『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第23話 ガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグ

 

「『ガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグ』……!」

 

「「「えっ!?」」」

 

「あの男の名だ。ナギの仲間でタカミチの師匠、そして『紅き翼』のメンバーだ」

 

「父さんの……!」

 

「いやもう、マジで別人じゃん!

 変装のレベル超えてるよ!ホントにあれ姐御なの!?」

 

「気配、振る舞い……魔力の波長すら変わっている?

 もしやそのガトウ氏本人なのでは……」

 

『ケケケ、斬ッテミリャワカンダロ』

 

「余計な騒動を起こすなチャチャゼロ。

 確認するまでもなく偽物だ……ガトウはすでに故人だからな」

 

「「「!?」」」

 

「タカミチが看取ったと聞いた。もう10年前の話だ」

 

しかしあれだけの精度の変装、間違いなくガトウ本人と深い付き合いがなければ不可能なはず。

であれば少なくともリンネは10年以上前に『紅き翼』に接触し関わりを持っていたことになる。

だが『紅き翼』のNo.2で組織の古株ある詠春が『リンネを知らない』という。

タカミチも、彼女との初会合はネギを訪ねてイギリスに向かった時だと言っていた。

 

(やはり奴の姿と名は偽り……紅き翼に近しい者の変装と考えるべきか。でなければ説明がつかん。

 ……まさか関係者ではなく紅き翼の誰か?

 あの擬態能力はアルビレオ……いや、振る舞いから奴の陰険さが感じられない。

 完全再現だとしても奴のアーティファクトは時間と回数制限付きだ)

 

 

 

変装の精度が高いのは当然だろう。

今彼らの前にいるガトウは演技ではないのだから。

 

ガトウ本人の魂はとっくにこの世界にはなく、あの世の場所どころかあの世が実在するかもわからないのでヒノカミがイタコの力で口寄せすることもできない。

だが彼と関りの深いナギの記憶と、この世界に残された残滓をかき集めれば、限りなく精巧なコピーを作り出すことができる。

紅き翼のメンバーの一人に『記録した人間の姿と能力を再現するアーティファクト』を持つ者がおり、その特性の一つとして『記録した当時の人格まで完全再現する』ことが可能だ。

だがそちらは10分間で1度だけという制限がある。

対してこちらは模倣でしかないため精度はほんのわずかに落ちるが時間制限はない。

 

(……本当に、デカくなりやがったなぁ)

 

――あぁ、そんでいい顔をするようになった。

  オレも初めて会った時にゃあ驚いたぜ。

 

――これナギ。あまり儂らが表に出るべきではない。

  ガトウが動かしづらくなるじゃろうが。

 

――おっと、そんじゃ後は頼んだぜガトウ!

  オレらは奥に引っ込んどくからよ!

 

(へいへい)

 

ガトウは目の前で赤くなって縮こまる明日菜に視線を落とす。

 

彼女からは、かつて『紅き翼と共に旅していた日々』の記憶が完全に消されているようだ。

おそらく処理したのはタカミチで、指示したのはガトウ自身。

彼は主にナギの記憶から作り出された存在なので、ナギが紅き翼を離れてから何があったのかは把握していない。自分自身の最期すらも。

 

(平穏に生きるってんなら、あんな記憶は消すべきだった。

 俺だったらそう考える。だが……)

 

だが明日菜自身が再び魔法の世界に足を踏み入れてしまった。

そして完全なる世界の残党が再び動き出していると知った。

奴らは必ず明日菜の……『アスナ』の存在に気付き奪取に動くだろう。

彼女こそが連中の計画の要となるのだから。

 

ならば『明日菜』の中にいる『アスナ』の記憶を呼び戻さねばならない。

狙われている当人にその自覚がなく己の重要度も理解していないなど危険極まりないのだから。

 

だが問題は『どうやって彼女の記憶を呼び覚ますか』だ。

ヒノカミなら力づくで記憶を戻すこともできるがやはり当人への負担は大きい。

彼女は明日菜がアスナであった頃を知らないので、部分的な欠損は起こり得るとのこと。

明日菜に過去の事実や証拠を突きつけ無理矢理呼び起こすのも同様だ。

そこでナギはアスナの記憶を強く刺激できる人物として、幼い頃のアスナが懐いていたガトウの助力を提案した。

 

「さぁて……んじゃ行こうかい。

 つっても俺は年頃の女の子が喜ぶデートコースなんてわかんなくてよ。

 特に行きてぇところがねぇんなら暫くはぶらぶらと散歩するだけになっちまうが……」

 

