『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第2話

虚は人間の魂が変質したもの。

霊の胸についている『因果の鎖』が壊れ胸に孔が空いた時に虚化、つまり人間の霊が虚になってしまう。

中には生前の記憶を覚えていたり言葉を話す個体もいるそうだが、人間らしい感情は失われ、大半は食欲と破壊衝動しかない獣同然の存在へと堕ちる。

そして虚の主食は人間の魂。隣互の予想通り霊感を持つ、つまり霊力の高い魂を好むらしい。

 

「だとしても、隣互が過剰に襲われる理由まではわからないの。

 霊力の量なら、一護の方が多いくらいなのに……」

 

「……それは、儂の魂が異質だからでしょうな……」

 

本当はずっと前から心当たりがあった。OMTだ。

それがどのように変質したかはわからないが、幾度も転生を繰り返している魂など滅多にないはず。

秘密を明かせと言っておきながら自分だけ隠し通そうなどという不義理をするつもりなどない。

隣互は自身の出生の秘密を洗いざらい吐いた。

 

「生まれ変わり……?未来から?」

 

「遠い先の話です。どのような歴史を歩みその世界になったかは語れぬ……いえ、語れるほど良い歴史ではありませぬが……」

 

胡坐をかいていた隣互は正座に組み換え、一心と真咲に向かって両手を付き、額を床につける。

 

「申し訳ありませんでした」

 

自分が虚に襲われるのは、自分の自業自得だった。

自分は何も知らない家族に寄生虫のように居座るだけに飽き足らず、彼らの愛する息子たちを危険に晒し続けてきたのだ。

何かを頼める立場ではなかった。黒崎の名を名乗る資格すらない。

 

「憎いとおっしゃるならば八つ裂きにしていただいても構いませぬ。

 手を下すことすら億劫なら腹を切りましょう」

 

「何を言ってるの!?」

 

「ですが、儂はただの疫病神ではありませぬか。

 もはやすぐにでも果てて、この身をお返しするくらいしかできることが……」

 

「馬鹿言うんじゃねぇ!!」

 

ここまで黙っていた一心が、部屋で子供たちが寝ていることすら忘れて叫ぶ。

 

「……憎くはないのですか?醜くはないのですか?

 お二方の子の振りをしていたのは、百に迫る年月を生きた老婆なのですよ?」

 

「それを言ったら俺なんて人間ですらねぇよ!!」

 

「……は?」

 

一心の予想外の告白に、隣互は呆けた表情で顔を上げた。

 

「俺は元『死神』だ!

 百歳のババアだぁ!?数百年生きた俺に言わせりゃまだまだガキじゃねぇか!」

 

「は?死神?……死神と言えば、もっとこう……」

 

「あ!お前も西洋の方のイメージ引きずってんな!?」

 

「ほらほら、一護たちが起きちゃうわよ。

 ひとまずお互い、落ち着いて話をしましょう?ね?」

 

真咲のとりなしで一心は引き下がり、隣互は必死に情報を整理しながら土下座から正座に戻る。

 

「あー……ここまで一気に明かすつもりはなかったんだが……」

 

あの世……尸魂界(ソウルソサエティ)には霊たちの社会が形成されており、死神はそこに住まう人間霊によく似た戦闘員。

彼らの役目は尸魂界と現世のバランスを保ち、世界を守り続けること。

虚は元は人間の霊。滅却師は文字通り虚を消滅させてしまう。

それはこの世界から霊の数が減ることになり、いわゆるあの世とこの世の霊のバランスが崩れてしまうらしい。

対して死神は斬魄刀と呼ばれる特殊な武器で虚を倒すことで浄化し、尸魂界へと導く。

 

「事情があって力は全部失っちまったんだけどな。

 今は義骸っつぅ人間を模した作りもんの体に入り込んでんだ。

 ……ある意味お前と似たようなもんさ。俺にお前を責める資格なんてねぇよ」

 

「そして私もそれを知ったうえでこの人を受け入れたの。

 あなたを気持ち悪いなんて思ったりしないわ。

 それとも……私たちを親と呼ぶのはいや?」

 

「そのようなことは!決して!」

 

「だったら今まで通りでいいじゃない。

 ううん、今まで以上に。

 だってようやく、私たちは家族になれたんだもの」

 

お互いにずっと隠していたことを打ち明け合って、ようやく本当の家族に。

 

(敵わんな……)

 

精神年齢で言えばこの場で誰よりも幼いはずの真咲が、誰よりも大人だと思えた。

 

「……ん?」

 

「どうしたの?」

 

「いえ、ふと思ったのですが……百を子供と言い張る父上が、当時20そこらの母上を娶ったのですか?」

 

「んがっ!?」

 

「あらあら、じゃあ私は赤ちゃん?」

 

「なんと失礼な。母上は斯様に素晴らしき大人の女性だというのに……」

 

「ふふ、ありがとう」

 

「言い出したのお前じゃん!その蔑むような眼はやめて!?

 一護と夏梨に続いて隣互にまでそんな目をされたら、お父さんの天使が遊子しかいなくなっちゃう!!」

 

「声を落とさねばその天使が目覚めて堕天してしまいますぞー」

 

精神年齢はともかく隣互の肉体年齢はまだ幼いため、適性を見たり、知識を蓄えたりして、少しずつ霊と戦う方法を学んでいこうという話になった。

隣互は素晴らしい家族に恵まれた。

弟妹だけでなく、両親をも守り抜ける力を必ず身に着けて見せると決意した。

 

彼らとの別れがすぐそこに迫っていることなど知りもせずに。




一度目と二度目が20代前半、三度目が40前。そして今が四度目で9歳。
合計しても3桁に届きません。
しかも子供の時代を何度も繰り返しているため、老婆という程大人として振舞った時間はないのですが……。
……そういえば一心って何歳なんでしょう?4桁いってるはずはないだろうから数百としましたが、もしかして主人公と大差なかったり……?
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