ナチュラルとコーディネイターの確執の原因の一つは、ジョージ・グレンが木星圏から持ち帰った地球外生命体が実在する証拠だ。
精巧なレプリカは至るところにいくつもあるが、オリジナルはプラントにある。
ファーストコーディネイターが成し遂げた数々の歴史的偉業、その象徴とも言える存在。それがコーディネイターの優越感と、ナチュラルの劣等感を刺激している。
この件に関して、ヒノカミはどうしても……どうしてもこの世界の人々に言わねばならないことがある。
「そもそもなぁ……宇宙クジラが見つかったなら宇宙行けよ!
なんで内輪揉めに労力割いとるんじゃアホかぁ!!」
「え……えぇ……?」
「いや……そうかもしれないが……」
取り繕っていた素が顔を出し、特使たちは困惑する。
ヒノカミは一つ咳払いをして改めて計画について説明を始める。
「ゴホン……この計画を実行するにあたり、すでに下準備は進めておる。
ジャンク屋ギルドと
前者は必要な資材と作業員、後者は技術者と情報を揃えるためだ。
どちらもヒノカミが支援してきた中立組織であり、今回の計画の詳細を伏せて相談したが、既に色よい返事をもらっている。
そしてこの計画を実行するにあたり、何としても協力してもらわねばならない国が二つある。
オーブとプラントだ。
「プラントはわかるが……我がオーブに何を求めているんだ?」
元々プラントではこの戦争が始まる前は外宇宙進出計画が積極的に進められていた。
そして外宇宙に飛び出すならば、地球から離れた宙域にあるプラントから出発する方がハードルが下がるのは当然。
しかし地球上の国であるオーブが必須である理由はわからない。
技術大国を自負しているがプラントと比較すると圧倒的に優れているわけでもない。
「アメノミハシラがほしいんじゃよ」
「なんだと?」
それはオーブが所有する軍事衛星。
管理者はオーブの軍事を司るサハク家だったが、お家取り潰しにより権利が宙に浮いている状態だ。
ヒノカミはスクリーンに映像を投影する。
この計画の第一段階を現した図だ。
「これは……!?」
「馬鹿な……本気か!?」
「あぁ。至って本気じゃ。
ここアラスカに宇宙エレベーターを建設する。
その宇宙側の港として、オーブの軍事衛星アメノミハシラを提供してもらいたい。
文字通りあの施設を使い地球と宇宙をつなぐ『柱』を作るんじゃよ」
ジャンク屋ギルドでは少し前に海上メガフロートとマスドライバーを建設する計画があった。
その資材を流用させてほしいと話をつけている。
ガンダムは単独で気軽に大気圏の行き来が可能だ。地球軌道上に浮かぶアメノミハシラをアラスカの上空にまで移動させ、ワイヤーで連結。
地上と宇宙の両方から一気に建築を進めていく。
装甲の強度問題はそれこそフェイズシフト装甲を用いれば問題ない。
膨大な電力が必要になるが、今回はUG細胞も解禁するつもりだ。当然、熱エネルギー吸収能力がエレベーターの表面そのものに付与される。
加えて宇宙にあるアメノミハシラに大型の太陽光パネルを設置すれば維持できる計算だ。
そしてヒノカミとガンダムが全力をもって当たればその建設期間は。
「1年じゃ。1年で宇宙エレベーターを完成させる」
「「「1年!?」」」
続いてアメノミハシラからプラントまでの航路を確立する。
出発地点はプラントからだとしても、物資や人員を地球から送る必要があるからだ。
地球での宇宙エレベーター建設と並行でプラントでも宇宙港建設を進めてもらい、目指すは火星。
既に入植している先住民『マーシャン』と協力して火星のテラフォーミングを完遂し、次にジョージ・グレンが向かった木星へ。
ゆくゆくは巨大な居住区間を備える超大型宇宙船団を作り上げ、太陽系の外へと旅立つ。
「「「「「………………」」」」」
荒唐無稽だ。
夢物語だ。
絵空事だ。
しかしその場の誰も彼女の提案を笑い飛ばすことができない。
続けてスクリーンに表示された数々の新技術のデータが、その夢想を現実にするだけの力を持っているからだ。
現在の最新鋭のものとは推力の桁が違うロケットエンジンの設計図。
ヒノカミが各国に設立したエネルギープラントとその発展型の詳細な情報。
重力発生装置と小型人工太陽を組み込んだ大都市一つ収まるサイズの宇宙船と、その複数からなる宇宙船団の構想。
火星及び木星圏の小惑星のテラフォーミング計画書。
「マリュー・ラミアス……技術士官であった君に尋ねたい。
これらの技術は、実現可能なのかね?」
「わかりません閣下。ですが、ただの妄想と断じるにはあまりに真に迫りすぎている……!」
「儂は嘘はつかんというとるじゃろがい。
これらは間違いなく今の『この世界』で実現可能な技術じゃ」
卓を囲む特使たちではなく、部屋の隅で会話していたハルバートンとマリューの会話に地獄耳のヒノカミが反応する。
