『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第6話

「えー、お前らも3年、本格的に将来を考えていく時期だ!

 今から進路希望のプリントを配るが!

 ……だいたいヒーロー科志望だよねー」

 

教師の声に一斉に手を上げ、各々の個性をひけらかす生徒たち。

以前の爆豪ならばこの流れに乗って自らの優秀さを誇示するところだが、今ではそんな気も起きない。

両足を机に乗せて座席に背中を預け、目を閉じて聞き流す。

 

2年前、ヒノカミと出会った爆豪は実力を知るためにと手合わせし、結果は手も足も出ず敗北。

3年間のブランクはあったが、実力を維持できるようトレーニングだけはしていたらしい。

個性の相性が悪いとはいえトップではなくそのサイドキック相手に敗れ、自分は井の中の蛙だと思い知らされた。

目指すは頂点。もっともっと強くならなければならない。

 

「そういや、爆豪と緑谷は雄英志望だったな」

 

「国立の!?偏差値79だぞ!?」

 

「いやでもカツキなら行けんじゃね?応援するぜ!」

 

「うるせぇ」

 

称賛の声すらどうでもよかった。

こんな程度の低い連中に構うのは時間の無駄だ。

 

「……でも緑谷はなぁ……最近すげぇのは知ってるけどよ……」

 

「無理だろ、『無個性』だぞ?」

 

だが続く言葉にはなぜか反応してしまった。

爆豪は発言者の机に蹴りを入れる。

 

「その『無個性』にも勝てねぇ分際でほざいてんじゃねぇ。

 だからてめーらはモブなんだよボケ」

 

この2年で、緑谷は強くなった。

あの日の宣誓から口先だけではなく、本気でヒーローを目指し始めたのだ。

相変わらず自分に自信が持てずびくびくおどおどしているが、鍛え上げられた肉体と体術は個性を持っているだけの連中では相手にならない。

個性抜きで戦えば今の爆豪ですら危うい。

自分の方が上であることは間違いないし、これからも勝ちを譲るつもりはないが、爆豪ですら尻込むヒノカミの訓練に喰らいついてくる根性だけは認めざるを得ない。

少なくとも彼にとって、緑谷はもうモブではなかった。

 

「おいデク。本気で雄英受けんのか?

 確実に合格したいんならその辺の底辺高校受けりゃいいだろうが」

 

「だ、駄目だよ!トップを目指すって決めたんだ。

 絶対に雄英じゃなきゃ……!」

 

「……そーかよ。

 俺の邪魔をしなけりゃどーでもいい。

 勝手にしろ」

 

放課後、緑谷が本気か確かめるため話しかけていると、二人の携帯電話が同時に鳴る。

 

「……ヒノカミか?」

 

今日は自主訓練の予定だったはず。メッセージを確認する。

 

『会わせたい者がおる。放課後海浜公園に集合。

 遅れた方は罰ゲームな』

 

「っ!」

 

「あ、おいデクテメェ!待てやコラァ!」

 

気付けば緑谷は教室の窓から飛び出していた。

ここは3階だが、壁や手すりを使って難なく着地する。

先手を打たれた。個性を使わなければ追いつけないかもしれないが、個性の不正使用はより厳しい折檻が待っている。

爆豪は慌てて荷物をまとめ、緑谷の後を追った。

 

「生きのいい……隠れミノ……!」

 

「邪魔じゃボケぇ!」

 

「ぎぃやぁぁ!」

 

道中襲い掛かってきたヴィランを流れるような動きで爆破し、速度を落とすことなく走り続ける。

結局、先にたどり着いたのは爆豪。

緑谷は途中で困っているお年寄りを目にしてしまい、手を差し伸べているうちに追い抜かれてしまった。

 

「その志や良し!しかしそれとこれとは話が別じゃ。

 出久は後で腕立て腹筋200回じゃ」

 

「は、はいぃ……」

 

「はっはっはぁ!ザマァ!」

 

「で、勝己は正当防衛であることは認めるが倒したヴィランを放置した罰として300回な」

 

「……クソがぁ!」

 

だいたいはこうやって理由をつけてどちらも罰を受けることになるのだった。

訓練は自分たちから望んだことであるし、ヒノカミ自身もトレーニングを終えるまで付き合ってくれるので反発もしづらい。

 

「で、会わせたい奴じゃが……遅いな」

 

「HAHAHA!遅れてすまない!助けを求める声が聞こえたのでね!」

 

響く大きな声。砂浜にいた3人は背後の高台を見上げる。

筋骨隆々な肉体、角のように逆立つ2本の前髪、そして明らかに他とは違う画風。

 

「わたしが……来た!」

 

「「オールマイト!!」」

 

「とうっ!」

 

掛け声とともにジャンプしたオールマイトは空中で回転し、力強く3人の前に着地。

 

「うぉらぁっ!」

 

「げふぁ!」

 

「「オールマイトぉ!?」」

 

する直前にヒノカミが放ったドロップキックを受けて体をくの字に曲げて蹴り飛ばされた。

 

「……忍んでこいと言うたよな?

 なんで目立とうとするんじゃアホか貴様。

 何のために人気の少ない場所にこ奴らを呼んだと思うておる」

 

「いや憧れてくれてるっていうし、カッコつけた方がいいかなって……ごめんなさい……」

 

ヒノカミに見下ろされ、大きな体を精一杯小さくして正座させられているナンバー1ヒーロー。

元より親しみやすいキャラクターとして有名な彼だが、緑谷と爆豪はより一層の親近感を覚えていた。




ヘドロ事件なんてなかった。
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