『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第6話 スラッグ渓谷の生き字引

 

『この世界に住まう全ての人々の危機』。

そう凄まれてパズーとシータは息をのむ。

しかしヒノカミはそこでへらりと笑ってシータに話を振る。

 

「……と言うわけで、お主が儂らを巻き込むことを気に病む必要はない。

 全て儂ら自身のためでもある。むしろ儂らを頼ってほしい」

 

「えっ……?」

 

「儂とパズーもラピュタを目指してはおるが、ただ行って、知りたいだけじゃ。

 誓ってラピュタを支配したいわけではない。

 そこは信じてもらいたい」

 

「……そうだよ!あんな連中にシータもラピュタも渡してなるもんか!」

 

「けれど私は……ラピュタ人だとしたら……」

 

「700年も経てば血も混ざりあってほとんどおんなじじゃろ。

 むしろ人種から違う儂の方が差がでかいわい。

 案ずるな。儂らはお主ほど、お主の出自なぞ気にしておらぬよ」

 

「……はい!」

 

「さて、問題はここからどうするかじゃが……」

 

現時点でラピュタを狙い、シータを追う勢力は二つ。ドーラ一家とこの国の軍。

前者ははっきり言ってヒノカミ一人でも何とかなる相手だが問題は後者。

連中は目的のためなら何でもするだろう。実際に巻き込まれただけの機関士を危険に晒し、この町の貴重な財産である機関車や線路を破壊している。

連中から逃れるなら極秘裏に国外逃亡でもするしかないが、それはそれで危険だ。

軍がシータを探し続ければやがてその情報は他国にも漏れる。

ラピュタの存在を知った他国もまた、シータと飛行石を追い始めるだろう。

 

それに逃げの一手を続けるわけにもいかない。

ラピュタの情報がなくても偶然たどり着ける可能性があるのだと、他ならぬパズーの父が証明してしまっている。

月日が経過し飛行機械が発展するほどラピュタ発見の可能性も高まる。

その実在が証明され情報が広まってしまえば、最悪の場合は世界中の軍と海賊と冒険家たちでラピュタ争奪戦が勃発する。

 

「となれば、シータと飛行石が共にいる内に儂らでラピュタに辿りつくしかあるまい。

 そしてラピュタを人の手の届かぬ場所に隠すか……できるかどうか、他に方法がないかは到達してから議論すべきか」

 

「でも私、ラピュタのことも飛行石のこともなんにも知りません。

 どこにあって、どうやって行けばよいのか……」

 

「『どこにあるか』はひとまず後回しでよい。

 先に考えるべきは『どうやって行くか』の方じゃな」

 

「そうだよね……僕らの作ってる飛行機は、まだ未完成だし……」

 

元々パズーが一人で作っていたのは人力が動力の鳥型飛行機だった。

だがこんなものでは天高く浮かぶラピュタにはたどり着けないとヒノカミが断言。

彼女は技術者と豪語するだけあり飛行機械に関してもパズーを遥かに超える知識と技術を持っていた。

彼女の手によりパズーの飛行機には大幅な改修が加えられまったくの別物と呼べる姿へと変貌しつつある。

外装は元々のものをある程度流用できた。

大型化し複座式に変更した。動力もエンジンを採用した。

しかし増加した重量に対し今積んでいるエンジンでは出力が足りないのだ。

機械部品は高額であることはもちろん、単純に調達が難しい。

どれだけ技術力を持っていてもヒノカミは個人。ちゃんとしたパーツを買い集める伝手がなかった。

払い下げられた古い機械や、その辺のスクラップを組み合わせてここまで仕上げたというだけで驚嘆すべき事実ではあるが。

 

「……まずは、何とか移動手段を手に入れよう。

 ラピュタの所在をはっきりさせるのはそれからじゃ」

 

「「はい!」」

 

「移動手段を手に入れたら、一度ゴンドアに向かうのもアリかもしれんな。

 シータの家に手がかりが残されている可能性もある」

 

「見てみたいなぁ……シータの生まれ育った古い家や、谷や、ヤクたちを」

 

「……えぇ。私もパズーに見てほしい」

 

二人とも異論はないようだ。

となれば後はどうやって速やかに移動手段を見つけるか。

手っ取り早いのはすでに移動手段を持っている者の協力を仰ぐこと。

そして現状の最有力候補は。

 

(……ドーラかの)

 

ドーラはしつこく、国外に逃げても追ってくるだろうが危険度は低い。

彼女は『真っ当な海賊』だ。目的は財宝だけ。

ラピュタによる世界支配など望むはずがない。

彼女は親離れできない息子たちと頼りない部下たちの面倒を見るので手一杯だ。

 

(宝と、昔の借りでも引き合いに出して交渉……しかしあ奴は抜け目がないからなぁ。

 何とかこちらが優位に立てる交渉材料を揃えてから……っ!?)

