『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第20話 ラピュタ王の資格

 

「出鱈目を言うな!」

 

「「「「「!?」」」」」

 

ヒノカミから語られたラピュタの過去に言葉を失っていた一行。

その沈黙を破ったのは後ろ手を縛られ彼らの傍に転がされていたムスカだった。

 

彼はヒノカミから地面に落とされた時に意識を取り戻していた。

そして逆転の機会を伺い気絶した振りを続けていた。

しかし彼女の語る話の内容がとても受け入れられず、耐え兼ねて大声を上げてしまった。

 

「こんにゃろ……っ!?」

 

強引に縄をほどいてヒノカミを目掛けて飛び出した彼を、ドーラ一家はすぐさま取り押さえようとした。

だが石碑の前にいたヒノカミが体を横にずらしてムスカを避け、そのまま掌を広げてドーラ一家たちを静止させた。

 

ヒノカミはムスカが意識を取り戻していたことなど当然気付いていた。

そして今の彼が抱いているのが自分への害意ではなく、自分がその気になれば容易に止めることができるからとひとまずムスカの自由を許した。

未だ謎のままの彼の正体を探るためであったが、彼が血走った目で石碑の文字を睨みつけていたことから推測は確証に変わった。

 

「……!?馬鹿、な……っ!」

 

「ラピュタの文字が読めるのか。

 ……そういえばラピュタ王の一族はもう一つあったな。

 貴様、『パロ家』の者か」

 

「パロ家?」

 

「ラピュタ王族の、分家の一族じゃ」

 

「じゃあコイツもラピュタ人なのか!?」

 

「うむ。トエル家よりももう少し伝承が残っていたようじゃな。

 ……しかしこの様子では、知っている情報は儂と大差もなかったか」

 

軍に協力しシータを強引に連れ出すなど、ムスカの動きは明らかに『ラピュタを手中に収めるため』だった。

ラピュタ人がラピュタを捨てた理由と、王族がもう一度ラピュタに戻らねばならない理由を知っていたら、こんな行動は選択しなかったはずだ。

 

「我が一族の悲願が、こんな……認められるものか!

 ラピュタは滅びぬ!何度でも蘇る!!

 ラピュタの力こそ人類の夢なのだから!!」

 

「……ほう、では貴様がもう一度ラピュタ王国を興すとでも言うのか?」

 

「リュシータ……君が王としての地位を捨てると言うのなら次の継承権は私にある!

 この『ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ』が新たなラピュタ王だ!

 さぁ!その飛行石を王へと差し出せ!!」

 

「ふざけるな!お前みたいなやつにラピュタは渡さないぞ!」

 

「力づくでってんなら相手になるぜぇ?」

 

「腕っ節でドーラ一家に敵うと思うな、エリートさんよぉ!」

 

パズーとシャルルたちが袖を巻くって力こぶを見せつける。

ムスカも軍人なら相応に鍛えているだろうが、武器も持たない殴り合いで海賊に勝てるはずもなく人数差も圧倒的。

現実の見えていない裸の王様の一人くらいさっさと倒してしまおうとドーラたちは考えていた。

しかしまたしてもヒノカミが彼らを手で制する。

 

「確かに貴様に継承権があることは間違いない。じゃが資格があるかは別じゃ。

 貴様がラピュタ王を名乗るというのならば、この問いに答えてもらおう。

 正しい答えを返すことができたのならば、貴様にラピュタ王の座を継ぐ資格があることだけは認めよう」

 

「何言ってんだよ先生!?」

 

「資格……問いだと……!?」

 

 

 

 

 

「『123456×789123』は?」

 

 

 

 

 

「「「「「…………は?」」」」」

 

「聞こえんかったか?

 『123456×789123』は?

 制限時間は10秒じゃ。はい10,9,8……」

 

「え?え!?なに、掛け算!?」

 

「ふざけているのか貴様ぁっ!!

 言葉を慎め!ラピュタ王の前だぞ!?」

 

「……3,2,1,0。

 答えは『97222687328』じゃ。

 貴様にラピュタ王の資格なし。潔く諦めよ」

 

「なんでいきなり数学なんだい!?

