一夜明け、修学旅行四日目。
真夜中の騒動で疲れ切っていたネギと3、5、6班(ザジ除く)の面々は襲撃を受けても無事だった離れで一泊し、遅い起床を果たした後で詠春の案内でナギの別荘へと向かっていた。
事件に巻き込まれた生徒たちの記憶は消さないことになった。
彼女たちがそれを望まなかったこともあるが、白髪の少年……『フェイト・アーウェルンクス』と名乗る魔法使いに逃げられてしまったからだ。
彼女らが再び彼と対面した時に、彼と敵対した頃の記憶がないとむしろ危険だと判断した。
ちなみに逃亡されたのは月詠もだ。彼女は刹那との戦いで満足したようで、そのままどこかへと去っていった。
彼女は確かに危険だがあくまで雇われでしかなく、復讐に動くような性格でもないのでひとまずは問題ないだろう。
千草は厳重に力を封じられた状態で独房へと放り込まれている。
小太郎は寸前での離反と活躍、ネギたちの弁護もあり除籍と追放処分のみとなった。
「追放!?そんな……!」
「ちゃうちゃう、オレが長さんに頼んだんや。
お前とかお前のお師匠さんとかおるんなら、麻帆良の方が楽しそうやしな。
別にこっちにゃ仲えぇ奴とかもおらんし」
「さらっと重てぇこといいやがるぜ……。
つっても、ガキ一人でどうやって麻帆良で暮らすんでぃ?」
「裏の仕事でもなんでもして稼ぐつもりや。
一人暮らしできる家探さんとな!」
「子供の一人暮らしなんて駄目よー。
小太郎くんはウチの部屋にいらっしゃい」
「はぁっ!?なんでや!?」
「そうですわ千鶴さん!ネギ先生のような愛らしい子供ならともかく……!」
「助けてもらったもの。お礼をしなきゃ。
最低でも私たちが卒業して寮を離れるまでの間は、彼が麻帆良に慣れるのを手伝うのが礼儀ではなくて?
そうでしょう、夏美?」
「ふぇっ!?え、あ、うん……イイヨ……」
「いくら麻帆良と言えど、子供の一人暮らしは難しいと思います。
しばらくはネギ君と同じく、学生寮にお世話になった方がいいでしょう」
「……長さんが言うなら、これも含めての処罰や思て従うわ」
(ほっほぉ~~ぅ、中々に濃厚なラヴ臭が……!)
(悪趣味ですよハルナ)
「およ?ちうっちなぁんかもやもやしてる?」
「ちうっち言うな朝倉……旅行始まったばっかん時はさっさと帰りてぇと思ってたが、麻帆良が魔法使いの街なんて聞かされた今じゃ帰るのも気乗りしねぇんだよ……!
アタシの安息の地はどこにあるんだチクショー!」
「あっはは、難儀だねぇ」
やがて一行は木々の中に隠れたモダンな建物に辿り着く。
中に入ると最低限の家具とは対照的に、天井までギッシリと本が詰まった本棚が。
「彼が最後に訪れた時のまま保存しています」
「ここに……昔、父さんが……!」
「……さぁ皆さん、時間がありません!
手分けしてネギ先生のお父さまの手がかりを見つけるのです!!」
「「「おぉーーーーーっ!!」」」
「素人が見てわかるわけがないだろう……。
茶々丸、お前が頼りだ」
「はいマスター。捜索と解析、記録を開始します」
ネギと女子たちが散らばり部屋の至る所を確認するが、そんなに簡単に手がかりが見つかるようならとっくに詠春が見つけているだろう。
案の定まもなく力尽きた面々は何の成果も得られず項垂れていたが、千鶴が言うには妙に宇宙関係の書物が多いことが気になったそうだ。
「……ねぇネギくん!魔法ってさ、私たちでも使えるようになるの!?」
茶々丸がキッチンを使い全員分のお茶を用意して休憩に入ったところで、ハルナが食い気味にネギに迫る。
「え?えぇ。初歩の魔法ならそこまで難しくないとは思います。
もちろん得手不得手はあるでしょうしそこから伸びるかは本人次第ですが……」
「ホント!?」
ハルナだけでなく夕映やのどかや委員長、大勢が食いついてきた。
興味なさげに振舞っているが千雨もチラチラとそちらを伺っている。
「魔法を学びたいのなら学園長に相談してみますよ?
今回の件で皆さんにはご迷惑をかけましたし、魔法の先生を紹介してくださるよう掛け合ってみますが」
「えぇ~~っ?ネギくんが教えてくれないの?
