『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第4話

隣互が目を開けると、そこは先ほどまでいた山の中ではなかった。

天井が見えていることからどこか屋内であると思われる。

 

「「隣互!!」」

 

「父上……母上……」

 

上に乗せられていた布団を剥いで起き上がったところで驚く。

自分の手足は折れていたはずだ。

 

「まだ無茶はしない方がいいっスよ。

 鉄裁さんに治してもらいましたが、骨が粉々になってたんスから」

 

両親の後ろにいた、帽子を目深にかぶって目を隠し、下駄と甚平を身に着けた胡散臭い男の正体は……。

 

「店主ではないか!?」

 

「お前隣互と知り合いだったのかよ」

 

「うちの店のお得意さんでーす」

 

感性がじじ臭い隣互は洋菓子よりも、和菓子や陳腐な駄菓子を好む。

近所の駄菓子屋である浦原商店には何度もお世話になっていた。

先程の虚の戦いで使った爆竹もここで買ったものだ。

 

「しかしこの状況、もしや店主も?」

 

「えぇ、まぁ。尸魂界……死神の関係者です」

 

力を失った母は事態を察知してやってきた父に状況を説明し、浦原商店に向かい隣互の救出を要請したそうだ。

そして戦いを終えて倒れた隣互を回収して怪我を治療し、浦原商店の秘密の地下室で寝かせていたということらしい。

一護は家に置いてきたそうだ。両親の様子から無事だとは察していたが、直接聞けて一安心した。

 

「結局、アタシらが手出しする前に隣互さんが自力でなんとかしちゃったんですけどね」

 

「よく言う。敢えてギリギリまで手出しするつもりはなかった癖に」

 

またも別の声が割り込んできたが、声が聞こえてきたのは部屋の壁に置いてあるタンスの上。

声の主は人ではなく、一匹の黒猫だった。

 

「失礼承知で尋ねるが、どちら様かの?」

 

「儂は夜一。この店に厄介になっておる……貴様、驚かんのか?」

 

「?あぁ、猫が人語を話したことか。別に珍しくもあるまい」

 

「……本当に何もんじゃお前は……」

 

「おい、それより手出しせずに見てたってのはどういうことだ?」

 

一心が明らかに怒気を発して浦原に詰め寄るが当人は動じず、いつもの軽い調子で答える。

 

「お子さんが何者かを知るためですよ。

 普通の子供じゃないとは聞きましたが、霊力を一切使ってない未知の能力を持ってて、それで虚と渡り合うなんて『普通じゃない』どころじゃあない。

 そっちに比べりゃ自力で斬魄刀を呼び出したことの方がまだ理解ができます。

 ……アタシは疑り深いんで、お二人ほどすんなりお子さんを信用できやしません」

 

「てめぇ……」

 

「落ち着け父上」

 

一心を止めたのは被害者とも言える隣互だった。

 

「……怒らないんですか?」

 

「父母の願いに応える義理もないのにわざわざ足を運んでくれた店主らに感謝こそすれど、恨む理由などない。

 それではただの八つ当たりではないか」

 

彼女がヒノカミとしてヒーローをしていた時にもよくいたものだ。

助けられるのが当たり前と考え不平不満ばかりを口にする輩が。

尚、そういう輩はヒーロー活動妨害やヒーローに限らず他者への暴言などの軽犯罪を犯していることが多いので、彼女はあらゆる伝手を使って悪事を暴き吊るし上げることで社会的に排除していた。

彼女の執念深さを侮ってはいけない。

 

「父上たちが儂を託すほど信じた相手ならば、吹聴せぬと約束してもらえれば全て嘘偽りなく答えよう。

 荒唐無稽な話であるから、店主らに信じてもらえるかはわからんがな」

 

「……穢れを知らない子供の言うこと……ではない。

 そこらの年食っただけの大人よりもよっぽど世界の醜さを知ってる顔だ。

 その上で出た言葉がそれですか……。

 参りましたね。八つ当たりで暴言をぶつけられるよりもよほど心にくる」

 

浦原は帽子越しに頭を数度掻いたかと思えば、そのまま帽子を取った。

 

「お約束しましょう。隣互サンのことはこの場にいる者以外には口にしません。

 アナタが何者か、教えていただけますか?」

 

「うむ。率直に言えば、儂は未来からの来訪者じゃ」

 

「……は?」

 

隣互はこの時代のことが歴史になるほど遠い未来に生まれたこと。

彼女の前世が生きていた時代ではほとんどの人間が『個性』と名付けた超常の力を所有していること。

そして彼女は『死ぬと生まれ変わる』個性を持っており、気づけば過去の時代に生まれ変わっていたことを正直に話した。

個性の発言から彼女のいた時代に至るまでにどれほど犠牲と混沌があったかは、両親に伝えた時と同様に触れずに。

 

(『未来』?『個性』?

 彼女の戦う姿を見てなければ、夢か幻覚ではないかと切って捨てるところだ。

 超常が当たり前になった世界……現世がそんな状況になるまで尸魂界が放っておくか?

 未来というよりまるで『別』の……)

 

見た目に反して知恵者と名高い浦原は、様々な観点から隣互の言葉を精査する。

わかったことは少ないが、彼女が浦原たちの『敵』とは無関係なのは間違いないだろう。

今はそれだけで十分だ。

 

「確かに荒唐無稽ですが……信じましょう。

 お話の通りだとすればアナタは大人だ。

 色々とご無礼を働いた件、お詫びします」

 

「俺は許さねーけどな!」

 

「もう、あなたったら……」

 

「たはは……何とか水に流してもらいたいもンですがね。

 隣互サンからアタシらに、何か望みはありますか?

 ウチの店の割引会員カードとかどうです?第一号ですよ?」

 

「そりゃたった今制度を作れば第一号じゃろうな」

 

「かかか、それも魅力的ではあるが別の願いがある。

 無論、可能ならで構わんが」

 

「そういう言い方をされると断りづらいですねェ……どうやらなかなか手強い交渉相手のようだ。

 お聞かせ願えます?」

 

「……儂を浦原商店に置いてほしい」




ついに来たか……夜一さんが。
主人公の口調の参考にしたくらいだから、文字で違いを出すのが難しくて仕方がない……!
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