『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第13話

 

真っ先に屋敷を離れたエヴァと白髪の少年は、関西呪術協会の聖域とされる森林を無惨に破壊しながら魔法の撃ち合いを繰り広げていた。

これでも被害は抑えられている方なのだ。なぜなら二人が得意とする属性が氷と石の魔法だから。

炎や雷だったら木々に引火し、周囲に延焼が広がっていた可能性がある。

山全体どころか、下手をしたら麓の街にまで。守護結界は破壊されているのでその可能性は非常に高い。

 

「なるほど、アナタはエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。

 麻帆良に封じられた真祖の吸血鬼か」

 

「ふん、かく言う貴様も人間ではあるまい。

 どこの手の者かは知らんがそれほどの力を持ちながら、あんな三下の術者に従うとはなんの冗談だ?」

 

「答える義理はないよ」

 

この白髪の少年は恐ろしい使い手だった。ネギや刹那では勝負にもなるまい。

久しぶりの戦いでなまっていることを考慮しても、『闇の福音』相手にここまで食い下がるのだから。

 

「……たった今その三下の術者から連絡があったよ。

 君たちのクラスメイトの一人を人質に取った」

 

「!?……ふん、だから?

 まさか小娘の命程度を盾にすればこの私が引き下がるとでも?」

 

「貴女はそうだとしても、お嬢様たちはどうだろうね」

 

「チッ……」

 

この可能性を想定して茶々丸を置いてきたが、やはり護衛対象が多すぎたのだ。

こんなことならチャチャゼロも連れてくるべきだったと悔やむが後の祭り。

『人形使い』であるエヴァの初めての従者は外見が本当にただの人形なので鞄に詰め込み持ち込むこともできたのだが、血の気が多く一般人の前でも堂々としゃべる。

なので騒動になると推測し、抵抗する彼女を麻帆良に押し込めてきたのだ。

京都は麻帆良とは違い、非常識をスルーしてはくれないのだから。

 

 

同時刻、千草からの連絡は月詠と小太郎にも届いていた。

しかし月詠はあえてそれを刹那に伝えなかった。彼女の望みは強者との果し合いであり、余計なことを伝えて刹那の剣に迷いが生じては面白くないので。

そしてネギと戦っていた小太郎は……。

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

式神を問答無用で送還するアーティファクトのおかげで、明日菜は千草の操る式神に対して圧倒的優位に立てていた。

一撃もらえば終わりなのだから質よりも量と、千草は持っていた呪符のほとんどを放出し大量の小型の式神を並べ、一斉攻撃を仕掛けた。

しかし茶々丸の銃撃により次々と撃ちぬかれ、ただの女学生とは思えぬ明日菜の反応や身のこなしにより瞬く間に数を減らしていった。

かいくぐった数匹も、魔力により身体能力が強化された木乃香のつたない体術で薙ぎ払われた。

だが一匹。千草が気付かれぬようにと放った小さな小さな一匹の猿の式神が、彼女たちの脇を通って後ろの集団へと忍び寄っていた。

その猿の手には、千草が持たせた火炎の呪符が握られていた。

 

 

「夏美さん!」

「夏美!」

 

「動くんやない!動いたらそのお嬢さんは一瞬で黒焦げや!」

 

「いいんちょ……ちづ姉……!」

 

一般人の生徒の一人、村上夏美の首元にしがみついた小さな猿が、明日菜たちと夏美自身にもよく見えるようにひらひらと呪符を掲げる。

木乃香のアーティファクトならば、3分以内に負った傷なら瞬く間に治すことができる。

だが対象が死んでしまうと蘇生は無理だ。

そしてもしあの呪符が修学旅行初日にネギや刹那に対し振るわれたものと同等の威力の炎を発するのならば、魔力的抵抗力を一切持たない夏美では命がないかもしれない。

 

「……オイ!てめぇら魔法使い連中は、一般人に手出しできねぇんじゃねぇのか!?

 アタシらは何も知らないただの女子中学生なんだぞ!?」

 

「アホか!こないなところに来とる時点で無関係もなんもあるか!

 ……いや、西洋魔術師の街に……麻帆良に住んどる奴らは全部敵や!!」

 

「チィ……!」

 

動けないなら言葉でと、努めて冷静さを保っていた千雨が魔法を知っている連中の言動から推測し、説得を試みる。

しかし千草は半ば自棄になっているようで、落ち着くどころか更に錯乱し暴論をまくしたてる。

 

「ほなお嬢様方をお連れさせてもらいますわ!

 えぇな!動くんやないでぇ!?」

 

「くっ……ごめん、ネギ……!」

 

「せっちゃん……!」

 

千草が残る呪符全てを使って呼び出した大量の猿が、動けない明日菜たちの脇を通って木乃香と委員長と千鶴に殺到する。

 

 

 

だがその猿を上回る数の黒い狗神が現れ、猿の式神たちに一斉に襲い掛かる。

 

 

「っ!?これは、小太郎の……!?」

 

「っるぁぁぁあーーーーーーっ!!!」

 

驚愕し動きを止めた千草を追い抜いた小太郎が、夏美の首にしがみついた最後の猿を殴り飛ばす。

 

「今やネギぃ!!」

 

「『魔法の射手 戒めの風矢』!」

 

小太郎の合図と共に飛び出したネギが、千草に向けて拘束の魔法を放つ。

ここまでされても彼女の撃破ではなく拘束を選択するあたりが、ネギの優しさであり甘さ、そして英国紳士としての誇りなのだろう。

 

