『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第11話 関西呪術協会総本山

 

「はぁ……はぁ……んぁ?」

 

「ハァ、ハァ……とまった?」

 

「油断すんな兄貴!」

 

閉鎖空間の中で激しく戦っていたネギは、突如その相手の小太郎が動きを止めたことを訝しむ。

 

「……はぁ。ここまでみたいやな」

 

「「!?」」

 

ため息の混じった息を大きく吐いた後、半ば獣のような姿に変身していた小太郎が元の人間寄りの姿に戻った。

 

「どういうこってぇ!?」

 

「千草姉ちゃんから連絡入ってん。

 『足止めはもうえぇから撤収しろ』ってな」

 

「足止めは、もう……!?まさか木乃香さんを!?」

 

「あぁちゃうちゃう。失敗やって」

 

「「へ?」」

 

「なんや、なんも知らんお偉いさんが出張ってきたんで、手出しできんくなってしもうたんやと。

 お嬢様は他の奴らと一緒にこっちに向かって来とるらしいで」

 

隠しておいた方がいい情報だろうに、尋ねられるままに素直に答える小太郎。

彼が余計な策略を巡らせる性格でないこともこれまでの戦いで理解しているので、油断させる嘘でもないのだろう。

 

「計画が失敗したってのに、随分と機嫌良さそうじゃねぇか」

 

「オレは千草姉ちゃんの計画とかそんなんどうでもえぇねん。

 ただいけ好かん西洋魔術師をぶっ飛ばしたい思て手ぇ貸しただけや。

 ……ま、ぶっ飛ばしきれんかったけどな」

 

「テメェは西洋魔術師を恨んでるわけじゃねぇのか?」

 

「恨んではおらん。嫌いやけどな。

 護衛のパートナーに守ってもらわんと何もできんカスや思うとったし。

 せやけどお前とやりおうて考え変わったわ。西洋魔術師も中々やるやんけ!」

 

「たった……それだけ……?」

 

ボロボロの姿で晴れやかに笑う小太郎に、思わず毒気が抜かれてしまう。

まだ敵が目の前にいるというのに隙を晒してしまう辺り、ネギもまだまだ未熟な子供だ。

 

「そしたら、オレもう行くわ。

 またやり合おうなー、ネギ」

 

「え?えぇぇ?」

 

小太郎が3体の狗神を召喚し、離れた場所にある鳥居の一つに殺到させる。

その鳥居に結界の基点を仕掛けていたようで、まもなく異空間がひび割れ消滅した。

ネギが困惑しながら周囲を見渡しているうちに小太郎は姿を消していた。

 

「悪い子じゃ、ないのかなぁ……?」

 

「悪ぃ奴じゃねぇとしても、あんな理由で暴れられちゃたまらねぇや。

 たちが悪ぃ奴ですぜ」

 

 

「ネギ!」

「ネギくん!」

 

「明日菜さん!木乃香さん!」

 

本山の入り口の方から駆け寄ってくる人影がいくつも。

先頭の二人は己の従者であったが、その向こうから更に姦しい集団が音を立てて迫ってくる。

 

「ネギ先生ーー…………っ!?」

 

「ってうわ!どうしたのネギくん!ボロボロじゃん!?」

 

バターン

 

「いいんちょが倒れたーーーっ!」

 

「いいんちょさん!?ハルナさんたちまで!?

 明日菜さん、これは一体……!?」

 

「ちょっと待って!ちゃんと説明するから!」

 

揃って向かって来ていると聞いたので明日菜たち4人までなら想定していたが、3班と5班の全員がいたのでネギの困惑は増す。

朝倉に何も知らない彼女たちの相手を任せ、明日菜と刹那と木乃香とネギの4人が少し離れたところで互いの情報を交換し始めた。

 

「『何も知らないお偉いさん』……なるほど、雪広さんと那波さんのことでしょう。

 お二人のご実家は、関西呪術協会の術師でもおいそれと手を出せない大物ですから」

 

「つまり、いいんちょたちと一緒だったから攻撃が止まったの?」

 

「おそらく。特に車に乗っている状況で下手に攻撃を仕掛けては高確率で彼女らを傷つけてしまいます。

 襲撃を止めるのならば彼女らの協力を仰ぐのが最善だったということでしょう」

 

「でもなんも知らん皆を巻き込んでしもた……ごめんなぁ、ネギくん」

 

「木乃香さんだって巻き込まれたようなものじゃないですか!

 それに一番悪いのは僕です。

 引率の先生なのに、生徒を守る力が足りないなんて……」

 

「ホラ、うじうじしない!

