『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第15話 天空の城ラピュタ

 

「「…………」」

 

おそらくこの世界において、これほどの高度に到達した人類はパズーとシータが初だろう。

眼下には丸みを帯びた地平線、少し見上げれば漆黒の空と満天の星。

あまりに壮大な光景にパズーたちは息をすることすら忘れている。

 

この高度になると酸素がほとんどない。

予め息を止めるようには伝えていたが無意識に従ってくれるなら好都合だ。

気温の方はヒノカミがいくらか制御しているがそれでもかなり低い。

この状況でも問題なく行動できるヒノカミが速やかに飛行機を操り、竜の巣の中心、真上へと移動する。

 

そして巨大な雲の塊の中心を見定め、舵を切り一気に急降下する。

 

「「!?」」

 

ここでパズーたちも我に返ったようだ。

だが慌てている彼らが平静を取り戻すまでの時すら惜しい。

わずかな重力が機体に作用し、大気の濃度が上がることでプロペラが生む推力が大きくなっていく。

 

(渦の中心に、垂直に、機体の動きを嵐の向きに合わせて……!)

 

まるで錐揉み回転するかのように、純白の飛行機が嵐の中央に突入する。

真っ白な雲の塊の中は真っ暗な闇が広がり、無数の雷が走っていた。

 

(……!?)

 

そして間もなく気付く。機体の回転速度の方が速くなっている。

飛行機が加速したのではなく、嵐の方が弱まっているのだ。

 

(障壁が……やはり飛行石に反応して!)

 

シータと飛行石が近づけば嵐が止まるという予想は当たっていたが、この状況では逆効果だ。

嵐が晴れればゴリアテはあらわになったラピュタへとあっさり到達してしまう。

そして軍の兵士たちがラピュタへと上陸すれば……。

 

(早く、速く、疾く!)

 

既にかなりの速度が出ているというのにヒノカミはまだペダルを力強く踏みつけたまま。

そしてまもなく、闇の向こうに光が見えてきた。

 

直後、巨大な緑が彼女たちの視界いっぱいに広がった。

 

「ぬぉぉっ!?」

「うわぁっ!」

「キャァッ!」

 

寸前で慌てて舵を切る。

風に揉まれてところどころ装甲がはがれてしまった飛行機が巨大な緑……生い茂る葉と、それを支える大樹、そしてその土台となる荘厳な宮殿の周りをぐるりと飛ぶ。

 

「これが……」

「ラピュタ……!」

 

ついに目の前に現れた天空の城。

感動で打ち震える少年たちに、ヒノカミの呟きが届いた。

 

 

 

「第一層と第二層が、第三層の植物に飲み込まれている……!?」

 

「「え……?」」

 

「これでは頂点からの直通通路は……いや、城壁も半壊しているなら緊急時用の通路が……!」

 

「うわっ!」

 

ヒノカミは急に進路を下へと変え、城を囲む最外周部の倒壊している部分へと近づいていく。

 

「あそこかっ!着陸するぞ!」

 

そしてラピュタ底部の黒い半球体を見定め、その少し上の崩れた建物の開けた平面に着陸しようとする。

 

 

ボボンッ!

 

 

「「「!?」」」

 

だが直前で、飛行機のエンジンが煙を上げ動きを止めた。

無茶をさせすぎていたのだ。

 

「しまっ……捕まれ!舌噛むな!」

 

機体の制御が上手く利かなくなり、このままでは機首が上がらず床に激突してしまう。

ならばまだこちらの方が衝撃が少ないはずと、何とか進路を変え崩れてむき出しになった部分から建物の中に突っ込んだ。

飛行機が通れるスペースなどなく両翼が柱にぶつかりはじけ飛び、この反動でわずかに速度が落ちるも胴体だけが奥へと突っ込んで行く。

 

「くっ!」

 

しかし運悪くすぐ目の前には壁。

前席にいるヒノカミが己の肉体の強度を上げ、後ろの二人に及ぶ被害を少しでも少なくしようと抗う。

 

(ー・-・・-・-)

 

しかし激突の直前でロボットが広げた腕で地面を叩いて機体を持ち上げ垂直にして、手足を前に出しながら自分の体を飛行機と壁の間に割り込ませる。

ロボットは飛行機を襲うはずだった衝撃を全てその身で受け止め、やがてひび割れた壁が瓦礫の山となり、ロボットは飛行機を背負ったままその上へとうつぶせに倒れ込んだ。

 

「つつつ……助かったの……?」

 

「ロボットさん!」

 

「!?ナイフで切ろう!」

 

飛行機の下敷きになったロボットへ駆け寄ろうと身を乗り出したシータだが、彼女とパズーを固定していたロープが食い込み動きを止める。

即座にパズーがナイフを取り出しロープを切断した。

 

 

(ーー・--・--)

 

どうやら完全に壊れてはいないようだが、無事だった手足もひしゃげている。

背中に乗せた飛行機の残骸を押しのけることもできず、眼前でかがむ無傷のシータを見上げて頭部のセンサーを力無く点滅させた。

 

「あ、あぁぁ……っ」

 

「……ゴリアテがくる。今は、走れ!」

 

「っ……はい!」

 

「……ごめんなさい!」

 

飛び降りたヒノカミが冷静に移動を促し、パズーは反発しようとするが状況を思い出して言葉を飲み込み従う。

動けないロボットを連れていくことはできない。

シータは必ず戻ると誓い、涙をぬぐって二人の後を追いかけた。

 

彼らが突入し着陸するまでの間に、ラピュタを覆う嵐は完全に消えていた。

そしてゴリアテの姿がどんどんと大きくなっていく。全速力でこちらへと近づいている。

 

「くそっ、こっちじゃ!急げ!」

 

ヒノカミが建物内部の階段を使って下へと降り、黒い石でできたむき出しの廊下へと走る。

その間に更にゴリアテが近づいてくる。

 

(これは、間に合わんか……!)

 

ヒノカミは速度を緩めずも最悪の事態を想定し始める。

 

 

「っ、なんだアレ!?」

 

「止まるなパズー!今は一刻を争う、些事など捨て置け!」

 

「違うよ先生!あれは……!」

 

叱責しても動かぬパズーにつられ、やむなく彼が指し示すゴリアテの方を見る。

 

巨大な飛行戦艦の周囲には、小さな羽虫のような何かが執拗にまとわりついていた。

色とりどりの煙をまき散らしながら。

 

 

「……フラップター!!」

 

「おばさま!」

 

ドーラ一家の誇る4機の小型飛行機が煙幕を散布しながらゴリアテの進攻を妨害していた。

そしてその遥か後方で、雲海から不格好な親鳥が浮上してくる。

 

「タイガーモス号!無事だった!!」

 

「そうか、スモークで轟沈したフリを……やってくれる!」

 

暗く沈んでいた子供たちの顔に笑顔が戻る。

銃撃の嵐をかいくぐりながら牽制を続けるフラップターにより、ゴリアテの速度が目に見えて落ちている。

 

 

「……行くぞ!」

 

「「はいっ!」」

 

子供たちは笑みを浮かべて力強く応え、そして全力で走り出した。

 

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