『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第34話 輝かしい未来

 

『いやはや厳重に隠しておるから何かと思えば、コレとはな。

 D.S.S.Dで資料を見たことはあったが……』

 

あまりに現実離れした光景に、戦場の時が止まる。

巨大なガンダムの上半身に生えた無数の頭部が、動きを止めたすべての機体を鋭く見据えている。

 

『まぁせっかくじゃし、コンパスで有効活用させてもらおう!

 外宇宙進出計画のため、本来の用途でな!』

 

そして天辺の、本来の頭の位置にある頭部が隣接するヤキン・ドゥーエを見下ろす。

 

『いやぁ、これを手に入れられただけでプラントまで足を運んだ甲斐があったというものよ。

 ……ありがとう、パトリック・ザラ。

 ナチュラルとコーディネイターの新しい未来のために、こんな素敵な贈り物を用意してくれてなぁ?げらげらげら!』

 

甲高い悪趣味な嗤い声が、戦場に木霊していた。

 

 

 

 

『……悪魔だ』

 

『いえ鬼ですよ』

 

『どっちもだろ。アイツら鬼と悪魔のコンビじゃねぇか』

 

『デビルガンダムとはよく言ったもんだぜ……』

 

ヤキン・ドゥーエの突入口を守っていた4機のXナンバーもあきれ果てる。

アークエンジェルの艦長は大丈夫だろうか。

妙に責任感の強い彼女が、また胃痛にあえいでいないといいが。

 

どうやら先んじてヒノカミが対処していたあの巨大な物体がクーデター軍の切り札だったらしい。

劣勢に陥っても必死に抵抗を続けていた連中が、明らかに消沈している。

そしてクーデター軍の動きの背景も、およそ理解できた。

連中が議員を人質に取り立てこもっていたのは時間稼ぎ。

しばらく後にパトリック・ザラが強硬手段に踏み切ったのは、あの兵器を動かす準備が整ったからなのだろう。

劣勢に陥ったとしてもあれを使えば一気に逆転できると……使う前に奪われるとは予想していなかっただろうが。

 

『……あ~~、反乱軍の諸君に告ぐ。

 勝敗は決した。無駄な抵抗はやめて、降伏したまえ。

 我らも同胞を撃ちたくはない。これ以上無意味に命を散らせるな』

 

エターナルに乗るバルトフェルドの気の抜けた勧告が響き渡る。

残存兵は少しずつ動きを止め投降する素振りを見せ始めるが。

 

 

『『『!?』』』

 

 

それを、撃った。

正規軍ではない。連中の味方であるはずのクーデター軍の兵がだ。

そして味方を撃った銃をこちらに向けて再び突撃してくる。

 

『そうまでして戦いたいのかよ、馬鹿野郎が!』

 

『各員、武器を下ろさぬ者は躊躇いなく撃て!

 すべての責任はボクが取る!』

 

(すまんが、この巨体は脅しのつもりで急造したハリボテじゃ!

 援護はいらんが、援護はできん!)

 

『っ、了解しました!各機、ガンダムから離れている敵を優先してください!』

 

『ここは僕が守ります!皆さんは行ってください!』

 

『任せたぞ、ニコル!』

 

『イザーク!ディアッカ!これ以上コーディネイターの恥をさらさせるな!』

 

『『了解!!』』

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

切り札をあっさりと奪われ、あざけられ、怒りのあまり硬直していた司令室に轟音が響く。

 

ついにここまでたどり着いたキャプテン・ブラボーに兵士たちは一斉に銃を向けるが、彼女は銃弾を弾いて突進する。

彼女は奥で血を流しているシーゲルに気付いており、人質であろう彼を確保するために立ちはだかる邪魔者をなぎ倒して進む。

ブラボーの狙いに気付いたパトリックは懐から拳銃を取り出し構えた。

その銃口が向かう先はブラボーか、あるいはシーゲルか。

しかし彼が引き金を引く前に。

 

「ぐぅっ!」

 

扉の傍にいたアスランが、パトリックの手の銃だけを正確に撃ち落した。

 

「オレの射撃の腕前は、訓練生時代はずっとトップでした。

 『こんなことが得意でも』と恥じてすらいましたが……今は、よかったと思っています」

 

「アスラン……ッ!」

 

親子の鋭い視線が交錯する。

二人が動きを止めて向かい合う内に、他の兵はブラボーに鎮圧されていた。

しかし彼女はそこで動きを止め、エザリアとシーゲルを背中に庇い二人を見守っている。

 

パトリック・ザラに手出しはしない。

アスランから頼まれたのだ。父と、話をさせてほしいと。

 

 

「父上……オレは、オレや仲間たちは、この戦争を止めるために戦ってきました」

 

「ならばなぜ私の邪魔をする!?