「ぐぅっ……何しとるんや小太郎!お前裏切ったんか!?」

 

「……俺は馬鹿や。強い奴と戦えるなら善悪も気にせんで物事決めるくらいには。けどなぁ……!」

 

小太郎は腰を抜かした夏美を左腕で抱きかかえ、右手に掴んだ呪符を握り潰す。

 

 

「戦えん女を人質にするようなカスに手ぇ貸すほど、堕ちぶれたつもりはあらへんで!!」

 

 

「っ……」

 

「形勢逆転だな、美人の姉ちゃん!」

 

小太郎の性格はわかっていたはずなのに、目先の勝利に駆られて卑劣な手段に手を出した時点で千草は失敗していたのだ。

魔法でがんじがらめにされてしまった千草は身じろぎすらできず、仮にこの拘束を引きちぎったとしてももはや呪符の一つも残っていない。

おまけに怒気を孕ませるネギと小太郎と明日菜に囲まれている。勝敗は決した。

 

 

 

「キャァァアアッ!!!」

 

「木乃香!?」

「木乃香さん!?」

 

……かに思われた。

木乃香の足元から湧き出た水が蛇のようにうねり、彼女を捕らえ呑みこんだ。

 

「欲をかいたね、千草さん」

 

「「「!?」」」

「新入りっ!?」

 

「今必要なのは彼女だけだ。撤収するよ」

 

エヴァと共にこの場を離れたはずの白髪の少年が、水を利用した転移魔法でこの場に戻ってきていた。

そして動けずにいた千草を掴んで、また水の中へと立ち去る。

 

「「「木乃香!?」」」

「「「木乃香さんっ!?」」」

 

固唾をのんで見守ることしかできずにいた朝倉たちも、目の前でクラスメイトが連れ去られ悲鳴を上げる。

 

「兄貴!仮契約カードの従者召喚機能を!」

 

「そうかっ!……ダメだ、レジストされてる!」

 

「くそっ、おい小太郎っての!

 あの連中は木乃香嬢ちゃんをどうするつもりなんでぇ!?」

 

「くわしゅうは知らんが、封印されたなんかをよみがえらせるつもりらしいわ。

 そいつで麻帆良を攻め滅ぼすんやと」

 

「封印……?」

 

 

「刹那を呼べ。奴なら何かを知っているはずだ」

 

 

「「「うひゃぁっ!?」」」

 

「おかえりなさいませ、マスター。

 申し訳ございません。ご命令を果たせませんでした」

 

「気にするな。あの小僧に出し抜かれた私にも叱責する資格はない」

 

いつの間にか一行の後ろにはエヴァが戻ってきていた。

着ていた浴衣もボロボロで、戦闘の激しさを思い起こさせる。

 

「刹那さんとは、仮契約していなくて……!」

 

「……茶々丸、信号弾だ」

 

「了解しました」

 

刹那の気配が感じられる方角に向けて、茶々丸が光の弾を発射する。

間もなく刹那の気配がこちらに移動し始めた。

姿を現した彼女の体には無数の切り傷があり、手足こそ無事なものの流れている血の量を見た一般人たちが息を呑む。

苦悶の表情で激しく息を切らしており、木乃香が攫われたことも把握しているようだ。

 

「ごめん、刹那さん!木乃香が……」

 

「いえ……それで、お嬢様はどちらへ!?」

 

「あっちに連れ去られた!嬢ちゃん、あっちにある封印ってのは何かわかるか!?」

 

「……っ!?あの方角にある大岩には、『リョウメンスクナノカミ』と呼ばれる鬼神が封印されているのです!」

 

「『リョウメンスクナノカミ』!?」

 

「それって確か……飛騨の大鬼神!?」

 

「伝説上の化け物のはず……実在するんですか!?」

 

「18年ほど前に、長とネギ先生のお父上……サウザンドマスターが討伐し封印したと聞いていますが……」

 

「父さんが……!」

 

「なるほど、狙いはそれか。

 サウザンドマスターですら討滅ではなく封印を選ぶ相手……。

 そんな奴がここから麻帆良に向かって進軍すれば、進路上にいる一般人にも途方もない犠牲が出るだろうな」

 

「「「!?」」」

 

「どうにかならないのエヴァちゃん!?」

 

「見てみないことには断言できんが、私であれば打倒できるだろう。

 だがあの小僧の妨害は必至だ。奴もまた私以外では相手はつとまらん。

 リョウメンスクナとやらが本山の外に出るまでに倒しきれるかは怪しいな」

 

「……学園長に連絡を!援軍を要請しましょう!」

 

「無駄だ。今奴の手元にはろくな手勢がいない。

 タカミチがいれば何とかなったかもしれんが奴は今日も海外に出張中だ」

 

「そんな……!」

 

 

 

「……援軍なら、呼べます。

 飛び切り強くて信頼できる人が……!」

 

 

 

「兄貴、まさか!?旅行中にゃあ頼るなっつわれてただろ!?

 違反すりゃ『偉大な魔法使い』への道が!」

 

「そんなものより、木乃香さんや皆さんの命が大事です!

 学園長に許可を取る手間すら惜しい……!」

 

懐から一枚の特製の呪符を取り出し、ネギが叫ぶ。

 

 

 

「助けてください、マスター!!!」

 

 

「承った」

 

 

自らを呼び出す召喚式が描かれた呪符に呼応し、六道リンネが彼らの前に姿を現した。

 

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