『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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ストック溜まりきっていませんが、学園祭分の目途は立ちました。
また止まるかもしれませんがキリがよいところまでは続けて投稿します。


第32話

 

『相手に合わせる』というリンネの言葉は本当だった。

彼女は己の肉体のスペックを、対戦相手である刹那に合わせてきたのだ。

同等のパワー、同等のスピード。明らかに手加減をしている。

 

故に今の両者を隔てているのは圧倒的なまでの『技量の差』。

 

(型の基礎のようなものはあるが……これは『実戦剣術』だ!

 一体どれほどの戦場をその剣で潜り抜けてきたのだ!?

 これで『剣士ではない』というのか!?)

 

どれほど果敢に攻めても、どれほど隙を突こうとしても、全て対処されてしまう。

たった今もデッキブラシの柄の部分で放った渾身の突きが受け止められた。

それも、木刀の刀身の先端の一点をデッキブラシの円柱部の中心にぴたりと押し当てるという神業で。

 

今のところ刹那はダメージは受けていない。

と言うよりも、リンネは全く攻めてこない。

だがそれは刹那の攻撃を防御するだけで精一杯というはずもない。

 

なぜならリンネは、試合開始地点からほとんど動いていない。

 

ここまで加減されるというのは剣士としてあまりに屈辱。

だがそれ以上に痛感するのはここまで加減されても敵わぬ己の無力。

どうやら自分では彼女の隠された秘密の一端すらも引き出せないようだと受け入れた。

 

それでも己の役割を全うせねばと、刹那は言葉をぶつける。

 

「何故ですか、リンネさん!?

 何故貴方が超鈴音と共謀し魔法の存在を公表しようなど……!」

 

「ふむ、流石に超の目的には気づいておるか」

 

鍔競り合いでの問答。一般人に聞こえる声量ではなく、これが聞こえているのはネギたち魔法関係者だけだろう。

 

「ただ、ちと誤解しておるようじゃな。

 儂は超に共感しておるのではない」

 

「!?」

 

「取引したんじゃよ。

 儂が超に手を貸す代わりに、ことが終われば超が儂に手を貸す、とな」

 

「取引……っ!?」

 

そこで刹那は弾き飛ばされたが、身をひるがえして着地し再び突撃する。

 

「彼女は、魔法をバラそうとしているのですよ!?

 それがどれほどの騒動と被害を生むことになるか……!」

 

 

 

「魔法をバラすことのどこが悪い?」

 

「!?」

 

 

 

驚愕で生まれた隙を突かれ、今度は先ほどより強く吹き飛ばされた。

刹那が再び距離を詰める前にリンネは語り出す。

 

「隠し事が暴かれることにより騒動が起きるというのならば、それは『暴いた者』が悪いのではない。

 無暗やたらと暴くことが正しいとは言わんが、根本的には『隠していた者』の方が悪い。違うか?」

 

「な……!?」

 

「何より、秘密というのはいつか必ず知れ渡るもの。

 永遠に隠し通すことなどできはしない。

 そして秘密が大きく、隠している期間が長いほど反動は大きくなる。

 ならば早めに明かした方が被害も少なかろう。

 超は一応そのための備えもしておると言うしな」

 

「ですが、『コレ』は強大で、危険な力です!

 無暗に広めるべきではない!しっかりと管理せねば……!」

 

「管理できておらんじゃろ?

 修学旅行での天ヶ崎千草の暴走、忘れたとは言わさんぞ」

 

「……っ」

 

「『公開する機を狙っている』というなら待ってやっても良いが、その様子もない。

 そして放っておけば風化するような秘密でもない。

 であればただの問題の先延ばし、未来に負債を押し付けるだけ。

 既に儂は、魔法使い連中には『魔法を維持管理する能力と資格がない』と判断しておる」

 

「ぐはっ!?」

 

「それと、どうやらお主は本国の連中を知らんようじゃな。

 奴らが秘匿を維持するのは、既得権益と己の優越感を守るためだけよ。

 儂には『積極的に広めてやろう』という気概まではないが、秘匿を続けることにもはや正義も大義もあるまい」

 

「ですが、そうなればネギ先生を始めとした多くの者が罰を受ける!」

 

「ならば儂が救う。それで解決じゃ」

 

「…………!」

(駄目だ……視点が違いすぎる!会話が成立しない!)

 

試合前に放った技、威力は大幅に抑えられているが『月牙天衝』という飛翔する斬撃を受けて刹那はさらに吹き飛ばされる。

 

(本当にこの人は、『六道リンネ』なのか!?

 今まで見てきた彼女はここまで過激ではなかった!

 いや、今まで見てきた彼女は幻だったのか!?)

 

「さて、余興と問答に付き合うのもここまでじゃ。

 そろそろ15分経ってしまうのでな」

 

「くっ……」

 

やはり狙いを読まれていたかと刹那は舌打ちする。

敗北は決まっているとしてもメール投票まで持ち込み、潜入している明日菜たちが活動できる時間を少しでも稼ぐことができればと、刹那は目論んでいた。

 

リンネは右手に握った木刀の切っ先を刹那に突きつけ語り始める。

 

「最後に教えてやろう。この木刀はただの木刀ではない。

 出雲の地の神木より切り出した『神木刀』でな。

 名を『天叢雲』と言う」

 

「『天叢雲』……馬鹿な!

