『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第3話 神楽坂明日菜

 

エヴァンジェリンから聞いた通り、その夜にネギから『同居人となる生徒に魔法がバレた』と連絡があった。

なので『保護者として挨拶しておきたいし、リンネからも魔法の秘匿を念押ししておきたいから、その生徒と会わせてほしい』と伝えた。

するとネギは『明日の夕方に彼女を連れていく』と返してきた。

リンネの家に置いている彼の荷物を引き取るついでにだそうだ。

 

そして約束の時間。

 

「えっと、こちらが、そのー……例の……」

 

「神楽坂明日菜よ」

(……ねぇカモ、大人って聞いてたけど?

 私たちと同じくらいの歳じゃないの?)

 

(姐御はあれで成人済みらしいんでさぁ)

 

「近衛木乃香ですー。よろしゅう~」

 

ネギと相部屋になる生徒は二人おり、魔法を知った明日菜と一緒に魔法を知らないままの木乃香という少女もついてきてしまったようだ。

 

「…………」

 

しかしリンネは木乃香の方には目もくれず、カモとヒソヒソ話をする明日菜の方へと無言で近づき。

 

「へっ?」

 

彼女の頭に右手を添えた。

 

「えーと……何?」

 

「マスター?」

 

「っ、すまん。ちと昔を……知り合いを思い出してな。失礼をした。

 六道リンネじゃ。旅の途中でイギリスに立ち寄り、ネギの保護者を引き受けた」

 

リンネはパッと手を放し、ようやく木乃香の方に向く。

 

「して、そちらが学園長の孫か……本当に似ておらんな。遺伝子の反逆か?」

 

「あれ、おじーちゃんのお知り合いですか?」

 

「……いや、儂が一方的に知っとるだけじゃ」

 

「あ~、そういえば仮にも学園長やったわ~」

 

「いや木乃香。『仮』じゃないから」

 

ありふれた女の子同士のやり取りを見て、リンネは勝手に感慨深いものを感じていた。

そして学園長がネギを彼女たちの部屋に押し込めたのも、なんとなく理解した。

彼女らの意識が外れた隙にカモをこちらに呼び寄せ肩に乗せる。

 

「茶でも用意しよう。しばらく楽にしておれ」

 

ネギに二人の相手を任せて上の階に移動し、茶と茶菓子を用意しながらカモに尋ねる。

 

「大まかな経緯を教えてくれ」

 

「合点」

 

魔法を隠すことに慣れていないとはいえ、カモがついているのに流石に初日からバレるのは早すぎる。

再発防止のためにも何故バレたのかを把握し、場合によっては対策を取らねばならない。

 

しかし語られた理由はある意味納得がいくものだった。

怪我をしそうになった生徒を助けるために、咄嗟に魔法を使い、その現場を明日菜に見られたのだと言う。

 

「……近くに他の魔法使いか、それらしき者はおらんかったか?」

 

「そういや後からですが、タカミチが姿を見せやしたが……」

 

「なるほど、あ奴なら意図的にではなかろうな」

 

この学園の教師であり、ネギの前任者である2-A組の元担任の『タカミチ・T・高畑』は魔法関係者だ。

以前彼がネギを訪ねてイギリスに来た時にリンネも顔を合わせている。

そして彼の性格と実力も、正しく把握している。

 

「どういうこってぇ?」

 

「お主も知っとるじゃろ?ネギを特別視する魔法使いが多いのは」

 

「もちろん、英雄の息子だからで……まさか、あの事故はわざと!?」

 

「の、可能性も考慮したがタカミチならありえんじゃろ。

 他の誰かがやろうとしても止めるはずじゃ」

 

どれほどの規模かはネギとカモには伝えていないが、この麻帆良学園は『関東魔法協会』の総本山だ。

魔法先生や魔法生徒が多く在籍しており、その中には魔法世界出身者も多く、20年前の魔法世界の大戦で活躍した英雄ナギに憧れを持つ者もまた多い。

特に魔法世界出身者は魔法を使えない一般人を無意識で下に見る傾向がある。

『英雄の息子がどれほどのものか、お手並み拝見』『いざとなったら自分が助ければいい』とでも考えてネギの目の前で一般人の生徒を危険な目に合わせる可能性は十分にある。

 

だから、タカミチがその場にいてよかった。

そうでなければリンネは徹底的に調査し、下手人がいた場合は半殺しにしなければならないところだった。

例えそれでこの街の魔法使いとの関係が悪化するとしてもだ。

 

「多分、隠れてずっとついてきておったのではないか?

