『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第33話

 

皆が本気で挑む真剣勝負の場で、棄権を促す。

普段のヒノカミならば激昂して殺気を飛ばしているところだ。

だがナギに代わり急遽参加が決まったヒノカミはこの武道会において明らかな異物であり、ある意味で彼女が参加していること自体が真剣勝負の場を汚しているのだ。

むしろ引き際を見失っていたところ。

それに、ナギの仲間であった彼がネギとの戦いを望んでいるというのなら何らかの理由があるかもしれない。

リンネは平常心を保つよう努め、沈黙することで続きを促す。

 

「私の名は『アルビレオ・イマ』。

 すでにご存じとは思いますが、サウザンドマスターの友人です。

 ……が、しかし。今後も『クウネル・サンダース』とお呼びいただければ。

 気に入っておりまして」

 

「よかろう、クウネルじゃな。

 して、何故お主はネギとの試合を望む?

 ネギの実力を計るのならばタカミチとの試合でも十分だったとは思うが?」

 

「……私の趣味は他者の人生の収集。

 その象徴たるアーティファクトがコレ。

 『イノチノシヘン』と言うものです」

 

クウネルはフードの内から仮契約カードを取り出し掲げた。

青年と、その周囲を覆う無数の本が浮かんだ絵が記されている。

 

「それは、ナギとの?」

 

「そうです。その能力は二つ。

 己の肉体を媒介にしての、『魔法書に記録した特定人物の身体能力と外見的特徴の再現』。

 そして『魔法書を作成した時点での性格・記憶・感情を含めた全人格の完全再生』。

 尤も、再生時間はわずか10分。

 魔法書も力を失いただの人生録になってしまいますが」

 

「ではお主の望みとは……」

 

「……10年前、ナギより頼みを承りました。

 『自分にもし何かあった時、まだ見ぬ息子に何か言葉を残したい』と」

 

 

(……おい?)

 

――あー……頼んでたわそういや。

 

(んじゃこやつが出てきたのは貴様のせいではないかっ!)

 

――わりぃって!

 

ヒノカミは気付かれぬよう、内心で頭を抱えながらナギを責め立てる。

現時点でナギの生存を信じているのはネギとエヴァくらい……いや、彼の持つカードがナギとの契約により生まれたものならば、彼もまたナギの生存を確信してはいるのだろう。主人が死ねばカードも死ぬのだから。

だが姿を見せない。公には死んだとされている。

『何かあった』と判断するには十分であり、だから彼はアーティファクトの力を使いナギを模倣し、『動く遺言』としてネギと対面するために行動していたわけだ。

 

「なるほど理解した。しかしわざわざまほら武道会に出るとは、凝り性じゃのお主は」

 

「フフフ、こういうことは相応の場面でこそより強く記憶に残るものでしょう?」

 

「くけけけ、道理であるな」

 

クウネルの存在は超も気にかけていたが、彼の参加理由がネギとの戦いだけなら計画に何の問題もない。

リンネは彼と決勝で戦うことに興味はないし、賞金1000万円も彼女にとってははした金。

それに大会を盛り上がらせるという役目も果たしたも同然だ。

偽物とは言えナギとの対面はネギ自身のためにもなるだろう。潔く引くべきだ。

 

だが了承する寸前、リンネは思い至ってしまう。

 

「……条件を提示したい」

 

「伺いましょう」

 

「一つ、儂の素性や正体を追求しないこと。

 二つ、もしそれらに気付いても今日より1年、それを口外しないこと」

 

「ふむ、私に『人の秘密を探るな』とは中々酷なことをおっしゃる。

 しかしそれ以上に二つ目の『1年』と言うのが気になるところですね」

 

「遠くないうちに儂が抱えている秘密は皆に明かす予定だからじゃ。その目安じゃよ。

 これを呑むならば、儂はネギとの試合を途中で棄権する。どうじゃ?」

 

「かしこまりました。契約の魔法具でも用意しましょうか?」

 

「口約束で構わんよ。……そろそろお主の試合が始まるぞ。

 ここまでしておいて遅刻で不戦敗なぞ笑い話にもならん」

 

「おっしゃる通りで。では、失礼いたします」

 

クウネルの幻影がゆっくりと薄れて消える。

それを確認してから、ヒノカミは端末の奥へと引っ込んだ。

反動で奥にいたナギが表に引きずり出される。

 

「っ!?おい!」

 

――これでネギと戦えるじゃろ。行ってこい。

 

「いや、アルの奴が黙ってたとしても……つぅか、知られるだけでも後がこぇえよ」

 

――じゃがここでお主が戦わねば、お主より先に奴がナギとして、ネギと戦うことになるぞ?

 

「!?」

 

本当の父親の自分がここにいるのに。

保護者としてずっと見守ってきたのに。

晴れ舞台での息子との戦いを、自分が頼んでいたとはいえ、自分の目の前で奪われる?

 

「それは……イヤだな」

 

――じゃろ?それに刹那にも言ったが、秘密はいつかバレるもの。

  お主が元の体に戻ったとしても儂の体を借りていたことはいずれ知られる。

  ……遅いか早いかだけじゃ。

 

「ぬがぁぁぁっ!?考えねぇようにしてたのに!!」

 

ナギが元の体に戻り何食わぬ顔でネギたちの前に現れたとしても、話がそこで終わることはあるまい。

『今までどこで何をしていたのか』。絶対に激しい追及を受けるだろう。

秘密にしても彼らは独自に調査し、やがてリンネとの関係に辿り着く。

端末を借りて彼らの前に姿を出してしまった時点でその結末はほぼ確定していた。

 

「はぁ……やるしかねぇかぁ……。

 めちゃくちゃ警戒してるし、エヴァにゃあ速攻でバレるだろうなぁ。

 その場でネギや嬢ちゃんたちに口滑らせたりはしねぇと思うが……」

 

――くけけけ。

  あんだけいい女を15年も待たせた罰じゃな。叱られてこい。

 

「俺はロリコンじゃねぇし、妻子持ちだっての!

 そりゃあ、アリカはもういねぇけど……」

 

――ん-、諸々終わったらエヴァの体に手を加えてやろうかの。

  儂も人のことは言えぬが、永遠に幼子のままと言うのもつらかろう。

  そういえば、エヴァはアリカとやらの遠い血縁に当たるんじゃろ?

  肉体が大人になったらそっくりになるのではないか?

 

「あー……言われてみりゃ幻術で変身した姿は近かったな。

 それに高慢ちきな性格も結構似てて……いやいやいや!唆すなよ!」

 

――げらげらげら。

 

リンネが武道会会場の屋上で一人芝居を続けている内に準決勝第一試合は終わってしまっていた。

楓も確かに強者であったが、分身とはいえクウネルに敵うはずもなかった。

おまけに彼が『イノチノシヘン』の力で一時的にナギに変身していたので猶更だ。

その試合で破壊された舞台の修理が終わるまでに、リンネは何とか落ち着きを取り戻した。

 

『長らくお待たせしました!準決勝第二試合!

 いよいよこの大会も大詰めを迎えています!』

 

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