『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第14話 竜の巣

 

今は深夜。

早朝に出発してほぼ丸一日ひたすらに飛び続け、夜明けを目前に控えた頃。

 

「水銀柱がどんどん下がってるよママ!」

 

「時化てきたか……いよいよのようだね」

 

「あぁ、ラピュタはもうすぐそこにある」

 

強風にあおられタイガーモス号が激しく揺さぶられる。

その際に台の上に置いている飛行石の放つ光の線も、ほんのわずかに左右に動くのだ。

まだラピュタとの距離があるのならば船の揺れ程度のズレで光の線の角度が変わるはずがない。

そしてラピュタが巨大な嵐『竜の巣』の中にあることが、パズーの父により証明されている。

風が強くなっているのはラピュタに近づいている証拠。間もなく巨大な雲の塊が彼らの前に姿を現すだろう。

 

だが問題はどうやって風の壁を突破するかだ。

竜の巣は暴風を伴う巨大な嵐で、しかもその周辺は逆に風が吹いているらしい。

タイガーモス号が近づけば抗うこともできずに吸い込まれ、境目に入ったところで二方向からの力を受けて胴体をへし折られるだろう。

飛行石がラピュタへの道しるべだというのなら飛行石を持って近づけば嵐が消える可能性もあるが、そうでなかった場合に備えないわけにはいかない。

楽観論に全員の命を賭けるわけにはいかないのだ。

 

だからまずはヒノカミたちが飛行機で先行して突入する。

飛行石を持ったシータとパズーの3人で竜の巣を超えてラピュタに突入。

飛行石の接近を感じ取り嵐が止むならそれでよし。

止まないのなら中に入ったヒノカミたちがなんとかして嵐を止める。

いずれにせよタイガーモス号が上陸するのは嵐が止まってからだ。

『なんとかして止める』とは全く以て具体的ではないが、この作戦を提案したのはヒノカミだ。

方法に当てがなければ彼女はこんな無責任なことは言わないだろう。

この様子では問いただしてもいつも通り『秘密』と答えると推測し、ドーラはそれ以上口出しをしなかった。

とはいえ、ヒノカミ自身が未だにこの作戦に納得しきれていなかったが。

 

「自分で言い出しといてなんじゃが、やはり危険すぎる。

 シータたちを置いていくわけにはいかぬか?」

 

「シータがいなきゃ嵐が消える確率は著しく下がるんだ。諦めな。

 それに『あの子らもとっくに覚悟はできてる』って言ったのはアンタだろうが」

 

ヒノカミは当初、飛行石を預かって自分一人で向かうつもりだった。

しかし飛行石の主はシータであり、飛行石を持つ彼女が近づいてこそラピュタが反応し嵐を止める可能性が高まる。

シータもそれをわかっているから同行を志願し、パズーもまた二人だけを行かせないと手を挙げた。

 

仮に突入に失敗し飛行機が嵐で壊れ放り出されたとしても、シータは飛行石を持っていてパズーはシータから離れない。

飛行機に組み込んでいる方の飛行石の位置はヒノカミの座席の下に動かしたので、最悪の事態に陥ってもそれを掴んで脱出すれば全員墜落死だけは避けられる。

そして飛行機の底部に固定されたロボット兵は不安定な形でなら単独で飛翔が可能だ。シータの危機に必ず彼女を救出するため動き出す。

仮に落ちても真下は海。応急処置を受けただけのロボットの強度は不安だが、着水の衝撃程度で破壊されるとも思えない。

できる限りの安全対策は取っていた。これくらいのことしかできなかったとも言えるが。

 

「シャルル、夜明けまでは?」

 

「あと1時間!」

 

「よし、夜明けと共にラピュタ突入作戦を決行する。

 それまでに腹括っときな!」

 

「……わかった」

 

 

そして予定通り1時間後、ヒノカミたち3人が朝日に照らされた飛行機に搭乗する。

彼らの視線の先、遥か彼方には天まで届くほどの巨大な雲、竜の巣があった。

これ以上近づくと吸い込まれてしまうため、タイガーモス号は暴風圏のギリギリ外側で待機する。

 

