『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第28話 ネギVSタカミチ

 

『舞台の修理が終わりました!

 選手のお二人は舞台へどうぞ!』

 

司会の朝倉のアナウンスで、ようやく第六試合が始まる。

学園最強の広域指導員VS麻帆良に赴任したばかりの噂の子供先生。

実績の差は大きく、年齢も20以上離れている。

一般人から見れば戦うまでもなく勝敗は明らかだ。

そして魔法使いたちすらも同じ予想を立てるだろう。

 

だが向かい合う当人たちはどちらも油断なく相手の目を見つめている。

ネギもタカミチも負けるつもりはない。試合に勝つつもりでこの場に臨んでいる。

 

タカミチは両手をズボンのポケットに突っ込む。

舞台の外に杖を置いてきたネギは無手で構える。

その姿はタカミチの知るナギとそっくりだった。

 

『それでは第六試合……FIGHT!!』

 

初戦の相手がタカミチと決まったネギは、昨日別荘でエヴァからガトウとタカミチの情報を聞き出している。

彼女は圧倒的すぎる差を埋め少しでも面白い試合になればとあっさりネギの懇願に応じた。

一応は弟子となった少年がどこまで食らいつくのか、エヴァは会場の片隅でひっそりと観戦していた。

 

だが彼女の望む展開にはならなかった。

戦いは終始タカミチが圧倒していたからだ。

 

タカミチの扱う技はガトウから受け継いだ無音拳。

魔力で加速した拳圧を飛ばすというもの。射程は10メートル前後とこの舞台をほぼカバーしてしまう。

欠点は接近されると使えないこと。

ならば最適解はとにかく距離を詰めて攻め続けること。

 

なのにそれを知っているはずのネギはあえて距離を取って戦うことを選んだ。

無音拳の威力はそこまで高くなく、ある程度距離を取れば常時展開している魔力障壁で防ぎきれる。

らちが明かないと判断したタカミチは『咸卦法』を発動させ拳撃の威力を上げるが、ネギは強者を相手にし続けて鍛え上げた直感と瞬動で攻撃をかわし続ける。

確かに回避は見事。だが逃げ回っているだけで散発的な攻撃しかできずじり貧だ。

観客たちも仕方ないと理解しつつも落胆と諦めの声が上がっている。

 

「……こんなものかい、ネギくん?」

 

「はぁ、はぁ、くっ……!」

 

「君の戦い方は本当にナギにそっくりだ。

 だが今の君が、僕を相手に使うにはふさわしくない。

 それは『圧倒的な力を持つ強者の戦い方』なんだよ」

 

何より才能と勢い任せの乱暴なナギの戦闘スタイルは、お利口で穏やかなネギに根本的に合っていない。

加えてナギに似ているということは、ナギをよく知るタカミチもネギの動きを予測できるということだ。

 

確かにネギの実力は高かった。

咸卦法まで発動させているタカミチ相手に凌げているだけで十分に強者。この学園でも上澄みだろう。

以前のタカミチならばネギの成長が実感できたならば負けてもいいと考えていたかもしれない。

だが彼は仮初とは言え師と対面し、師を下したのだ。

赤き翼の一員として、ガトウの弟子として、その名に泥を塗るわけにはいかない。

 

「ここからは、本気で行くよ。

 無理だと思ったらギブアップしなさい」

 

タカミチが再度『咸卦法』を発動させた。

今までも油断はしていなかったがあくまで様子見。

タカミチが本気でネギを倒す気になったのならいよいよ打つ手はない。

 

 

「はぁ、はぁ……へへっ」

 

 

だがネギは、不敵に笑った。

 

そして彼の周囲に次々と光球が現れる。待機状態で発動させた魔法の射手だ。

だがこんな初歩の攻撃魔法ではどれだけ数を増やしたとしても咸卦法を発動させたタカミチの防御を貫くことはできない。

ただの魔力の無駄。今までの攻防でその程度のことは理解しているはず。

 

「わかってるよ、タカミチ。

 僕が『父さん』の戦い方をしても、どうやったってタカミチには勝てっこないって」

 

「……?」

 

 

 

「だからここからは、『マスター』のやり方で行く!」

 

 

 

ネギが叫ぶと同時に魔法の射手を多重発動し、周囲に一気に大量の光球が生成された。

ネギの周囲にではない。『ネギとタカミチの』周囲にだ。

 

「これは……っ!?」

 

「101矢。これが僕の制御限界だ」

 

ネギには憧れている人が二人いる。

一人は父『ナギ・スプリングフィールド』。

そしてもう一人は彼の師匠『六道リンネ』。

『無数の火球』を自在に操り村を襲った悪魔の軍勢を蹂躙する彼女の姿は今もネギの脳裏に焼き付いている。

 

当然ネギは『その技を学びたい』とリンネに頼んだ。

だが彼女の技は彼女自身の特異体質に依存しており、他者に教えることができなかった。

ネギは落胆したが諦めきれず、幼い頃から時間をかけて自力でそれに近い技を編み出していたのだ。

魔法使いなら誰もが習得している初歩の攻撃魔法『魔法の射手』を使って。

 

『魔法の射手』の遠隔発動・精密操作・多重制御の極致。

それこそがネギの初めてのオリジナル技。

 

 

「『百一鬼夜行』。いくよ、タカミチ!」

 

 

宣言と同時にタカミチの近くにある光球が一気に彼へと迫る。

だがどれも大した力を感じない。本当にただの魔法の射手だ。

ならば無視してネギへと突っ込もうとしたタカミチだが。

 

カッ!

