『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第21話

 

今日も麻帆良学園は慌ただしく、生徒たちのイベントは目白押し。

修学旅行が終わり、中間テストが終わり、今度は『麻帆良学園祭』が始まる。

 

国内、いや世界有数の規模の学園都市による全校合同イベント。

今年で78回目。祭り好きの麻帆良の人間が年々規模を大きくし続けた結果もはや収拾が付かないレベルに到達しており、開催中は学園全体が巨大なテーマパークへと変貌する。

三日間の延べ入場者数は約40万人。

そのたった三日間で億単位の金額が動き、数千万の売り上げを出すサークルもいて、それらは『学祭長者』とも呼ばれるそうだ。

 

我らが麻帆良学園女子中等部3-Aもクラスの出し物を決めねばならず、その過程で一悶着起きたらしいが、最終的に『お化け屋敷』に決まったらしい。

そして決まったと思えばすぐにまた騒動を起こすのが3-Aクオリティ。

夜に教室でお化け屋敷の設営作業をしていたら、本当にお化けが出たというのである。

 

 

「で、儂になんとかしてくれと……」

 

「お願いリンネさぁ~~~ん!」

 

「あんなの出るんじゃ皆残って作業してくれないよぉーーっ!」

 

「ただでさえウチのクラス、部活の方で忙しい奴多いし進行遅れてるのに……」

 

「なんか知んないけど、幽霊とかも得意なんでしょ!?

 ネギくんがボソッと漏らしてたもん!」

 

「いやまぁ、確かに儂は霊媒師じゃけど」

 

「ご、ごめんなさいマスター!」

 

3-Aの魔法を知らぬ生徒に無理やり教室まで連れてこられたリンネがあきれ果てる。

ちなみにちゃんと校内に入る許可はもらっている。

ネギの保護者でタカミチ、学園長とも一応顔見知りなのであっさりと許可が下りた。

 

「見てくださいこの写真!

 まるで生きている者を地獄へ引きずり込もうとするような……!」

 

3-Aの生徒が撮った心霊写真が掲載された新聞が目の前に突き出される。

 

「こりゃおどろおどろしいな……写真写り悪すぎじゃろ」

 

「でしょ!?朝倉が調べてくれたんだけど、昔このクラスに通ってた生徒なんだって!」

 

出席番号1番 相坂さよ。

 

享年15歳。最前列窓側が彼女の席であり、そこに座ると寒気がするという理由でいつの頃からか『座らずの席』になっているらしい。

 

「お手数をおかけして申し訳ありません、リンネさん。

 ですがどうか、どうかお力添えを……!」

 

「いいんちょってお化け駄目だったんだねぇ」

 

「魔法使えるようになったのに」

 

「魔法とお化けは別物ですっ!」

 

ネギパーティーたちからも助けを求められるが、リンネは頭を何度か掻いた後で空いた席の前に歩いて移動する。

そして掌を伸ばし、降ろした。彼女の腕は空中で止まっていた。

 

 

ボッ!

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

『ひゃぁっ!?え、え?

 私のこと見えるんですか……!?』

 

「見えるし聞こえるし触れるようにしてやった。

 あ奴らに言いたいことがあるんなら直接話せ」

 

『え……?』

 

リンネの掌から炎のような光が走ったかと思えばそこには半透明の女の子が座っていて。

リンネに促されて呆けた少女たちの方へと顔が向き目が合う。

 

 

「「「「「ぎゃーーーーーーーっ!!!」」」」」

 

『ふゃっ!?』

 

 

後は当人同士でと無責任にその場を離れたリンネは、教室の隅で佇んでいるエヴァの隣に移動する。

 

「妙に影が薄いが、お主なら見えとったじゃろ?

 15年もずっと同じクラスだったんなら声くらいかけてやらんかったのか?」

 

「それで憑りつかれでもされたらかなわん」

 

「あー……確かにそうか」

 

どうやらあの少女は60年も幽霊だったようだし、そこに自分が見える存在が現れたら絶対に依存するだろう。

霊が何か一つに強い執着を持てば拗らせて悪霊一直線だ。

呪いが解けた今ならともかく、少し前までのエヴァは力を封じられていたので霊を見えても祓う力はなかった。確かに中途半端に干渉する方がまずかっただろう。

 

だがリンネが力を注いだことで彼女は全員に見えるようになった。

注いだ力はいずれ尽きるが、一度認識されればずっと見えるようになるはず。

というかよく変質せずに済んだものだ。60年の孤独は普通の人間の魂にはつらいだろうに。

 

リンネがエヴァと雑談に興じている間に、さよはクラスメイトたちに受け入れられたようだ。

はっきり見えるようになり実際に話してみれば、彼女の見た目も感性も普通の女の子。

細かいことを気にせずあっさりと受け入れてしまう3-Aの生徒たちの方がむしろ異常と言える。

 

「でもよかったぁ~~!