 私は誰よりも、この戦争を止めようとしているのだぞ!?」

 

「敵であるもの全て滅ぼして、ですか?」

 

「そうだ!ナチュラルとそれに迎合する裏切者を全て滅ぼせば、戦争は止まる!」

 

 

 

「戦争を止めて、それからどうするのですか?」

 

 

 

「……どうするか、だと?決まっている。

 我らコーディネイターによる輝かしい未来を築くのだ!」

 

「その『輝かしい未来』とは具体的にどのようなものなのです!?」

 

「具体、的に……?」

 

「やはりだ。父上は皆の望みを……オレたちの願いを理解していなかった」

 

母や同胞を奪ったナチュラルへの恨みを晴らしたかったというのも嘘ではない。

だが仲間たちと共に、仲間を失ってまで戦っていたのは。

指導者ではなく、戦場に立っていた兵士たちが何よりも望んでいたものとは。

 

 

「オレたちが欲しかったのは、『安心して暮らせる明日』だ!

 皆が今日まで戦ってきたのは、戦争を止めた先にその未来があると信じていたからだ!」

 

 

「っ!?だからこそ敵を滅ぼさねば……!」

 

「そのためならと同胞すら手にかける父上の下で、どうして安心が得られると言うのです!

 父上の言う未来に人々の笑顔はあるのですか!?

 笑うことすらできなくなったアナタが、どうやって人々を笑顔にできるのですか!」

 

「ぐっ……」

 

「皆が望んでいるのはささやかな幸せと、家族や仲間と一緒に生きる明日だ!

 敵がいなくなっても仲間たちがいなきゃ意味がないんだ!

 そんな世界が『輝かしい未来』のはずがない!」

 

「黙れぇっ!!」

 

「それでもまだ争いを続けるというなら……仲間たちを撃つというのなら!

 オレがアナタを撃つ!撃たなきゃならないんだ!

 皆がアナタに……撃たれる前に!!」

 

「……っ!?」

 

アスランの瞳は揺れ動きながらも、銃口はまっすぐとパトリック・ザラの額を捉えていた。

あとほんの少しだけ引き金に力を加えれば、撃ち出された弾丸は彼の命を奪うだろう。

 

 

 

「……もういい」

 

 

 

しかしいつの間にかその隣に立っていたカガリが、彼の銃を押さえていた。

 

「だが……!」

 

「こんな奴でも、父親なんだろ?だったらここで結論を急ぐ必要はないさ。

 これから時間をかけて、ちゃんと話し合えばいい」

 

「……そう、だな」

 

アスランは促されて、ゆっくりと銃を下ろした。

パトリックは浴びていた殺気が消えて放心し、応急処置を受けたシーゲルはエザリアの肩を借りてアスランの傍に立つ。

そしてカガリは。

 

 

 

 

「ふんっ!!」

 

 

「ごぼぁっ!?」

 

パトリックのどてっ腹をぶん殴った。

 

「父上ぇっ!?」

 

「何をしておるのだキミは!?」

 

「いや、それはそれとして倒しとかないと駄目だろ」

 

アスランが『話がしたい』というので手出しは待っていた。

だから話が終わってから手を出した。

『敵の話を聞くのはいい。だがそれはぶん殴ってふん縛って身動き取れなくしてから』。

師匠からのありがたい教えである。

 

「とは言え拘束するものは……『リバース』!」

 

カガリは預かっているシルバースキンを反転させ、パトリックの動きを妨げる拘束服へと変えた。

ようやく解放された彼女は露骨に安堵していた。

 

「なっ……キミは、オーブのカガリ・ユラ・アスハ!?」

 

「……人違いだ」

 

「いや無理があるだろう」

 

ヒノカミは今ガンダムの中にいる。

オルガたちは公になっていないので対象外。

他に生身でこれだけ強い人間とあらば消去法で彼女しかいない。

 

「……えぇい、いいからさっさと動くぞ!

 まだ他にも捕まってる奴らがいるんだろう?

 そいつらも救出して、外に伝えねば」

 

「そ、そうだった……案内しよう」

 

「まだそのコートは着ておいた方が良かったのでは?」

 

「ここに来るまでにほとんどの兵は倒した。

 残っていても十数人くらいなら問題ない。

 ……あ、こいつはお前が運べよアスラン」

 

意識を失って力なく浮かぶパトリックをアスランに押し付けて、カガリはさっさと部屋の外へと向かう。

 

「……ナチュラルとは一体なんなのだ?」

 

「それはオレも知りたいです」

 

 

「おい、どうした!?早くいくぞ!」

 

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