第1話 魔法先生ネギ
西暦2002年、日本。
ここは埼玉県麻帆良市にある、いや麻帆良市そのものとも言える巨大学園都市『麻帆良学園』。
幼等部から大学部までのあらゆる学術機関が集合しており、膨大な数の生徒を抱え込むマンモス校。
もはや麻帆良の風物詩である毎朝の通学ラッシュが始まり、まるでマラソン大会かと思うほどの大勢の人間がそれぞれの学校に向けてそれぞれの手段で全力疾走する。
「わわわ、何コレ!?スゴイ人!
これが日本の学校かー!」
「これを『日本の常識だ』と思われては日本人もたまらんじゃろ。
こんな光景が見られるのはこの街だけじゃよ」
麻帆良学園中央駅に降り立つ、大きな棒と大きな鞄を背負った異国の少年『ネギ』と時代錯誤の真っ赤な和服を着た小柄な女『六道リンネ』。
少年の首に巻き付いていた白い小動物、オコジョ妖精の『カモ』が身じろぎし声を上げる。
「のんびりしてていーんですかい兄貴?
このままじゃ遅刻しちまいやすぜ?」
「そうだった!初日から遅れるのはまずいよね」
「ではここで別れよう。タカミチによろしくな」
「はい、マスター!」
そして少年だけが生徒たちの波を追い抜くような速さで、麻帆良学園最奥部の女子校エリアへと走り去っていった。
立ち止まって彼らを見送ったリンネは、まもなく喧騒が去った広場を見渡して呟く。
「……変わらんな。ここは」
彼女の呟きに応える者は誰もいない。
「っと、懐かしんでばかりもいられん。儂も動かねば」
前もってこの近くにある不動産屋とやり取りはしていたが、直接出向いて正式に契約を結び住居を譲り受けなければ、自分とネギは今日は宿無しになってしまう。
リンネは野宿くらい慣れているし、ネギも大して気にはしないだろう。
だが仮にも『麻帆良に赴任した教育実習生』となったネギがそんなことをしては風聞が悪過ぎる。
リンネはその場から、先ほどのネギとは比べ物にならない速さで移動した。
文字通り消えるような速さだ。周囲に彼女を見ている人間がいたら騒動になっていただろう。
だがそれは他の日本の街での話だ。
『魔法使いたちが作り上げた街』であるここ麻帆良学園全域には、一般人の認識をずらしたり、非常識を常識と思いこませる思考誘導の結界が張られている。
麻帆良の中央に位置する、天衝く高さの巨大な世界樹すら受け入れられているのだ。
消えるような速さで動く人間くらい珍しくもないのである。
そしてリンネは無事に不動産屋と契約を結び、麻帆良中央エリアの一軒家を譲り受けた。
3階建ての小さなビルで、2階から上が住居。1階は店舗として利用可能になっている。
尤も、ただ空いている住居がこういう構造だったというだけで何か仕事をするつもりは今のところはない。
働かずともしばらく暮らしていける程度に資産があるし、この街に滞在するのはネギの修行期間中だけなのだから、長めのバカンスと考え気ままに暮らす予定だった。
ネギが……魔法使いとは言え、10歳足らずの少年が教師として働くというのに、その保護者が無職というのはどうかとも思うが。
そしてリンネが内装を整えているといつの間にかまもなく夕方。
教師として初日を終えるであろうネギが、そろそろこの新たな住居にやってくるはずだったのだが。
「麻帆良女子中等部の寮に住む!?」
『は、はい……マスターが住居を用意していると学園長に伝えたんですが、『生徒と共に暮らすことまで含めて魔法使いとしての修行だ』とおっしゃって……』
学校の電話を使い、ネギがこちらには来られなくなったと連絡を入れてきた。
「……ん?生徒と共に?
一人部屋ではないんか?」
『はい、受け持つことになったクラスの生徒二人と相部屋に……』
「どちらも子供とは言え男の教師と女子生徒を相部屋とか何考えとるんじゃ……!」
生徒と同じ部屋で暮らすことが修行なんて方便に決まっている。
あのクソジジイのことだからまた何かくだらないことを画策しているのだろうが、それを追求し指摘する資格はネギにもリンネにもない。
この学園、そして『関東魔法協会』の長である『近衛近右衛門』が試験の監督官である限り、メルディアナ魔法学校の卒業試験中であるネギは従うしかないのだ。
「……仕方ない。お主の荷物はもう一度梱包しておく。後で取りにこい」
『はい!あ、でも明日以降になりそうです。
クラスの皆が歓迎会を開いてくれるらしくて……』
「わかった。それと……聞こえているな、カモ?
念を押すが、ネギの顔に泥を塗るような真似はするなよ?
女子校で下着ドロなんぞしおったら皮をはいで蒲焼きにするからな……!?」
『イエスマム!!』
そこで通話を切る。
「……折角作ったのに、無駄になってしまったな」
テーブルの上に並べた料理を見てため息をつく。
二人分だが、彼女一人ならば飲食は必要ないのだから実質ネギのためだけに作った料理だ。
飲食は必要なくともできないわけではないので、空席の椅子を向かい合わせにして座り、全て腹の中へ押し込めていく。
我ながら良い出来だ。だがシチュエーションがこれではせっかくの美食も台無しである。
「……あンのクソジジイ、その内痛い目を見せてやる……!」
リンネが全て食べ終わった頃には、もう夜になっていた。
学園都市であるからこそこの街の門限は厳しい。
見回りをする教師も多く、日が暮れると人の往来はめっきり少なくなる。
そんな夜の街に、リンネは一人で出かけた。
彼女はネギを見守る以外にもこの街にはとある用事がある。
既に後回しにしすぎている案件なのでできる限り急ぎたい。
これに関してだけはネギが不在であることは好都合だった。
町外れの森の中にあるおしゃれなログハウス。
リンネはその前に立ち、家主の帰宅を待っていた。
「なんだ貴様は」
やがて現れリンネに声をかけたのは十歳ほどの異人の少女。
その隣には少女の姿を模したガイノイド。
揃って麻帆良女子中等部の制服を着ている彼女らを正面から見据えたリンネが口を開く。
「儂の名は『六道リンネ』。
『ネギ・スプリングフィールド』と共に麻帆良に来た。彼の師を務めている」
「っ!」
今日から自分のクラスの担任となった少年の名前が出たことで、幼女の警戒心が跳ね上がる。
しかし今の彼女は戦う力を持たないため、その従者であるガイノイドの少女が彼女の前に出た。
「そして彼の父、『ナギ・スプリングフィールド』の代理人でもある。
契約を果たしに来た……『エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル』よ」
リンネが向かい合う少女は少女ではない。
600年を生きた真祖の吸血鬼である。
外伝8『魔法先生ネギま』。
作者が初めて二次創作小説に触れたのはこれが初めてだったはず。
色々と思い入れの深い作品ですが、いつも通り駆け足で進めていきます。
こんだけ書き続けているのに未だに細かい描写とかできないので。我ながら成長がないなぁ。
本作のヒノカミは幼少期からのネギの師であり、現時点では彼以外は原作との差異がほぼないものとします。
また本作では『UQ HOLDER』については一部設定のみを参考にしますが本文中では触れないこととします。
記述するとしたら前書きや後書き、感想のみの予定です。
もちろんそちらも全巻所持して読み込んでいるんですが、あっちの方まで広げると設定やら何やらが深すぎて把握しきれないので。