私らの先生はネギくんじゃん」
「無理言わねぇでくれよ嬢ちゃん。
兄貴自身がまだ修行中の見習い魔法使いなんだっての」
「あ、そっか。じゃあリンネさんは?」
「マスターは魔法の威力は強いけど、攻撃系呪文を幾つかしか知らないんです。
トレーニング相手にはなってくださるんですが……僕も魔法は主に学校や教本で学びましたし」
「じゃあエヴァちゃん!」
「なぜ私がお前らの面倒まで見なければならん。
それに私が元賞金首だと伝えただろう。
関わりを深めれば麻帆良の魔法使い共との間に余計な不和を招くぞ」
「でもネギくんには教えてるんでしょ?」
「マスターが紹介してくださったのと、僕は最初から普通の魔法使いにはなれないので」
「「「?」」」
「……ちょうどいい機会ですね。
皆さんにも、僕の事情を知ってもらった方がいいかな」
ネギは杖を構えて呪文を唱えた。すると部屋の中の光景が変化する。
座っていた椅子や机だけはそのままに床や壁や天井が消え、雪が降り積もり異国の建築物が並ぶ村が映し出される。
「え!?なにこれ!?」
「記憶を再生する魔法です。ここが、僕が6年前に住んでいた村です」
「……あれ?もしかしてあれがネギくん?」
「んまぁ!なんて愛らしい!」
「はいはい、落ち着いていいんちょ」
話し声が聞こえてそちらを向くと、小さな男の子と女の子が言い争いをしていた。
男の子の方が、幼い頃のネギなのだろう。
記憶の映像を再生しながらネギはぽつぽつと語り出した。
両親はおらず、家族と呼べるのはいとこの姉が一人だけ。
その姉も、先ほど口争いをしていた少女と同じく学校に通っているためたまにしか家に帰ってこない。
他の村人は大人ばかりで、わずか3歳のネギはずっと家に一人で暮らしていた。
幼すぎるがゆえに『父が死んだ』と言うことも理解できず、英雄と呼ばれた父なら『ピンチになったら現れるはず』と信じて自分から危険に飛び込むような、危なっかしい毎日を送っていた。
「英雄?」
「はい。僕の父さんは『千の呪文の男』とも呼ばれた最強の魔法使い……なんですが……」
「奴は実際には5,6個しか魔法を覚えていなかったそうだ。
魔法学校も中退だと、堂々と胸を張っていた」
「「「はぁ!?」」」
「私や仲間たちと行動していた時も、カンペ片手に呪文を唱えているような奴でしたよ」
実際に彼に会ったことがあるエヴァと詠春の追認を受け、どうやらネギの父は優等生のネギとは真逆の落第生らしいと判明した。
だが彼の実力と功績は本物だ。
彼は詠春を始めとした戦士や魔法使いたちと共に『赤き翼』というチームを結成し、20年前の魔法世界の大戦で目覚ましい活躍を見せ英雄と呼ばれるに至った。
なので魔法世界の者たちにとって、その息子であるネギにはとんでもない利用価値がある。
ネギも木乃香と同じ、いやそれ以上に厄介な立場にあった。
その存在が明るみになれば英雄の息子を利用しようとする者にその身柄を狙われるだけでなく、英雄に恨みを持つ者からは命すら狙われるだろう。
なのにネギを守るべきナギはもういない。
だからこの村の村人……ナギを慕っていた魔法使いたちは彼に代わってネギを守ろうとした。
ネギの存在を徹底的に秘匿するため山奥の村へと引きこもり、多少歪ではあったがネギが健やかに育つようにと尽力していたのだ。
当時のネギはそんなことは何も聞かされておらず、理解してもいなかったが。
しかしある日、悪魔の軍勢が村を襲った。
当時近くの池に出かけていたネギが村に戻ると、村全体が炎に包まれており村人たちが杖を掲げて悪魔たちと戦っていた。
彼らは優秀な魔法使いだったが襲ってきた悪魔はどれもかなり格が高く強敵で、彼らの魔法は悪魔にはほとんど通用していなかった。
だが村人たちに交じり戦う異人の女性が、たった一人で劣勢を覆していた。
「あれって……リンネさん!?」
「はい。旅人だったマスターが丁度この時に村の近くに来ていて、異変を察知して駆け付けてくれてたんです」
「6年前ですのよね?今とお姿が変わらないのですが……」
「姐御は老けねぇらしいのよ。実年齢は恐ろしくて聞けてねぇが」
『天網恢々!!』
「うわつよ!村のみんなが苦戦してる悪魔がバタバタやられてくじゃん!」
『ちぃ……手数が足りぬか!』
パァン!
『アークエンジェルズ、ファイア!
村人らと協力し悪魔を撃退せよ!!』
「機械の……天使!?」
(炎と、召喚?スクナと戦った時の奴は雷を使っていたはず……)
村に広がる炎をかき集めて作り上げた網を前面へと押し出すと、通り過ぎた悪魔が焼き切られサイコロステーキのように細切れになった。
続けて掌を叩くと彼女の周囲に十メートルを超える大きさの8体の機動天使が現れ、村の方々に散って悪魔を狩り始める。
『ネギ!』
『スタンおじいちゃん!』
『そ奴が行方がわからなかった子か!?
ならば儂はこやつらが攻めてきた方へ切り込む!
主らはこのまま天使たちと協力し凌ぎきれ!』
『わかった!感謝するぞ旅人よ!』
少しかがんだリンネは足元から炎を放出し、その反動で遠方の空へと恐ろしい速さで飛翔していった。
彼女が放った白い炎は、同時に周囲一帯の村人や悪魔を呑みこむ。
すると悪魔の呪いで石にされた者は元に戻り、重傷を負った者は怪我が癒えていた。
しかし悪魔だけは反対に激しく焼けただれていた。
本作でのヒノカミの参戦タイミングは、ネギの村が悪魔の襲撃を受けた直後です。