 それよりさっさと木乃香の実家に行きましょ!」

 

「そうですね。もう本山は目と鼻の先。

 すでに本山の術師たちが我々を捕捉しているでしょう。

 監視の目があるも同然の状況で襲撃を仕掛けるほど連中は馬鹿ではないでしょうが、急ぐに越したことはありません」

 

「ですね……みなさーーん!行きますよーー!」

 

「「「はぁーーーい」」」

 

のんきに返事をする生徒たちを連れて、長い参道を一塊になって歩く。

ネギと刹那だけなら一気に駆け抜けることもできるが、二人は集団の前と後ろに別れ周囲を警戒しながら足並みをそろえて進む。

 

そしてようやく見えてきた大きな門をくぐると。

 

 

 

「「「「「おかえりなさいませ、木乃香お嬢様」」」」」

 

「うん、ただいまぁ」

 

「うっひゃーっ、コレみんな木乃香のお屋敷の人!?」

 

「い、いいんちょ並みのお嬢様だったんだ……」

 

「素敵なご実家ですわねぇ」

 

大勢の巫女がずらりと並び木乃香を筆頭とした一団を迎え入れる。

彼女らが案内されたのは最奥部の建物の巨大な広間。

楽団までずらりと並ぶ、なかなかの歓待具合だ。

 

「お待たせしました」

 

そして奥の階段から降りてくる、少し疲れたような表情の神薙の男性。

彼こそが関西呪術協会の長であり近衛木乃香の父、近衛詠春。

 

「ようこそ明日菜君。木乃香のクラスメイトのみなさん。

 そして担任のネギ先生」

 

「お父さま……久しぶり」

 

「……あぁ、久しぶりだね」

 

少し前の彼女ならば人目もはばからず飛び込んだろうが、木乃香は目の前で踏みとどまった。

彼女がこの旅の過程で魔法を知ったことは部下から報告を受けている。

いつかこの日が来るとは思っていたが、娘の成長を嬉しく思うと共に、少し寂しさも感じていた。

 

(おい、兄貴っ!)

 

「っ、東の長『麻帆良学園学園長近衛近右衛門』から西の長への親書です。

 お受け取りください」

 

「確かに受け取りました」

 

ネギが差し出した一封の手紙を詠春が受け取り、書面に目を通す。

最後の1枚を見た彼は苦笑し、顔を上げた。

 

「東の長の意を汲み、私たちも東西の仲違いの解消に尽力するとお伝えください。

 任務ご苦労、ネギ・スプリングフィールド君」

 

「あ……はい!」

 

受け取り手である詠春から任務の終了を宣言されネギは安堵する。

 

 

 

「ようやく終わったか」

 

 

「「「うひゃぁっ!?」」」

 

するといつの間にかネギたちの背後に、エヴァと茶々丸が立っていた。

 

「おや、エヴァ。お久しぶりです」

 

「うむ、久しいな詠春」

 

「え、エヴァンジェリンさん?いつの間に……一体どこから……!?」

 

「マスターはずっとネギ先生を見ておられました。

 学園長とのお約束がございましたのでお役目が終わるのを今か今かと待ち望んでおられたのです。

 ずっとハラハラドキドキしていらっしゃいましたが」

 

「余計なことを言うなこのボケロボーーーーッ!!」

 

「ずっと見てた……?

 まさかエヴァちゃんたちも、楓ちゃんみたいな忍者だったの……!?」

 

「クラスメイトが傍にいたのにまったく気付くことができなかったなんて……この雪広あやか一生の不覚!」

 

(んなわけねーだろ!突然パッと現れたんだよコイツら!)

 

「エヴァンジェリンさん、見守っててくださってたんですか……!?」

 

「私が待ち望んでいたのはサウザンドマスターの手がかりだ!

 ぼーやのことが気になってたんじゃないんだからな!?」

 

「サウザンドマスターの手がかり……あぁ、ナギのアトリエですか。

 構いませんよ、ですが今日はもう遅い。

 皆さん泊っていくとよいでしょう。もちろんエヴァも。

 歓待の宴を用意していますよ」

 

「「やったーーーっ!」」

 

「でも僕たち、修学旅行が……」

 

「それなら身代わりを……いえ、この人数だと難しいですね。

 学園長の義息として、他の教師の方に連絡を入れておきましょう」

 

「「「ありがとうございます!」」」

 

そして一行はようやく辿り着いた旅の目的地、関西呪術協会の総本山にて盛大にもてなされた。

東西の和睦はなった。

今は西の術師は日本中に散らばっているが、明日の昼には腕利きの部下たちが戻るので千草たちを捕らえると約束してくれた。

 

ネギはようやく全て解決したのだと、これで残る旅は気負うことなく楽しめるのだと安堵していた。

 

 

だが彼らの戦いは、旅は、まだ終わっていなかった。

 

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