『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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最近はリクエストも増えてきていて嬉しい悲鳴なのですが、『原作既読推奨』という本作の性質上、知名度の高い作品を優先して考えています。
古い名作とか、比較的最近話題になった作品とか。
今回は前者になります。


外伝7 天空の城
第1話 空を目指す少年


 

かつての栄光も今は昔。

金や銀どころか錫すら満足に取れない寂れた鉱山で働く見習い機械工の少年は、今日も仕事がないからと日も沈み切らぬ内に帰路に就く。

 

代り映えのない、一日を生きるだけで精一杯の毎日。

しかしその日は明らかな変化があった。

 

町はずれの高台に建つ掘っ立て小屋のような我が家の扉の前に、誰かが立っている。

 

「……?」

 

少年は視力には自信があり、遠くからでもその後ろ姿が良く見えていた。

このあたりでは見たことのない真っ赤な服を着ている。

自分たちの物とは構造からまるで違うので、異国の服だろうか。

 

「……ぬ?少年、お主はこの家の者か?」

 

足音でも聞こえたのだろうか。

こちらが気付いて少しすると件の人物が振り向き、近付きながら声をかけてきた。

男……いや、女?妙に小柄だ。自分と同い年くらいだろうか。

 

「そうだけど、僕に何か用?」

 

「いや、お主にではなく……」

 

 

 

「『ーーーー』殿にお会いしたいのじゃが、ご不在かの?」

 

「っ!」

 

 

彼女の口から出たのは以前まで一緒に暮らしていた少年の父の名前だった。

 

 

「……父さんはしばらく前に死んじゃったよ」

 

「っ、そうか……お悔やみ申し上げる」

 

その事実を知らなかったらしい少女は深々と頭を下げる。

 

「君は父さんの知り合いなの?」

 

「知り合いではないんじゃが……」

 

顔を上げた少女はその場にかがみ、足元に置いた袋から何かを取り出す。

 

「この本に書かれていることについて伺いたくてな」

 

「!?それは、父さんが書いた……!」

 

高名な冒険家だった父が書いた、最期の冒険記。

彼女はペラペラとページをめくるとそこに描かれた絵の一つを指さして続ける。

 

「儂も個人的に『コレ』を調べておっての。

 直接その眼で見たという彼に、是非とも話を聞かせてもらいたかったんじゃ」

 

「……調べ、てる!?本当なの!?君は本当にあると信じてるの!?」

 

彼女が指していたのは父が描いた、空に浮いている島の想像図。

 

飛行船に乗った父は天空の嵐の中で、伝説と言われていた巨大な城を見つけた。

その時に撮った写真もある。

だが誰も父を信じず、彼はついに詐欺師扱いされたまま死んでしまった。

だと言うのに目の前の少女は。

 

 

 

「儂は嘘はつかん。『ラピュタ』はある」

 

 

 

そう断言した少女は続けて袋から別の本……彼女の記録書を取り出す。

 

「それは?」

 

「其方の父君と話す際に見せようと思ってまとめてきた、儂が集めたラピュタに関する資料じゃ」

 

本には彼女が実際に各地を巡って集めたラピュタを示唆する伝承や、遺跡や壁画の写しがまとめられていた。

しかもこの国だけでなく、隣国や遠方の国のものまで。

 

「こんなにたくさん……あ、でもガリバー旅行記の記述は……」

 

「ただの空想、じゃろ?

 しかしだとしても名前やら天空の城であることやらが偶然一致するとは考えにくい。

 であればスウィフトもまたどこかでラピュタの情報の断片を掴んでいたとは思わんか?」

 

「あ!」

 

「これと、これと、この情報は彼の足取りを追う内に見つけたものじゃ。

 良いか?時代も国境も超えて世界中にこれほどの痕跡があるんじゃぞ?

