パソコンを開いてネットの反応を確認し、千雨は安堵する。
あまりにも派手で見栄えのいいネギの魔法、そしてありきたりでご都合主義な逆転劇。
今の試合で『大会はやらせ』という風潮が強まったようだ。
まだまだ気は抜けないが最悪の流れは防げた。
時間ギリギリまで会場にいた夏美も安心して、演劇部の出し物に参加するため会場を後にした。
控室に戻ったネギは小太郎と、控室に忍び込んでいたエヴァになじられていた。
『狡い』『男の戦い方じゃない』『それでも闇の福音の弟子か』と散々な言われようだ。
「ハハハ。試合に負けて、勝負に勝ったってところかな。
……ところでネギくん。先ほどの戦い方は、本当にリンネくんのものなのかい?」
「え?うん。技もだけど、マスターならこうするんじゃないかなーって」
「兄貴のあの技は見た目が派手なだけでまだ未完成。
特に威力が全然伴ってねぇから格上相手に通用するもんじゃねぇ。
だってのにそれで勝ち星拾うってんだから流石だぜ」
「……なぜアイツが、あのような戦い方を身に着けている?」
「やはりエヴァもそう思うかい。
……彼女の試合を見れば、何かわかるかもしれないね」
学園長から詳細な情報を聞いているが、タカミチはリンネが戦う姿を直接見たことはない。先日の一件はガトウを模倣していたので例外だ。
エヴァやネギたちの前では、リンネが戦う時はネギの参考になるようにとナギに似せたスタイルで振る舞う。
だが司会をしていた朝倉が言うには、予選の彼女の戦い方は普段と少し違ったそうだ。
もしかしたらこの武道会で彼女本来の戦い方が分かるかもしれない。
第八試合にて彼女と戦うのは委員長。
ナギに匹敵するであろう実力者のリンネに素人に毛が生えた程度の彼女が敵うはずもないが、どうやら目が離せない戦いになりそうだ。
その前に行われる第七試合。
明日菜と刹那の戦いだが、二人は修行中に別荘で何度も手合わせをしている。
身体能力はほぼ同等だが、やはり経験と技術の差は覆せず、いつも通りに刹那の勝利となった。
だがタカミチは明日菜が『咸卦法』を使えることに驚いていた。
別荘にて唯一魔法を使えずにいた明日菜にリンネが教授したところ、一度で身に着けてしまったという。
その習得難易度を知るエヴァも未だに信じられずにいるが、目の前の光景は間違いなく現実だった。
そして一回戦最後の試合、第八試合が始まる。
舞台の上には控室から歩いてきた委員長と、突然姿を現したリンネが並ぶ。
「リンネさん……貴女は、いえ貴女方は何をしようとしているのです?」
「…………」
「答えるおつもりはないと、そういうことでしょうか?」
「…………」
「わかりました……これは試合、ならば力と技で語り合いましょう!」
身構える委員長に対し、リンネは目も口も閉じ腕を組んで仁王立ちしたまま。
「……おい、いつもの奴と雰囲気が違わないか?」
「そうかい?たまに考え込んだりするとあんな風に静かになるが……」
観客席のエヴァの疑問にカモが応じるが、同意は得られず話を打ち切った。
あらゆる術を駆使してリンネを注視しているエヴァは、いつもと同じようでどこか異なる彼女の波長を感じ取っていた。
選手用の観戦席に座るタカミチは普段との違いが分かるほど彼女との関わりはないが、一挙一動を見逃すまいと視線に力を入れている。
ちなみに、違和感の正体は単純だ。
まほら武道会が始まった直後から、リンネを動かしているのはヒノカミだった。
当初は武道会に参加するのは当然ナギの予定だった。
目的は超の計画のために大会を盛り上げることと、ネギと試合で戦うこと。
25年前、当時10歳だったナギはかつてこのまほら武道会に参加し優勝した。
