『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

64 / 786
第5話

真っ先に反応したのは浦原ではなく一心だった。

 

「……そりゃウチを出てくってことか?」

 

「そうじゃ。虚に狙われやすい儂が家にいては皆に危険が及ぶ」

 

狙われるだけなら今まで通りだが、問題は母である真咲が滅却師としての力を失ったこと。

原因は不明。力が戻ってくる兆候もない。

隣互が虚に襲われたときに、彼女と家族を守れる人間がいなくなってしまった。

両親が浦原に助けを求めたことから彼には虚と戦う力があるとわかっている。

 

「隣互サンも斬魄刀を手にいれたじゃあないですか。

 個性とやらと併せれば、並みの虚に引けを取るとは思えませんがね」

 

「やはりこれが斬魄刀とやらか……」

 

布団の横に置いてあった刀を掴み、鞘から少しだけ出す。

刀身は燃えるような紅。確かにこれで隣互も虚と戦うことができるだろう。

 

「力を手に入れたからと己惚れるつもりはないよ。

 母上には遠く及ばぬし、儂は虚とやらを知らなすぎる。

 並み相手に引けを取らぬということは、並み以上には勝てぬということじゃろう?」

 

一度負ければ終わりなのだ。妥協や慢心は許されない。

刀を鞘に戻して脇に起き、浦原に向き直り頭を下げる。

 

「己と家族を守り抜ける力を身に着けるまでの時間が欲しい。

 虚に襲われぬ場所を用意してもらうだけでも構わぬ。

 この通り、伏してお願いする」

 

「……」

 

隣互の要求を叶えることは可能だ。

浦原はリスクとリターンを頭の中で天秤にかけ始めるが、それよりも先に夜一が割り込んだ。

 

「……気に入った!」

 

タンスの上から黒猫が飛び降りてくる。

着地と同時に煙が噴き出し、現れたのは褐色の肌をしたスタイルの良い美女だった。全裸の。

 

「ダ、ダイナマイッ!!……はっ!?」

 

男の性か、真っ先に反応してしまった一心は、背後で微笑む愛する妻の笑顔から恐ろしい圧を感じ取り、即座に土下座する。

 

「おぉ、女性の方でしたか。

 口調から男性かと思うておりました。儂が言えたことではありませんがな」

 

「……儂の正体を知った瞬間の愉快な反応が楽しみなのだが、その点は貴様はつまらんな。

 しかし貴様の覚悟と気概は気に入った。

 喜助、こいつは儂が預かる。しばらく地下を借りるぞ」

 

「まったく……夜一サンは気まぐれですねぇ。

 腹括ってくださいよ、隣互サン?

 無茶苦茶スパルタですからね。アタシゃ知りませんよ?」

 

「望むところ。……よろしくお願いいたします、師匠」

 

「かっか、可愛げはないが素直なところはよい。

 徹底的にしごいてやるから覚悟するように」

 

隣互が浦原商店に移住し夜一の弟子となることが決まったが、真咲が数日待ってほしいと願い出た。

事情を知る真咲たちならこっそりと会いに来ることもできるが、一護や妹たちはそうはいかない。

ちゃんとお別れをしてほしいと言われれば、確かにその通りだと隣互は勝手ながら猶予を求めた。

人が一人いなくなるのだから、なんらかの理由付けとその根回しが必要になるだろうと浦原も了承。

修行開始は一週間後となった。

 

隣互が黒崎家を離れる表向きの理由は『飛び級で海外の大学へ通うことになったから』という話になった。

前世では教師として教鞭を取った身。

時代が違うせいで社会科だけは今一つだが、9歳ながら本当に大学生レベルの頭脳を持っている。

それを周囲に知られていたこともあって、学校でも疑う者はほとんどいなかった。

旅立つ前の最後の夜。下の妹たちは隣互との別れを悲しみ何とか引き留めようとしたが、彼女たち以上に号泣し姉に縋りつく父の姿を見て涙を引っ込めた。

ちなみに一心のこれは演技ではなく本心。本当はすぐ近くにいることも、その気になれば会いに行くこともできるとわかっていてコレである。

 

泣きつかれて眠ってしまった妹たちと父が、母によって部屋に運ばれていった後、居間に残った一護が隣互に問いかける。

 

「……大学っての、嘘なんだろ?」

 

「……そりゃあわかるか。

 その通りじゃ。儂は悪霊共に狙われておる。

 故に力をつけるまで、儂はこの家から離れねばならぬのじゃ」

 

「だったら!俺も一緒に!」

 

「たわけが!貴様がおらずして誰が遊子と夏梨を護る!?」

 

一護は気迫に飲まれて一歩引き下がる。

だが悲しみと悔しさは消えていた。

役立たずと置いていかれるのではない。妹たちを託された。

自分よりもはるかに優秀な姉が、自分を頼ってくれたのだ。

 

己の定めた『一つ』を『護り』通せるように。

それが『一護』の名の由来ならば。

 

「必ず戻る。……儂は、『黒崎 隣互』じゃからな」

 

大切な人の『隣』に立ち、『互い』に支え合っていけるように。

それが『隣互』の名の由来である。




この後、一気に原作開始後まで飛びます。

家族が一人いなくなってしまいましたが原因が主人公側にあるので、一護のトラウマにはなりませんでした。
しかし主人公から家族を託されたことで、原作以上に努力し、家族を守ろうとします。
姉というとんでもない指標を持ってしまったせいで、一護は原作以上に強くなります。
勿論、この段階ではあくまで人間としてですが。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。