 であれば感情論で『ありえない』『存在しない』と決めつけるのは道理が通らぬ。

 むしろそのように断言する連中の方こそ根拠を示すべきよ」

 

「……そうか!誰も『ラピュタは存在しない』なんて証明できてないじゃないか!」

 

目を輝かせた少年が天啓を得たように叫ぶ。

『存在しないことを証明する』とは『悪魔の証明』とも呼ばれており事実上実現不可能とされているが、それは脇に置こう。

 

 

 

「ねぇ!だったら一緒に行こうよ!」

 

「ぬ?」

 

「僕もラピュタを探してるんだ!

 父さんが本に書いてないこともいくつかあって、でも僕は聞いて覚えてる!

 いつか自分で見つけるつもりで飛行機も作ってるんだ!

 力を合わせればきっとラピュタを見つけられるよ!!」

 

「ふむ……めぼしい地域は巡り終えて今のところ他の当てもない。

 であれば暫くこの町に滞在するのも良いか」

 

「やったぁ!っとそうだ、僕はパズー!」

 

「儂はヒノカミじゃ。

 ……あと誤解していそうじゃから伝えておくが」

 

「何?」

 

 

 

「儂はお主の父親よりも年上じゃぞ」

 

 

 

「……え?」

 

「極東の人種はこの国の者たちと比べ背が小さく、幼く見えるのでな」

 

「うわわっ、ごめんなさい!」

 

「くけけけ。敬う必要も口調を改める必要もない。

 ただ誤解を解いておきたかっただけよ」

 

この時代における日本はまだ肉を食う文化がなく、男性成人の平均身長も160cmに届かない。

なのでギリギリ150cm代のヒノカミも、この時代ならば十分に成人として通用する。

おかげで彼女の受ける精神的ダメージも比較的少なかった。

 

「大人ってことは……もしかして学者さんなの?」

 

「学者でもあるが、技術者であり、医者であり、料理人であり、呪い師でもある。

 まぁ大抵のことは人並み以上にこなせる自信がある」

 

「学者で、技術者で、医者!?」

 

「機械にも詳しいぞ。お主の飛行機とやらにも貸せる手と出せる口があるじゃろう。

 しばらくこの町で暮らすとして……この辺りの空き家でも借りるか」

 

「そんなことしなくても……あ、いや、そっか。そうだね」

 

『自分の家で一緒に暮らせばいい』と言い出そうとして、パズーは言葉を飲み込んだ。

同年代の子供ならともかく、年上の大人の女性を家に連れ込むのは紳士のやることではない。

彼は貧しくみすぼらしくあろうとも高潔な心の持ち主であろうとする快男児だった。

目の前の少女にしか見えない女性の故郷だと言う極東の言葉でいうなら『襤褸は着てても心は錦』という奴だ。

 

 

パズーの家と町の間にある空き家の一つを借り受け居着いたヒノカミは、当初は町の住人達から警戒された。

しかし彼女が医者でもあると知るとすぐに態度を改めた。

貧しいこの町には町医者すらおらず、大けがや病気になれば隣町に行くしかなかった。

治療費を支払う余裕もなく命を諦めていたこともあったのに、彼女は『金銭には困っていないから』と最低限の報酬で治療を引き受けてくれる。

おまけにとんでもない名医。手足を切断するしかないような大けがでも綺麗に治してしまうし、原因不明な流行り病もすぐに治療法を確立してみせた。

そしてただ治療するだけでなく個人でできる民間療法の普及にまで取り組み、多くの人命を救った。

すぐに彼女はパズーや町の人々から『先生』と呼ばれ慕われるようになった。

 




外伝7『天空の城ラピュタ』。
元が映画一本分なので少し短くなります。
また、この作品では進んだ科学は出てきても超常の力は見受けられないので、ヒノカミの能力は著しく制限されています。
パズーやドーラよりも身体能力は上ですが隔絶した物ではなく、各種の能力も手品の延長みたいなレベル。
武装錬金を発動する力すらないので、それこそロボット兵と戦うことになったら負けて殺されます。

一度ヒノカミが最弱の状態での話を書いておいた方がいいかと考えていたところ、この作品が目に留まりました。
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