「パズー、シータ、用意はいいか?」

 

「はい!シータと僕の体をロープで固定しました!」

 

「飛行石も、しっかりと巻き付けています!」

 

「そうか……では、覚悟はいいか?」

 

「「はい!」」

 

最後に子供らの決意か固いかを問いただし、ヒノカミは飛行機のエンジンを始動させる。

プロペラの回転速度が高まり、機体が前に引っ張られ始めたところで底部のロボット兵がタイガーモス号から手足を離した。

雲海の上を進んでいた影が二つに分かれ、小さな一つが大きな雲へと突き進んでいく。

近づくにつれ飛行機が恐ろしい力で吸い込まれるが、抗うのではなくあえて風の流れに乗り速度を上げていく。

普通に考えれば自殺行為だ。だが彼女らが考えた風の障壁を突破する方法を実現するには速度が重要なのだ。

飛行機が揺れて軋む音に冷や汗を流しながら、彼らは歯を食いしばって舵を掴む。

 

 

 

ズドォン!

 

 

 

「「「!?」」」

 

その時、遠くから轟音が響き思わず背後を振り返る。

そして雲海の下から現れた巨大な何かの姿が目に飛び込んできた。

 

「ゴリアテ!?」

 

「くそっ、このクソ忙しい時に!!」

 

「タイガーモス号が!」

 

ゴリアテはヒノカミたちから見てタイガーモス号を挟んで更に後方にいた。

飛行戦艦は無数の砲門をタイガーモス号に向けて何度も砲撃を行っている。

直撃を受けたのだろうか、彼らの視線の先で鳥を模した船が真っ黒な煙を噴いて雲海の下へと沈んでいく。

 

「おばさまっ!」

「みんなぁっ!!」

 

 

 

「振り向くなぁっ!!」

 

 

「「!?」」

 

「『覚悟はいいか』と問うたであろうが!

 儂も彼等も、その覚悟はあった!」

 

「でもっ!」

 

「どのみちもはや引き返せぬ!

 ならば使命を果たせ!何としてもラピュタに辿り着け!

 送り出してくれた彼らに、報いるためにも!!」

 

「「……はい!!」」

 

叱責を受け、子供たちは目じりに浮かんだ涙を拭い前を向いた。

嵐に飲み込まれつつあるこの飛行機は、もう進むことしかできないのだ。

そしてこの状況、ゴリアテもラピュタが竜の巣の中にあると気づいた可能性が高い。

ゴリアテの強度ならば、力づくで風の障壁を突破してしまうかもしれないのだ。

 

「……突入後即座にラピュタを掌握する!

 じゃがゴリアテの直前に着くようでは時間が足りぬ!

 まだゴリアテとラピュタの距離が離れている今が勝負じゃぞ!」

 

「掌握!?どうやって!?」

 

「上陸後は儂の指示に従え!ことが終われば全て話してやる……行くぞぉ!!」

 

「っ、シータ!」

 

「えぇ!……お願い!!」

 

 

 

 

(ー・-・-・-・-)

 

 

 

主の要請に応え、飛行機の底部に固定されているロボット兵が胸部のスラスターを展開し最大出力で稼働させた。

ロボット兵の超重量を飛翔させる推力があるのだ。

飛行機と一体化し飛行石により逆に軽くなっている今なら、更に強く機体を押し出すことができる。

 

 

「上がれぇーーーーーーーっ!!!!」

 

 

パズーが叫び声と共に、後部座席の舵を力強く引く。

斜め後方に放出された炎が、飛行機を上へと押し上げる。

機首の角度が上がり、嵐を利用して加速した機体の進路が上へと変わる。

そしてついにほぼ垂直となり、嵐が吸い込む力を振り切ってほぼ垂直に上昇していく。

プロペラ飛行機や飛行船では決してたどり着けない高度にまで。

 

 

渦巻く嵐において、風が最も弱い場所はどこか。

 

それは渦の中心である。

 

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