 これで夜の作業もできるし、お化け屋敷のお化け役の即戦力確保だよ!」

 

「さよちゃんに負けないくらい、思いっきり怖くしちゃうんだからねぇ~!」

 

『あの、あんまり怖いと私もびっくりしちゃうのでお手柔らかに……』

 

「さよちゃんお化けなのにお化け駄目なの!?」

 

「まぁ、相坂さんとは仲良くなれそうですわ」

 

 

 

「……というか、間に合うんか?

 もう2週間切っとるじゃろ?」

 

「「「「「う”っ……」」」」」

 

教室内を見渡したリンネが素直な疑問を投げかけると少女たちが一斉に言葉を詰まらせる。

さっきも進捗が『遅れ気味』だと言っていたが、どう見ても『遅れすぎ』だ。

学祭まで連日徹夜してなんとかと言ったところだろう。

このクラスは超人揃いとは言え体力は無尽蔵でも精神力は……いや、そっちも無尽蔵な気もしてきたが。

 

 

「……しゃーない。外部に協力者を求めるのは禁止されておらんかったよな?」

 

「「「へ?」」」

 

ナギの精神がヒノカミへの同期を強め、彼女の知識と技術を引き出す。

 

「何を隠そう、儂は大工の達人じゃ」

 

 

その夜から参戦したリンネの活躍により、3-Aのお化け屋敷の設営は急ピッチで進んだ。

ヒノカミは大工の達人だが、裁縫の達人でもありイラストの達人でもありスケジュール管理の達人でもある。

その体と能力を借りたリンネはまさに百人力。

本格的にこのクラスでのリンネの呼称が『姐御』で定着してしまった。

 

 

(……しっかし)

 

 

作業の合間に教室を見渡し生徒たちを確認したリンネは内心でため息をつく。

 

ネギとネギパーティーは言うまでもなく魔法関係者。

今回の事件で認識された相坂さよは60年ものの幽霊。

古菲という中国からの留学生は表の人間のようだが感じる気の大きさは裏でも通用するレベル。

長身糸目の長瀬楓の身のこなしは明らかに忍び。中忍クラスはあるだろう。

龍宮真名は裏社会で活躍する雇われの傭兵で、おそらく半魔。

ザジ・レイニーデイはかなり高位の魔族と見た。

春日美空、明石裕奈からは微弱ながら魔力を感じる。

前者はおそらく見習い魔法生徒。

後者は一般人のようだが、確か父親が魔法先生だったはずだ。

葉加瀬聡美と四葉五月は魔法使いではないが、魔法を知っていると超から聞いている。

というか博士が茶々丸の開発者だそうだ。魔法使いでないとしても相当に詳しいだろう。

 

(一般人の数がもう両手の指で足りるじゃねぇか。

 しかもその嬢ちゃんたちも、どいつもこいつも人間離れしたスペックしてやがるし。

 あのジジイ、最初から魔法バラす前提でこのクラス作りやがったな?)

 

おそらくこのクラスは『裏の人間』と『自力で裏に辿り着きそうな生徒』と『魔法バレしても問題が少ない生徒』を集めて作られたのだ。

完全な魔法の秘匿ができないのなら管理・観察しやすく拡散しにくいように一か所にまとめるというのは理にかなっているが、巻き込まれる方はたまったものではあるまい。

後者に該当するであろう千雨に教えたらよい絶叫が響きそうだ。

 

(……ま、黙っといてやるか)

 

学園祭が始まれば超の計画も実行に移される。

そうなれば今以上の心労がネギや彼女たちを襲うことになる。

つかの間の平穏くらい満喫させてやろう。

 

そして何より、彼女らに利する情報を明かすことはリンネにとってマイナスとなる。

超の計画が動き出せば、リンネは彼女たちの『敵』となるのだから。

 

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