『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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作者なりの独自解釈と設定の追加で、『天空の城ラピュタ』の謎を補完していきます。
ヒノカミ自身が疑問や問題の棚上げを嫌うため、本作では原作で曖昧だったりモヤモヤした部分はそのままにせず、独自設定でもなんでも駆使して余さず解消するようにしています。

ムスカがラピュタの雷を『旧約聖書にあるソドムとゴモラを滅ぼした天の火』であると断言しており、旧約聖書は紀元前1400~450年を記した書とされています。つまりその頃にはすでにラピュタは天空にあったことになります。
パズーの父が撮ったラピュタの写真の右下に、小さく『1868年』とあることから物語の舞台は19世紀後半。
これらの情報から、ラピュタが天空へと移動した年代を推測し設定しています。


第19話 語られる歴史

 

「儂がラピュタ王国を初めて訪れたのは……大体3000年前か?

 儂はちょくちょく俗世を離れておるでの。正確な年数は悪いがわからん。

 この世界に戻ってきたのもここ100年ほどの話でな」

 

「3000年……!?」

 

「その頃にはすでに、ラピュタ王国はこの城を建造できるだけの技術力を持っておった。

 ラピュタ人はそれほどに知的で賢く、争いを嫌う穏やかな民族であったよ。

 ちと傲慢が過ぎるきらいもあったが……当時の他民族の蛮族具合を思えば傲慢になるのも無理はなかろう」

 

「……え?穏やか?」

 

「ラピュタは地上を恐怖で支配していたんじゃ……」

 

「『ラピュタとは恐るべき科学力で天空にあり、全地上を支配した恐怖の帝国』。

 この伝承に誤りはないが、お主らは一部を誤解しておる。

 ……なぁ、ラピュタが地上を支配して何の得がある?」

 

「は?得?そりゃあ……そりゃなんだ?」

 

「今の時代よりも遥かに進んだ文明を持ち、これだけの城を作れる連中じゃぞ?

 未開文明の他民族が用意できるような物を欲しがると思うか?

 精々が金銀などの希少金属くらいじゃが、それなら奪い取るだけで十分。

 支配までする必要はない。支配とはお主らが思う以上に手間と苦労がかかる」

 

「物じゃない……なら、奴隷とか?」

 

「労働力はロボットで事足りる。

 優秀で命令に忠実、食事も休息もいらず数百年でも稼働し続ける。

 わざわざ未開の蛮族に仕事を教える方が面倒じゃ。

 よって『ラピュタには全地上を支配するメリットがない』」

 

「だがよぉ、伝承に誤りはねぇんだろ?

 ならなんでラピュタは地上を支配してたんだ?」

 

「3000年以上も前ともなると、人類は本当に野蛮でな。

 欲しい物は力尽くで奪い取るのが当たり前の時代じゃった。

 『豊かなラピュタから略奪しようと攻めてくる国』はあまりに多く、どれだけ追い返してもしつこく繰り返すので、いつしか二度と反抗しないよう敵対国は徹底的に滅ぼすようになった。

 すると『勝ち目がないと悟り滅ぼされる前に降伏する敵国』や『ラピュタの恩恵にあずかろうと自ら従属を願い出てくる国』も出てきての。

 そこに『野蛮で愚かな人類を導いてやるべきだ』という一部の臣民の主張が加わり、成り行きで地上全てを支配する帝国へと至ったのじゃ。

 ……さぁて、今の説明の中にお主らの誤解を解くカギがあったんじゃが、なんだかわかるかな?」

 

「えっ!?え~~っと……ママわかる?」

 

「……ラピュタが地上を支配したのが周辺の敵国に対処するためだってんなら、天空に移住した後は地上を支配する理由が完全になくなる。

 天高くに浮いてる島を昔の連中がどうやって攻めるって言うんだい?」

 

「「「あぁっ!」」」

 

「正解じゃドーラ。お主らが誤解しておったのは順序。

 恐るべき科学力で『天空にあった』国が『全地上を支配していた』のではない。

 恐るべき科学力で『全地上を支配していた』国が『天空へと移住した』のじゃ。

 全地上がラピュタに支配されていたのは『天空にあったラピュタが滅びた700年前まで』ではなく、『ラピュタが地上に存在していた3000年前まで』なんじゃよ。

 そもそも700年前までずっと全地上が支配されていたにしては、地上に残されている伝承が少なすぎるじゃろ」

 

「っ!?そうか、先生のノート!

