そしてこの話で、ヒノカミが平行世界の分岐を過剰に恐れる理由を明かします。
あくまで可能性ですが、可能性があるだけでも危険極まりないのです。
「……明日が休みとはいえもう夜遅い。早速要件を伺おうか?」
「ウム!私の計画に協力してほしいネ!」
ほとんど来客の応接室となっている一階にて、茶と茶菓子が乗った机を挟んで超と向き合う。
「計画……も気になるが、まず先に素性を明かせ。
お主の立ち位置がわからん。
街の魔法使いとの関わりがないのはわかっておるが……」
「私の正体カ……ある時は謎の中国人発明家!
クラスの便利屋恐怖のマッドサイエンティスト!
またある時は学園No.1天才少女!
そしてまたある時は人気屋台『超包子』オーナー!
その正体は……何と火星から来た火星人ネ!!」
鉄板ネタなのか、練習してきたのか、無駄な小芝居まで披露して宣言する超。
普通の人間なら『ふざけているのか』と怒鳴りつけるところだが。
「『魔法世界』の出身者ということか?」
「っ……やはりそこまでご存じカ」
魔法世界が火星を触媒として成り立つ異界だと把握しているリンネはまっすぐに返す。
京都に残したナギのアトリエに宇宙関係の書物が多かったのは、彼が火星と魔法世界を研究していたからだ。
「では、魔法世界の崩壊が間近に迫っていることもご存じカナ?」
「無論」
「……タイムリミットがどれほどかモ?」
「最新の研究結果では、半世紀ほどと」
「10年。すでに10年を切ってるヨ」
「!!?」
ここにきてリンネの表情が明らかに変化する。
かつて始まりの魔法使い……ヨルダが作り出した魔法世界は、今消滅の危機に瀕している。
太陽から供給される魔力で成り立っていたのだが魔法世界の発展に伴い魔力の消費量が激増したため収支のバランスが崩れてしまったのだ。
この事態に対しとある方法で魔法世界の住人の救済を試みたのがヨルダと彼女が率いる『完全なる世界』であり、それを止めたのがナギ率いる『赤き翼』。
そして魔法世界全てを巻き込む彼らの戦いこそが20年前の魔法世界の大戦だった。
「魔力の消耗は指数関数的に増えているネ。
まもなく魔法世界の研究チームもその事実を知るヨ。
そして……メガロメセンブリアが動くネ」
「……!」
それは『現状では』魔法世界で最も古く最も権力を持つ国家。
『正しい魔法使い』ではなく『魔法使いだから正しい』と妄信し、魔法を使えない地球の人間を『旧人類』と蔑む連中だ。
「連中は崩壊する火星と他国の住民を捨てて地球へと侵略戦争を仕掛けるネ。
そして無辜の民に数え切れない犠牲を出す……はずだタヨ」
「……はず、『だった』?」
「そう、『ヒノカミ』と名乗る鬼神が連中の前に立ちはだからなけれバ」
「!?貴様、まさか『未来人』か!!」
「鬼神の奮戦によりメガロメセンブリアの野望は挫かれ、多くの地球人類が救われタ。
……それでも数え切れない犠牲と悲劇が生まれタ。
ほんの少し、ほんの少し何かが違っていれば、防げたであろう悲劇ガ…………っ!」
先ほどまでの軽薄な雰囲気が消え、顔をしかめ言葉を絞り出す超。
一呼吸おいて、俯いていた超が顔を上げる。
「だから私は探していたンダ!アナタを、正体不明の超越者『ヒノカミ』をッ!
ネギ坊主の関係者だという情報しかなかたガ、修学旅行でアナタの戦いを見て確信シタ!」
そして今度は机の両手を置き、上げた頭を深々と下げる。
「頼ム!私に力を貸してほしイ!
アナタの協力があれば確実に、あの絶望の未来を変えることが……!」
「断る!!!」
「え…………」
表情が抜け落ちた顔を上げる超が見たものは、苦悶の表情で自分を見下ろすリンネ……いや、ヒノカミだった。
内側で話を聞いていたヒノカミが、ナギを押しのけて表層へと昇ってきたのだ。
「……ナン、で……?」
「多大な犠牲、迫る悲劇……確かに防ぎたい。
だが儂は、儂の未来を変えることは受け入れられんのじゃ……!」
正しく言えば、ヒノカミは『自分の存在する世界が分岐すること』を絶対に許容できない。
もしも超がドラゴンボールの世界で平行世界からやってきたトランクスのような立場だったらヒノカミは全力で協力した。
ヒノカミがいない、類似しているだけの別の世界からの来訪者ならば。
だが超はヒノカミの名を知っていた。
どうやら彼女のいた未来はすでにヒノカミが立ち去った後のようだが、間違いなくこの世界から繋がる未来から来たのだろう。
であれば、ここでヒノカミが未来を変えるような真似をすれば平行世界が分岐する。
「お主の覚悟に応え、儂も儂の素性を明かす。
……儂はこことは別の世界からやってきた、強大な神格を持つ神が操る端末じゃ。
この世界の民の助けを求める声に引き寄せられ、6年前に異界より来訪した」
「!?」
「そして端末とはいえ儂のいる世界の歴史が改変され平行世界が生じれば、『二つの世界』に『二人のヒノカミ』が生まれることになる。その余波を受けて本体である神とそれが住まう世界も二つに別れるじゃろう。
そこで問題となるのが、儂が『平行世界を渡る能力を持っている』ことと『儂の本体は世界すら容易く滅ぼす力を持っている』こと」
例え世界が分岐しようと本来ならそこに住まう人には何の影響もない。所詮別の世界の話だから。
だがヒノカミは世界を渡る力を持っている。そして永遠を生きる存在である。
だからいつか必ず二柱のヒノカミは対面する。
そして衝突する。同族嫌悪だ。自分自身だからこそふがいない自分が許せない。
小競り合いで済めば御の字。下手をすれば互いを滅ぼし合う本気の殺し合いになるかもしれない。
自分が死ぬだけで済むなら迷うものか。
我が身可愛さに世界一つを見捨てた自分を明日の自分が嗤うだろう。
だがそのまま世界に降り立てば世界そのものを破壊してしまうほどの力を持った神同士が殺し合えば、異界に干渉する能力により破壊の余波は数多の世界に及ぶ。
幾千、いや幾万もの世界が滅んでもおかしくない。
「無論この世界も……絶望の未来どころか未来そのものが消滅しかねん……!」
「…………!」
「お主の覚悟はわかった……諦め絶望を受け入れよなどとは言わぬ。
だがお主が歴史を変えようと何らかの計画を実行に移すのなら、儂は全力を以て阻まねばならんのじゃ……」
「そ……ンナ……っ!」
「すまない……すまない……っ」
救いの女神は、救いを求める少女が伸ばした手を振り払った。
ヒロアカにてトゥワイスが分身たちと殺し合ったように、最初は意気投合し協力し合えてもやがて自分自身が疎ましくなり衝突する。
これを避けられるとしたらそれこそ全王くらいでしょう。
寿命がないから互いに出会わないように気を付けてもいつか必ず遭遇する。
そして強すぎるから二人の彼女がぶつかった時に生じる影響が大きすぎる。
以上の理由よりヒノカミは自分がいる世界が分岐することを過剰に恐れています。
彼女はタイムリープものの作品とはすこぶる相性が悪いんです。