『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第21話 『雲の峰の向こうに』

 

ラピュタの城壁はボロボロで崩壊寸前、これが地上の街の上にでも落ちれば大惨事と思い、ヒノカミは応急処置をロボットたちに指示していた。

しかし自分に多大な権限が残されたままだと気づいた彼女は、シータから飛行石を借りてラピュタ城の本格的な修繕に着手し始めた。

停止していたあらゆる機能を再起動させ、復元ではなく改装を目指す。

大樹に呑まれてここまで姿が変わってしまえば、元通りにするのはどう考えても無理だからだ。

 

そして城の中で最も大規模な改装が必要なのは最下層かつ最大面積を持つ第四層だ。

だがドーラが求めていた財宝が保管されているのも第四層である。

大勢のロボットがひしめき作業する場に人間が紛れ込むと非常に危険。

よってヒノカミはロボットたちに、作業ついでに財宝の類は一か所にまとめておくように指示しておいた。

 

なので作業が一区切りするまでドーラたちはラピュタを離れられない。

数日は掛かるというので、彼らは思い思いの時間を過ごしていた。

パズーたちと一緒に園丁のロボットの案内で第三層を散策したり。

惰眠をむさぼったり。

フラップターとタイガーモス号の整備をしたり。

タイガーモス号の一室に軟禁している放心のムスカを律儀に監視していたり。

 

そして三日後。

彼らの目の前にはうずたかく積まれた金銀財宝の山があった。

これでも歴史的価値があるものや、ラピュタの技術が使われているため地上に降ろすわけにはいかないものを除くなどして厳選しているのだ。

だがそれでも、どう考えても、どう頑張っても、タイガーモス号の大きさではその1割ですら積み込めない。

とんでもない量のお宝を手に入れたのに、それ以上のお宝を置いていかねばならない状況に、海賊たちは喜びと悲しみが入り混じった何とも言い難い表情をしていた。

 

「げらげらげら。ま、使い切ったらまた受け取りに来るといい。

 それまでちゃんと預かっておいてやる」

 

「……アンタ、本当にいいんだね?」

 

「あぁ、決心は変わらぬ。儂はラピュタに残る」

 

軍はラピュタの存在を確信した。

今回の失敗と損害からすぐには動かないだろうが、やがて再びラピュタを目指すだろう。

 

だから、ヒノカミがこの地に残って守ると決めた。ラピュタ人の墓守として。

ラピュタ王に相当する権限を持ち、飢えも老いもない彼女でなければできないことだ。

 

「ひとまず姿を隠し、時間をかけて城の改修を続けるつもりじゃ。

 そしていつか今以上に科学文明が進んだ時に、再びこの世界にその姿をさらそう。

 天空の要塞ではなく、空を旅する者たちの楽園となったラピュタをな」

 

「フン!何十年かかるかわかんないってのに、馬鹿な奴だね!」

 

「げらげらげら。儂にとっては永遠も刹那も同じことよ」

 

「でも『また来ればいい』ってどうやって?

 飛行石は先生に預けなきゃいけないし……」

 

「案内役をつけてやる」

 

ヒノカミが背後に並ぶロボット兵たちを向いて手招きすると、集団の中から一体がゆっくりと歩み出てくる。

 

(ー・-・-)

 

「……アナタは……!」

 

「ラピュタへの航路は彼の頭脳に記録しておいた。

 ……貴君をリュシータ・トエル・ウル・ラピュタの近衛に任命する。

 彼女が王であろうとなかろうと関係ない。守り通せよ」

 

(ーー・・--・・--)

 

修復が終わったばかりのロボット兵が、飛行石も持たぬ少女に敬礼する。

かつて二人が地上で向かい合ったときと同じように。

 

 

 

親鳥を模した飛行船が、乗せられる限りの財宝を詰め込み、一機のお供を連れて、天空の城から離れていく。

無数のロボットたちが大きく手を振り見送って、彼らの姿が雲の下へと消えたところで、先頭にいた唯一の人間がその場で振り返る。

 

「彼らが再び訪れたときに、美しいラピュタを見せられるように……。

 忙しくなるぞ!ついてこい!!」

 

(((((ーーー・・・---)))))

 

新たな主に倣って、兵士たちが一斉に大きく右腕を突き上げた。

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

ラピュタから追い返され漂流したゴリアテは隣国の領域へと不時着していた。

武装を失い満足に戦うこともできなかった軍人たちはあっさりと捕らえられたが、侵略行為と見なされるには十分すぎた。

にわかに国境付近がピリついてしまい、しかしラピュタ捜索の過程で大勢の軍人と、要塞と、最新鋭艦を失った軍に余力はない。

空のどこかにある理想郷より目の前にある脅威に対処せざるを得ず、国はラピュタ探索を打ち切った。

 