 世界中を調べたのに、集まった情報があの一冊に収まる量だなんておかしいよ!」

 

「……東洋の、特に極東の島国は物持ちがいい。

 昔アタシが行った時にゃあ千年以上前の遺跡や文献はいくらでもあった。歴史に詳しい奴もいた。

 だがラピュタの話なんざ、欠片も聞いたことがなかった……!」

 

「い、言われてみりゃあ……」

 

「700年前じゃなくて、3000年前だってんなら筋が通るな」

 

「じゃあ2300年もの間、ラピュタは空に浮いてるだけで地上に手出ししてなかったっての?

 だとしたら、知的で穏やかってのもあながち嘘とは言えねぇのかな……?」

 

「まったくの不干渉だったわけではないが、今は脇に置こう。

 話を戻すと、ラピュタが天空に移住したことでラピュタによる支配は終わった。

 と言うより、支配を止めるためにラピュタは地上を離れたんじゃ」

 

「どういうこと?」

 

「言うたじゃろ?ラピュタにはメリットがなく、支配には手間と苦労がかかると。

 いつまで経っても成長が見られず、隙あらば寝首を掻こうとする面従腹背の人間たちに付き合うのに疲れたんじゃよ。

 故に当時のラピュタ王は『物理的な鎖国』を検討していた。

 丁度その頃に儂がラピュタを訪れ、彼らの言い分にも一理あると判断し協力することにした。

 それほどまでにラピュタ人は突出しすぎていた。他の民族とは距離を置いた方が互いのためであろうとな」

 

「だからラピュタを、地上の人たちじゃ手が出せない空を飛ぶ島に改造した……!」

 

「そう。そしてラピュタの旅立ちを見送り儂もまた旅に出た。

 その後はどこぞの空で元気にしとるんじゃろうと思っていたが、最近になってラピュタは滅びていたと知った。

 ラピュタはちゃんと手入れをすれば数千年どころか数万年でも維持できる城だったはず。なのになぜラピュタは滅びてしまったのか。

 もしその原因がラピュタという城そのものの欠陥だったとしたら……儂は彼らに償わねばならぬと、そう思っていた。

 ラピュタ建造に携わった一人としてな」

 

「だから先生はあんなに必死にラピュタを調べてたのか……その石碑に原因が書いてあったんですか?」

 

「大まかにじゃがな。儂の推測で補完し、順を追って説明しよう。

 天空に移住したラピュタは、以降は下界との干渉を絶っていた。

 何度か例外はあったようじゃが」

 

「例外?」

 

「ラピュタが天へと昇ってまもなく、下界では空白となった頂点の座と、ラピュタが地上に残したわずかな遺産を奪い合い、至るところで激しい争いが頻発した。

 その幾つかがあまりに凄惨で、見かねて天空より主砲を打ち込んで消し飛ばしたらしい。

 年代からおそらく……旧約聖書の『天の火』とラーマヤーナの『インドラの矢』じゃな」

 

「「「……!」」」

 

「ラピュタ人は争いを嫌う穏やかな性格ではあった。でなければ閉鎖された環境で2000年以上も国を維持できるはずもない。

 しかし同時に傲慢でもあった。それは天に昇ってからはより顕著になっていたようじゃな。

 ラピュタ人は天空の楽園から地上の醜い争いを一方的に見下(みお)ろし……いや『見下(みくだ)し』ていた。

 そしていつしか自分たちが天上人……神のような存在だと錯覚し始めていた」

 

「……ま、頭の出来どころか文字通り住む世界が違うってんだ。無理もねぇか」

 

「事実、地上の伝承にある天国やそこに住まう天使といった存在は、何度か地上に降りたラピュタ人を誤認してのことだったケースもあったようじゃからな。

 しかし今より700年前、彼らは思い知ることになった。

 ラピュタ人も所詮ただの人間でしかなかったとな」

 

「!?いよいよラピュタを捨てた理由か……一体何があったんだい?」

 

「疫病が蔓延したんじゃ。おそらく荒れ果てた地上で生まれた毒素が変異し、上昇気流に乗って天まで届いてしまったんじゃろう。

 一度感染すれば最期、彼らの科学力をもってしても治療することはできなかった。

 ……正確には、特効薬は作ることができた。しかし当時のラピュタ人には使えなかったんじゃ」

 

「薬が使えない?一体どうして……」

 

