『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第11話 ティディス要塞

 

「あ、あの!ちょっとくらいエンジンを休ませた方がいいんじゃないでしょうか!?」

 

「ぐずぐずしていると夜が明けてしまう!このままフルスロットルじゃ!!」

 

「うひゃぁっ!?」

 

パズーの必死の懇願も聞き入れず、前席に座るヒノカミはペダルを踏む足を緩めない。

後部座席の隙間に小さな体を押し込めているシータはきつく目を閉じ、パズーの胴にしがみついていた。

同年代の可愛い女の子に抱き着かれるというシチュエーションは一般的な少年にとってこの上ない幸福であるはずだが、今のパズーはそんなことを考える余裕がなく、そんなことを考えるはずもない紳士であった。

 

『運次第』などと彼らを脅しはしたが、ヒノカミは当然のごとく彼女なりにできる対策は全て取っている。

彼女が前席に座っているのは、更にその前にあるプロペラに直結したエンジンを能力で制御しその暴走と爆発を防ぐためだ。

無茶をさせると壊れて墜落する可能性はあるが、爆発せずに墜落するだけならパズーたちが命を落とすことはない。

シータの首には飛行石のペンダントがあり、二人はしっかりと互いの体を固定しているからだ。

だから彼女が危惧しているのは、軍から攻撃を受けて撃墜される可能性だけだが。

 

「見えた!……なんだあれ!?」

 

「燃えてる……!」

 

「やはりこうなっていたか……じゃがまだ周辺に被害は及んでいない!」

 

丘を越えたところで、ティディス要塞の全貌が見えた。

しかしその至るところから炎が上がり、夜明け前の大地を赤々と照らしている。

そして彼らが見ている前で更に爆発が生じ、要塞の一画が吹き飛んだ。

まるで戦だ。だが要塞を攻める軍勢の姿はどこにもない。

 

「本当にあそこに突っ込むんですか!?」

 

「砲台はほとんどやられておる!

 軍の連中がこちらに意識を割く余力はないはずじゃ!

 何よりこのまま放置し要塞の外にまで出てきたら大惨事になる!」

 

「……わかった。行くよシータ!」

 

「えぇ!」

 

近づくほどに要塞から伝わってくる熱が増し、純白の機体が炎で照らされ赤く染まる。

そして要塞の悲惨な状況と、炎の中に立つ巨大な人影が見えてくる。

 

「あれが……!」

 

「あぁ……ラピュタのロボット兵じゃ!」

 

ヘルメットとゴーグルを組み合わせたような小さな頭部。

丸く平たい胴体から伸びた、異様に長く無数の関節を持つ手足。

しかし片腕は半ばで千切れている。

体には無数の攻撃を受けた痕があるが、胴体にいくらか凹みがあるくらいで致命的なダメージは見当たらない。

であればあの腕は軍の攻撃で破壊されたのではなく、最初からあの状態だったのだろう。

だがほとんど効いていないとしても軍に攻撃されたことは間違いないらしく、連中を敵と見なしたロボット兵は目の窪みから要塞に向かって滅茶苦茶にビームを発射しての反撃を続けている。

 

「まもなく要塞の領空に入る!チャンスは一度じゃ!」

 

「はい!」

 

「あぁぁ……っ」

 

「シータっ!!」

 

「っ、はい!!」

 

凄惨な破壊の跡を目の当たりにして言葉を失っていたシータだったが、パズーからの叱責を受けて我を取り戻し気を引き締める。

そして彼女は座席から大きく身を乗り出し、暴風に晒されながら右腕を掲げる。

彼女の掌の中には、光り輝く飛行石。

 

「大丈夫!僕が支える!絶対に放さないから!!」

 

「仕掛けるぞ!」

 

要塞に接近する見慣れぬ飛行機にようやく気付いて声を上げる兵士たち。

しかし彼らは一様にロボット兵から逃げようとしていたため、まったく逆の方向に進む飛行機に対処できなかった。

 

飛行機はロボット兵が立つ小さな塔の上へと急接近。

そしてほんの僅かに速度を落とし、頭上で旋回する。

当然ロボット兵も飛行機に気付いたが、攻撃しようとせずじっと飛行機を、正確にはシータが掲げる飛行石を見つめている。

 

「石が……!?」

 

(ーー・ーー・ーー)

 

そして飛行石から空へと延びていた光が一時止まり、ロボット兵の胸へと向けて鋭い光が伸びる。

 

(ーー・・--)

 

ロボット兵は顔の中央にある二つの赤いランプを何度か点滅させると、両腕を左右に大きく広げて肩の付け根と手首を軸にして180度回転させる。

腕についていた無数の突起は体の内側を向く形となり、突起の間に薄い膜が生じる。

そして胴体にある下を向いていた二つの窪みに力強い炎が灯る。

 

(--)

 

「くるぞぉっ!!」

 

パズーがシータを引き戻し、飛行機は再び速度を上げて要塞の空を通り抜けていった。

ロボット兵は両腕を一度しならせると、胸のスラスターから大きく炎を噴き出し、飛行機を追うかのように勢いよく空へと飛び出した。

 

スラスターで飛翔するロボット兵の加速は爆発的であり、最高速度はプロペラ動力の飛行機よりもはるかに速い。

飛び上がったロボット兵は要塞から離れようとする飛行機に急接近してきた。

おまけに片腕が半壊しているせいかうまく飛べないらしく、このままでは激突しかねない。

 

(-・-・-)

 

「こンのぉっ!」

 

「キャァッ!!」

「うわぁぁっ!?」

 

寸前でヒノカミが大きく舵を切りロボット兵との激突を避ける。

突然の軌道の変化で揺さぶられたパズーたちが悲鳴を上げる。

 

「すまん!無事か!?」

 

「大丈夫!」

 

「飛行石も、ちゃんとあります!」

 

「よし、もう仕舞ってよい!」

 

完全にロボット兵はこちらを認識している。

であればこれ以上見せびらかす必要はなく、指示を受けたシータは飛行機の中に座り込んだところで右手に縛り付けていた紐をほどいて首にかけ、飛行石を服の中へと押し込める。

 

「この先に小島があったはずじゃ!

 ロボット兵をそこまで誘導する!」

 

「「はい!」」

 

ティディス要塞は海際の切り立つ崖の上に建っている。

陸地からやってきた飛行機が要塞を超えればその先に広がるのは水平線だ。

しかし大海原にもいくつか無人の孤島があり、ヒノカミはその一つを目指して速度を落とさず進む。

今のところ軍からの追手はないが、後をつけられては捕まるかもしれない。その前に一気に距離を突き放す。

 

「落ちるなよ……堪えろよ……!」

 

彼女の呟きはここまで無茶をさせすぎた彼らの乗る飛行機に対してか。

それとも相変わらずフラフラと空を暴れまわりながらも必死に追従してくるロボット兵に対してか。

いや、その両方だったのかもしれない。

 

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