『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第10話 『我を助けよ』

 

シータの胸の飛行石が放つ強烈な光は物理的な衝撃すら伴っており、部屋の中で嵐のように渦巻くにとどまらず、パズーの家の壁や屋根を軋ませる。

 

「何事だい!?」

 

建物全体の揺れに気付いてドーラも部屋へと駆け上がってきた。

 

「飛行石!?一体何が起きてる!!」

 

「止まって!お願い……っ!」

 

シータが必死に呼びかけるが、飛行石は変わらず光と力を溢れさせ続ける。

このままではこの家そのものが崩壊してしまうかもしれない。ならば少しでも損害を少なくするには。

 

「シータ!飛行石を頭上へ!!」

 

「っ、はい!!」

 

シータが言われるがままに飛行石の紐を掴んで上へと掲げると力が天井へと集中し屋根を吹き飛ばした。

そして光の濁流が吹き曝しの部屋の中から星空目掛けて放出されていき、建物の揺れが収まる。

コラテラルダメージと割り切るには手痛いが、倒壊に巻き込まれ全員生き埋めにされるよりはマシだと思うしかなかった。

 

「……えっ?」

 

だが間もなく飛行石の放つ光が一際強くなったかと思うと収束し、光の筋へと変化した。

先ほどまでの暴れ具合が嘘のように静まり、ただ真っ直ぐに光を放ち続けている。

 

「空を指してる……!」

 

「……今のおまじないとやらが、飛行石を働かせる言葉だったようじゃな」

 

「あの光の指す方向に、ラピュタがあるんだ……!」

 

「……っ!シータ、そいつを隠しな!!

 町にゃあまだ軍の連中がいるかもしれないんだよ!!」

 

「あ、はい!!」

 

ドーラの叱責を受け、シータは慌てて飛行石を服の中に隠す。

 

「失敗したな……気付かれたか?」

 

「一瞬だったが見ていたヤツはいるだろうね。

 予定変更、すぐにラピュタに出発する!

 この馬鹿息子共、いつまで寝てるんだい!40秒で支度しな!」

 

屋根が吹き飛ぶ音とあふれ出た光は町にまで届いていただろう。

異常に気づいた町の兵士たちが一斉に詰めかけてくる可能性すらある。

ドーラはこの騒動の中でも爆睡していた図太い息子たちを怒鳴りつけて撤収を急ぐ。

 

「パズー、すでに飛行機の準備は済んでおる。

 シータと共にそちらに乗り込んでおけ」

 

「はい!」

 

ヒノカミの荷物は飛行機を整備するときにすでに詰め込んでいる。

なので彼女はドーラ一家を手伝い始めたのだが、その途中でドーラが部屋の隅に置いていた小さな箱が音を鳴らし始める。

どうやら軍の無線を傍受するための装置らしく、ドーラは作業を中断して機械を耳に押し当て、暗号の解読を始める。

もしこの町の軍の兵士が応援を呼ぶためのものだとしたら厄介なことになると考えていたが。

 

「……何だって?」

 

「どうした?」

 

「ティディス要塞の方で何やら騒動が起きているらしい。

 周辺に散らしていた戦力を呼び戻してるようだね」

 

「それは我らとしては好都合じゃが……ラピュタ捜索は連中の最優先事項じゃろ?

 その手を止めるほどの事態じゃと?」

 

「静かにしな……飛行戦艦を呼び寄せた!?」

 

「!?まさか、今の一瞬で光がラピュタを指していると気づいたのか!?

 それとも奴らは独力でラピュタを見つけたのか!?」

 

「いや違う、こりゃ応援要請だね。

 一体何と戦ってるっていうんだい……あん?」

 

「相手は何じゃ?

 他国の軍とでもドンパチやり始めたんか?」

 

 

 

「…………『ロボット』?」

 

「!?」

 

ドーラはただ通信に流れていた単語を復唱しただけだったが、それを聞いていたヒノカミの反応は劇的だった。

 

「だから軍はラピュタを……『助けよ、蘇れ』……だとしたらまずい!」

 

「何が分かったんだい?」

 

「説明する時間も惜しい!儂とシータは直ちにティディス要塞に向かう!

 タイガーモス号は先んじてラピュタへの航路を取れ!

 儂らは後から合流する!」

 

「はぁ!?馬鹿言うんじゃないよ!

 自分から捕まりに行くつもりかい!?」

 

「儂の予想が当たっていたとしたらこれを放置すればとんでもない被害が出る!

 軍だけでなく民間人にも!見過ごすわけにはいかぬ!」

 

「ちぃ……」

 

こうと決めたら梃子でも動かぬのがヒノカミだ。

飛行石の光を見て今のラピュタがある方角はおおよそわかったが、ラピュタは絶えず移動しているのだ。こちらがラピュタに向かっている間にラピュタの方がどこか別の場所に移動してしまう可能性がある。

かといって強引にシータと飛行石を奪うような不義理はできない。ドーラ自身も契約を重んじる。

何より、膨大な知識と高い技術と多彩な能力を持つヒノカミとの協力関係を手放すのは惜しい。

 

「……遅れるようならラピュタの宝は全部頂いちまうからね!?」

 

「すまん!」

 

ヒノカミはすぐに地下へと向かい、空中に浮かんでいる飛行機の前席へと飛び乗る。

すでにパズーがエンジンを始動しており、けたたましい音を立てていた。

 

「先生、いつでも行けるよ!」

 

「よし!じゃが予定変更じゃ!

 儂らはこれより軍の要塞へと向かう!」

 

「「えぇっ!?」」

 

「理由は道すがら説明する!」

 

機体前面に取り付けられた大きなプロペラが回転を始めると、宙に浮いているからこそ飛行機はすぐに前進を始める。

流されないようにと建物の柱に縛り付けられていたロープを切り落とすと、開いた木製の大扉を超えてついにその巨体が夜空へと飛び出す。

 

「飛んでる……!」

 

「……やった、やったぁ!成功だ!!」

 

「悪いが喜びをかみしめさせてやる時間もない!全速力で飛ばすぞ!」

 

「えぇ!?これが初フライトなのに、大丈夫なの!?」

 

「…………」

 

「なんで黙るの!?」

「何か言ってください!」

 

本来一人用である後部座席に押し込められた少年少女の叫びに応えることなく、ヒノカミは宣言通りにペダルを踏みこんで出力を全開にした。

 

「やれるだけのことはやった!あとは運次第じゃ!」

 

「じゃあ駄目でしょ!先生の運なら!」

 

「儂の凶運よりお主らの悪運の方が強いと祈る!」

 

「結局運任せ!?うわぁぁーーーっ!」

 

「キャアァーーーッ!」

 

二人分の甲高い悲鳴を置き去りにして、鳥を模した純白の飛行機がとんでもないスピードですっ飛んでいく。

 




飛行機の形は『風立ちぬ』の冒頭にて出てきた『二郎の鳥型飛行機』を大型化し複座式にしたものをイメージしてください。
パズーの作っていたオーニソプターを純粋に強化したら、多分あんな感じかなと思います。
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