『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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言うまでもありませんが、飛行石の作り方は作者の独自解釈と推測です。
説得力が必要かと思い考えるうちに無駄に深堀しました。


第7話 飛行石

 

「どうかな先生、これくらいで足りる?」

 

「ふむ……少し心許ないが、やむを得ぬか」

 

ずっと目を閉じて手にした赤い石剣に炎を灯し続けていたヒノカミがパズーの呼びかけに集中を解く。

彼らが集めた石の小山は人一人を優に超える体積だったが彼女に言わせればまだ足りないらしい。

しかしこれ以上は彼女の要求する石の大きさに対して小さすぎるか大きすぎるか、いずれにしても不適格だった。

 

「では、明かりを消してもらいたい。

 飛行石が光っていた方が作業しやすいのでな」

 

そう言いながらヒノカミは石剣に灯していた炎をその内側に閉じ込めた。

ポムがランタンの灯を消し少し待つと、また周囲の岩が光を放ち始める。

パズーたちが集めた石の小山もしっかりと光を放っていた。

 

「では……行くぞ」

 

小山の隣に座ったヒノカミはその一つを左手で掴み、目の前に置いた水が張ったバケツの中に入れた。

続けて石剣も水の中へと入れる。

 

時間をかけて炎を注ぎ続けた石剣の中には膨大な熱が蓄積されている。

しかしヒノカミの能力により制御されているためその熱は表面に出ておらず、水に伝わり蒸発させることもなかった。

彼女は水の中で左手の石に右手の石剣を突き刺し、石剣の熱を石へと移す。

 

「うわぁっ!?」

「石が、熔けて……?」

「なんと……!」

 

ヒノカミの左手にあった石が高熱で熔解し粘土のように変形する。

もちろん、その熱も能力によって制御しているので水に伝わることもない。

 

グニ……グニ……

 

そのまま熱を注ぎ続けると石が更に柔らかくなる。

彼女は石剣を突き刺したまま、熔解した石を左手で何度も揉む。

 

「「「……!?」」」

 

すると柔らかくなった石から光の粒が零れ落ち、バケツの底へと沈んだ。

 

「まさか、これが……!」

 

「いかにも。飛行石の欠片じゃ」

 

ヒノカミは柔らかくなった石を丸めてから石剣へと熱を戻し切り離す。

バケツの外に出され地面にごろりと転がされた真ん丸な石は完全に光を失っていた。

 

結晶化していない飛行石は空気に触れるとすぐに変質しただの石になってしまう。

だから空気に触れない状況で鉱石を熔かす必要がある。

だが燃焼に空気を必要とする炎と、空気に触れれば消えてしまう飛行石の相性は最悪。

故にこの時代の一般的な構造の炉では飛行石の精錬は不可能なのだ。

 

「だがこのやり方では儂の掌に収まる大きさの石でなければ作業ができぬからな。

 もう少し設備があればもっと大きな鉱石からでも……そうなるとここから運び出す手間もかかるが」

 

「こりゃあ、たまげた……なるほど、儂らの科学力ではどうにもならんわけじゃあ」

 

説明しながら小山から次の石を掴んで、一つ目と同じように熔かして飛行石の欠片を取り出す。

1個当たりから抽出できる飛行石の欠片は本当にわずか。

しかし何度も何度も繰り返すうちに、バケツの底の光の粒は確実に増えていく。

 

「……終わったぞ」

 

数時間をかけて小山が全てなくなった頃には、バケツの底が見えなくなる程度には光の粒が集まっていた。

 

「わぁぁ……」

「きれい……」

 

呼ばれて近づいてきたパズーたちの瞳に、水面を通して輝く飛行石の欠片の光が反射している。

 

「では、仕上げじゃ」

 

ヒノカミはバケツを傾け欠片を隅に集める。

そこに石剣を突き刺し、その熱のすべてを切っ先の一点に集中させる。

すると欠片が熔けて切っ先に小さな珠が生まれ、他の欠片も取り込んで少しずつ大きくなっていく。

そしてすべての欠片が一つの塊となり、直径10センチほどの光の珠となる。

 

「パズー、準備はいいか?」

 

「はい!」

 

「よし、せーのっ!」

 

ヒノカミがバケツの水面から、先端に珠が付いたままの石剣を引き抜く。

そしてパズーが持つ水で満たしたガラス容器の中に素早く先端を差し込む。

そこで珠を石剣から切り離し、空気が入らないように蓋をする。溢れた水が隙間から零れ落ちた。

 

「成功か……もう少し時間と材料があればもっと純度を上げられたじゃろうが」

 

「すごい……体の重さが無くなったみたいだ!」

 

ガラス容器に閉じ込められた強い光を放ち続ける珠は、それを掴んでいるパズーにも影響を及ぼしていた。

彼が軽く地面を蹴ると洞窟の天井に届きそうなほどの高さまで飛び上がり、ゆっくりと下に降りてくる。

 

「なんとまぁ……」

 

「パズー、はしゃいで落とすなよ」

 

「っとそうだった、ごめんなさい」

 

着地したパズーは蓋が外れないよう、ガラス容器に何重にも縄を巻いていく。

今作り出した飛行石には表面にコーティングをしていないため、空気に触れるとやはり効力を失ってしまう。

飛行石の効果が弱まらないようにコーティングするにはまた違った材料と作業が必要なので、今は水の中に入れたまま使うしかないのだ。

 

「……そういえば、どうしてこれは僕でも使えるの?」

 

「簡単なことじゃ。オンオフの切り替えができんだけよ。

 ただ集めて固めただけじゃからな」

 

「そうなんだ……でも確かに、ずっとフワフワしてたら落ち着かないや」

 

パズーは飛行石の入ったガラス容器をヒノカミに手渡す。

彼女の体もまた軽くなり浮かんでしまう。これでは身動きがとりづらくて仕方ない。

なので縄を大きく伸ばして体から放すことで影響を免れていた。

飛行石の入った容器がまるで風船のように浮かんでいる。

 

「なぁ、先生さん。アンタこんな知識をどこで……?」

 

「それは秘密じゃ。安易に広めてよいものではない。

 例えこの谷の新たな産業になり得るとしてもな」

 

「……確かにのぅ」

 

強すぎる力は人を惑わせる。幸せにもするが不幸や身の破滅を招くことも多い。

長く生きてきたポムはそれをよく理解していた。

だからこそヒノカミは彼に製法を明かしたのだ。

 

「それに、こういうのは秘密にしておいた方がカッコイイじゃろ?」

 

「……ホッホッホ。先生さんは愉快なお人じゃな」

 

この大きさの飛行石なら、飛行機一つくらい余裕で浮かせられる。

必要なのが推進力だけなら今のエンジンでも十分だ。

 

「ちぃと卑怯じゃが、これを組み込めば儂らの飛行機も飛べるようになる。

 これで行けるぞ。ラピュタにな」

 

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