『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第2話 闇の福音

 

『エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル』

 

闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)人形使い(ドールマスター)不死の魔法使い(マガ・ノスフェラトゥ)、童姿の闇の魔王、悪しき音信(おとずれ)、禍音の使徒。

600年を生きた真祖の吸血鬼であり、魔法使いたちに恐れられる最凶最悪の魔法使い。

しかし今よりおよそ15年前に、彼女は表舞台から姿を消すことになる。

千の呪文の男(サウザンド・マスター)』と呼ばれた当代最強の魔法使い『ナギ・スプリングフィールド』に敗れ、彼に呪いをかけられこの麻帆良学園へと封じられたからだ。

 

「奴の代理人……だと?

 なんだ貴様は。奴とどんな関係だ?」

 

呪いのせいで彼女は満足に力を振るうこともできず、魔法使いたちの監視を受けて、不自由極まりない生活を過ごしている。

そしてこの麻帆良学園が存続する限り彼女は自由になれないだろうと予測されていた。

最強の魔法使いであるナギが施した呪いはあまりに強固であり彼以外の誰にも解除することができず、そのナギ自身が『10年前に死亡した』からだ。

そのせいで中学生にされた彼女は、『卒業する頃には呪いを解いてやる』とナギと約束していたにも関わらず3年どころか15年も放置されている。

 

「儂とナギが顔を合わせたのはただ一度。どんな関係かと言われれば説明が難しいな。

 だが儂はネギの親代わりと、お主との契約を引き継いだ。

 もう一度言う。儂はナギに代わりお主との契約を果たしに来た」

 

「何……っ!?」

 

「マスター!」

 

リンネと名乗る女が一瞬で目の前に現れたかと思えば、エヴァの眼前へと掌を突き出している。

あまりの速さで護衛であるガイノイド『絡繰茶々丸』も反応できなかった。

 

(やられるっ……!?)

 

目の前で放出された圧倒的な魔力の光に目を焼かれ、不死の魔法使いは死を覚悟した。

しかし痛みがその身を襲うことはなく、それどころかずっと感じていた倦怠感が消え去っていく。

 

「貴様、まさか……『登校地獄』を……っ!」

 

「いかにも。12年もの遅延を謝罪する」

 

「馬鹿な!この呪いを解けるのはサウザンド・マスターだけだ!

 まさか、生前の奴から何かを預かって……?」

 

「……詳細は秘密とさせてもらおう。

 とにかく呪いは解いた。これでお主は自由じゃ」

 

「っ……」

 

この街の魔法使いがこの場にいれば『なんてことをしてくれたのだ』とリンネの行いを非難しただろう。

だが本来は疾うの昔に彼女の呪いは解かれているはずだったのだ。

非は契約を違えたナギ、そして呪いを解く方法がないことを免罪符に彼女を拘束し続けてきた魔法使いたちにある。

魔の力を抑える学園結界の影響は受けているので完全ではないが、呪いが無くなったことで彼女は大幅に力を取り戻した。

少なくとも、並みの魔法使いを遥かに上回る力をだ。

学園長やタカミチが本気を出せば苦しいが、それ以外の木っ端なら力ずくで突破し麻帆良の外に飛び出すことができるだろう。

そして結界の外に出れば学園長たちであろうともはや彼女を止められない。

 

 

「今更……」

 

「む?」

 

「今更っ、どうしろと言うのだ!!

 奴が……もういないのにっ!」

 

しかしようやく呪いから解放されたというのにエヴァは喜びではなく怒りを発露する。

 

「……エヴァンジェリン、お主まさかまだナギのことを……」

 

「うるさい……うるさいうるさい!!」

 

彼女は、ナギ・スプリングフィールドを愛していた。

悪の魔法使いである自分をそうと気づかずに助け、恐れずに正面から接してきた彼を。

そして彼亡き今、彼女を縛っていた呪いは彼との間に遺された最期の繋がりでもあった。

 

 

「……ナギ・スプリングフィールドは生きている」

 

「なんだとっ!?」

 

「悪いが、今はそれ以上何も言えぬ。

 そしてネギは奴の生存を信じ、奴を探すと誓っている。

 あの子が握っていた杖に見覚えがあろう?アレは間違いなくナギの杖じゃ。

 今から6年前にネギが暮らしていたイギリス、ウェールズの近くで手に入れた」

 

であれば少なくとも『10年前に死んだ』という通説は誤りである可能性が高い。

ナギが消息不明……死亡扱いとなったのはトルコのイスタンブールだからだ。時期と距離が離れすぎている。

 

