており、彼らも一時身を寄せていたアークエンジェルが窮地に陥っていたと知って気を揉んでいたが、アークエンジェルのクルーたちとも改めて顔を合わせて安堵している。
「久しいもなにも、オーブの近くで別れてから大して時間経っておらんじゃろうが」
「そう言うな。今まではずっと一緒にいたんだ。
短い期間でも感傷的にはなるさ」
『コーディネイターを超えたナチュラル』として有名なカガリと対話する、ヒノカミと呼ばれた小柄な女。
各国の諜報機関はすでに『ヒノカミの正体は女だったらしい』という情報を掴んではいたが、実際に目の当たりにするとやはり困惑が勝るようだ。
同じように港に降り立った各国の使者は、今まで何度か顔を突き合わせていた鬼の鎧の中身を知って露骨に狼狽していた。
その後も一つ、また一つと船がアラスカの港に到着する。
すでにヒノカミが声をかけ参加の意思を示した地球の国々の特使は全員集まっている。
しかし参加国はあと一つあり、このままでは不参加かと思われたが開催予定時間の直前にようやくアラスカに到着した。
「やはりわたくしどもが最後だったようですね。
お待たせしてしまい申し訳ありません」
「プラントからは遠いんじゃから仕方あるまい。
しかし誰が特使かは秘密とあったが、まさかお主だとはなぁ。ラクス」
「フフフ。『その方がカッコイイ』のでしょう?」
「げっげっげ。儂から一本取るとは新しいなお主は」
ヒノカミは地球の中立国だけでなく、プラントにも参加を呼び掛けていた。
電報を受け取ったプラントの評議会にて、当然パトリック・ザラは強固に反対した。
しかしプラントではまもなく彼の信任投票が行われる予定であり、未だに地に落ちた名声を回復できていない彼の解任はすでに決まっているも同然。
現在の評議会を占めているのは穏健派とされるクライン一派であり、事実上のトップはシーゲル・クラインに戻っている。
そして彼はパトリック・ザラの失態で失われるはずだったコーディネイターたちを救ってくれたヒノカミたちを幾分好意的に見ており、この会合にも応じたいと考えていた。
そこで誰を送るかという話になった時に、名乗り出たのが彼の娘であるラクスというわけだ。
彼女は足つき……アークエンジェルに救われ世話になっていた。そしてアークエンジェルは未だにアラスカにいる。
おそらくヒノカミの変装だったという人物とも顔を合わせている。悪くない選択肢だった。
そうと知らずにパトリック・ザラの息がかかっている者を送ってしまう可能性は避けたかったため、当人にやる気があるならとシーゲルは実の娘に使命を託した。
「やぁ、アスラン」
「キラ……!」
「彼がストライクのパイロットだった方ですか?」
「あぁ。アイツがキラ・ヤマトだ」
「チッ……あんななよっとしたヤツだったとはな……!」
「オイオイ、もう敵じゃねぇんだから手を出すなよ?」
「わかっている!」
「ホントにわかってんのかねぇ」
「……おや?キミは確かヘリオポリスで……」
「……人違いだ」
「いや、記憶力には自信があるんだ。キラと一緒にいた……」
「人違いだ!!」
「アスラン、人違いってことにしておいて」
「?あぁ、わかった」
そしてプラントからアラスカまでのラクスの護衛を務めているのがアイマン隊だ。
パトリック・ザラの失態によりアスランとラクスの婚約はすでになくなったが、アスランはシーゲルから見ても信頼できる好青年である。
アイマン隊もまたアークエンジェルとの縁が深く、オペレーション・スピットブレイクにていち早く彼らの言葉が真実であると見抜き行動した実績もある。
護衛を打診したのはラクスからであり、シーゲルも彼らが引き受けてくれたからこそ安心して娘を送り出すことができた。
「それでは、時間となったので始めさせていただく。
改めて、突然の呼びかけに応じこの地に足を運んでくれたこと、心より感謝する」
流石のヒノカミもいつものふざけた態度ではなかった。
簡単な挨拶を終えた後、早速本題に入る。
まず今回の会合、これはまだ提案の段階でありこの場に参加したからと言って何らかの義務が生じることはない。
内容が気に食わなければ即座に席を立ってもらっても構わないと告げている。
しかしあらかじめ今回の会合の内容は文書で連絡済みであり、この場にいるということは今のところ彼らが『一考の余地あり』と判断しているということでもある。
文書の内容は大まかにまとめるとこうだ。
1.新たな国家間の枠組み、同盟を作る。
2.ナチュラルもコーディネイターも対等な人間。差別や区別をしてはならない。参加国はプラントを自治権を持つ一つの国家として認める。
3.参加国は他国に侵略してはならない。攻め入られた場合の反撃はやむなし。
4.災害や紛争など、有事の際には互いに協力して対処する。そのために組織と同時に各国合同の同盟軍を設立する。トップはハルバートンに任せる予定。
5.同盟国間で通商条約を締結し、技術協力と支援を行う。
6.『とある計画』に積極的な協力を希望する。強制ではないが貢献に応じた見返りは約束する。
地球の中立国にとって2番目と3番目はすでに実践していることである。
4番目は地球の中立国だけならば問題ないが、プラントが参入するとなると話が変わってくる。
プラントの高い技術力は是非とも欲しいので5番目の価値が大幅に向上するが、自国もプラントを敵視する連合と敵対することになるからだ。
この同盟に参加すればプラントから地球に攻撃することはできなくなるが、連合がプラントを敵視する限りは事実上プラント陣営に所属するようなもの。
今まで中立を貫いてきた地球各国が難色を示すことは当然である。
しかしヒノカミは『6番目の実現のためにはどうしてもプラントの協力が必要である』と各国に理解を求めた。
特使たちもこの『とある計画』とは何かが気にかかっていた。
それはこの会合で明かすと文書には記されていた。
彼らがこの同盟に参加を決めるか否かはこの計画とやらの内容次第となるだろう。
早速特使の一人が、改めてこの場で文書を読み上げたヒノカミに秘匿されていた情報の公開を求める。
「外宇宙への進出」
「「「「「……は?」」」」」
「ナチュラルとコーディネイターの諍いにより停滞した宇宙開発事業を再開する。
探しに行くんじゃよ。エヴィデンス01……宇宙くじらをな」