いつもの無線傍受によりその情報を入手したドーラ一家は、再び活動開始を決定した。

彼らはパズーとシータを連れてスラッグ渓谷へと戻り、念のためにとそのまま町に潜伏していたのだ。

再びやってきた海賊たちを当然住民は警戒したが、パズーの説得とドーラ一家が『ヒノカミの取り分だ』と町に寄贈した大量の財宝を前に警戒を解いた。

そして彼らの冒険譚を聞き、その証拠となるロボット兵を前にして、少年と海賊一家を英雄ともてはやした。

街はシータを捕らえるために暴れた軍により大きな被害を受けており、横暴な軍よりも仁義を通した海賊に好意的になるのも無理はあるまい。

特に親方のダッフィは、以前互角の殴り合いをしたシャルルと妙な友情を築いていた。

 

ちなみに捕らえていたムスカは地上に降りるや否や放り出した。

生気を失った奴に、もはや悪事を企てる気力が残っているとは思えなかったので。

軍の無線でも彼の話題が上ることはなく、どうやら軍にも戻らなかったらしい。

これからどうするかは知らないが、どうなろうと知ったことではない。

 

数日後、ドーラ一家の出発の日。

そして彼らと共にシータとロボット兵もこの地を去る。

彼女の生まれ故郷であるゴンドアに帰るためだ。

無理やり連れ去られた時に黒眼鏡の男たちが『問題ないよう対処した』と言っていたが、あまり長く家を空けると家畜たちが心配だ。

町の住人達に別れを惜しまれつつ、ドーラの操縦するフラップターに乗り込むシータ。

するとここまで黙っていたパズーが突然人垣から一歩前に出て叫ぶ。

 

「シータ!」

 

「パズー?」

 

「今度は僕が、自分の力で飛行機を作ってみせる!

 そしたらゴンドアに迎えに行くよ!

 そしてもう一度、一緒に行こう!

 ……天空の楽園、ラピュタへさ!」

 

「……えぇ!待ってる!」

 

 

 

「……いいなぁ」

「うらやましいなぁ」

「オレたちも嫁が欲しいよなぁ」

 

「だったらいい加減親離れしな!

 そんでもう少し女心ってやつを学ぶんだね!」

 

いつまで経っても子供な息子たちにドーラが頭を抱える。

これでは孫の顔を見るのは当分先になりそうだ。

この町には息子たちに好意的な視線を向けていた娘もいたというのに気づいていないとは。

……だがまぁ、これが今生の別れでもないのだから可能性は残されているだろう。

持ち帰ったラピュタの宝を使い切ったら、再びラピュタの宝を回収に行くつもりだ。

そしてその内の4割はまたこの町に届けに来なくてはならない。

それがヒノカミとの契約なのだから。

 

「……元気でな、パズー。

 アンタはこんなんじゃなく、立派な男になるんだよ」

 

「はい!!」

 

「「「『はい』じゃねぇだろこんにゃろぉ!!」」」

 

「やかましい!ホラ行くよ馬鹿息子ども!」

 

「「「待ってよママぁ~~~~!」」」

 

見送りに来た民衆の笑い声と歓声を受けて、海賊たちが再び空へと飛び立つ。

彼らの姿が見えなくなるまでずっと空を見上げていたパズーは、その向こうを見て呟く。

 

「うわぁ、すごい雲……」

 

とてもとても大きな真っ白い入道雲が、まるで彼らの未来を見守るかのように佇んでいた。

 

 

 

「……あの雲の峰の向こうに、きっと……!」

 

きっと、そしてずっと。

空に浮かぶ島がある。

 




『天空の城』、これにて完結となります。

本作は原作の時点でハッピーエンドのようなものですが、弱体化したヒノカミの強さを明確にしておこうという理由が半分。
そして単純に作者が好きだからという理由が半分で選択しました。
えぇ、ビデオテープが擦り切れる勢いで見ていましたとも子供の頃から。
マニアックなグッズとかもそれなりに持ってたりします。ムスカの3分タイマーとか。

ただ書き始めて思ったのは、ヒノカミを動かすのがとんでもなく難しい!
チートキャラを書くのに慣れてしまっていたのでしょうか。
できることはぐっと少なくなったのに彼女の性格はそのまんまなので、下手な展開にするとバッドエンドに突き進みそうでかなり難しい舵取りをすることになりました。
次はもっと書きやすい世界にして暴れさせたいなぁ。

と、言いながらも次の話は決めていませんが。候補はいくつかあるけれど。
とりあえず短編を一つ二つ書いて、それから決めようと思っています。
ただ当分多忙なので次の外伝の再開はかなり先になるかと思います。
皆さんが忘れた頃にふらりと帰ってきますので。
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