本当はここまで一気に、そして無理やりに技術を進めるのは好ましくない。
時間をかけて発展していくべきだった世界を大きく乱してしまう。
しかしこの突拍子もない計画に国々の協力を得るためなら『このくらい』の餌はぶら下げないと無理だと判断した。
そう、これはヒノカミにとっては『このくらい』だ。
こことは異なる世界にて、宇宙全域を掌握し管理していたのが彼女だ。
引き出しは無尽蔵。いざとなればワープ装置の解禁すら選択肢に入っている。
「外宇宙進出計画と直接の関係はないが、他にもいくつかの技術を供与するつもりでいる。
一つは『コーディネイターの出生率を向上させる』手法。
時間はかかるが投薬で対処可能じゃ。当人への負担もない」
「まぁ……!」
プラントからの特使であるラクスが喜色を浮かべて反応する。
「そして、カガリ・ユラ・アスハを鍛え上げたトレーニング方法の開示。
ちぃとオカルトの要素を含むし儂が付きっ切りとはいかんので時間はかかる。何よりとんでもなくハードじゃ。
しかしやり遂げればナチュラルであっても、コーディネイターを超える身体能力を手に入れることができる」
「なんだとっ!?」
「カガリ姫がコーディネイターを超えたというのは、貴公の指導があったからなのか!?」
「……姫はやめてほしいのだがな」
「もちろんコーディネイターも同様にトレーニングを受ければ成長するが、習熟速度と成長率はナチュラルの方が圧倒的に上と判明している。
ナチュラルが大器晩成、コーディネイターが早熟。
地獄を見ることになるが極めれば双方の身体能力は逆転する。
すなわち『ナチュラルとコーディネイターの優劣が絶対的ではなくなる』」
「「「!?」」」
ここまでの技術公開だけでも十分に魅力的であったが、続く発言に中立国の特使たちは色めき立つ。
彼らもナチュラルとコーディネイターの平等を謳い尽力してきたが、どうしてもナチュラルはコーディネイターを妬み、コーディネイターはナチュラルを見下す。
だが『コーディネイターはナチュラルよりも優れている』という不動だった前提がひっくり返るとあれば。
「重ねて言うが、トレーニングはとんでもなくハードじゃ。
大半のナチュラルはコーディネイターを超えられんじゃろう。
ただ『努力が才能を凌駕する可能性』を提示するだけ。
しかしそれがどれほどの希望を産むかは、この場の諸兄ならば理解できているはず」
「「「…………」」」
「儂の提案する同盟に参加してくれた国々にはここまでに挙げた技術供与を優先的に行う。宇宙エレベーターの使用権も同様じゃ。
そして成長した国力を持って外宇宙進出計画への協力をお願いする。
念を押すがこちらは強制ではなく要請じゃ。
しかしその過程で得られた未知の資源や利権は計画への貢献度を鑑みて、各国に必ず還元する。以上じゃ」
立て続けに投下される爆弾に、各国がよこした選りすぐりの特使たちもすっかりと憔悴してしまっている。
その疲れ切った頭で彼女の提案を吟味する。
いや、吟味するまでもない。
騒動に巻き込まれることになるし、面倒も制約も増える。
だがそれ以上に見返りが大きすぎる。宇宙エレベーターの利用権だけでお釣りがくる。
計画はとんでもないが努力目標であり、ノルマなどもないという。
ならば何としても参加すべきだ。
特にオーブとプラント以外の国はこの同盟にとって必須ではない。
彼らが参加せずとも同盟は発足される。渋れば除外されるだけ。交渉の余地すらない。
この船に乗ることができなければ世界の流れから置き去りにされることになる。
そして何よりこの計画には、夢と未来がある。
「……この同盟の名は?」
「む?」
ヒノカミへの信頼感からか、たとえ国の氏族たちが難色を示しても力づくで承諾させる腹積もりのカガリがヒノカミに尋ねる。
「あー……いや、実は名前考えておらんのよ」
「はぁ?」
「儂はあくまで呼び掛けて技術を提供するだけで、中心になるのは参加してくれる国々じゃし。
参加者たちで話し合って決めてもらえばと……儂は『センスがない』と言われることも多いしな」
「それもそうだな」
「少しは否定してほしかった……っ」
机に突っ伏して言葉を絞り出すめんどくさいヒノカミを放置し、カガリが話を進める。
内心では既に組織への参加を決めている特使たちが案を出し合い、気付けば隅に控えていたマリューやミゲルたちまで意見を出し始める。
やがて『未知の宇宙への航海に臨む人類の道しるべ』になることを期待して。
この同盟と組織の名は『
そして会合が終わり、特使たちが話を自国に持ち帰るために席を立ったところで、ガンダムのセンサーによるアラートが基地に響く。
連合の大軍勢が、ここアラスカへと接近していた。
原作では『世界平和監視機構』でしたが、本作では『外宇宙進出を目指す同盟』として同じ名前を採用しました。