廃墟となった街の上空に現れた、巨大な太陽。
それは瓦礫の山となった街と、見上げるヒーローたちを照らし、間もなく燃え尽きるように消えていった。
そして何か、黒くて小さい何かが一つ、落下してきた。
『――ア……アァァ……』
「……オール・フォー・ワン……なのか?」
「アレで生きてるって……マジでバケモンですね」
駆け寄って来たヒーローたちが見たのは、小さなクレーターの中でうごめく、黒い燃えカス。
残っているのはおそらく頭部と胴体のみ。手足はない。
しかし表面にひび割れが生じたかと思えば、隙間からぶよぶよした肉の塊が這いずり出てきた。
『イイイィィィィ……!』
それはおそらく腕だったのだろう。先端から黒い爪が伸び、周囲を探るように動き出す。
「再生!?まさかまだ戦うつもりなのか!?」
ナイトアイが警戒の声を上げるが、AFOにそんなつもりはない。
そもそも彼はもう何も見えておらず、何も聞こえていない。
生命維持装置だったマスクすら跡形もなく溶解している。
使えるわずかな個性を総動員して、ようやく生き延びれるか否かというところだろう。
だからAFOは動くべきではなかったのだ。
ヴィランが無抵抗ならばヒーローたちはそれ以上手出しができないのだから。
しかし長い時を生きてもこれほど追い詰められたことがなかったAFOは、ここに来て精神の弱さを露呈させてしまった。
自分が死に瀕しているという現実を否定しようとして、醜く無様に抗ってしまった。
その行動がヒーローに大義名分を与えてしまった。
「……下がれ」
ナイトアイの肩を掴んで引きずり、エンデヴァーが前に出る。
すれ違う瞬間に見えた彼の眼には涙が浮かんでいたが、すぐに体からあふれた炎で蒸発し消え去った。
ゆっくりと歩む彼の右腕に炎が集まり、赤熱していく。
ヒーローたちは無言で彼の背を見つめる。
『……イィィアァァ……!』
「……終わりだ。オール・フォー・ワン」
クレーターの淵に立ったエンデヴァーはうごめくAFOを眼下に捕らえ、右腕を振りかざす。
溢れ出した炎が巨大な腕を形作った。
『……イァアァ……!』
「……バニシングフィストォ!!」
両足から炎を噴出して一瞬で距離を詰め、勢いのまま容赦なく炎の拳を振り下ろす。
クレーターから響く爆発音と、昇る火柱。
炎が消えた後に残っていたのは、砕け散った炭の破片だけだった。
数百年を生き悪の限りを尽くした魔王は、OFAではなく、ただその時代に生まれただけの男に止めを刺されるという呆気ない最期を迎えた。
「……っ」
立ち上がったエンデヴァーは涙をこらえるように天を仰ぐ。
彼はヒーローとして、握りしめた拳を天へと突きあげる。
「「「うぉぉぉぉおおおおおおお!!!」」」
民衆だけでなく、避難誘導をしていた警察やヒーローたちまでもが報道ヘリの中継映像を見て大歓声を上げる。
街の人々が避難している場所は戦場から数km離れているはずだが、それでも戦士たちに音が届くほどの大音量だった。
ナンバー1ヒーローの敗北という悲劇と、それを覆したトップヒーローたちの戦い。
そして悪を滅ぼしたナンバー2ヒーローの雄姿。
これがエンデヴァーの、新たなナンバー1ヒーローの誕生の瞬間だった。
ヴィランとは言え人の命を奪ったとなればヒーローへの批判が噴き出すものだが、今回に限ってはその声は一切上がらなかった。
この戦いでの犠牲者があまりに多く、そしてAFOがあまりに凶悪で、最期の姿があまりにも人間離れしていたからだ。
公安がこの戦いの直後に隠されていたAFOの悪事の数々を公開したことで、擁護する声など欠片も起きなかった。
エンデヴァー自身は殺人の罪で裁かれることも覚悟の上だった。
しかし救出されたオールマイトの負傷があまりに酷く彼がヒーロー活動引退を宣言したため、エンデヴァーまでいなくならないでくれと民衆が必死に声を上げた。
最終的にエンデヴァーも、戦い続けることが償いになるのならとヒーローを続けることを選んだ。
(…見ていろ、舞火)
いつか妹が生まれ変わり自分の前に現れるその日まで、彼は輝き続けると決めた。
エンデヴァーを一目見た瞬間に彼が兄であったのだと、自分が轟舞火だったのだと思い出せるように。
一夜にして多くの人命が奪われた、後に『神野の悪夢』と呼ばれる事件。
一般市民だけでなく、避難や救助に当たった警察やヒーローからも多数の死者が出た。
彼らの死を悼み作られた慰霊碑。
遺体は欠片すら残らなかったが、彼女がいたという事実は刻まれた一文として確かにここに残されている。
殉職者一同
――……
――フレイムヒーロー『ヒノカミ』 轟 舞火
(……ん?)
まるで夢から覚めるように、意識が覚醒する。
目の前がぼやけて見えない。耳も良く聞こえなかったが、意識すると少しずつ会話が聞こえるようになってきた。
違和感のある体を動かしてみる。
酷く小さく、頼りない。
(これは……赤子か?)
一度目は15歳、二度目は4歳に記憶を取り戻したが、三度目はすべてを覚えたまま生まれ変わったらしい。
自分の体が浮き上がる。どうやら抱きかかえられたようだ。
目の前にまで近づいたことで、母親らしい女性の顔がおぼろげに見えてきた。
「はじめまして。あなたの名前は……――」
轟舞火の物語は、これにて完結です。
しかし物語はまだ終わりではありません。
設定紹介を挟んでから続きを投稿します。