『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第37話 馬鹿野郎

 

「キラどけぇ!」

 

『うわぁっ!?ムウさん!?』

 

「悪い!軌道ミスった!」

 

必死にドラグーンを避けながら反撃を狙っていたフリーダムのいた場所を、猛スピードのストライクが通過する。

途中でビーム攻撃がいくつも機体に直撃したが、鬼の仮面が発するフィールドが全てを吸収していた。

エネルギーゲインが回復していたことから間違いない。

 

プロヴィデンスの主武装は全てビーム兵器だ。

ビーム攻撃を全て無効化する戦国ストライカーがどれほど有利であるかは言うまでもない。だが。

 

「くそっ、この、じゃじゃ馬が!」

 

元はヒノカミが使うことを前提としていた装備だ。

特にスラスターの出力が彼女の操縦技術と、反応速度と、頑強さを要求してくる。

もちろん出力の調整はできるが、操作系統はストライク本体に依存しているので他のストライカーとの挙動の差が激しすぎる。

ミニマムとマックスの幅がとんでもなく大きいので、ペダルを少し踏み込むだけでエールストライクでのフルスロットル以上に急加速してしまうのだ。

もしエールストライカーと同じ勢いでべた踏みすると、比喩表現ではなく命はない。

こんな有様ではモビルスーツ戦なんて不可能だ。なのに。

 

「なんで姐さんは『オレなら使える』なんて言ったんだよ!?」

 

彼女は嘘は言わない。だがどう考えても無理だ。

シミュレーションではキラやカガリでさえも満足に動かせなかったというのに、なぜ凡愚のナチュラルである自分が扱えると言うのか。

 

おまけに先ほど左足を破壊されてしまったので、右足のスラスターを使うとバランスが崩れて錐揉み回転してしまう。

必然的に背中のスラスターしか使うことができず、機体を止めるどころか、機体の方向転換も満足にできない。

今もフリーダムとプロヴィデンスのところに戻るために、大きく弧を描くような軌道で移動せねばならず。

 

 

「ぐぐっ…………ん?」

 

 

だがそこでムウは気づく。

体にかかるG。視界を高速で横切る星々の光。

少し前まで戦場で何度も感じていた、慣れ親しんだ感覚。

 

「まさか……っ」

 

機体後部に集中したスラスター。

モビルスーツを遥かに超える加速度と、利かない小回り。

機体全体での方向転換。

 

 

「……そういう、ことかよっ!!」

 

 

なるほど、確かにこれを『モビルスーツ』として操るのはキラやカガリでも不可能だ。

だが『モビルアーマー』に近い形で運用するなら、キラやカガリには無理でもムウにならできる。

彼はメビウスゼロを操る元連合のエースパイロット『エンデュミオンの鷹』なのだから。

 

 

「うおぉぉぉーーーーっ!!」

 

『『!?』』

 

 

このストライカーに射撃武装はなく、手持ちのライフルも先ほど破壊されたままだ。

だがこんな速度ではどうせ狙いをつけて撃つなんてできるはずがないから問題ない。

両脇のサブアームはしっかりと刀を握っているがうまく振り回すモーションデータなんてものもない。

まして相手もフェイズシフト装甲。

乱暴な太刀筋でたたきつけたところで大したダメージを与えられない。

 

だからストライクは刀の切っ先を前へと向けて、プロヴィデンスに力の限り体当たりした。

 

『ぐがぁっ!?ムウ・ラ・フラガぁっ!!』

 

「さぁクルーゼ!ドライブにでもしゃれこもうか!!」

 

刀は装甲を貫き切れずへし折れるが、大きな衝撃を受けたプロヴィデンスの姿勢が崩れた。

刀の残骸を手放したサブアームはプロヴィデンスの両腕を掴み、そのまま猛スピードで遠くへかっとんでいった。

置いてけぼりになったドラグーンは自動操縦でプロヴィデンスの下へ向かおうとするが追いつけず、おまけに明らかに動きが鈍い。

 

「今だキラ!」

 

『っ!?ハイ!』

 

この隙を逃さず、フリーダムが一斉掃射でドラグーンを全て破壊する。

その間に、ストライクはプロヴィデンスを連れその場を更に遠ざかっていく。

 

 

『ぐぅっ、このぉ!』

 

「させ、るかぁっ!!」

 

プロヴィデンスは自由になる足でストライクを蹴り飛ばそうとしたが、ストライクは本体の両腕が持っていたアーマーシュナイダーを膝関節部に突き刺した。

これだけ密着していれば、装甲の隙間を縫うのも容易だった。

半ば切断された脚部フレームが高速移動で振り回されて暴れ、やがて両脚が千切れ飛んで後方へとすっ飛んでいく。

 

これでプロヴィデンスはストライクを引きはがす手段を失った。

 

「我慢比べだ、クルーゼ!

