ドーラもラピュタを狙うと決めてから様々な情報を集めてはいたようだが、長年かけて地道な調査を続けていたヒノカミには到底及ばなかった。
その情報源の一つがこの家の持ち主のパズーであり、実際にラピュタに到達した冒険家が彼の父である。
ドーラたちもこの家に押し入った時に地下にある飛行機には気づいており、しかしそれは全てヒノカミが作ったものだと考えていた。
少なからずパズーの手も借りていると知ってようやく、ドーラはパズーがただ巻き込まれただけの小僧ではないと理解し彼を侮ることは無くなった。
そしてその飛行機に組み込むつもりで作った飛行石。
誰にでも使えるそれをドーラは露骨に欲しがったが、当然却下した。
彼らと協力することになりタイガーモス号という足は手に入ったが、速度自体はこちらの方が上だ。
備えはいくらあっても困らないのだから、この飛行機もラピュタへの旅に持っていくつもりでいる。
ヒノカミなら休息は必要ないのだから、パズーたちをタイガーモス号に移して並走するのも良いだろう。
当初は帰宅後に速やかに飛行石の取り付け作業に移るつもりだったが、ドーラと協力することになったため予定を変更。
激動の一日で疲れただろうからとパズーとシータを上の階の寝室に押し込めた後、大人組は改めて情報の共有とこれからの計画を議論する。
飛行石にラピュタの道のりを示させねばならず、その手がかりを得るためにゴンドアにあるシータの生家に向かうことも伝えたがドーラから待ったがかかった。
やはりこの町にはまだ軍の兵士が警戒網を敷いているらしく、下手に動けば察知されるとのこと。
ドーラ一家がパズーの家に潜り込んだのは家主が不在とはっきりしていることに加え、町外れにあるため連中に発見される可能性が低いと考えてのことだった。
シータが見つからずに焦れた連中が捜索範囲を広げて警戒が弱まった隙に動くべきらしい。
こういった嗅覚に関してはドーラを全面的に信頼しており、それがいつになるかはわからずとも彼女が良いと言うまで待つことにした。
話し合いを終えて、飛行機への飛行石の取り付け作業を終えて、下の階から上がってきたヒノカミはパズーたちの寝室からの物音に気付いた。
「まだ眠っておらんかったのか」
「先生……なんだか、目が冴えちゃって」
「茶でも持ってこよう。シータも飲むか?」
「はい。お願いします」
どうやらパズーは、ついにラピュタに向かうことへの興奮で。
シータはラピュタの真実に対面することと争いへの恐怖で眠れずにいたらしい。
「あの……先生さん」
「む?」
「ラピュタのことを、教えてくださいませんか?
思えば私が一番、ラピュタのことを何にも知らなくて……」
「ふむ、よかろう」
知らないからこそ湧く恐怖もあるだろうと、ヒノカミは寝室の椅子に腰かけた。
遥か昔でありながら、今の時代の科学力をも大きく超える非常に高度な文明を持つラピュタ人。
彼らが作り上げた天空に浮かぶ王国、それが天空城にして空中要塞『ラピュタ』である。
伝承では『恐るべき科学力で天空にあり、全地上を支配した恐怖の帝国』とされている。
しかしそれほどの力を持っていながらなぜか、およそ700年前に王国を捨てた。
理由は不明だが、痕跡がないことからどうやらほぼ身一つで地上に降りたらしい。
であれば未だその城にはドーラたちが欲する金銀財宝がうなるほどあるだろう。
「……と言っても、お主らは特に宝には興味もないか」
「お金に困ることは多いけど、たくさんありすぎても困るだろうしね」
「そうさな。財力もまた力。
強すぎる力は容易に周囲を巻き込み、振り回し時に傷つける。
なければ困るが、あったからと言って幸せになれるとも限らぬよ」
「じゃあ先生さんは、どうしてラピュタへ行こうと?」
「む?」
「……そういえば、僕も聞いたことなかったや」
シータの指摘にヒノカミが言葉を詰まらせる。
ドーラ一家は宝を求めて。
パズーは父の足跡を追うため。
であればヒノカミがラピュタを目指す理由は何なのか。
少なくとも宝ではないだろう。この町での彼女の献身を思えば、彼女が金銭にこだわりがないことは明らかだ。
「ん~~……そうまでして隠すことでもないか。
実は儂の知人にも、『ラピュタ人』がおったのよ」
「「えぇっ!?」」
「もう故人じゃがな。友と呼べるような間柄ではないが……深い付き合いがあった」
「じゃあ先生がラピュタに詳しいのって……」
「もしかして、飛行石の作り方も……?」
「全部が全部彼から聞いたわけではないがな。
儂自身が調べて突き止めたことも多いが……それでもわからぬことだらけよ。
なぜラピュタ人はラピュタを捨てたのか。
あれだけの力を持っておいてなぜ、完全に文明を捨ててしまったのか。
儂はそれが知りたい……知らねばならぬ」
「それが、先生がラピュタを目指す理由?」
「そういうことじゃ。
地上に残る痕跡をどれだけ調べてもわからなかった。
可能性が残されているとしたらラピュタしかあるまい。
……すまんな。お主らと比べたら自分勝手な理由で」
「そんなこと!」
「……さて、今の儂から伝えられることはこれくらいじゃ。
これ以上の話は推測も混じるし、余計な先入観を与えかねん。
そろそろ眠れ。明日以降に響くぞ」
「う~~ん……でもやっぱり、まだワクワクして眠れないや」
「くけけ、子守歌でも歌ってやろうか?」
「僕はもうそんなに子供じゃないよ!」
「ふふっ」
「「?」」
「……ごめんなさい。
子守歌と聞いて、なんだかおばあさんを思い出してしまって」
「……ねぇ、シータのおばあさんのことを教えてよ!」
「いや眠らんかい」
「幼い頃は忙しい母の代わりに、よく私の面倒を見てくれてたの。
いろんなことを教えてくれたわ……ちょっと変わったおまじないも」
「「おまじない?」」
「物探しや、病気を治すおまじないや……怖いものもあったけれど。
最初に教えてもらったのは、困ったときのおまじないだった」
「へぇ……どんなおまじないなの?」
「……『リテ・ラトバリタ・ウルス・アリアロス・バル・ネトリール』」
「!?」
「……りて?あ?」
「えぇと、意味は……」
「『我を助けよ、光よ蘇れ』……!」
「へ?」
「あ、はい。そうです。でもなんで……?」
「それは『ラピュタ語』じゃ!!」
「「!?」」
直後、彼らの視界を強烈な光が埋め尽くした。