 

突如立ち上がったヒノカミはパズーたちを背にするように身構え、両手に炎を掴んで暗がりを鋭く見つめる。

訝しんだパズーたちだったが、すぐに足音が聞こえ彼らもまた立ち上がり警戒する。

足音は一つ。であれば少なくとも軍ではないと思うが、こんな廃坑の奥地に人がいるはずがない。

こんな低火力の炎では精々牽制にしか使えないが、それでもすぐに攻撃できるように備えつつ来訪者の到達を待つ。

 

 

「……小鬼だ。小鬼がおる」

 

「ポムじいさん!」

 

「なぬ?この御仁がか?」

 

現れたのは大きなリュックを背負った立派なヒゲの老人。

鉱夫たちの間では有名な『スラッグ渓谷の生き字引』らしい。

地下にいることが多いため、けが人が出た時以外は町から出ることがないヒノカミは直接対面するのは初めてだ。

 

ともかく、敵でないことは間違いない。

この廃坑についても詳しく、簡単に事情を説明すると外に出る道へも案内してくれるという。

 

彼に連れられてしばらく歩くと、一際開けた空間に辿り着いた。

地下に降りた際、よく休憩に使っている場所だという。

彼は慣れた手つきでリュックを下ろし、タープを立てコンロやケトルを取り出し、3人に紅茶を振舞ってくれた。

 

「おじいさん、ずっと地下で暮らしてるの?」

 

「ホッホッホ、まさかな。

 夕べから石たちが妙に騒ぎおってな。

 こういう時に下におるのは好きじゃがな」

 

「岩がざわめくの?」

 

老人につられてパズーとシータも周囲の岩壁や水の底を見渡すが、まったくもって静かなもの。

二人は互いを見合わせ首をかしげる。

 

「ホッホッホ。石たちの声は小さいのでな」

 

そういってポムはその場に置いていたランプの灯を消す。

コンロの火も止めており、ヒノカミも炎を消していたので、これでこの空間からは全ての光源が無くなった。

 

そして、光が溢れた。

 

「すごい……!」

 

「パズー、上を見て」

 

「うわぁぁっ」

 

壁が、天井が、水底が。そこにある全ての岩から青白い光が溢れている。

真っ暗な世界に浮かぶ無数の点は、まるで夜空に浮かぶ星々のよう。

 

「さっきまでただの岩だったのに」

 

「きれい……」

 

「これは……まさか!?」

 

しかしその美しさに見ほれるパズーたちとは対照的に、ヒノカミはただただ驚愕の表情で光る洞窟全体を見渡す。

 

「この辺りの岩には飛行石が含まれておるんじゃよ」

 

「……えっ?」

「それって……」

「やはりか!!」

 

ポムのつぶやきにそれぞれが反応する。

先ほどその単語を聞いたばかりのシータは胸に温もりを感じ、しまい込んでいたペンダントを引っ張り出す。

 

「光ってる……」

 

ラピュタ王家の紋章が刻まれた飛行石が、他の光を全てかき消すほどの強い光を放っていた。

 

「こりゃあ、たまげたぁ……アンタそりゃ、飛行石の結晶じゃ……!

 道理で石たちが騒ぐわけじゃ……」

 

「「……」」

 

「その昔、ラピュタ人だけが結晶にする術を持つと聞いたがな……。

 そんででっかい島を空に浮かばせたとな……」

 

ヒノカミの言葉を疑っていたわけではないが、事情を知らぬ第三者が断言したことで確定となった。

やはりラピュタはある。そしてシータとこの飛行石が、ラピュタへの鍵なのだ。

 

 

ボッ

 

 

「「「!?」」」

 

そこでヒノカミが掌から炎を生み出した。

灯りに照らされ、周囲の岩が再び沈黙する。

 

「まさかそこまでご存知とは……生き字引の名は伊達ではないと言うことか」

 

「先生……?」

 

「じゃが一つ誤りがあるな。

 ……パズー、シータ。この辺りにある拳大の石を集めてくれ」

 

「誤り……一体何をするおつもりか?」

 

ヒノカミは知らなかった。

こんな身近なところに、飛行石の鉱脈があったなどと。

知っていればもっと早く、入念な準備をしてから挑めただろうに。

 

 

「飛行石を結晶にする術を持つのは、ラピュタ人だけではないということよ。

 貴重な話を聞かせて頂いた礼じゃ。これより奇跡をその目にご覧にいれましょうぞ」

 

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