 それはスサノオノミコトの神剣だ!そんな木刀が!」

 

「無論、スサノオが振るった物と同じではない。

 だがこのひと振りにはその名を継ぐだけの力が宿っている。

 ……その目に焼き付けるがいい」

 

 

 

 

「オーバーソウル、『ヤマタノオロチ』」

 

 

 

 

木刀の柄の部分に生じたエネルギーの球体の瞳が開き口が裂け、頭頂部から八つの龍の首が生える。

オーバーソウルは本来は霊視能力がある者でなければ見えないが、世界樹の魔力に満ちた空間でリンネの力を注いで再現されたそれは、観客の一般人たちにもはっきりと見えていた。

 

「化け物……!?」

 

「お主には手心を加える必要ないな。……歯ぁ喰いしばれ」

 

「っ!?神鳴流決戦奥義!真・雷光剣!」

 

「ぬるい」

 

 

 

 

『『『『『ギャァォォォオオオオオオオオオッ!!!!!』』』』』

 

 

 

振り下ろした木刀に従い、八つの龍が咆哮を上げて襲い掛かる。

それは刹那が放った渾身の一撃を弾き雷を呑みこみ刹那自身に殺到する。

 

「がっ……ぁぁぁああああっ!!!」

 

龍は牙をむいて刹那の四肢に食いつき鮮血をまき散らせる。

 

「地獄竜、紅蜥蜴」

 

接近したリンネが木刀を叩きつけ、傷だらけの刹那を観客席を超えてその先にある湖へと跳ね飛ばす。

やがて着水音と立ち上る水しぶきが会場へと届いた。

 

「せっちゃぁぁんっ!!」

 

『じょ、場外……いや、やりすぎだよっ!!』

 

「司会者が私情を挟むな。引き受けたなら、役目を果たせ」

 

『っ、ワン……ツー……!』

 

殺気を向けられ委縮した朝倉は、怯えながらもカウントを開始する。

例え生きていたとしてもあれほどの距離にまで吹き飛ばされれば、転移能力でもなければ10秒で戻れるはずもなく。

 

『……ナイン、テン!勝者、六道選手!

 これでベスト4が決定しました!』

 

宣言が終わると同時にリンネはまた消えるように姿を消す。

先ほどから木乃香は観衆のど真ん中だというのに箒を取り出し飛んでいこうとして、ハルナたちに必死に押しとどめられていた。

 

「さっきネギくんから『迎えに行く』って連絡あったでしょ!?待ってなさい!」

 

「でもっ、でもぉっ!」

 

『木乃香さん!刹那さんと合流しました!』

 

「ホンマ!?せっちゃん無事!?」

 

『無事ですよ。それどころか、刹那さんは会場に戻ろうとしていた途中でして……。

 見る限り、怪我らしい怪我もほとんどないです。

 刹那さんから木乃香さんに、『ご心配をおかけして申し訳ありません』って』

 

刹那は未だに誰とも仮契約を結んでおらず、通信はネギと木乃香を通じて行われていた。

 

刹那が言うには、リンネの一撃は確実に致命傷となり得る威力だったそうだ。

だが攻撃を受けた直後から怪我と痛みがみるみる消えていき、湖に着水する頃には傷一つ無くなっていたとか。

よく見れば自分の体を白い炎が覆っていたらしく、であればこれは『不可死犠』というリンネの治療術。

彼女が刹那を攻撃すると同時に打ち込んでいたようだ。

 

間もなくネギと一緒に舞台へと帰還した刹那は確かに服はボロボロだが傷らしい傷は見当たらず、気を揉んでいた観客たちも胸をなでおろしていた。

 

「こりゃアレだ、刹那嬢ちゃんはあやか嬢ちゃんと違って元々裏の人間だからだな。

 殺す気はねぇけど痛い思いをさせるくらいは問題ねぇって判断したんだろ」

 

「気遣いがわかりづれぇ……なぁネギ先生。ホントにアイツ姐御か?

 アタシらガキに甘いところは相変わらずっぽいが、桜咲との問答も含めて過激すぎんぞ?」

 

「ごくまれにあぁいう雰囲気になることは今までもあったんですが……わかりません。

 思えば僕も、マスターのことをほとんど知らないんです」

 

「本人が聞かれたくねぇみてぇで予防線張っちまうからな……。

 ともかく、超の目的が魔法バレだってのははっきりした!

 学園の連中にも情報流しとくぜ!」

 

「次の彼女のお相手は、ネギ先生です。

 まさか先生まで過剰に傷つけるとは思えませんが……お気をつけください」

 

 

ついにやってきたリンネとの試合を前に、ネギが決意を改め仲間たちが彼を応援していた頃。

 

 

「……来てやったぞ、クウネルとやら」

 

「ご足労頂き感謝致します」

 

リンネは武道会会場の屋根の上で、クウネルと対面していた。

先ほどの刹那との試合の間、ずっと彼はリンネに強い視線を送っていた。

それが己を呼び出すつもりであることは明白だった。

 

「準決勝まで時間もない。要件を聞こう」

 

 

「率直に申し上げます……次の試合、棄権していただけませんか?」

 

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