『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第10話

 

ネギは関東魔法協会からの特使だ。

関西呪術協会に訪れるなら真正面から赴くのが礼儀である。

空を飛んで上から入り込もうものなら襲撃者と見なされ撃ち落されてもおかしくない。

だから、ネギは必ず本山の入り口である千本鳥居を通らなければならない。

敵もそれをわかっているだろうから、親書を奪う最後の機会を逃さぬよう待ち伏せしていると確信していた。

 

確信していたからこそネギ一人で来たのだ。

入り口を飛び越えることは許されておらずとも、地上スレスレを高速飛行するのは問題ない。

最近のエヴァからのスパルタ訓練で危機感知能力は研ぎ澄まされている。

故にネギは千草と月詠と小太郎の3人から一斉に襲われたとしても、自分一人でも短時間なら逃げ切る自信があった。

ネギが本山にさえ辿り着いてしまえば敵は追撃はできず、親書を渡せば和睦が成る。

和睦が成れば関西呪術協会の術師たちが、明確な反逆者となった千草たちを捕らえてくれる。

それに、試練が終われば不干渉を約束していたエヴァが自由になる。

この旅行を楽しみにしていた彼女はそれを妨害する勢力にほどほどに鬱憤がたまっているようだった。

親書を渡し終えてもなお醜く足掻くようならネギからお願いせずとも自主的に動いてくれるかもしれない。

 

だからネギたちが何よりも親書を届けることを優先したのは間違いではなかった。

だが惜しむらくは、敵の思考と優先順位を読み間違えたことか。

連中は千本鳥居に罠を仕掛けていたがそれはネギを倒すためのものではなかった。

直径500メートルほどの閉鎖空間を作り出しネギを閉じ込めたのだ。

 

事態に気付いたネギは当然脱出を試みた。

おそらくあの千草という呪符使いの仕掛けだろう。呪符破壊の呪符ならまだストックがある。

だがこれは効果範囲が狭いため、術の基点を見つけ出しその近くで使用しなければ意味がない。

なのでネギが探知の魔法を使おうとしたのだが、そこで横やりが入った。

犬上小太郎と名乗った拳士の少年だ。

彼は素直な性格で自分が一人であることも、ネギの問いかけに対し『目的は足止めだ』とはっきり明言した。

 

連中はネギを妨害し東西の融和を阻むことよりも、木乃香を捕らえ関西呪術協会を支配する方を優先していたと、ネギはここでようやく気付いた。

攻撃を避けながら仮契約カードで連絡を取ろうとするが応答がない。

どうやらジャミングが行われているようだ。従者召喚にも反応しない。

ここに明日菜を呼び出せたなら彼女を強化して小太郎の相手を任せ、その間にこの空間を破壊することができるのに。

相手が小太郎一人なら明日菜と木乃香を連れてゴールに飛び込むことも難しくないのだが。

 

幸いにも、リンネの指導で長年魔法剣士スタイルを修めているネギは近接戦闘も得意としている。

相手が小太郎一人なら押し負けることはほぼない。

だが彼の妨害がある限りこの空間を脱出できず、親書を届けることも木乃香の救援に向かうこともできなかった。

 

 

 

同時期、クラスメイトたちと行動していた刹那たちへの襲撃も始まった。

一般人では認識できない速度で、どこからか棒手裏剣が刹那目掛けて何度も飛んでくる。

木乃香の護衛である刹那を真っ先に排除しようとしているのだろう。

護衛なのは明日菜もだが、彼女ではこの奇襲に対応しきれない。

殺気を察知するなどという芸当は戦場に身を置き続けてきた者でなければ不可能だ。

今のところは全て受け止め回収できるレベルの頻度だが、敵が焦れて攻撃が苛烈になっていけば周囲の人にも被害が出るかもしれない。

そして敵の襲撃が始まったことをネギに連絡しようとしたところで。

 

「ネギ!ネギ!?……ダメ、つながんない!」

 

「ウチのも!」

 

「ネギくんに持たせたGPS付携帯の反応、消えちゃってるよ!」

 

「くそっ、先生の方にも連中の手が……!」

 

明日菜、木乃香、朝倉、刹那が建物の陰に隠れて話し合う。

彼女たちはネギと連絡を取り合いながら彼が関西呪術協会の本山に到達するまで木乃香の護衛を務める予定だったが、通信途絶とあれば何らかの異常事態が発生したのは間違いあるまい。

 

「……どうする?信じて待つ?」

 

「でももし、ネギに何かあったら……!」

 