 なんでそれがラピュタ王の資格になるってんだい!?」

 

「そうだよ先生!勉強ができるかどうかなんて……!」

 

 

 

「重要なんじゃよ。勉強ができるかどうかが。

 ラピュタ王なら6桁の掛け算くらい、本当は5秒で答えねばならん」

 

 

 

「「「「「…………は?」」」」」

 

「ラピュタは科学で発展した国家であるが故、何よりも頭脳明晰であることが重要視される。

 こんな簡単な問題に答えられぬようではラピュタ王どころか、ラピュタ人を名乗ることすらおこがましい」

 

「「「「「…………はぁ!?」」」」」

 

「ラピュタの超科学とは、ラピュタ人並の頭脳でなければ理解できん代物なのじゃ。

 ラピュタの知識はこの城の中枢部に記録されており、王国において最も重要な場所であるがために王族しか出入りを許されない。

 故にラピュタ王となるならば、記録された情報全てを理解するだけの知恵と知識が必須なんじゃよ。

 でなければ過去の記録から必要な情報を取り出すことも、新たな情報を記録することもできんからな。

 ラピュタ王国を維持・発展させる能力がない者に、ラピュタ王となる資格はない」

 

「「「「「はぁぁぁーーーーっ!?」」」」」

 

「な……ぁ……っ!」

 

「地上の王国とは違うんじゃよ。ラピュタ王を名乗る資格は血統だけでは足りぬ。

 『ラピュタ人の頂点を名乗るに相応しい頭脳の持ち主』であることが求められる。

 ……さて、大サービスでもう一度だけチャンスをやろう。

 『489487×489491』は?」

 

「っ!?よ、よん……!」

 

「答えは『239599481117』。

 こっちは二乗の計算を応用すれば簡単じゃろ。3秒で答えんかい。

 ……これでわかったであろう?

 ラピュタ人の王を名乗るには、『貴様は頭の出来が悪すぎる』」

 

「がっ…………」

 

ムスカは聡明な男だった。

幼い頃より神童ともてはやされ、努力も重ねてきた天才だった。

30前後という若さで大佐という地位についたことからも彼が優秀であることは間違いないだろう。

だがそれは『人類の範疇で』の話だ。

比較対象がラピュタ人となれば彼程度では最底辺どころか枠の外。

生まれて初めて『馬鹿だ』と断定され、天狗になっていた彼の長い鼻が音を立ててへし折れた。

 

そしてパズーやドーラたちが怯えるような表情でシータを見ていた。

視線に気づいたシータはすぐに勢いよく、何度も首を横に振った。

まぁ彼女は山奥で早くに家族を亡くして一人暮らし。勉強などできない環境なのだから無理もない。

 

 

「懐かしいのぅ。昔のラピュタ王国では定期的に大々的な知恵比べの大会を開いておったのよ。

 在野に隠れた才を見つけるために参加条件が設けられていなかったので、旅人だった儂も飛び入りで参加したんじゃ。

 そして決勝にてラピュタ王と対決し、数時間にわたる激闘を繰り広げたが決着がつかず、引き分けとなった。

 儂らは互いを認め合い、儂は名誉ラピュタ国民として迎え入れられたのじゃ」

 

「何その大会。超見てぇ」

 

「つまりアンタは、ラピュタ王並の頭脳があるってことかい……」

 

「儂は長く生きとる分有利なわけじゃから、ラピュタ王の方が優秀であったことに間違いはないがな。

 ラピュタ人は愚者を見下すが、賢者と認めれば異人であろうと敬意を払う民族であった。

 余所者の儂に国家事業である天空城建造の現場総監督を任せるくらいじゃしな」

 

「「「現場総監督!?」」」

 

「うむ。なんでロボットたちに指示するのも慣れたものよ。

 まぁ当時は彼らが儂に従うように設定されていたことも…………っ!?」

 

「先生?」

 

「……シータ、ちょい飛行石貸して」

 

「え?えぇ、どうぞ……」

 