再び舞台に上がり当時と同い年の息子ネギと戦う。
己の肉体でないことは残念だが、彼好みのシチュエーションだ。
だがナギは参加者に紛れる懐かしい気配に敏感に反応した。
クウネル・サンダース……奴の正体は赤き翼の一人『アルビレオ・イマ』。
勘が鋭い奴ならばリンネの正体とナギの状態に気付くかもしれないと、彼は慌ててリンネの奥へ引っ込んだ。
たしかにリンネは武道会の前は超との計画の準備のためにネギたちから距離を取っていた。
だが武道会が開催された後でも徹底して姿を隠しているのは、ネギたちからではなくアルビレオを避けるためだった。
(……どうしたもんかのぉ)
突然の選手交代となったが、はっきり言ってヒノカミの方はこの武道会そのものに乗り気でない。
リンネはヒノカミの端末だ。ヒノカミが操るリンネは他との実力差が隔絶しすぎて試合が成立しない。タカミチだろうがアルビレオだろうが瞬殺だ。
楽しみにしていたナギを差し置いてネギと戦うのは彼に悪いし、対戦相手の雪広あやかは特にネギに献身的に世話を焼いてくれているし、彼女がこの大会に参加したのもリンネと超のことを調べるためなのでこちらが巻き込んだようなもの。
(となれば覚悟を持っているとはいえ、怪我をさせるのもなぁ……)
よってリンネは微動だにせず考え込んでしまっている。
舞台に立ってから、そして試合が始まった今でさえも。
「はぁ、はぁ……くっ!!」
『雪広選手、猛ラッシュ!
だが六道選手……全く動かない!
雪広選手は六道選手を動かせない!!』
委員長は雪広流柔術を駆使して果敢に攻めるが、まるで銅像のようにリンネの体はびくともしない。
彼女は防御すらしていない。ただ立っているだけだ。
「…………ふむ、これでいくか」
「っ!?」
『六道選手、目を開いた!ついに動くか!?』
委員長が驚き距離を取った。
ようやく考えがまとまったリンネはゆっくりと右腕を掲げる。
「DETROIT SMASH」
そして振り下ろした。
ドガァァァン!!!!!!
「「「「「!?」」」」」
「キャァァッ!?」
『うわわっ!?』
轟音と爆風にあおられ間近にいた委員長が吹き飛ばされる。
続いて同じく舞台の上にいた司会の朝倉も。
彼女らは魔術を使って空中で姿勢を制御し観客席の屋根の上に着地、舞台の方を見る。
水煙が晴れると、リンネが先ほどまでと同じ位置に腕を組んで立っていた。
しかしその足元は。
「っ!?」
『舞台が……ない!?』
リンネは空中に浮かんでおり、その下には大量の瓦礫と大きな穴が。
やがて湖の水が流れ込んでいき、ただの水面だけが残された。
「ワン、ツー、スリー……」
「『!?』」
リンネがカウントを取り始め、委員長と朝倉が気づく。
リンネは宙に立っているが委員長は観客席の屋根の上……『場外』に着地してしまった。
10カウントが終わる前に舞台の上に戻らねばならないが、その舞台はもう跡形もない。
「……ナイン、テン。……朝倉?」
『……場外、10カウント!六道選手の勝利となります……!』
「そんな……っ」
決着がついたというのに、会場は静まり返っていた。一部を除いて。
「馬鹿な……馬鹿なっ!」
「どうしたんでぃ、エヴァ!?」
「奴は、何もしていなかった!
『戦いの歌』どころか、気や魔力を纏うことさえ……!」
「ど、どういうこってぇ?」
「あのパンチの威力は、奴の『素』の身体能力ということだ!!!」
「はぁぁぁぁぁっ!?」
――――……
「……ハカセ」
「ど、どうしました、超さん?」
「ポンポンが……ポンポンが痛いネ……!」
「……よしよし」
『敵に回すと恐ろしいが、味方にすると胃に優しくない奴』
ヒノカミが動き出しました。