『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第38話 『羅針盤』

 

クーデターを引き起こしたパトリック・ザラが投獄され、騒動が一応の収束を迎えた頃。

改めてプラント議長選挙が行われ、下馬評通りシーゲル・クラインが再任となった。

 

そして彼は真っ先にコンパスへの参加の同意書に正式に署名した。

 

クーデターでザフトが受けた傷は決して小さくはなく、プラントの潜在的な敵対組織は連合だけとも限らないため、一刻も早い同盟軍の庇護を必要としたからだ。

クーデター直前に参加がほぼ確定していたこともあり、他の議員たちからの反対も出なかった。

援軍を求めてラクスが独断で用意した書類は無効で良いと伝えたのだが、彼女らやフリーダムの処遇をコンパスに委ねる件は先んじて適用されていたことにしたらしい。

でなければ確かに、勝手にこちらで機体を運用したことが大きな問題になってしまう。

『そこまで恥知らずではいられない』とシーゲルも譲らなかった。

 

そしてオーブも一度取り下げた同意書を再提出したことで正式にコンパスが発足。

他の国々も次々と参加を表明し、新たな国際組織が結成されたと公表された。

 

当然、反発もそれなりにあった。

 

ブルーコスモスが謳う『コーディネイター排斥』は連合が掲げた言葉ではなく、地球で暮らす一般市民にも普及している思想の一つ。

連合寄りと見なされヒノカミからの支援を受けられず、ザフトの占領下にあったりNジャマーの影響で困窮していた国々も多い。

だというのに地球の中で比較的裕福な中立国たちが、自国を差し置いてプラントと蜜月関係を結ぶことを認めたくないのは当たり前だろう。

 

だが反発したところで彼らにはどうすることもできなかった。

 

アラスカの二度目の敗戦で、地球連合は完全に瓦解。

支持団体であったブルーコスモスとロゴスの主だったメンバーも全員が拘束あるいは処刑されている。

その相手はほぼガンダム一機。そこに中立国の軍まで参加しては戦いを挑んでも勝ち目などあるはずがない。

そして重ねて言うが、彼ら中立国はヒノカミの手厚い支援により裕福だ。

連合陣営に立って戦争を続け疲弊した国々がどんな経済的報復を仕掛けてもしっぺ返しを食らうだけ。

よって彼らにできるのは指をくわえて見ているか、方針を転換してコンパスへの参加を目指すかだ。

しかしコンパスは、しばらくは今のメンバーで進めていくと宣言した。

ここで簡単に掌を返すような国は信用できない。

コンパスにはプラントが参加しており、そちらとの余計な確執を招く可能性も高いだろうから。

 

 

早速アラスカでは宇宙エレベーターの建設が始まった。

UG細胞を駆使するガンダムが中核となり、各国技術者とジャンク屋とD.S.S.Dが総力を挙げて取り組んだ。

日を追うごとに目に見えて伸びていく巨大な建造物に、半信半疑だった人々もようやく彼らが本気なのだと、この世界中の力を合わせて一大事業を成し遂げようとしているのだと実感した。

 

同時進行で、プラントでも宇宙港の建設が進んでいる。

宇宙エレベーターはオーブのアメノミハシラを流用する予定だが、こちらはヤキン・ドゥーエとジェネシスを流用することになった。

ヤキン・ドゥーエはプラントの最終防衛ラインだが、『クーデター軍に利用された』という汚点が残っている施設を継続して使用するのは憚られたからだ。

おまけに『キャプテン・ブラボーとかいうふざけた奴に単独で突破された』なんて逸話もあるのだから猶更だ。

 

そして数か月後、それぞれの計画の進捗を報告するためにアラスカで会合を行った際に、ヒノカミはプラントとの約束を果たすことにした。

以前の会合で口にした『コーディネイターの出生率低下への対処法』を論文にまとめ、コンパス参加国の大使たちが集まる場で発表したのだ。

 

そもそもなぜコーディネイター同士では子供ができづらいかと言えば、理由は至極単純。

コーディネイターは遺伝子操作された人間。近年では更にコーディネイトも激しくなっている。

結果として彼らの遺伝子構造は『平均的な人間』から大きく逸脱してしまっている。

酷い場合だと、男女の遺伝子構造が別の種族と言えるほど差があることも。

それではどれだけ行為を重ねても妊娠するのはほぼ不可能だろう。

 