 どっちが先にへばるかのな!」

 

『ぐぉぉぉおおおっ!?』

 

ムウは己が耐えられる限界までスラスターの出力を上げ、ストライクに残るエネルギー全てを使い切るまで無茶苦茶な軌道で戦場を飛び回る。

プロヴィデンスを盾にする形で軌道上にあったデブリに何度も突っ込む。

フェイズシフト装甲を持つ機体が破壊されることはないが、衝撃は確かにパイロットを激しく揺さぶる。

 

『ぐ……が、が……!』

「う、ぎ、いぃぃいいいっ!!」

 

やがてフェイズシフトダウンによりストライクの色が灰色になり、それでも残るエネルギーを推力へと回す。

 

「『ぐぁぁっ!』」

 

そしてもつれ合った二機は何かに激突しめり込んだところで止まった。

ストライクはすべてのエネルギーを使い果たしていた。

対して核動力のプロヴィデンスは未だに十分な量のエネルギーを内包している。

だがドラグーンを全て失い、携行武装も取り落とし、両足も抉られた。本体に残る武装は左腕部と一体化した武装内臓シールドと頭部と胸部のバルカンのみ。

フェイズシフトダウンした今のストライクならばバルカンでも容易に破壊できるかもしれないが、クルーゼは今までの無茶な機動で体にかかった負荷と、薬が切れたことによる禁断症状に苦しんでおり、とても戦える状況ではなかった。

 

 

『はぁ~~~~っ、はぁ~~~~っ、はぁーーーーっ!』

 

 

それでも残されたわずかな力でレバーを握り、頭部を胸元のストライクへと向ける。

 

「……なぁ姐さん。クローンの寿命も、姐さんなら何とかできるよな?」

 

『無論じゃ』

 

『!?』

 

気付けば二機のすぐそばには、巨大なジェネシスの曲面があった。

彼らが激突したのはジェネシス先端のミラーだった。

 

『外科手術や投薬で弄り回されたブーステッドマンすら調整した儂じゃぞ?

 クローンだかなんだか知らんが、50年でも100年でも容易いわい』

 

「さっすがぁ……聞いての通りだ」

 

『はぁっ、はぁっ、はぁっ!』

 

「生きろ、クルーゼ!そんでもう一度、今度は色眼鏡をつけずに世界を見てこい!

 それでもお前がまだ世界を許せないってんならそれでもいい!

 そんときゃ、もう一回力ずくで止めてやる!オレたちがな!」

 

 

『はっ、はっ、…………はは、ははははっ!』

 

 

既にクーデター軍は全滅したようで、アークエンジェルやエターナル、多くのモビルスーツがこちらへ近づいてくる。

そしてクルーゼは、彼らの目の前で。

 

 

 

 

 

『ア~~ッハッハッハッハッハッハッハ!!!』

 

 

 

 

 

プロヴィデンスを核爆発させた。

 

 

 

 

『『『『『!?』』』』』

 

『ムウっ!!!』

 

『くそぉっ!!』

 

彼は目の前にあった、ヒノカミの手に渡ったジェネシスを道連れにしようとしたのだ。

この世界を滅ぼす引き金ではなく新たな未来を切り開く希望になったと言うのならクルーゼにとっては許せない存在だ。

だがジェネシスは熱エネルギー吸収能力を持つガンダムが同化している。

アラスカの時と同じくこの巨大な胴体はハリボテだが、熱吸収能力を付与したガンダムヘッドを新たに生やして覆い、すぐに爆発と熱を吸収する。

よってジェネシスのミラーは消し飛んでも本体は無傷。

だが爆心地にいたストライクが無事で済むはずがない。

 

 

『……クルーゼ……隊長……!』

 

『……ムウ、さん』

 

『あ……あ、あぁぁっ……!』

 

 

 

 

「…………へへっ、やっぱオレって、不可能を可能に……!」」

 

 

 

『『『『『!!』』』』』

 

ゆっくりとガンダムヘッドの繭がほどけると、中には胴体と背中の仮面だけのストライクが浮かんでいた。

 

エネルギーを使い果たした戦国ストライカーは、急いで外部から補充するため自動で熱エネルギー吸収モードが起動する仕組みになっていた。

核爆発による熱を吸い取って機体の急激な温度上昇を妨害しつつ、フェイズシフト装甲を展開するエネルギーに変換。

フェイズシフト装甲は大気圏突入を耐えた実績もある。

鬼の仮面の熱エネルギー吸収フィールドも同様だ。

この組み合わせで、かろうじて核爆発による膨大な熱と衝撃を乗り切ることに成功した。

 

『肝が冷えたぞ、ムウよ』

 

「あんがとよ、姐さん。もう少しで蒸し焼きになるところだったぜ。

 ナチュラルのオレには堪える……って、これからは『ナチュラル』がどうとかは言い訳になっちまうか。ハハ……」

 

『よかった……本当に……』

 

やがて機体内部の熱も鬼の仮面に吸収されコクピットの中は常温に戻る。

 

「…………」

 

ストライクの頭部は破壊され、メインカメラはすでにない。

胴体のサブカメラでかろうじて外の様子を確認するが、爆心地にはわずかな残骸以外は何も残っていなかった。

 

 

「……馬鹿野郎が」

 

 

仲間たちの安堵と歓声は、ムウには届いていなかった。

そしてムウのつぶやきも仲間たちには届いていなかった。

 

 

主導者であったパトリック・ザラの捕縛と、抵抗するクーデター兵全員の処分を以て、プラントで初めて勃発したコーディネイター同士の争いは終結した。

 

だが断言しよう。この戦いは、必要のないものだった。

敵としていた者たちと共に歩めるか。差し出された手を掴めるか。

たったそれだけの理由で起きた争いが多くの命を無意味に奪った。

 

人々の胸に苦い後悔を残して、世界はまた明日を迎える。

 




最後まで悩みましたが、クルーゼは差し伸べた手を取らないだろうと考えました。
次回、本章完結です。
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