『何を……言っている、だと……?』
クルーゼはこの世界の闇を、残酷な真実を、最高のコーディネイターとそれを生み出すことになった男の息子にぶつけたはずだった。
しかし二人の反応は激しい否定でも苦渋の肯定でもなく、ただただ純粋な困惑。
彼らにつられて、クルーゼもまた動きを止めてしまう。
『僕とカガリが双子だってことは、とっくに知ってる』
アークエンジェルから降りてオーブに辿り着いた後、カガリから切り出された。
彼女とキラは姉弟であると。
『僕の生まれが特殊だってことも、とっくに知ってる!』
だから二人揃ってウズミ・ナラ・アスハに尋ねた。
自分たちの出生の秘密を。
すると彼はキラの両親であるヤマト夫妻も呼び寄せて、彼らの知る全てを語ってくれた。
今のカガリたちなら、受け止められると信じて。
そして、全ての真実を知ったキラの抱いた思いは。
『でもそれがなんだって言うんだ!?
なぜ『僕のようになりたい』ということになるんだ!?
僕はどこもみんなと変わらない……弱くて脆い、ただの人間だ!』
『傲慢だな!流石は『最高のコーディネイター』だ!』
「ちげぇよ馬鹿!キラの生まれのことはオレたちももう聞いた!
その上で、オレらは誰も『キラみたいになりてぇ』なんて思ってねぇんだよ!
『たかが』最高のコーディネイターだろ!?」
『たかが……?たかがだとぉっ!?
他者より前へ!他者より先へ!他者より上へ!
それこそが愚かしき人の業!彼の存在そのものが人類の欲望の発露だろうがぁっ!』
「……ははぁ~~ん、そういうことか。
クルーゼ、お前は何も知らないんだな」
『知らない……何をだ!?』
「性格とか頭の出来とか、分野ごとで見ると一概に全部ってわけじゃない。
だが総合的に判断するとだ」
「キラよりも『カガリ嬢ちゃんの方が優れてる』んだよ」
『……なん、だと……?』
『身体能力は比べ物にならないし、勘の良さとか器用さもカガリが上だ!
モビルスーツの操縦でも、カガリ用のOSを用意したらどんどん成長して追いつかれ始めてる!
同じアストレイを使ってのシミュレーション対戦なら、今なら10回やれば4回はカガリが勝つ!』
「今この世界で『最も優れた人間』は、『ナチュラルのお姫様』なのさ。
だから誰もが憧れるとしたら『才能を与えられて生まれたキラ・ヤマト』じゃない。
『努力で才能を覆したカガリ・ユラ・アスハ』なんだよ!!」
『…………!?』
ナチュラルでありながら、コーディネイターを超えた人間。
おまけにオーブという地球でも有数の強国の姫君。
プラントに住む者たちが想像している以上に、当人が考えている以上に、地球でのカガリの人気は絶大なのだ。
カガリの力は生まれ持った才能によるものではない。
血のにじむような……いや、血反吐を吐くような……いや、実際に血反吐を吐いていたか。
とにかく彼女自身の努力によって後天的に手に入れたものだ。
対してキラは、生まれながらに高い能力を持っていたのは間違いないだろう。
だが普通の人間として穏やかに暮らしていた彼は、カガリほどの努力をしておらず苦難の経験もない。
結果、異なる道を歩んだ双子のナチュラルとコーディネイターの優劣は逆転している。
『仮に僕がカガリより優れていたとしても、それで何が変わるって言うんだ』
そして生まれ方が特殊である件についても、彼は特に気にしていなかった。
キラだけでなくカガリも、彼の仲間たちもだ。
何故ならそれ以上に特殊……いや、特級のイリーガルを彼らは知っているから。
『最高の人間』の遥か上に君臨する『最強最悪の人外』を。
『銃弾を生身で弾くなんてできないし!
生身で宇宙遊泳なんてできないし!
食事や休息をとらないとすぐに動けなくなるし!
年を重ねれば衰えていくし寿命だってある!
生身でモビルスーツを倒すなんてできるわけないじゃないか!』
『キミこそ何を言っている!?』
「いるんだよクルーゼ!
ナチュラルとかコーディネイターとかクローンとか、そんなんどうでもよくなるとびっきりが!
つーか人間同士でいがみ合ってる余裕なんざねぇよ!