それに対してヒノカミの提示した解決法も、また至極単純なものだった。

『一時的に男女が生成する精子と卵子が適合しやすくすればいい』。

双方の遺伝子構造を調べて中間を算出しそこに近づければ、受精確率が上がる。それだけのことだった。

 

もちろんこんな単純な方法などプラントでも当然議論されている。だが技術的に不可能だった。

男女の遺伝子構造を解析してその組み合わせで妊娠する確率を算出する段階までならプラントでもすでに到達している。

男女二人の中間となる遺伝子構造の算出も問題なくできるだろう。

だがどうやって双方の精子と卵子をその状態にまで持っていく?

コーディネイトを行う対象は受精卵だ。

その前段階である精子と卵子は文字通り無数。一つ二つを取り出し遺伝子操作したところでそれらが運よく受精する確率などゼロに等しい。

 

それをヒノカミは投薬、しかも飲用の物で済む段階まで進めていた。

男女それぞれの血液を少量投入するだけで薬の成分分析表を自動計算する機械を作り出していたのだ。

後はその通りの薬を作ってしばらく飲み続けるだけで、男女の生成する精子と卵子の遺伝子構造が変化し受精確率が大幅に向上するという仕掛けである。

もちろん、当人たちへの負担や障害などは一切なく。

 

参加したプラントの技術者たちならば発表内容がでまかせではないことくらいわかってしまう。

自分たちが壁を前にして『無理だ』と判断し引き返した道を、この化け物は力技で突破してしまったのだ。

コーディネイターの未来に光明は見えたが、彼らは沈痛な表情で一様に目を覆っている。

特に、遺伝子工学の権威だという長髪の男性は頭を抱えていた。

同席していた地球の中立国の技術者たちもいたたまれないものを見る目を向けていた。

 

 

 

だが『ここで終わっていればまだマシだった』という事実を彼らは思い知ることになる。

 

 

 

「……と言うわけで、この資料を見ての通り。

 中立国やザフトが占領していた地域でのコーディネイター男性の風俗利用率はナチュラルに比べ圧倒的に少ない。

 また従業員への聞き取り調査によりその行為の密度も『非常に薄かった』『物足りない』などの証言が得られており……」

 

 

 

「「「「「……………………」」」」」

 

 

 

「よってこの薬にさらに、思わずムラムラしちゃう成分を含む場合の装置も現在考案中で……」

 

 

 

「ザブナック!ブエル!アンドラス!

 あの馬鹿を引きずりおろせ!!」

 

「「「へぇ~~~い」」」

 

アラスカ基地における上官となったナタルが、アラスカ基地防衛隊である3人の部下に命じて壇上のヒノカミを強引に退出させる。

ヒノカミが全力で抵抗すれば押しのけられただろうが、大勢が集まる会議室で化け物4人が暴れたら二次災害は避けられないため大人しくドナドナされていった。

 

 

しかしまだ問題は残っている。ヒノカミが発表した論文には、協力者と共同研究者の名前があったのだ。

 

 

『オーブの獅子』ウズミ・ナラ・アスハ。

『砂漠の虎』アンドリュー・バルトフェルド。

『エンデュミオンの鷹』ムウ・ラ・フラガ。

 

 

「お父さま……」

 

「笑うがいいカガリよ。愚かな道化に落ちた父を……」

 

「笑えませんよ。むしろ泣きそうです」

 

その場に同席していたウズミはカガリに、バルトフェルドはアイシャに、ムウはマリューにきつく絞られていた。

ウズミとバルトフェルドの名誉のために言うのならば、彼らはコーディネイターの未来のために必要だと言われて調査の許可を出しただけだ。

何を調べていたのかを知ったのは全て終わった後。責めるのは酷というものだろう。

ムウは全部知ってたが。

だから彼だけは『協力者』ではなく『共同研究者』なのである。

 

 

 

