『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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『駆け足』、『ご都合主義』のタグ……君たちの力を貸してくれ……!


第3話

どうしようもなく運が悪い日。

長く生きていればそんな日に出会うことも何度もあった。

だがこれほどの不運が重なることは隣互の長い経験の中でも初めてだった。

 

自分と弟を母が迎えにきた日が生憎の大雨で。

霊にも優しく寄り添う弟の前に現れたのが人間霊に擬態する能力を持った虚で。

その程度の虚を狩ることなど容易いはずの母が、突如として力を失って。

 

「させるかぁーーっ!!」

 

せめてその身を盾にしてでも一護を守ろうとした母の前に飛び出し、自分が出せる限界の力を使い虚を蹴り飛ばす。

鍛えてはいるがまだまだ幼い彼女の体では、OFAの残り火の力を引き出せるのはオールマイトの10%程度が限界。

しかし個性などない時代でこれほどの身体能力を持つ人間がいるはずもない。

一護だけでなく、話で聞いていただけの真咲も驚愕の表情で彼女を見つめていた。

 

『ふ、ははは!そうかお前か!うまそうな匂いを出していたのは!』

 

「まるで……効いておらんか……!」

 

両親から聞いた通り、ただの物理攻撃では虚にほとんどダメージを与えられないらしい。

しかも現れた虚は知恵を持ち、言葉を話すタイプ。

つまり虚となってからの時間が長く、それだけ死神や滅却師を退けてきたという証明であり、すなわち強敵。

 

「一護!母上を守れ!!」

 

「ねぇちゃん!?」「隣互!?」

 

「こっちじゃ化け物!儂を捕まえられるか!?」

 

『鬼ごっこか!付き合ってやろうぞ小娘!!』

 

河川敷を飛び出し人気のない方へと走る。

今の彼女に出せる全速力。塀を、屋根を、電柱を足場にして風のような速さで駆け抜ける。

しかし虚は霊体。隣互とは違い障害物など意味がなく、すべてをすり抜けて真っすぐに追いかけてくる。

 

「ちぃっ!」

 

隣互は常に隠し持っている爆竹に火をつけ放り投げ、個性で操作して虚の目の前に動かしてから破裂させる。

 

『くはは、面白い力を持っておる!ますますうまそうだ!!』

 

(えぇい!せめて今日が雨でなければ!!)

 

子供が用意できる火種などマッチと花火が精々。

それでも紙切れでも落ち葉でもいいから付近に燃やせるものがあれば、引火させて大量の炎を確保できるため問題にはならないはずだった。

しかしあいにくの大雨で何もかもが湿気っており、たとえ炎を作ってもすぐに消火されてしまう。

爆竹程度では威力など見込めるはずもない。目くらましが精々だ。

あっという間に使い切ってしまい、手元にあるのは役に立たないとわかっていても刀の代わりに握ってしまった愛用の和傘のみ。

結局引き離せないまま人気のない山奥まで来てしまった。

当然足場は舗装されておらず、ぬかるみに足を取られて速度が落ち、ついに追いつかれてしまう。

 

「……破ッ!!」

 

『ぐぬぅ!?』

 

もはや彼女に残された手段は『領域』だけ。

流石にこれは虚でもすり抜けることができなかったようだが、ただの時間稼ぎにしかならない。

『領域』は内外を完全に遮断する。隣互からも攻撃を仕掛けることはできない。

おまけに結界を動かすことはできないのでこの場からの移動はできず、維持するには結界の大きさに応じた力で掌を強く押さえ続ける必要がある。

少しでも負担を少なくするために、座り込んだ自分が辛うじて収まる程度の大きさにしているが、幼い体でOFAを発動し続けるのは負担が大きく、維持できるのは十数分が限界だろう。

そして隣互の知る限り唯一虚を払う手段を持つ母は力を失った。

突然母が力を取り戻すなど、都合の良いことが起きるはずもない。

つまり隣互が力尽き『領域』が解除された瞬間が彼女の最期。

彼女の表情からその事実を察した虚は、すぐに襲い掛かれる姿勢を維持しつつにやにやと笑いながら彼女を眺めていた。

 

虚は魂を喰らう。

おそらくOMTは発動しないだろう。

死ねば消えるのは当たり前。今までの彼女が例外だっただけ。

消滅するとしても受け入れよう。だが彼女は約束したのだ。

 

(出久と勝己に……『また会おう』と……!

 打つ手がないとしても、最期の最期まで抗わねば申し訳が立たぬ!!)

 

隣互は自然体を維持するため、結界の中で胡坐をかいた。

結局使いどころがないままここまで持ってきてしまった和傘を膝の上に置き、目を閉じ、指を曲げて絡ませ、祈るような姿で全神経を集中する。

……それは偶然にも、死神が己の斬魄刀と対話をするための『刃禅』という作法に酷似していた。

 

(……?なんじゃ?)

 

すでに10分が経過し、腕の骨にひびが入り始めていることを自覚した頃。目を閉じているはずの彼女の瞼の裏に黒い空間が映った。

目の前にいるはずの虚も、周囲の木々も見えない。

ただ黒く何もない空間がどこまでも広がっている。

しかし完全な闇ではない。自分の手足はしっかりと見えている。おそらく頭上に光源があるのだろう。

 

『カァー』

 

そして世界に烏の鳴き声が響き、彼女の前に巨大な黒い羽根が一枚、ひらひらと落ちてきた。

羽根は彼女の膝上にあった和傘の上に落ちて一つとなり、その姿を変える。

 

「!!!」

 

驚きで両目を開くと同時に領域が解除されてしまい、待ち構えていた虚が大口を開けて迫る。

隣互は先程目にした光景を信じて膝上の和傘を掴む。

すると形がほどけ、中から刀が現れた。

 

『なにっ……!!』

 

「閃!!」

 

肉体の許容限界を超える、30%の力を発揮して飛び出す。

隣互は仮面ごと虚の頭を両断し、宙へと放り出された。

 

『斬魄……馬鹿なぁッ!!』

 

断末魔の悲鳴を上げながら、虚が崩れて消えていく。

手足の骨が折れてしまった隣互は受け身を取ることすらできず、地面を転がる。

腕は折れても真っ赤な刀身を持つ刀を握りしめる掌の力は弱めず、隣互は雨に打たれながら意識を手放した。




和傘の変化は、山本総隊長の杖が斬魄刀に変化するようなイメージでお願いします。
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