「薬が効果を発揮するよりもラピュタ人の衰弱の方が早かったからじゃ。

 初期症状での投与に成功しても、薬の副作用にラピュタ人の体が耐えられんかったらしい。

 労働は全て機械任せで、数千年も争いも苦労もない天上の楽園で過ごしてきた彼らは、著しく虚弱になっていたんじゃ。

 だから病に感染しやすく、症状の進行が早く、薬が病原菌を倒す前に体の方が倒れてしまう。

 自らの誇る科学ではどうにもならず、自らが如何に無力であるかを自覚したラピュタ人は、敗北を受け入れ国を捨てる決断をした。

 城に蔓延した病から逃れるには城を離れるしかなかった」

 

「「「…………」」」

 

「……が、彼らはただ地上に逃げ延びるだけでなく、自尊心とラピュタの超文明、そして己がラピュタ人であることまでも全て捨てた。

 疫病のはびこる城から逃げ出しても、己の身体が弱いままでは根本的な解決にならない。また何かの病にかかってしまう。

 故に泥にまみれ汗を流し歯を食いしばって、愚かと見下した人間たちのように強く生きねばと考えた。

 だからロボット兵の一機も連れず、道具も財産も置き去りにして、ほぼ身一つで地上に降りた。

 ……まったく、極端すぎるわ。頭がいい奴の考えることはようわからん」

 

 

「……『土に根を下ろし、風と共に生きよう』」

 

「シータ?」

 

「『種と共に冬を超え、鳥と共に春を歌おう』……ゴンドアの谷の歌です。

 これは、もしかして……」

 

「……自然との共存、その誓いを後世まで伝えるために遺した歌であろう。

 そして地上に降りたラピュタ人たちは散り散りになり、人間として生きることになった。

 ……だがラピュタ王の一族だけはまだ、己がラピュタ人であることを捨てるわけにはいかなかった」

 

「えっ?」

 

「地上に降りた当時のリュシータ王女には、まだ王族としての使命が残っていたからじゃ。

 だから彼女は己の名と、飛行石と、ラピュタへと導く言葉を伝承し続けた。

 いつか地上の機械文明が発達した時、もう一度ラピュタに戻り使命を果たすために」

 

「使命……?」

 

「まさか、王国の再興!?」

 

「……当時のラピュタ人のすべてが地上に降りたわけではない。

 ラピュタにはまだ多くのラピュタ人が残されていた。

 病に侵された者、そして病に侵されるとわかっていても故郷を捨てられぬ者たちがな。

 彼らがどうなったかは、今のこの城の有様を見ればわかるじゃろう。

 もちろんリュシータ王女も彼ら自身もすぐにこうなると予想していた。

 だが彼らがラピュタで生き残る可能性はゼロではなかった」

 

「もったいぶるね。結局その使命ってのは一体なんなんだい!?」

 

 

 

 

「『墓参り』じゃよ」

 

「「「「「!?」」」」」

 

「王には生を望む民を新天地へと導く義務があった。

 しかし死を覚悟しているとはいえまだラピュタには生きている民もいる。

 民ある限り王は王。『助かるはずがない』『死んだに決まっている』などと勝手に決めつけることなど許されない。

 だからラピュタへ戻り、ラピュタに残った臣民全てが死に絶えたことを見届け、彼らを弔ってからでなくては、王は王冠を降ろせない」

 

「王冠を……降ろす……?」

 

 

「そう、ラピュタ王族が子孫に託した使命とは『ラピュタ王国の最期を見届けること』。

 この城は城に残ったラピュタの民たちのための巨大な墓標。

 そしてこの地に舞い戻ったシータは、たった今彼らの弔いを済ませた」

 

「「「「「あ…………!」」」」」

 

 

「700年の時を超えて、リュシータ王女の願いは果たされた。

 これで残るラピュタ人は彼女の名を継いだ少女が一人。

 されど民無くして王は無く、王無き国は王国にあらず。

 ……ラピュタ王国は今日、ようやく完全に滅びたんじゃ」

 




ヒノカミがこの世界を訪れたのは『ラピュタに支配されている時代』。
しかしそれも仕方がないと言える状況だったため、彼女は逆に支配者であるラピュタに協力しました。
助けに応えてやってきたとしても、誰をどう助けるかは彼女の判断で行います。

・なぜラピュタの情報がほとんど地上に残っていないのか。
・なぜラピュタ人は地上に降りるときに財宝やロボット兵を置いていったのか。
・ゴンドアの歌に託された本当の意味は。

原作への疑問や疑念に対し、作者なりに立てた仮説が上記となります。
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