「……そういうわけで、儂は今からプラントに飛ぶ」
『そうか……我々も同行すべきか?』
「いや、第8艦隊には引き続き月の連合基地の監視を頼みたい。
儂がおらん間にアラスカに降下作戦なんぞされたらえらいことになるでな」
ハルバートンは一度宇宙に戻り、丸ごと連合を離反した第8艦隊を統括している。
第8艦隊は元大西洋連邦所属だが宇宙にいるため地球での汚職に関わっておらず、一方的に汚名を被せられた形になっていた。
おまけに彼らの新たな仲間となるはずだったアークエンジェルを囮に使われ殺されそうになったのだ。上層部への憤りは相当なもの。
加えてマスドライバーを失ったため物資を宇宙に送ることができなくなった連合は、宇宙に残るそれらを月基地の維持に費やし第8艦隊には一切回さなかった。
彼らが生き残るには連合を離れヒノカミの保護下に入り、彼女が手配したジャンク屋から物資を融通してもらうしか道がなかったとも言える。
『しかし流石に一人では……』
「一人でもよかったんじゃが、マリューたちが手を上げてな。
アークエンジェルも同行すると言い出しとる。
確かにあの船ならブースターでも取り付ければ宇宙に上がれるし、彼ら自身が自分の意志で参戦を希望するなら儂に止める資格はない。
ジャスティスとフリーダムを宇宙に戻さねばならんし、戦力としても心強い」
よってプラントに向かう戦力はガンダムと、宇宙にいるというエターナルとアイマン隊、アークエンジェルとストライク。
「……で、全部のはずだったんじゃがなぁ」
『どうした?』
「カガリが行くと言って聞かんのじゃよ」
『なんだと!?』
最初の会合の時もだが、今回も彼女はアラスカにアストレイを持ち込んでいた。
自分もそれに乗ってアークエンジェルと共に戦うと言い出したのだ。
彼女はオーブの次期代表と名高い女傑。中立国として他国の戦争に介入するのは問題なのだが、『ザフトの件は戦争ではなく内乱だ』『バレなければいい』『ヘリオポリスからアラスカまではお前も同じことをしていただろう』と言われてしまえば反論できない。
彼女もすっかり口車が上手くなってしまった。
それを嘆いて見せたら『弟子は師に似るもの』と返された。可愛げのない弟子である。
そしてカガリが行くとなれば、その側近であるキラも同行することになる。
彼自身もこの件を乗り切れば、ナチュラルとコーディネイターがいがみ合う世界が変わる切っ掛けになるだろうと非常に乗り気だ。
だが今のキラには機体がない。
すでにストライクはムウに合わせて調整しており、ようやく彼が扱い慣れてきたところだったのだ。ここで取り上げるのは酷だろう。
かといって先の戦いで連合から鹵獲したストライクダガーに乗せるのは憚られる。『弘法筆を選ばず』とは言うが限度がある。
しかし都合よく、ラクスたちがアラスカに持ち込んだフリーダムのパイロットが未定だと言う。
アイマン隊の面々ではこの機体の性能を発揮しきれなかったらしく、であればキラに託したいとラクスが進言した。
一応はまだザフトのモビルスーツなので後から問題になりそうだが、彼女も『機体をコンパスに預けるのが少し早まるだけ』と譲らない。
ジャスティスのパイロットはアスランで、浮いたイージスにはミゲルが乗り換えたそうだ。
イージスは元々指揮官機として設計された機体。部隊の隊長であるミゲルが駆るに相応しい。
『キラ少年の実力は疑う余地もないが、カガリ姫は大丈夫なのかね?』
「キラがオーブでナチュラル用のOSを作り上げたらしくてな。
アストレイに積まれているものはそれをカガリに最適化しているらしい。
シミュレーターのスコアを見せてもらったが、十分な戦力になり得る」
『だとしても、ご自分の立場を理解してほしいところだがな……』
「それを言うと猶更反発する奴じゃからな。
……できる限り早くケリをつける。それまで地球を頼むぞ」
『任された。武運を祈る』
通信を終えたヒノカミは早速出発の準備を……するのではなく、アラスカ基地の奥の一室へと向かった。
「……だらけきっとるの~~」
「あん?」
「はい?」
「Zzzz……」
扉を開けるとそこには。
乱雑に積んだ本に囲まれて読書を続けるオルガ。
コントローラーを掴んでモニタにかじりつくクロト。
アイマスクとイヤーマフをつけてよだれを垂らして寝ているシャニがいた。
「お主らは別に捕虜でもなんでもないんじゃから、閉じこもる必要はないんじゃぞ?」
「好きにしていいっつったのはアンタだろうが」
「そーそー。変に絡まれたら面倒だしね。
これでもやりたいようにやってるのさ」
「zzz……んぁ、なに?」
シャニのアイマスクをはぎ取って起こし、続けてイヤーマフも取り上げる。
「そろそろ出番じゃぞ」
「「「……」」」
その一言で彼らの纏う空気が変わった。
「儂はしばらくアラスカを離れる。
ガンダムも一緒にじゃ。そうなるとガンダムヘッドは動かせぬ。
デスアーミーもAIの自動操縦になるんで、戦闘力は著しく落ちる」
「へぇ、その隙に攻めてくるって?」
「連合は馬鹿じゃが無能ではない。
ハルバートンの傍に間諜は置いとるじゃろ。
この絶好の機会に必ず動くはずじゃ」
「なるほど、じゃあオレらの出番なワケだ」
「みんな殺していいんでしょ?」
「いいぞ」
残酷なシャニの問いかけに、ヒノカミは一切の迷いなく返答する。
「この基地の人員さえ無事なら他は自由にしていい。
基地の施設を巻き込んでも後で直せばいい。デスアーミーも補充すればいい。
未だ連合にしがみつくゲス共には容赦はいらん。
思うがままになぶり、壊し、殺せ」
「ヒュ~~~……気前いいねよぇ、ご主人サマ」
「……フヒヒッ!」
「ま、悪いがこれほど自由にさせてやれるのは最初で最後じゃろうからの。
今後は機会も少なくなるし敵も小振りになるじゃろう。それを思えばこれくらいはな」
「そーかい。そんじゃ、精々鬱憤晴らさせてもらうとするかぁ」
獰猛な笑みを浮かべて立ち上がり、部屋を出ていく3人の元ブーステッドマン。
彼らはヒノカミの外科手術を受け、コーディネイターを遥かに超える力を手に入れた。
身体能力はヒノカミが鍛え上げたカガリよりもはるかに上。
生物としての強度と寿命も同様で、ヒノカミに次ぐ力を持つ超人……化け物と言えるだろう。
しかしここに至るまでの過程で彼らが失ったものと受けた苦痛はそれに見合うものではない。
多少マシにはなったが歪んだ人格のまま生きていくこともまた苦痛だろう。
寿命が延びたので猶更だ。
「……これで少しは、彼らの気が晴れてくれればいいんじゃがなぁ」
心からそう願い、今度こそヒノカミは出立の準備に取り掛かった。