 

「っ!?」

 

彼の目の前で光が炸裂し彼の目を焼いた。

続いて迫る矢は寸前で雷へと変化しタカミチの障壁にぶつかりバチリと弾け、次の矢は暴風となってタカミチの体を揺らす。

 

(光と、雷と、風!?

 3種の属性の魔法の射手を、同じ見た目で同時に……!?)

 

「なるほど、見事なものだ。だが……」

 

結局、ネギの攻撃がタカミチにほとんどダメージを与えられないことは変わらない。

どれだけ攻撃を受けてもダメージなど受けないのだから避ける必要すらない。

 

「無駄だよネギくん、これでどうやって僕を倒すつもりだい?」

 

「倒すつもりはないよ。だけど……!」

 

次々と光球を生成し、それをぶつけるネギは断言する。だがそれは敗北宣言ではなく。

 

 

「『勝つ』つもりだ!!」

 

 

「…………っ!?」

 

『倒さず』に『勝つ』。

ようやくタカミチも、ネギの狙いに気付いた。

 

試合の勝敗を決める方法は全部で5つ。

ダウン10秒。

場外10秒。

気絶。

ギブアップ。

 

そして『制限時間を超えた場合の観客のメール投票結果』。

 

未熟なネギではまともに戦ってもタカミチに勝てるはずがない。

だからネギは最初から、己の勝ち筋を『観客の投票』一つに絞っていたのだ。

序盤の振る舞いは魔力の消耗を抑えながらの時間稼ぎと『自分が苦戦しているように観客に印象付ける』ため。

なぜなら民衆は弱者の下克上や、痛快な逆転劇を好むもの。

 

(しかもそれがネギくんのような『子供』なら……やられた!!)

 

彼が『己の容姿と弱さすら利用した』と気づいたタカミチは慌てて攻撃に移るが、ネギは自分の周囲の光球を囮に、時に踏みつけて足場にして舞台を駆けまわる。

元から的が小さく素早いのに、視界に大量の障害物まで現れたせいでうまく狙いが定まらない。

やがてタカミチも、ネギが『認識阻害』を併用していることに気付いた。

ほんの少し見つけづらくなるだけの初歩中の初歩の魔法。そのほんの少しがタカミチの狙いを狂わせる。

 

舞台を跳ねまわり攻撃を回避し続けるネギに対し、タカミチには何度も何度も矢がぶつかっていた。

流石のタカミチも自分の周囲に次々と現れ襲い来る無数の矢を全て躱すことはできない。

それが普段なら避ける必要もないような弱い攻撃だから、余計に反応が鈍くなる。

そしてぶつかる度にほんのわずかに体が揺れる。

この状況においては『ダメージがなくてもいい』のだ。『効いているように観客に錯覚させる』ことができれば。

事実、今の会場は派手な技を披露し、見違えるような動きを見せるネギを応援する声援一色だ。

 

ネギが魔法の射手を遠隔発動できる距離はおよそ5メートル。

瞬動で距離を詰めようとしても、大量に滞空する光球が邪魔をして着地に失敗する可能性が高い。逆に距離を取ろうとしても舞台が狭すぎて不可能。

無音拳の連射力なら光球を全て撃ち落すこともできるが、ネギを止めない限りいくらでも補充されてしまう。

タカミチが本気の拳撃を放てば光球ごとネギを吹き飛ばせるがここは舞台の上で、周囲には観客がいる。

舞台の外側の空中、観客席に近い位置を虚空瞬動で飛びまわるネギに本気の攻撃を行えば背後の建物や人に被害が出る。

彼はタカミチの善意と観衆さえも利用していた。

 

(これがリンネくんの戦い方……!?

 姑息で、狡猾で、なりふり構わぬ……『力なき弱者』の振る舞いだ!

 彼女がエヴァに並ぶほどの実力者ならばなぜ!?)

 

タカミチは思考を巡らせながら攻撃を続けるが、有効な手立ては思い浮かばず無駄に時間が過ぎていき。

 

 

 

『タイムアップ!15分が経過しました!』

 

 

「…………」

 

「っ……!」

 

タカミチとネギの動きが止まる。

ネギは疲労で崩れ落ちそうになるが歯を食いしばり、まっすぐに立ち不敵な笑みを崩さずにいる。

 

『それでは、これよりメール投票に入ります!』

 

「その必要はないよ」

 

タカミチが朝倉の言葉を遮る。

今の観客の反応を見る限り投票など行うまでもなく。

いや、ここまで見事に掌の上で転がされた時点で。

 

 

「僕の負けだ」

 




作者の個人的な希望として、ちゃんと本気のタカミチをネギに倒してほしかった。
その結果このような展開としました。
勝ち方はちゃんとしてませんが、勝ちは勝ちです。

ネギの面倒を見ていたリンネは基本的にナギが操っていましたが、ナギはヒノカミに同期していたのでヒノカミの戦い方もある程度再現し教えることができます。
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