「ネギ先生がどうしましたの?」

 

「「「「!?」」」」

 

慌てていて周囲への警戒がおろそかになり、いつの間にか傍にいたクラスメイトに気付いていなかった。

彼女たちが一緒に行動していたのは明日菜と木乃香が所属する5班だけではない。

朝倉の所属する3班の面子も揃っているのだ。

 

宮崎のどか。

綾瀬夕映。

早乙女ハルナ。

雪広あやか。

那波千鶴。

村上夏美。

長谷川千雨。

 

魔法を知らない一団が、物陰に引っ込んで出てこない明日菜たちを訝しみ覗き込んでいた。

いや、皮肉屋で他の生徒と距離を取りがちな千雨だけはめんどくさそうに背を向けていたが。

 

「いやっ、そのっ、ネギがね!?」

 

「…………ネギくん、今ウチの実家に向かっとるんや」

 

「木乃香!?」

「お嬢様!?」

 

「あら、そうなんですの?

 木乃香さんの実家と言うことは学園長の……教師としてのお仕事ですの?」

 

「せや。おじーちゃんからお使い頼まれとったらしいんよ。

 でも迷子になってしもうたみたいでなぁ。

 ウチらちょっと案内に行こか思うとるんよ」

 

「まぁ!」

 

ネギを溺愛する我らが3-Aの委員長が思いっきり食いついた。

彼女は真面目で堅苦しいが意外と融通が利き、加えてネギの話題を出すととんでもなくチョロい。

 

(ちょっと木乃香!?)

 

(ネギくんに合流しよ。もし怪我でもしとったら大変や)

 

(……確かに本山に入り込んでしまえばお嬢様の安全も確保できる。

 このままジリ貧になるくらいならば……!)

 

(いやでも、今の話の持っていき方はまずいよ木乃香!)

 

(なんで?いいんちょならネギくんが困っとるゆうたら見逃してくれへんかな?)

 

 

 

「それでは全員、急いでネギ先生の下へ向かいますわよ!!」

 

「いぇーーーいっ!」

「「「はぁーーーい」」」

 

「なぁ、アタシ先にホテルに帰っていいか?」

 

「駄目ですよ千雨さん!班別団体行動ですわ!!」

 

 

 

(ネギくんが困ってるなんて言えば、自分で動こうとするに決まってんじゃん……)

 

(((……あー……)))

 

 

「時は一分一秒を争います!

 徒歩などと言ってはおれません、車を使います!!」

 

「でもいいんちょ、この人数だとタクシーたくさん必要じゃん。

 そんなすぐに台数集まるかなぁ?」

 

「……問題ありません、たった今リムジンを手配しましたわ!」

 

「「「えぇぇっ!?」」」

 

「この雪広あやか、ネギ先生のためならどんな労苦も惜しみません!!」

 

「流石よ、あやか」

 

 

(……どうすんのよ、今更『私たちだけで』なんて言えないわよ?)

 

(ど、どないしょー、せっちゃぁん)

 

(連れていくしかないでしょう……一般人も同車しているなら、流石に車ごと破壊するような真似はしないはず……)

 

(まさか人生初リムジンがこんな形だなんてねぇ……落ち着いて満喫できそうにないや)

 

間もなく巨大なリムジンバスが、本当に彼女らの前へと現れる。

意気揚々と乗り込む魔法と無関係な一同と、諦め項垂れる魔法関係者一同。

彼女らを乗せた豪華な車が関西呪術協会の本山へと向かう。

 

しかし、結果的にこの選択が敵の襲撃を躊躇させることになった。

リムジンとなれば当然周囲の人目を惹き、人目が集中している対象に周囲に気付かれぬよう奇襲を仕掛けるなど容易ではない。

事故など起こしてしまえばとんでもない騒動になるだろう。

魔法使いと言えど警察まで動き出すような事態を起こせば隠蔽も対処も難しい。

 

そして雪広あやかと那波千鶴。

彼女らは日本でも有数の資産家である雪広財閥と那波重工の娘だ。

この日本という国に対する影響力は計り知れず、日本土着の組織だからこそ関西呪術協会の術師たちはそれを重々理解していた。

うかつに手を出し事を構えることになれば裏の組織と言えどただでは済まない。

好戦的な月詠も千草に止められ、それ以上の攻撃を断念した。

結果ネギを足止めしている隙に木乃香を攫うという計画の実行が不可能となり、千草たちは歯噛みしながら一行を見送ることしかできなかった。

 

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