『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第2話 空から降ってきた少女

 

「先生!先生!」

 

真夜中だと言うのに力強く家の扉をたたく少年の声。

とはいえ町外れであり周囲に他の家もないため安眠妨害には当たるまい。

 

「パズーか。今日は珍しく残業ではなかったのか?」

 

「ごめん、夜遅くに!でも急患なんだ!」

 

「!事故でも起きたか!?」

 

鉱山では事故はつきものだ。

機械の誤作動や岩盤の崩落に巻き込まれれば簡単に命を落としてしまう。

度合いによっては即死でもおかしくない。間に合えばいいがと扉の横にひっかけている医療カバンを掴む。

 

「いや、怪我してるようには見えないんだけど……とにかく、僕の家に!」

 

「家?……わかった」

 

彼の慌てように触発されてしまったが、どうやらそこまで急を要する事態ではないらしい。

カバンを肩にかけたヒノカミは、パズーの後ろを追いかけて夜の道を走る。

 

そして高台にある彼の家の寝室に案内される。

ベッドの上に寝かされていたのは、パズーと変わらぬ年頃の少女だった。

黒髪の三つ編みが似合う可愛らしい少女だ。

 

「ずっと気を失ってるんだ。

 息はしてるけど、何かあったらまずいと思って……」

 

「ふむ」

 

すぐに触診に移る。

額や胸に手を当てて熱や脈を計り、呼吸音を聞いて息が安定していることを確認する。

外傷もどこにも見受けられない。

 

「……眠っているだけのようじゃな。

 明日の朝にでもなれば自然と目を覚ますわい」

 

「よかったぁ~~……」

 

「して、この子は何者じゃ?どこから来た?」

 

「……信じられないかもしれないけど、空から降りてきたんだよ」

 

「空から……?」

 

「町で親方の夜食を買ってから戻る時に、空からゆっくりと……。

 この子の胸のペンダントが光ってたんだ」

 

「…………」

 

触診の時にも気付いたが、改めて少女の胸にかかる深い青の涙石を見つめる。

そこに刻まれた図柄が何を意味するかを、彼女は知っていた。

だが確証もない今はあえて黙っていた。

 

「……この少女、服の素材から推測するに遥か北の地方の者のはず。

 それがこんなところまで来ているとなれば空でも飛ばねばありえまい。

 ……信じよう」

 

「!?ありがとう!」

 

「とはいえ事情は把握しておかねばならぬな。

 明日の朝その子が目覚めたら儂の家に連れてこい。

 話を聞きたいし、念のため精密検査を行っておきたいからな。

 ダッフィーには話を通しておく」

 

「わかった!」

 

そう言ってヒノカミはパズーの働く鉱山の親方であるダッフィーの家に向かい彼の妻に言伝を残してから、彼女の家に戻る。

他に急患が来る可能性を危惧してのことだが、幸いにもその後は誰も彼女の家を訪ねてこなかった。

ヒノカミは性質上睡眠が必要ないため、夜中に患者が駆け込んでも即座に対処している。

もちろん町の住人達は彼女が眠らないということなど知らないが、今回のパズーのように夜にやってくる者も少なくない。

 

やがて夜が明け、パズーの家の方角からラッパの音が聞こえてくる。彼の朝の日課だ。

いくらか距離があるこの家にも届くくらいなのだから、彼の家で寝ていた少女もおそらく目を覚ましただろう。

間もなくラッパの音が止まる。もうしばらくすればパズーが少女を連れて訪ねてくると予測した。

 

そして数刻後に扉をたたく音が聞こえた。しかしその勢いがあまりに荒々しい。

 

「パズ……っ!?」

 

(追われてるんだ!かくまって!!)

 

扉を開けた途端に飛び込んできた二人組。

片方はパズー。もう一方はどうやら彼の服を着て変装している昨日の少女のようだ。

間もなく、また荒々しく扉をたたく音が聞こえる。

 

(……っ)

 

(奥の部屋へ)

 

(うん!)

