『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

629 / 790
第15話 リョウメンスクナノカミ

 

天高く上る光の柱が夜空を貫く。

ついに封印が解かれ、二面四手の巨躯の大鬼が湖上に姿を現す。

 

『リョウメンスクナノカミ』

千六百年前に打倒された飛騨の大鬼神。

捕らえた木乃香を伴ってその傍らに浮かぶ千草は高らかに笑う。

 

「……アハハハハ!木乃香お嬢様の力で完全にコイツを制御可能な今、もう何も怖いものはありまへんえ!

 明日到着するとかいう応援も蹴散らしたるわ!

 そしてこの力があればいよいよ東に巣食う西洋魔術師に、一泡吹かせてやれますわ!

 アハハハハハハ!!!」

 

対して、儀式場に立ち鬼神を見上げる白髪の少年の反応はどこまでも冷ややかだった。

目的を達成した喜びどころか言葉も表情もない。

 

ただ、これで彼に与えられた指令は達成できた。

後は勝手にすればいいと身をひるがえし立ち去ろうとしたところで。

 

 

ガシッ

 

 

「……!?」

 

「つれないじゃないか小僧。……もう少し私の錆び落としにつきあっておくれ」

 

影を利用した転移で足元から姿を現したエヴァが、少年の脚を掴んでいた。

 

 

ドカァン!!

 

 

這い出てきたエヴァの拳が魔法障壁をぶち抜き、少年を水平方向に何十メートルも吹き飛ばす。

そして水面の上を何度も跳ねて遠ざかる少年を追ってエヴァがその場を離れる。

一番の障害となる奴の動きを完全に封じ込めるのが、エヴァの役割だった。

 

「な、なんや!?」

 

鬼神の足元で何が起きたのか気付かず、ただ音に反応して千草が下を向く。

その隙に鬼神の正面、遥か遠方から無数の光が迫る。

 

 

「っ!?ひゃぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!!!?」

 

 

数え切れないほどの魔法の射手が鬼神へと降り注ぐ。

怯えて腕を前にして目を瞑る千草だが、彼女自身には一つたりとも当たってはいない。正しくは彼女の傍にいる木乃香を傷つけないように。

魔法の射手では鬼神に満足なダメージを与えられないが問題ない。

これはただの目くらまし。矢の嵐の下を疾走する剣士を鬼神の足元まで送り届けるための。

 

「神鳴流奥義、斬空閃!」

 

魔法の射手では貫くこともできなかった鬼神の皮膚、その脇腹を飛翔する斬撃が切り裂いた。

 

「貴様は……近衛詠春!?叩き潰せぇっ!!」

 

関西呪術協会の長の座に居座る憎き男の姿に気付き、千草は即座に鬼神に攻撃を命じる。

鬼神もまた眼下の人間がかつて己を封じた相手と気付き殺意を露わに襲いかかる。

 

「神鳴流奥義……!」

 

「無駄や死ねぇっ!!」

 

大技を放つつもりか、足を止めて力をためる詠春目掛けて鬼神の四つ腕の一つが振り下ろされる。

 

 

「『白き雷』!!」

 

「なぁっ!?」

 

しかし魔法の射手が飛んできた方角……森の中で、背後に少女たちを庇うように前に立つ和服姿の小柄な女が、掌から雷の柱を放出する。

振りかざしていた鬼神の腕に直撃し、肘から先が焼失する。

 

 

「斬空斬魔閃!!」

 

 

集中を終えた詠春が刀をまっすぐ振り下ろすと、巨大な斬撃が発生し鬼神の腕をもう一本斬り落とす。

 

「おのれぇぇっ!!」

 

千草と鬼神の意識が、完全に足元の詠春と遠方のリンネに集中した。

その隙に二つの影が夜空を飛翔し鬼神の頭部へと迫る。

 

 

「お嬢様!!」

 

「『来れ虚空の雷、薙ぎ払え』!」

「おうじょうせいやぁっ!!」

 

 

「しまっ……!」

 

純白の翼を広げた刹那と、杖に乗ったネギが別々の方角から千草へと襲い掛かる。

こうも近づかれてはスクナに対処させようとしても自分も巻き添えになりかねない。

自分の力で撃退しようにも呪符は先ほど全て使い切った。

 

刹那がすり抜け様に木乃香を抱きしめそのまま離れ、人質がいなくなった千草にネギの『雷の斧』が振り下ろされる。

防御の呪符もなく直撃を受けた千草は大ダメージで意識を失い墜落していくが、追いかけたネギが千草を掴んで全速力で鬼神から距離を取る。

詠春もまた、すでにこちらへ引き返してきている。

 