そしてコンパスの発足から1年後。

ヒノカミの宣言通り、アラスカに宇宙エレベーターが建造された。

プラント宇宙港の建設もかなり進んでおり、いよいよ火星に向かう宇宙船の方に着手したところで、なんとその火星から『マーシャン』の使者が訪ねてきたのだ。

コンパスは彼らを丁重に迎え入れ、現在地球圏で進んでいる計画を説明し、彼らに助力を求めた。

火星は未だにテラフォーミングが進んでおらず、非常に過酷な環境である。

そこに住まう人々は己の心を殺し、与えられた役割に徹しなければ成り立たないほど。

それは彼らにとっての当たり前であり使者の代表の青年は『役割から解放されたい』とは思っていなかったが、選択肢が広がることは歓迎すべきであり、火星のテラフォーミングが進むことは悲願でもある。コンパスの提案を快く受け入れた。

 

 

コズミック・イラ75年。

ついに移動用コロニーともいえる大型居住区と、それをけん引する大型宇宙船が完成した。

その艦長は大戦にて活躍し、多くのナチュラルとコーディネイターを救った女傑。

クルーとして彼女を支えるのは、共に戦場を駆け抜けてきたアークエンジェルのクルーたちと成長したヘリオポリスの元少年少女たち。

そして居住区にはプラントやオーブや地球各国の技術者とその家族が乗り込んでいた。

 

『それでは閣下、行ってまいります』

 

「うむ。頼んだぞ、マリュー艦長」

 

「ナタル、ムウ。お主らも気負わぬようにな」

 

『ハッ!』

『わかってるって』

 

ハルバートンとヒノカミの言葉に、モニターの向こうのクルーたちが顔を引き締める。

これより彼らは先遣隊として、マーシャンの使者と共に火星へと向かう。

以降も順次物資と人員を送り、まずは火星のテラフォーミングを成し遂げるのだ。

流石に数年とはいかず、長い長い戦いになるだろう。

だが彼らは確かに、未来への大きな一歩を踏み出す。

 

 

「シークエンス、開始します!

 …………3……2……1……!」

 

 

 

「ジェネシス、発射!!」

 

 

 

光の風を帆に受けて、船は大海原へと漕ぎ出していく。

ナチュラルとコーディネイター……いや、人々の夢と希望と、明日を乗せて。

 




『コズミック・イラ』、これにて完結となります。

ある程度余裕を持って進めていたはずが、後半になるにつれ私生活が多忙になり、貯めていたストックがみるみる減って、この最終話は投稿前日に仕上げたという有様です。
感想への返答も後回しにさせてもらいました。この場を借りてお詫び申し上げます。

今までは超人バトル作品ばかり扱っていますが、作者としてはロボも大好きです。
スパロボもがっつりやってます。最近の作品ではVが特に面白かった。
そしてこの章の一話のあとがきで書きましたが、『色んな世界をめぐって成長する話』をロボものでもやりたかったという欲がありまして。
しかし別作品にするとそっちの設定考えるのが大変だしこちらがおざなりになりそうなので、もうまとめることにしました。
ヒノカミクラスの化け物でないと救えないキャラも多いので。

ガンダム作品の中でも、特に登場人物たちの人間性に問題がありハードな世界であるガンダムSEED。
作者も好きではあるんですが、物語を考えるのがかなり大変でした。
禁を破って『もうヒノカミ一人で全部蹂躙させちゃおうか』とか妥協しそうになったほどです。
既に十分暴れていたように見えますが、これでも自重させた結果です。

そして本作もふがいない大人のせいで少年少女が苦労する話だったので、いつも通り彼らの負担を押さえつつ大人たちに活躍してもらう作品を目指しました。
味方陣営に引き込めそうな大人キャラは一人残らず引き込まねばならず、それでも手が足りないと、カガリを成長させて大人側に寄せる形で対処しました。
本作の彼女は、がっつりお姉ちゃんキャラです。

アズラエルとクルーゼは和解する余地もあったんですが、前者はヒノカミの性格上受け入れられず、後者は差し伸べられた手を掴むイメージがわきませんでした。
作者は好き勝手原作を引っ掻き回していますが、原作の設定とキャラたちの性格には可能な限り気を使っているつもりです。
そのうえで、彼らとの和解は不可能だと判断しました。ご了承ください。

そして次の話ですが、流石にしばらく間を置く必要があります。
現状の作者の状況では執筆の余裕がなく早めに初めてもすぐに止めることになりそうだからです。
再開目標は5月中旬としますが、遅れる可能性も高いです。
期待せずにお待ちください。
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