『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第5話

 

ついに新年度が始まり、ネギは正式な教師として麻帆良学園女子中等部3-A組の担任となった。

小学校からずっとエスカレーター式だった彼女らも中学生最後の一年が始まったとなると、流石に何か感じるものがあるようだった。

……ごく一部の生徒が、ほんのわずかに。

流石は麻帆良が誇る混沌の坩堝である。

 

そして学園長は、未だに全く行動を始めないエヴァを訝しんでいた。

彼女が呪いを解くならナギの血縁であるネギを襲うしかない。

間もなく学園都市の年2回の一斉メンテナンスが行われる。

学園に敷かれた魔を封じる結界も一時的に解除されるため、彼女が襲撃を仕掛けるならこの機会を逃す理由はないはず。

そしてこれは未だに魔法使いとしての実力をほとんど見せていないネギの全力を確認するためにも、学園長としても絶好の機会であったのだ。

 

だと言うのに、その前日となった今日も彼女は学園長室でのんびりと茶をしばいている。

というか、呼び出したら普通に来た。襲撃を考えているなら準備に多忙だから適当な理由をつけて断るはずだ。

学園長は思い切ってエヴァに、ネギを襲うつもりはないのかと尋ねてみたのだが。

 

「襲う理由がないだろう。私の呪いはとっくに解けている」

 

「ヒョ!?」

 

「……まさか本当に気付いていなかったのか?」

 

「ぬ、ぬぅ……!?」

 

そこでようやくエヴァの魔力を確認した学園長は、彼女を縛る歪な呪いが跡形もなく消えていることを確信した。

彼でなくとも、軽く魔力を調べる能力があればすぐにわかること。

この街には多くの魔法使いがいるはずなのに、今日にいたるまで誰もそれをしなかった。

魔法世界で『闇の福音』と恐れられているエヴァと関わりたくなかったとしてもあまりのお粗末。

学園長一人を怠慢と責めるのはお門違いだろう。

ただし同じクラスでずっと暮らしていた魔法生徒の見習いシスターについては言い逃れはできないものとする。

 

「し、しかしどうやって……流石にネギ君は若すぎる……では彼の師だというあの少女かの?」

 

「おっと、明言は避けよう。

 だが余計な手出しをしようとは思わんことだ。

 奴自身も半端ではないようだが……それ以前に、私と対等な契約を結んだ相手だ」

 

「……フォッフォッフォ」

 

殺意を込めて睨みつけられ学園長はとぼけた振りをしてやり過ごす。

どうやらリンネという少女に手を出すのは危険なようだ。部下たちにも厳命しなければ。

未だ結界の中にいるとは言えエヴァと敵対するのは危険極まる。

女子供を積極的に殺す性格ではないので学園そのものや一般人の生徒には手を出さないだろうが、学園の魔法使いが襲ってきたならば容赦なく返り討ちにするだろう。

600万ドルの元賞金首は伊達ではないのだ。

 

しかし呪いがすでに解けているのなら、何故エヴァはまだ大人しく学園に残っているのか。

今まで彼女が受けた仕打ちを思えば一刻も早く学園を立ち去りたいはずだと、学園長は追加で尋ねた。

 

「ナギを探すのなら、その手がかりであるぼーやの傍にいた方が都合がいいからな」

 

「なんじゃと?ナギはもう……」

 

「生きている可能性があるなら十分だ。

 それにもうすぐ新たな手掛かりも手に入るやもしれんとあらばな」

 

「!?まさかお主、修学旅行に……!」

 

「無論、同行するとも。

 何しろ『修学』旅行、学生ならば参加する方が正しいだろう?

 クックック……!」

 

麻帆良学園は多くの学校が集まってできた巨大な学園都市。

しかもその一つ一つの規模も並外れており、麻帆良女子中等部三年も1クラス当たり30人近くでクラス数も10前後と非常に多い。

よって修学旅行ではクラスごとにそれぞれ旅行先を選択させ、人数を分散させるという方式を用いていた。

その中でも3-Aは特殊な事情の生徒の寄せ集めなこともあって留学生(ということになっている人外も含む)の数が他のクラスと比較して非常に多い。

担任となったネギ自身もイギリス出身の外国人であり、3-Aの旅行先は日本文化を学ぶ意味を込めて『京都・奈良』を選択していた。

 

京都にはかつてのナギの仲間であり、学園長の義理の息子であり、近衛木乃香の父である『近衛詠春』が住んでいる。

そして彼がナギが一時滞在していたアトリエを管理しているようだ。

ナギの死が偽りだとしたらそこに手がかりが残っている可能性が高い。

 

「むぅぅ……せめてネギ君の試練には不干渉でいてもらえんかのぉ」

 

「やはり奴に何か押し付けるつもりだったか」

 

「うむ……じゃが仕方のないことなんじゃ。

 あの少女と話をしたのならばお主もネギ君の事情は把握していよう」

 

「……フン」

 

およそ20年前の魔法世界の大戦で英雄となったナギ・スプリングフィールド。

その息子であるネギの立場は非常に危ういのだ。

彼が彼自身を自分で守れるようになるために、少しでも早く、少しでも多くの力と功績を積ませ彼の地位を確立させねばならない。

そのためにはハードな試練を課し続けることがただ一つの道となる。

 

ネギ自身が大成することを望んでいるとはいえ、彼はまだ子供だ。

リンネは反対の立場を明確にしており、保護者兼師としてネギを鍛えはしたがそれは常識の範囲内で。

彼が幼すぎることもあり、生死の境を彷徨うような地獄の特訓を避け続けていた。

 

「……まぁいいだろう。私自身に火の粉が及ばぬ限りは手を出さん。

 貴様ら程度が用意する試練もクリアできぬようでは話にならんからな。

 もっとも、そんなことにはならんだろうが」

 

「フォッフォッフォ。すまんのぉ。

 しかし妙にネギ君を買っておるの?」

 

「当然だ。ネギ・スプリングフィールドはこの『闇の福音』の弟子となったのだからな」

 

「フォッ!?」

 

対してエヴァは躊躇うことなくネギに過酷な修行を積ませていた。

 

リンネの紹介で実際に対面し手合わせしてみればネギは想像以上の実力を持っていた。

しかもその戦い方はリンネが教えたそうだがサウザンドマスターによく似ており、未だにナギに恋するエヴァの琴線を大きく震わせた。

即日弟子入りを認め、今日にいたるまで『別荘』と呼ぶ異空間で嬉々として拷問染みたシゴキを繰り返していた。

サウザンドマスターの息子が自分の色に染まっていく日々は彼女に倒錯した快感を与えていた。『小学生が好きな子をイジメる』のと同じ理論である。

 

そして英雄の息子が魔法社会の大罪人に弟子入りしたという事実は、彼を正当な英雄の後継者として育てたい学園の魔法使いたちの猛反発を招くだろう。

学園長はネギが強くなるのなら構わないと考えているが学園の魔法使いたちの抗議は確実に彼に押し寄せて来る。

実力を求めるならエヴァ以上の師はいないと言っても聞く耳持たないだろう。未来を思うと彼の胃が少しキリキリした。

 

 

……ちなみにだが、リンネはこの世界に胃薬は普及させていない。

治癒魔法があるならいらないだろうと判断して。

 

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