突如言葉を詰まらせ硬直したヒノカミが、再び動き出してシータから借りた飛行石を首元にかける。

そして傍にいる園丁のロボットに近づき、正面に立って見上げる。

 

(ー・-・-)

 

すると園丁のロボットが右手を胸元に添え、飛行石から彼の胸の紋章へと光が伸びた。

地上にてシータが半壊していたロボット兵と向かい合った時と同じように。

 

 

 

「……ゲストアカウント残っとったんかい……っ!」

 

 

 

「「「へ?」」」

 

「ゲスト……なんだいそりゃ?」

 

 

「……ラピュタ城の建造を進めるにあたり、ロボットたちに指揮したり、飛行石の動作を確認したりが必要なのはわかるな?」

 

「「「うん」」」

 

「しかしその権限は本来、ラピュタ王以外が所有してはならんこともわかるな?」

 

「「「……うん」」」

 

「だから現場総監督だった儂には一時的に、そして疑似的に『ラピュタ王族と同等の権限』が与えられていた。

 『王族からの許可証』を持っている場合に限り……ちょうど、この飛行石のような……」

 

「「「まさかっ!?」」」

 

 

 

「アンタが王族の代わりになるから、シータを危ない目に合わせる必要はなかったってことかい!?」

 

「ひ、飛行石が目覚めた後は……そうなる」

 

「「「なにぃーーーーーっ!!?」」」

 

シータが危険に飛び込むのでなければ、パズーも同行しようとは言い出さなかっただろう。

それは薄情なのではなく彼がヒノカミを信頼しているからだ。

であれば、この道中においては……。

 

ティディス要塞への緊急出動。

ロボット兵への対処。

竜の巣への突入。

ラピュタ中枢部への疾走。

これらは全て飛行石を持ったヒノカミ一人で対処できたことになる。

 

途中からは気付くチャンスもあった。

要塞から脱出した後はロボット兵と行動を共にしていたし、シータは飛行石を彼女とドーラに預けていた。

試しに飛行石を持ったままロボット兵に近づいていればそこで発覚していただろう。

 

「じゃがおかしいじゃろ!?

 こんなモン、必要性が無くなったら一刻も早く削除するべきじゃろがい!

 なんで残しとったんじゃあの馬鹿!!!」

 

「知ったこっちゃないよ!

 『頭のいい奴の考えることは分からん』っつってたのはアンタだろうが!

 女の子を何度も無意味に危険に晒して、何やってたんだいこの馬鹿!」

 

「「「そうだそうだーーーっ!!!」」」

 

「うごごごご……か、返す言葉もないぃ……!」

 

 

 

「馬鹿……私が……?

 あんな奴よりも、馬鹿……!?」

 

「「…………」」

 

ドーラ一家に責め立てられ頭を抱えるヒノカミ。

四つん這いになったまま彼女らのやり取りを目にして呆然と呟くムスカ。

そして未だ警戒しつつも少しだけムスカに同情してしまうパズーとシータ。

 

(ーー・・・--)

 

そんな人間たちを、園丁のロボットが静かに見つめていた。

静寂に包まれていた彼の700年に、騒音が戻ってきた瞬間だった。

 

 

 

ちなみになぜヒノカミの権限が残されていたのかはすぐに分かった。

騒動の後、もう一度ラピュタ中枢部へと降りたヒノカミは、その記録の中にどう考えても無駄な情報が紛れ込んでいることに気付いた。

 

3000年前のラピュタ王は、ヒノカミが不老であることを当然知っていた。

だからいつか自分が死んだ遠い未来に、もう一度彼女がラピュタにやってくると信じていた。

そしてまたラピュタ王国と民を引っ掻き回してくれるに違いないと考え、その時に備えて彼女の権限を残すようにと後世に伝えていた。

ヒノカミの成した功績と、ヒノカミに当てたメッセージと共に。

 

「知識の蔵にまで書き込みおって。何やっとるんじゃ、馬鹿者」

 




本作におけるラピュタ人とは、いわゆる『学者バカ』の集まりです。

次回エンディングとなります。
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