「奴が……生きている……!?」

 

「……とっくにナギへの恋慕なぞ忘れ、恨みを募らせていたと思っておったよ。

 だが未だにナギに未練があるというのなら、ネギに手を貸してやってくれ。

 今しばらくこの街に留まり、彼を教え導いてやってくれ」

 

「?貴様が師ではなかったのか?」

 

「儂が面倒を見てやれたのは基礎だけじゃ。

 そもそも儂は魔法を学びはしたが習得しとるのは精々5,6個なんじゃよ」

 

先ほど感じた力の大きさから目の前の女が自分やナギと同格、下手をすればそれ以上の実力者であると考えたエヴァの判断は間違いない。

だが彼女は『魔法を使える』という意味では『魔法使い』だが、職業や称号としての『魔法使い』を名乗れるような存在ではないのだ。

魔法のような力をいくつも持っていてもそれはこの世界の魔法ではなく、彼女以外に身に着けることはできないものばかり。当然ネギに教えることもできない。

しかしだからこそ彼女は一般的な魔法使いの常識や枠組みに捕らわれない。

悪の魔法使いであろうと契約に従い解放するし、ネギのためになると思えば悪の魔法使いにでも頭を下げる。

 

「ふん、英雄の息子を悪である私に託すというのか?

 仮にも『偉大な魔法使い(マギステル・マギ)』を目指す者を……」

 

「あ奴自身もその称号にこだわっていない。

 ただ父を探すのに都合が良いから目指しているだけじゃ。

 お主の薫陶を受けられることと引き換えならば、風聞に傷がつくくらいどうと言うことはなかろう」

 

「……くっくっく、この街の魔法使い連中が聞いたら卒倒しそうな話だな。

 いいだろう。奴自身を見極めてからだが……見どころがあるようなら私が直々に鍛え上げてやろう」

 

「感謝する。代わりと言ってはなんじゃが、なんぞ面倒ごとが起きればこちらに回してくれて構わん。

 契約執行の遅延の詫びも兼ねてな。

 お主の呪いを解いたことは儂の独断。魔法使い連中に追及されたらそう言い切るがよい」

 

「よかろう、契約成立だ。

 安心するがいい。私は契約を重んじる。相手が裏切らない限りな」

 

「わかった。儂は今度こそお主との約束を守ろう」

 

「では早速、契約者である貴様に耳寄りな情報をくれてやろう。

 あのぼーや、いきなり魔法使いだとバレたようだぞ?」

 

「ぬぁっ!?」

 

「先ほどまで参加していた、ぼーやの歓迎会の様子を見る限りな。

 相手は同居人となった神楽坂という小娘だ」

 

「初日からかぁー……」

 

ネギは魔法使いの住まう村、魔法使いの学園の外の世界で暮らしたことがない。

『魔法を隠さねばならない環境』を経験すること自体が初めてなのだ。

一般教養として外の世界の常識を学ばせてはいるが、知識だけでは不十分。しかもここは彼にとって異国の地。

修行を終えるまで魔法を秘匿しきるのは無理だろうと推測してはいたがあまりに早すぎる。

思わず掌で顔を覆い天を仰いだ。

 

「……ネギの同居人となった相手なら、保護者として顔を合わせるべきじゃよな。

 その時に改めて儂からも秘匿をお願いするか……」

 

「くっくっく、出来の悪い生徒を持つと苦労するな」

 

「もうお主にとっても他人事ではあるまい。

 ま、もしも魔法の秘匿に失敗したら捕まる前にあ奴と一緒に高跳びするさ。

 その時はもちろんお主にも声をかけよう」

 

「ほぅ、積極的に奴に魔法バレをさせたくなったぞ」

 

「わざとは勘弁せい。資格が取れるならそれに越したことはないからな。

 ……しばらくはお主のことは、あ奴には伏せておく。

 見極めが終わったところで一度声をかけてくれ。互いに紹介する場を用意する」

 

「あぁ。それまでの間にこちらも準備を進めておこう。

 ……くっくっく……面白くなってきたな。早速取り掛かるぞ茶々丸!」

 

「はいマスター。マスターが楽しそうで何よりです」

 




ヒノカミの参戦時期はいずれ明かしますが、少なくとも6年前、ネギの村が悪魔の軍勢に襲われたタイミングには居合わせています。
ヒノカミの介入により故郷は無事でありネギは父と強さへの憧れはあるものの原作のようなトラウマは抱えていません。
師匠であるヒノカミが魔法使いでないこともあり、『偉大な魔法使い』という称号にも原作ほど固執していません。
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