全員がかりで抑え込まないと止められねぇんだよ姐さんは!!」
ヒノカミはその正体を明かしてから、己の力を過剰にひけらかし始めた。
アラスカの一件が起きてから更に顕著になった。
自分がいかに化け物であるかを知らしめるかのように。
アークエンジェルの中でも付き合いが深く、個人的に友好関係を築いてきたムウは真っ先に気付いた。
彼女は意図的に周囲の人々の恐怖や嫉妬を煽り、悪意を全て自分に集めようとしているのだ。
ナチュラルとコーディネイターが互いに敵意を向け合わないように、彼女は自身を『共通の脅威』にしようとしている。
人前では騒いでばかりで周囲をかき乱す彼女だが、一人でいるときはいつも静かに煙草を燻らせていた。
それが彼女なりの傷心を癒やすための行為だと気づいたとき、ムウは無性に申し訳なくなった。
本当は嫌なんだ。人々に化け物と呼ばれることが。
本当は辛いんだ。人々に怯え避けられることが。
だからこそ無力な己が、彼女一人に重責を押し付ける世界が、そしてそのように世界を煽動してきたというクルーゼに対して腹が立って仕方がない。
「くだらねぇ思い込みと八つ当たりで人様に迷惑ばっかかけやがって!
女々しいんだよこの腑抜け野郎が!」
『アナタもたくさん傷ついたのかもしれない!絶望したのかもしれない!
だけど、ようやくナチュラルとコーディネイターが手を取り合って新しい未来を目指そうとしているんだ!
だからアナタの無理心中に、僕や皆を巻き込むのはやめてくれ!!』
『…………がぁぁぁーーーーーーーーっ!!!!!!』
怒りのあまり言葉すら失ったクルーゼが、ドラグーンを走らせ周囲をめちゃくちゃに攻撃する。
「ぐぅっ!?」
『ムウさん!?』
咄嗟にフリーダムとストライクは距離を取ったが、性能の劣るストライクが回避し損ねた。
手に持っていたライフルと左足が貫かれ爆散する。
『ふはは……ハハハハハハハ!!!』
「……!?やべぇ!」
『!?撤退してください!!』
おまけにこのタイミングで、ついに完全にエネルギー切れ。
フェイズシフトダウンにより機体から色が抜け灰色に変化。
フリーダムがプロヴィデンスに突撃し、ストライクへの注意を逸らそうとする。
幸いにも錯乱しているクルーゼはこの好機に気付いていない。
静かに立ち去れば、ストライクはこの戦場から離脱できるだろう。
だがムウ自身が、ここでリタイヤするという事実を受け入れられない。
「くそっ、こんなところで止まれるか!
アイツはオレが、ここで止めなきゃならねぇんだ!!」
とはいえどれだけ意気込んでも戦えないのではどうしようもない。
間もなく完全に機体が停止し、そうなるとアークエンジェルに帰還することすらできなくなってしまう。
『ストライク!無事ですか!?』
「っ!?いいところに!ドンピシャだぜ!!」
そこにアークエンジェルが駆け付ける。
プロヴィデンスのいるこの宙域以外はすでにあらかた片付いているようだ。
『すぐに着艦してください!整備班、ストライクの回収準備を!』
「いや、ストライカーを射出してくれ!!」
『なっ!?その損傷でまだ戦うつもりですか!?』
「あぁそうだ!……頼む!クルーゼだけは、オレが!」
『……わかりました』
ムウとクルーゼの長い因縁を知るマリューは、いつも軽薄な彼の気迫に押され了承する。
『整備班、指示を撤回します!ストライカーの射出準備を!
……エールの予備機ですか!?ソード、ランチャー!?』
「そのどれでもねぇ!『アレ』を頼む!!」
『!?ですがアレは、アナタでも扱いきれなかった……!』
「ここで物にしてやるさ!
なんたってオレは、『不可能を可能にする男』だからな!!」
『……あぁもうっ!』
『……『戦国ストライカー』の射出を!!』
アークエンジェルのハッチが開き、巨大な鬼の仮面が打ち出される。
ストライクはエールストライカーを切り離し、飛び込んできた新たなストライカーとドッキングした。
ストライク本体に色が戻り、背中の鬼の仮面の瞳に光が灯る。
両脇の装甲が展開してサブアームとなり、刀を抜く。
そして左腕に持っていたシールドを投げ捨て、腰に格納していたアーマーシュナイダーを両手で掴み、4つの刃を構えた。
「使ってみせるさ……『戦国ストライク』!行くぜ!!」
背中の鬼の瞳と口から放出された熱が、機体を急加速させる。
「ぐっ……うぅっ……うぉぉぉぉーーーっ!!」
ストライクは再び、プロヴィデンスとフリーダムの激突する戦場へと飛び込んでいった。
・戦国ストライカー
戦国アストレイから取り外した武装と装甲を組み合わせ、ヒノカミがストライカーパックの形に組み上げたもの。
勝手にフェイズシフト装甲の技術を奪ってしまったという負い目から、連合を離脱したアークエンジェルへと彼女が自主的に提供してきた。
熱吸収能力と、精密動作が可能なサブアーム、刀型の実体剣からなる。
『背中に装備する』というストライカーパックの構造上、大出力のスラスターが背面に集中してしまい加速力と最高速度が殺人的に高く機動性が絶望的に劣悪。
この機体をモビルスーツとしてまともに操縦するには、人間離れした反応速度と頑強な肉体が必須。