 その少女の事故は偶然じゃろうが、ネギがどう動くかギリギリまで見極めようとしたんじゃろう」

 

「なるほど……とするとあの場に顔を出したのも兄貴をフォローするつもりだったのかも知れねぇな。

 相手が明日菜の姐さんでなきゃ、ここまでの面倒にゃあならなかったろうに」

 

「?何があった?」

 

「魔法使いだと気づいた姐さんが騒ぎ出したんで、急いで兄貴が記憶を消そうとしたんでさぁ。

 ですがなぜか失敗して……記憶じゃなくて服を消しちまいやして」

 

「あー……で、その場にタカミチが、か」

 

「タカミチが何かを言う前に絶叫あげて錯乱して逃げ出しちまいやしたぜ。

 ま、乙女がホレた相手に半裸を見られちゃしょうがねぇか」

 

 

「……『ホレた相手』ぇっ!?」

 

 

「うぉっ!?ビビらせねぇでくだせぇ姐御!」

 

リンネは思わず大声を出してしまった。

階下にまで聞こえていたようでネギが何事か尋ねてきたが、適当にごまかして下に帰した。

 

「ふー……明日菜はタカミチにホレとんのか?」

 

「へ、へい……」

 

「……あそこからどこをどうしたら……いや、この状況なら好都合ではあるが……」

 

「姐御?」

 

「明日菜と二人で話をしたい。セッティングを頼む」

 

 

 

リンネが茶を持って1階に降りるとすぐに、カモに耳打ちされたネギが明日菜から木乃香を引き離す。

それからリンネが明日菜を手招きして部屋の隅へと移動した。

木乃香は生まれはともかく能力的には普通の人間だ。

これだけ距離を取ればよほど大声を上げない限り会話が届くことはないだろう。

 

「まずは詫びる。ネギがお主に多大な迷惑をかけたと聞いた」

 

「っ、そうですよ、全くもう!

 おまけに一緒に暮らせだなんて……何とかできないんですか!?」

 

「この学園、そしてここに暮らす魔法使いたちの長は近衛近右衛門じゃ。

 奴が決めた以上は儂もネギも従うしかない」

 

「そんなぁ……って、魔法使い『たち』!?

 学園長とネギ以外にもいるの!?」

 

「いるとも。詳細は明かせぬがこの街には多くの魔法使いと魔法関係者が暮らしておる。

 ……タカミチもその一人じゃ」

 

「高畑先生も……!?じゃ、じゃあもし魔法がバレたら……!」

 

「察しがいいな。もし麻帆良の一般人に魔法が広まるようなことになれば学園の魔法使いたち全てが罰を受ける。

 当然タカミチもな。もうこの街にはおれんくなるじゃろう」

 

「!?」

 

「……卑怯で悪いが、ネギを頼む。

 あ奴が失態を犯せば彼を推しているタカミチにも矛先が向かうじゃろう」

 

「うっ……うぅぅ、ホントに卑怯じゃない……」

 

「……お主の平穏を乱して、悪いと思うておる。

 代わりと言ってはなんじゃが、なんぞ困りごとがあれば儂に言え。

 表でも裏でも……大抵のことは何とかしてやる」

 

「え!?えっと、じゃあ……!」

 

「まぁ『魔法でタカミチをどうこうする』とかでもなければな。

 あ奴自身も凄腕の実力者じゃから絶対に気付かれるし、下手すりゃ嫌われる」

 

「うっぐぅっ!?」

 

「わかりやすいのー……乙女の恋路は応援してやりたいが、違法はまずい。

 というかせめて告白やお付き合いは高校生になるまで待て。

 仮に恋が成就しても相手が女子中学生ではタカミチが捕まるぞ?」

 

「そ、そんなぁ……!」

 

「くけけけ……ま、恋のお悩み相談程度なら大歓迎じゃ。

 あとは学生らしく、部活や勉強とかな。

 こう見えても儂は人生経験豊富な大人じゃからの」

 

「ぐすっ……はぁい……」

 

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