「え、あ、そうですね……今は学祭準備期間中ですけど、神社の方だともう祭りを先取りして始めてるとか」

 

「そうか。くたびれたおじさんで悪いが、エスコートさせていただきますよ。『お姫様』」

 

「っ…………はい」

 

ガトウも麻帆良の全体図は知識としてナギやヒノカミたちに共有されている。

歩き出したガトウの隣に明日菜がしおらしく続き、影からエヴァとネギパーティー一行が追いかける。

当然、ガトウは彼らの尾行には気づいていた。

 

 

タカミチとすら一回り以上も年が離れていたのに、その上のガトウとなると親子ほどの差がある。

屋台が並び縁日のようになっている参道を通る二人を、疑似的とは言えカップルなどと思うものはいなかった。

 

そしていつもの明日菜を知る者ならば信じられないほど、ずっと彼女は静かで大人しい。

 

「……なぁ、やっぱおじさんといてもつまんねぇかい?

 ずっと黙って歩いてるだけじゃねぇか」

 

「っ!?いえ!!でも、その……なんて話していいか、わからなくて……」

 

「おっと、退屈させないよう話題を振るのも男の仕事か」

 

ガトウと顔を合わせてから、明日菜は胸の奥の痛みと湧き上がるなつかしさに振り回されて混乱しているようだ。

だが隠れて様子を伺うネギたちには、明日菜が好みのタイプを前に舞い上がっているようにしか見えていなかった。

 

「だがおじさんは自分のことを話すのは苦手だからさ、聞かせてくれよ。

 嬢ちゃんとタカミチとの馴れ初めとか、この街でどんな暮らしをしてきたとかな」

 

おしゃれなカフェに入り、明日菜は促されてぽつぽつと話し始める。

やがて彼女の口は少しずつ軽くなり、無口だった幼少期の頃から始まり腐れ縁の悪友、最近知り合ったばかりなのにいくらでも出てくるネギへの愚痴と話が盛り上がっていく。

全部聞こえてる委員長が顔を赤くしていたりネギが顔を青くしていたりしていたが、それはどうでもよいこととして。

ただ明日菜の様子は、まるで久しぶりに会った父親に懐く娘のようだった。

 

「……なぁ嬢ちゃん。アンタ今、幸せかい?」

 

「へ?えぇと、毎日楽しく過ごしてるつもりですけど……」

 

「そうかい」

 

突然妙な質問をしたガトウは、返事を聞くと同時に立ち上がる。

 

「今俺に話したのと同じように、タカミチに話してみな。きっと喜ぶぜ」

 

当初のデートプランでは『カフェで食事をした後は世界樹前広場に二人きりで』となっていた。

告白はしないにしても、そこで今までの感謝を告げたり意識してもらえるように振舞う練習をする予定だったが。

 

「そいつぁタカミチ本人のためにとっときな。

 おじさんの役目はここまでだ。頑張れよ」

 

背を向け立ち去ろうとしたガトウ。だがスーツの裾が強く引かれる。

 

 

 

「……いなくなっちゃヤダ……!」

 

「……?」

 

「ハッ!?あ、ゴメンナサイ!

 なんか、無意識に……何やってんだろ私!アハハハ!」

 

明日菜自身も理解できぬ自分の行動に驚き笑ってごまかそうとした。

それが本物のガトウとアスナの離別の一幕であったことを、偽物のガトウは知る由もない。だが推測はできていた。

 

「!?」

 

「別れは、寂しいよな。だがその後の出会いが嬢ちゃんに笑顔をくれたんだろ?」

 

突然また頭の上に掌を乗せられ、驚き顔を上げた明日菜の目からは涙がこぼれていた。

 

「笑っててくれよ。『俺』もきっと最期までそれを望んでた。

 ……俺もタカミチもアイツらも、そのために戦ったんだからな」

 

「ガトウ、さん?もしかして私と会ったことが……」

 

「さぁてな。そんじゃ、おじさんはここで失礼するわ」

 

明日菜はガトウがリンネの変装ということになっていることすら忘れていた。

立ち去っていく彼の背中から目が離せず、溢れる涙も止められなかった。

 

 

 

 

「……一応はデートの途中だったんだぜ?

 もう少し待って欲しかったところなんだが……それも酷な話か」

 

ガトウが急に明日菜から離れたのは、自分に向けられた強い視線を感じ取ったから。

彼は広場の外れに人払いの結界を敷き、相手が来たことを察して振り返る。

 

 

「師匠……!」

 

「おう。老けたな、タカミチ」

 

 

エヴァから連絡を受けて駆け付けたタカミチが、怯えた表情で立っていた。

 

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