 

二人に隠れるよう指示したヒノカミは扉を開ける。

そこに立っていたのは、高そうな白いタキシードを着たちょび髭の男だった。

 

「おい!ここにガキが二人来なかったか!

 いたらさっさと出し……っ!?」

 

「……ほぅ、久しいな。ルイ。

 随分と大きくなったではないか」

 

「……あばっ、ばばばばば……!」

 

勇ましく怒鳴り込んできた海賊ドーラ一家の次男のルイは、扉を開けて出てきた異国の女性が顔見知りであることに気付き大量の汗を流し始める。

 

「な、なな……なんで、アンタが、こんなところに……!」

 

「旅人の儂がどこにいようと勝手であろう?

 しかし聞き捨てならん言葉が聞こえたな……『ガキが二人』?」

 

「ひぃっ!?いや、そのぉ……!」

 

「カタギや貧乏人、子供に手を出さぬと信じておったが……ドーラはいつの間に誇りを売った?

 ……貴様らを処してしまわねばならんか?なぁ?」

 

「あわ、あわわわわ……失礼しましたぁっ!!!」

 

ヒノカミの威圧を受けて一歩ずつ後ずさる彼は、まもなく踵を返して逃げ出した。

どうやら町の方へ走り去ったようで、ヒノカミは彼の後ろ姿が遠ざかる様子を確認してから扉を閉め閂をかけた。

 

 

 

「……よし、もうよいぞ」

 

「ふぅ~~……ありがとう、先生。

 でもアイツらと知り合いなの!?」

 

「旅をしていた時にな。

 ドーラ一家は無法者じゃが非道は行わぬ、自称『真っ当な海賊』……のはずだったんじゃが」

 

「でもアイツらが、シータの乗ってた飛行船を襲ったらしいんだ」

 

「シータ……ふむ、お嬢ちゃんの名か。

 うやむやにして追い返したが仲間を連れてまた来るやもしれぬ。

 手短に事情を説明してはくれぬか?」

 

「は、はい!」

 

自分を襲う海賊たちと顔なじみと知り警戒したが、パズーが信頼しているようなのでシータもまたヒノカミを信じることにした。

 

シータはゴンドアという北の山奥で、亡き家族が残した家と家畜を守り一人で暮らしていた。

しかしある日、黒メガネの男たちが押しかけてきて彼女を無理やり外へと連れ出した。

そして飛行船に乗せられどこかへ運ばれていく途中で、ドーラ一家による襲撃を受けた。

彼女は騒動の隙をついて黒メガネの連中から逃げ出し、ドーラ一家から隠れようと飛行船の外壁へと乗り出した。

 

「でも足を滑らせてしまって……気づいたら、パズーの家に」

 

「黒メガネの男……そいつらもシータを狙ってるの?」

 

「飛行船を手配じゃと?無茶苦茶高額なはずじゃろ?」

 

今の時代の飛行船は世の富豪たちの社交場だ。

一度乗るだけで一般人の年収を超えかねない額が動く。

それをただの移動手段に使うとは、黒メガネの連中とやらは一体どれほどの財力を持っているのか。

そうまでしてシータを連れ去ろうとした理由も未だはっきりしないが、今一番の問題は彼女がドーラ一家に加えてそれほどの力を持つ勢力にその身を狙われているということだ。

 

「隣町の警察に行こう!」

 

「ドーラがその程度で諦めるとは思えんが……ここに籠城するよりはマシか。

 この時間ならまもなく裏手の線路に機関車が通るはず。

 そちらに乗せてもらおう」

 

「「はい」」

 

背負い袋の中に入るだけの荷物を詰め込んで、3人は家の裏口から静かに外に出た。

途中町の近くを通ることになるのだが、町の中心の方から妙な喧騒が聞こえてくる。

どうやらルイと仲間たちが町の連中と騒動を起こしたらしい。

これは好都合と、一行は裏道を通って崖上に伸びた線路を走る機関車へと近づいていく。

 




基本的には原作沿いで進めます。
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