 

「『来れ雷精 風の精 雷を纏いて吹きすさべ 南洋の嵐』!!」

 

 

全員が十分に鬼神から離れたことを視認したリンネが詠唱を始めた。

魔力の嵐が彼女の傍にいた生徒たちを吹き飛ばす勢いで渦巻く。

 

 

 

「『雷の暴風』!!!」

 

 

 

突き出した右腕から放たれた雷撃を纏う大嵐が鬼神の胴体に直撃。

鬼神はわずかに耐えるがすぐに押し負け、やがて上半身を抉り削られ嵐が向こう側の夜空へと突き抜けていく。

残された鬼神の下半身はひび割れ砕け散り、光の粒が封印の大岩へと吸い込まれていった。

 

 

 

「……ぅぉぉぉぉおおおおおおーーーーっ!!!

 すごい!すごいよリンネさん!!」

 

「マジで人間兵器じゃねぇか……どうせ魔法ならニチアサ系にしてくれよ……」

 

「ネギーーーっ!木乃香ーーーっ!」

 

「明日菜ぁ!お父さまぁ!」

 

「木乃香……無事で良かった」

 

「木乃香パパも無茶苦茶強かったじゃん!

 正直ちょっと顔色悪いただのオジサンだと思ってたよ!!」

 

「なんやねーちゃん、烏族のハーフやったんか」

 

「これはっ……その……ひゃんっ!?」

 

「もふもふです」

「真っ白、きれー……」

 

戦いの終わりを実感して、生徒たちが姦しく騒ぎ出す。

千草を捕らえたネギと木乃香を救助した刹那、そして詠春に続いてエヴァも転移で戻ってきた。

 

「エヴァ、あの小僧は?」

 

「今度こそ完全に引いたようだ。

 ……仕留めてやるつもりだったのだがな。やはり侮れん」

 

「……そうか」

 

「六道さん」

 

エヴァと話していたリンネに、詠春が近づく。

戦いが終わったというのに、その表情は苦々しく細い目から覗く眼光は鋭い。

先程の彼女の戦いに彼は妙な違和感と、既視感を覚えていた。

 

「ご助力、感謝いたします。

 ですが貴女は……いや、まさか……」

 

 

パァン!!!

 

 

「「「!?」」」

 

リンネは力強く掌を叩きつけ詠春の発言を遮る。

その音に反応して騒いでいた子供らの視線も一斉にリンネに向く。

 

 

「さて、もう儂がおらんでも問題なかろう。ここで失礼する」

 

「えぇっ!?もうですか!?」

 

「助けてもろたのに、なんもお礼できてへんよ!?」

 

「お主らの旅行中は手出し厳禁と、学園長と約束しておったからな。

 まぁ流石に此度の件は例外と認めるじゃろうが、それでも長居はせん方がよかろう」

 

「でも……」

 

「感謝はお主らが麻帆良に戻ってから受け取ろう。

 残り僅かじゃろうが、今度こそ真っ当に旅行を楽しんでこい」

 

まくしたてるように言葉を浴びせたリンネは転移を発動し、即座に姿を消した。

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

麻帆良の自室の壁に背を預けた小柄な女は、力なくその場で座り込む。

 

 

――危ないところじゃったな。

  儂との同調が完全に途切れていたら転移での撤収もできんかったぞ。

 

「わりぃな。懐かしい顔にあって、引っ張られちまった。

 ……アイツ随分老けてたなぁ。ハハッ」

 

――そのまま皆に明かしてしまえばよかったろうに。

  ……とは、言っておれんくなったようじゃな。

 

「……あぁ。『完全なる世界』の奴らがまた動き出したみてぇだからよ。

 オレが無事だなんて誰にも知られるわけにはいかねぇ」

 

――重ねて言うが、儂が対処しても良いのじゃぞ?

 

「すまねぇが、こいつはオレがつけなきゃならねぇケジメだ。

 アンタの体と力を借りてる身で何言ってんだって話だけどな」

 

――構わんさ。では儂はまた沈んでおく。

 

「おぅ」

 

 

長い独り言を終えたリンネは天を仰ぐ。

もし霊視能力に優れる人間が今の彼女を見れば気付いただろう。

 

 

 

「まったく……いつになったらオレは、堂々とお前に名乗れるんだろうなぁ、ネギ」

 

 

 

彼女の体と重なる、赤毛の青年の姿に。

 




本作において最初にヒノカミに救われたのはおそらく『ネギ・スプリングフィールド』ではありません。
『ナギ・スプリングフィールド』です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。